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 ラクイラG8/MEFでの対立     07.20.2009
     



 7月10日、イタリアのラクイラで行われていたG8サミットが閉幕した。

 この合意文書などが公開されている。それを読めば、その内容は洞爺湖G8サミットのものとそれほど変わった訳ではない。しかし、文章が複雑になり、様々な主張をすべて盛り込んだ形になっている。まあ、言ってみれば、先進国間での対立を避けたのが実態である。

 明らかに後退したと思われることが、「2050年温室効果ガス50%削減」に関する記述である。G8に併せて行われた主要経済国会議MEFにおいて、インドなどの反対が極めて強く、現時点でごり押しすることは無意味だという判断が働いたのだろう。

 先進国と途上国の対立、さらには、先進国内部での対立があって、デンマークのCOP15はなんらかの結論を出すことができるのだろうか。

 予想された範囲内ではあるが、かなり心配な状況になってきたと思われる。



C先生:イタリアのラクイラは過日地震があったところ。わざわざこのような場所が選択された訳だ。報道によれば、今も2万3千人が余震におびえながらテントで暮らしているとのこと。ベルルスコーニ伊首相がわざわざサミット開催地を変更したのだが、頻発する余震のためか、どうも揺れが続き、結果として、G8/MEFの会議もまとまりを欠いた印象だ。

A君:外務省のHP
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/italy09/index.html
に様々な情報があります。
 首脳宣言の英語原文とか、その仮訳とか、ほとんどすべての文書が入手可能。

B君:今回のG8は、まあ緊急経済対策が最大の課題で、気候変動は付属品だった。

A君:ハイリゲンダム、洞爺湖と進展した2050年までに温室効果ガス半減するという目標に関しては、どちらかと言えば、G8内部では合意できているけど。。。。という表現になった。

「我々は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を達成するとの目標を全ての国と共有することを改めて表明する」。

B君:実際のところ、インドがこの目標に強く反発した。同じラクイラで行われたG8に新興国を加えた主要経済国フォーラムMEFでのことだ。

C先生:その結果、G8の宣言文は、実質上空文化したと言える。

A君:本日は、なぜインドがこの目標に強く反対するか、それに対して先進国はどのような態度をとるべきか、ということを再度書いておこうということがこのHPの目標。
 そのために、G8の2つの目標、「温室効果ガス全世界で50%削減」、「先進国は2050年までにCO2を80%削減」、というものを実現するために、どのようなことが考えられるのか、それを検討してみたい。

B君:実は、国立環境研の低炭素社会2050の報告書に、日本が2050年にCO2を70%削減するシナリオは書かれている。本HPでも検討をしている。
http://www.yasuienv.net/NIES70Cut.htm
日本政府の主張であった、60〜80%削減というものは、このシナリオが根拠になっていた。

C先生:国際交渉というものは、かなりいい加減というか、むしろ気合いで行われるので、今回、インドなどを巻き込みたいということで、先進国の削減目標として、もっとも厳しい値である80%が採用されたということだ。

A君:しかし、インドはその提案を全く評価しなかった。

B君:100%削減といったらインドは納得したのだろうか。

A君:120%削減とでも言えば、それは、20%分は資金援助を意味するので、合意に至った可能性もある。

C先生:資金援助と技術移転の枠組を先に決めない限り、交渉は決着しない。これは毎回言っていること。
 本来は、そのような手続きで進む予定だったのだが、前回のCOP14で、それができなかった。これは議長国の不手際だという話もある。

A君:これも復習になりますが、もう一度、2050年に世界で温室効果ガス50%削減の意味を再確認しますか。



図 先進国がゼロにしても、途上国の排出量はかなり制限される。

B君:CO2排出量とエネルギー使用量は、勿論極めて密接な関係にはあるのだが、一方で、両者の違いも明白。

A君:その説明が必要ですかね。

B君:念のため。

A君:化石燃料は、炭素と水素が主成分。結合の割合は、天然ガスの1:4、石油・石炭の1:2ぐらいまで様々ですが、いずれにしても、水素は軽いので、ある重さの化石燃料を燃やせば、ほぼその重さの約3倍量のCO2が発生する。発熱量で比較すると、水素を多く含んでいる天然ガスが出すCO2は少なめということになる。

B君:出さないものもある。

A君:自然エネルギーと呼ばれるものは、出さないことにしている。本当にそうか、と言われると疑問があるものも無い訳ではないが。

B君:原子力は?

A君:原子力も全くCO2を出さないという訳にはいかないのですが、まあかなり少ないので、出さないと仮定してもそれほど大きな過ちではない。

B君:ということになると、結論としては。
A君:自然エネルギー、原子力の割合が相当に高い国を除けば、エネルギーの使用量と二酸化炭素排出量はほぼ同じ意味を持つ。

B君:例外の国は。

A君:例えば、アイスランド。電力は水力と地熱なので、二酸化炭素ゼロ。首都圏の暖房はこれも地熱なので、ガソリンと軽油ぐらいしか二酸化炭素を出さない。

B君:フランスも例外。これは原子力発電が多いから。

A君:水力が多いことで、カナダやノルウェーも例外的。

B君:CCSのことも述べるべきか。

A君:CCS=炭素隔離貯留は、発生する二酸化炭素だけを分離し、地下に貯留する。言い換えれば、余分なエネルギーを使って、二酸化炭素を減らす技術である。まあ、非常事態用の技術。

B君:こんなところだろう。ところで、インドのエネルギー使用量はこのところどのぐらいだ。

A君:2000年のデータだと石油換算で1人あたり0.5トン程度。その後、かなり急激に増えていると思いますが、それでも現状だと0.6トンといったところでは。

B君:インドの経済成長が完了するには、といっても、1人あたりのGDPが15000ドルになるときのエネルギー使用量はどのぐらいか。

A君:それは、1人あたり石油換算で2トンぐらいのエネルギー使用量でしょう。
 それは、こんなグラフを参照しているのです。C先生作成になるものです。


図 国の特性による1人あたりエネルギー消費量の傾向。冬の寒さが必要エネルギーと深く関係する。

B君:消費エネルギーはアイスランドが1人あたり12トンとダントツ。その下に、産油国があって、その下に米国、カナダといった北方の巨大国。そして、北欧など。その下に当然のことながら、中緯度国、低緯度国、熱帯国と続く。

A君:インドですが、この図から1.5トンか、やはり2トンかなあ、と推測しました。やや国も大きいので。

B君:ということは、エネルギー使用量が今の4倍に増加することになる。

A君:4倍といっても、実効的に4倍であれば良いはずなので、エネルギー効率が4倍に上がれば、今のエネルギー使用量でも経済発展が可能でしょう。

B君:そこも説明が必要だ。

A君:エネルギーがGDP増大のためになぜ必要なのか。産業用、民生用、交通用と分けて考えれば、産業用の場合には、明らかに何を作る場合でもエネルギーが必要。もっとも使用量が多いものは、素材製造関係。日本の場合でも、鉄鋼の製造に使用しているエネルギーが大きい。鉄鋼の生産量を増やそうとすれば、どうしてもエネルギーが必要。
 鉄鋼の場合、日本でさらに省エネをするのはかなり難しいのですが、鉄鋼連盟のデータによれば、ロシアあたりでも、日本の1.25倍のエネルギーが必要。
 ということは、もしも日本並みの省エネプロセスを導入すれば、エネルギーあたりの鉄鋼生産によるGDPも1.25倍になる。

B君:しかし4倍になるとは思えない。

A君:まあその通りで、素材生産は、画期的な変革が行われない限り、4倍は無理。例えば、CCSを付けた高炉ができるとか。

B君:セメントあたりだと4倍の可能性もあるのでは。

A君:普通なら4倍は無理でしょう。
http://www.sce-net.jp/kyouiku_pdf/e08a09.pdf
この文書によれば、乾式ボイラー付きキルンのエネルギー使用量(MJ/t−cl:クリンカートンあたりのMJ)は6400。それがNSPキルンになれば、3100。2倍以上ではありますが。

B君:セメント協会のLCAの文書
http://www.jcassoc.or.jp/cement/4pdf/jg1i_01.pdf
によれば、ポルトランドセメントが1トンあたり798kgのCO2が排出されているが、高炉からのスラグを利用した高炉セメントだと、480kgとかなり少ない。さらに半分になる。

A君:高炉セメントとポルトランドセメントは、初期強度の出方が違うため、用途がやや違うのでなんとも。

B君:まあ、いずれにしても、インドがエネルギー効率を4倍にすることが可能ならば、4倍のエネルギーを消費した場合と同じGDPを達成することは確かに不可能ではなさそう。

A君:素材の製造だけで結論するのは早い。消費側を考えてみると、例えば、電気冷蔵庫。日本の場合でも、初期のものに比べれば、4倍ぐらいにはなったようです。もしも2種類の冷蔵庫が製造されていて、消費電力が1のもの、1/4ものだったとします。恐らく、価格は1/4のものの方が高い。しかし、インドだと、エネルギー消費量分の価格差を付けるのがやっとでしょうが、日本だとプリウスの場合でも分かるように、それ以上の価格差を付けても買ってくれる顧客が存在する。そのため、エネルギー効率を4倍にすると、GDPは、4倍以上になるのです。

B君:うまくやれば、省エネ技術がGDP増大を加速する。低炭素技術が価値を増大するということ。

A君:省エネ製品を作るのに、多くの資源が必要だから怪しい議論だという主張する人も居ますが、冷蔵庫の場合だと、その製品の消費するエネルギーは、製造時のものに比べれば使用時のものが圧倒的に多い。

B君:しかし、省エネ製品の価値が認められるためには、それなりに豊かな社会にならなければならない。

A君:今年は、プリウス、インサイトのお陰で、日本のハイブリッド元年がやっと来ましたが、初代プリウスが発売されてすでに12年目ですからね。

B君:プリウスなどを日本で買う心理を解剖してみれば、(1)ガソリン代が節約できる、(2)気候変動にも貢献できる、(3)気候変動への罪悪感が若干低減できる、といったものがあるだろうが、これまで、(1)だけだった時代が長く続いたのだが、やっと(2)、(3)もかなりの割合を占めるようになったのではないだろうか。

A君:素材生産などでは、4倍ということはあり得ないので、インドがエネルギー効率を4倍にして、現在のエネルギー使用量だけで経済発展をするということは、実はほとんどあり得ないでしょうね。

B君:大体、インドなどの国には、まだまだ素材や耐久消費財が増加する必要がある。しかも、電力の恩恵を受けていない人々もまだ居る。だから、やはり1人あたり2トン程度のエネルギー使用量は必要になるのではないだろうか。

A君:となると、インドの場合、2030年には中国に人口を抜いて、14億人といった人口になるでしょうから、もしも国としての排出量が制限されるとしたら、人口増による増加分も大問題。

B君:一方、日本の場合は、2050年の人口は今の調子だと9200万人ぐらいになっているだろう。現在の3/4ぐらい。国全体での排出量になれば、かなり有利に作用する。

A君:2050年の議論は、その国の人口がどうなっているかをもろに受けるので、本当に何が公平な基準なのか、難しい問題ですね。

B君:やはり1人あたりのエネルギー消費量を均等にするといった考え方が導入されないと、インドを説得するのは難しいのではないだろうか。

A君:それでもなおかつ難しいという指摘がありますね。それは、これまでの社会的ストックがエネルギー消費によって形成されているから、ある時点でエネルギー消費量が同じになったとしても、歴史的にみれば、過去にどれほどエネルギーを消費したかが重要という考え方。

B君:過去のエネルギー使用量には、なんらかのストックの形成に使われた部分と、例えば暖房用などに消費的に使われた部分がある。となると、ストックの形成については、鉄などで代替して考えるべきではないのか。

A君:それはまたまた難しい。日本には鉄鋼の蓄積量がかなり多いのですが、それは、日本の建物と土木構築物が、耐震性を持たせるために頑丈でなければならないという事情があるので。

B君:ヨーロッパ諸国であれば、石材と煉瓦を適当に組み上げて作った建物でも、かなり耐久性がある。もっとも、今回のG8の開催地イタリアは地震国なのでそうは行かないが。

A君:何が公平なのか、と言う議論は、非常に重要なのですが、そこまで議論をすると、国際交渉もまとまらないと考えている外交官が多いためか、とりあえず棚上げ状態ですね。

B君:しかし、インドのような途上国が気候変動に対して合意形成不能という態度だと、そろそろ議論のやり方を変えなければならない。

A君:しかし、今回決めようとしている中期目標は、そこまでの議論は無しでしょうね。

C先生:G8での合意事項だが、日本が2050年に温室効果ガスの80%削減が可能か。それには、まず1人あたり50%のエネルギーでやっていけるのか。この検討をしたら。

A君:その検討のために必要な図がこれですね。エネルギー・バランス・フロー図。これは、2003年版ですが、資源エネルギー庁などのHPで、公開されています。
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2005/html/170j0010.html
もっと新しい図もあったのですが、大きすぎて、これで行きます。



図 エネルギー・バランス・フロー図

B君:図の読み方の説明を。

A君:もっとも左にCO2排出量がありますが、これは目安にしかなりませんので省略。左から二番目に、一次エネルギー国内供給 22,101という数字がありますが、これが、国内でのエネルギー供給のすべて。単位は、10**15J=PJ(ペタジュール)。

B君:その次にあるのが、エネルギー転換/転換損失で、▲6309PJ。▲はマイナスの意味。電力を作り送る過程で、熱として、これだけが失われている。

A君:発電用の天然ガス、石油、石炭がそれぞれ2103PJ、275PJ、1873PJで、これらは絶対値と思われるのですが、原子力発電の2877PJは、一般的な発電効率と有効送電率の割合である0.33ぐらいを考慮して算出した仮想的な値ではないか、と思われます。

B君:家庭用電力が926PJ、業務用電力が966PJ、産業用電力が1387PJと読めるが、その合計が3279PJだから、原子力の発電量が2877PJもあるわけはない。

A君:エネルギーの使用量を半分にするとなると、この図のもっとも右側が問題になる。
B君:上から、民生家庭で電力が926PJ,ガスが392PJ、石油が705PJ。これをどこまで下げることができるか、の判断を行う。



図 エネルギー・バランス・フロー図の右側部分の拡大

A君:電力は後回しにして、まずガスですか。現状だとガスは調理用・給湯用・暖房用などに使われている。給湯は、太陽熱利用を徹底的に進める。そしては、どの建物も夏冬用に徹底的な断熱を行う。同時に、春秋用に徹底的な通風利用を行う。暖房用は、都会では排熱利用の地域暖房とか家庭用エアコンで代替。そして、ガスは、現在のEne−Farmのような燃料電池を利用したコジェネ用に使う。これがもっとも効率が高い。となると、ほぼ現状維持ぐらいが良いのでは。

B君:石油は、現在、給湯用・暖房用だろうと思われるが、やはり北海道などでは、地中熱とか河川熱の利用によるエアコンの導入。排熱利用を進める。給湯は、ガスのコジェネで行うといった方法で、現状の9割カットぐらいか。

A君:電力は、暖房がヒートポンプに移行することによって、増える可能性があるが、ガスのコジェネによって自家発電ができているので、現状維持で行けるか。

B君:電気機器類も、一部のものはさらに効率が上がるだろう。現在のパソコンのようなものは、圧倒的に消費電力の低いデバイスになるだろう。もっともこれは、業務部門での省エネに利くことだろう。

C先生:というような検討を延々と続けて、2050年には、どのようなエネルギーフローになっているか。そして、そのようなエネルギー供給構造が可能かどうかをチェックする。

A君:今回は、余りそんなことをやっている暇は無い。

B君:すでに、国立環境研はかなりの人力を裂いてこれを実施している。他の機関でも同様の検討を行っている。

C先生:ただし、産業用になると、利害が絡む。現在の産業構造をいじらないという仮定のもとに作られたものが、2020年を対象にした中期目標になっている。

A君:このHPでは、余り重要視していない。現時点での産業構造が、2020年まで続くというのは、考えられないから。

B君:むしろ、2050年を先に考えると言うやり方が重要なのではないか、というのが、本HPの主張。

C先生:ということで、今回は、その検討のやり方のさわりまで。
 いずれにしても、インドのような国では、こんな検討を行おうにも、絶対的なエネルギー供給が不足している。しかも、経済的に不可能という理由で不足している。これをどうするか、ということになると、先進国からの技術移転、資金提供によって実施する以外には無いだろう。