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 25%削減中期目標の実像は?    09.20.2009
     



 本日は、これまでまともに取り上げたことのない日本の温室効果ガス削減に関する中期目標の話。

 なぜ取り上げなかったのか。麻生元総理の時代に、真水で−8%と言われても、政治的な状況からあまり真剣に考慮する気にもならなかった。

 民主党のマニフェストでは、25%削減ということになっていたが、真水で何%なのかよく分からない上に、国際的にどのような削減手法が使用可能なのか、よく分からない。

 政府の「中期目標検討委員会」の資料は、少々まともに読むべきだろうと思っていたのだが、こんな訳で、これまで放置してきた。

 民主党政権が誕生し、本気で25%を実現する方向のようなので、いくらなんでもそろそろ読むか、ということで取りかかった。



 まずは、検討対象となる資料のリストから。

1.内閣官房がまとめた総論
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/cyuuki_mokuhyou.pdf

2.他の資料への目次になっているPDF
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/index.pdf
 ちなみに、リンクが一つ間違っていて、@エネ研日本モデルによる分析結果【日本エネルギー経済研究所】(2)をたどると、それとは別のRITEの文書が出てくる。正しくは、
http://eneken.ieej.or.jp/press/mediumtarget/6/090327_3.pdf


3.メディア向けの結果のまとめ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01.pdf

4.積み上げ法による検討結果
日本エネルギー経済研究所
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01-1-1.pdf
http://eneken.ieej.or.jp/press/mediumtarget/6/090327_3.pdf
国立環境研
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01-2-1.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01-2-2.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01-2-3.pdf

5.限界削減費用
RITE
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/02-1-1.pdf
国立環境研
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/02-2-1.pdf


6.マクロ経済モデルの解析
国立環境研
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/03-1-1.pdf
慶応大学産業研究所
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/03-2.pdf
日本経済研究センター
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/03-3.pdf
日本経済研究センター(二酸化炭素価格)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/03-4.pdf

7.長期目標CoolEarth50との整合性
RITE
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/05-1.pdf
国立環境研
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/05-2.pdf
国立環境研 世界の被害コスト
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/05-3.pdf



C先生:これらの文書を詳細に解析するのは、余りにも大変で、以下の記述にも間違いがありそうに思う。しかも、モデルの名前もばらばら、何が統一された条件で、何が独自の条件設定なのか、そのあたりも極めて分かりにくい。いちいちすべてチェックしなければならないのだ。

A君:しかし、全部を分析することが必要な訳ではないですね。なぜならば、麻生総理時代とは全く違って、削減率の低いところの検討を行う意味は無くなった。

B君:民主党の−25%削減は、真水ではないので、何%を国内が可能か、となったときに残りをどうするのか、こんな検討をすることになるのではないか。

A君:シナリオがいくつか出ているのですが、その中で使えるとなると、2ヶ所からの資料しかない。それが、

日本エネルギー経済研究所
プレゼン
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01-1-1.pdf
本文
http://eneken.ieej.or.jp/press/mediumtarget/6/090327_3.pdf


国立環境研
プレゼン
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01-2-1.pdf
本文
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01-2-2.pdf

補足
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/01-2-3.pdf



B君:日本エネルギー経済研究所(エネ経研)のシナリオは、マイナス13%シナリオ。一方の国立環境研(国環研)は、対策Uというものがマイナス15%シナリオなので、その比較になる。

A君:どんな技術が導入されるのか、国環研による技術導入のリストは以下の通りである。

鉄鋼
石炭調湿装置 次世代コークス炉 乾式コークス消火設備 焼結主排風顕熱回収 焼結クーラー廃熱回収 乾式高炉炉頂圧発電 転炉ガス顕熱回収 スクラップ予熱 直流式電気炉 蓄熱式バーナー加熱炉 自家用火力発電の高効率化 廃プラスチック利用拡大

セメント
原料竪型ミル 原料石炭ミル エアビーム式クーラー導入 ローラーミル予備粉砕器 高効率セパレータ スラグ粉砕用竪型ミル 廃熱発電 エネルギー代替廃棄物の利用拡大

石油化学
エチレンプラントガスタービン併設 低温排熱回収システム 内部熱交換型蒸留塔 ナフサ接触分解 熱併給発電の効率化 高効率熱併給発電技術 バイオマスプロピレン 膜蒸留プロセス

紙パルプ
高効率古紙パルプ製造技術 高温無臭型回収ボイラ 廃材パーク利用拡大

その他製造業
高性能工業炉 ボイラ効率改善 産業用ヒートポンプ 高効率空調

農林水産業
高効率乾燥機器 高効率農機具 省エネ型温室 高性能林業機械 高効率漁船

家庭部門
高効率エアコン 高効率電気ヒートポンプ給湯器 潜熱回収式給湯器(石油・ガス) 住宅用太陽熱温水器 高効率電球型蛍光灯 高効率蛍光灯 高効率家電製品 太陽光発電 省エネナビ 高断熱住宅(H4 / H11 基準)

業務部門
高効率電気ヒートポンプ 高効率電気ヒートポンプ給湯器 潜熱回収式給湯器(石油・ガス) 非住宅用太陽熱温水器 高効率照明機器 高効率動力等機器 高断熱建築物(H5 / H11 基準)ビルエネルギー管理システム(BEMS)非住宅用太陽光発電

運輸部門
高効率ガソリン・ディーゼル乗用車(軽・小型・普通、軽はガソリンのみ以下同様) ハイブリッド(HV)ガソリン・ディーゼル乗用車(軽・小型・普通) 電気乗用車(軽・小型・普通) 高効率ガソリン貨物車(軽・小型) 高効率ディーゼル貨物車(小型・自家用・営業用普通) HV ガソリン・ディーゼル貨物車(軽・小型・自家用・営業用普通) 電気貨物車(軽・小型) 高効率船舶・鉄道・航空(旅客・貨物) 高度道路交通システム

発電部門
高効率石炭火力発電(先進USC・IGCC) 高効率ガス火力発電(ACC・MACC) 原子力発電 一般水力発電 地熱発電 風力発電 大型太陽光発電 廃棄物・バイオマス発電 小水力発電

非エネルギー部門
家畜排せつ物処理方法転換 施肥量削減 循環計画推進等による活動量削減・循環利用促進 燃焼の高度化 バイオマスプラスチック導入推進 F ガス製造ラインにおける除去装置の設置 マグネシウム製造時における代替ガス導入 冷媒ガスの使用時漏洩量の改善 冷媒ガスの回収量増加 半導体・液晶製造ラインにおける除外装置の設置

A君:一方、エネ経研の方にどのような技術を考慮したか、その一覧表が見あたらない。しかし、セメントのところなどの記述をみると、ほぼ同じような項目が並んでいるので、現時点で、その業界の常識とされる省エネ技術はほぼ考慮されているのではないかと推測される。

B君:産業の活動量などについては、まあほぼ同様のデータが使われている。

A君:その基礎となったデータは、国環研は、総合資源エネルギー調査会や日本エネルギー経済研究所見通しなど。勝手にある産業が2020年に活動量が減っているという訳にもいかないので、そういう取り扱いになっている。

B君:エネ経研が独自のヒアリングを行って得たデータが多い。

A君:それに限れば、国環研は間接的に引用していることになる。すなわち、同じデータ。しかし、ものによっては、微妙に違う。

B君:2005年を基準として、粗鋼が6.2%増、紙・板紙が4.4%増、化学が16.6%増、非鉄金属が3.3%増、機械他が36.2%増、になっている。

A君:一方、エチレンは、▲6.5%、セメントは▲9.4%、食品も▲12.8%。

B君:増加すると答えた業界は、本気でそう考えているのだろうか。

A君:貨物輸送量も7.2%増だけど、これも本当か。

C先生:エネ経研の方には、エチレン、セメント、食品のように減少するデータは載っていない。
 報告書を作成した団体の意図だと考えなければならないのではないだろうか。
 現実に、どのぐらいの値になるのか。機械他に車が入っているかどうかよく分からないが、機械が36.2%増ということは、あり得ないのではないだろうか。価格が高い製品に移行されるということは、あり得るかもしれないが。

A君:発電側では、原子力発電が問題になるが、2020年で9基の新設が想定されている。

B君:しかし、浜岡原発のリプレース計画は反映されていないと記述されている。

C先生:もっとも考え方が違う可能性が高いのが、自然エネルギーの導入のように見える。

A君:太陽光発電は、エネ経研が世帯普及率1000万戸、産業用が2100万kW。

B君:同じく、環境研のシナリオでは、420万戸で、設備容量にして、1500万kW。工場・公共施設などは2100万kW。

C先生:どうも比較可能になっていないのが気になる。

A君:太陽光発電についても、エネ経研は、1300万kW以上を導入すると、5月など電力需要が少ない季節には、需要を上回る分の供給側の調整が必要で、蓄電池による対応のみでも不足。太陽光、原子力の出力調整制御が必要としている。

B君:日本では、原子力は出力調整をしないことになっているはず。これは、反原発の声を高めようという意図なのでは。

A君:国環研の場合には、真水で25%削減といった状態にならない限り、蓄電池による蓄電は不必要という立場のようだ。

B君:国環研のそれは、恐らく、電力供給網の安定性を多少落としても問題は無いという考え方なのではないだろうか。あるいは、電気自動車によって、自然に蓄電池が導入されているだろうということなのかもしれないが。

A君:次が風力発電。エネ経研が1000万kW。ただし、設置可能面積が足らないので、洋上風力になるとのこと。

B君:国環研が1100万kW、発電電力量200億kWh。海上風力という考え方ではないようだ。単に普及政策とコスト低下によって、大量普及が実現されるとしている。

C先生:風力発電も、超低周波音とか、バードストライクとか環境派にとって歓迎一色ではないのだ。これは環境省にとって、大きな問題になり得るだけに、そのあたりの記述がない。

A君:エネ経研の資料には、そのような記述がありますね。だから、風力発電の、陸上での大量導入は無理というスタンスのようです。

B君:やはりエネ経研としては、削減率を高くすれば、それだけの費用が掛かると言うことを示したい。一方、国環研としては、自然エネルギーの大量導入によって、温室効果ガスの排出削減も可能というスタンスを取りたい。

C先生:政治的なスタンスの違いが報告書に反映しているのは仕方がない。

A君:地熱に関しては、両方の報告書が同じように「引き気味」ですね。エネ経研としては、コストが問題。一方、国環研には何も書かれていないのですが、いずれも現状の2倍程度の導入量で留めている。

B君:環境省が地熱導入には否定的なスタンスだからだろう。国立公園内に適地が多いことが主たる原因。コストの問題は、確かにあって、送電線を新設しなければならないので。

C先生:もっと大きな立場の違いが小水力なのではないか。

A君:小水力について、エネ経研は、小水力の未開発分は電力量にして6億kWh(10万kW程度?)としている。その理由は、農業用水確保を継続するために、国交省で水利権利用限定の動きがあるため。

B君:それこそ、政治的な解決が可能な問題ではないだろうか。

C先生:小水力発電の水利権といっても、農業用水と違って、水を消費してしまう訳では無いのだから、むしろ奨励すべきかと思うのだ。

A君:漁業権とか水利権とか、このような政治的な枠組こそ、なんとかして貰いたい。

B君:国立環境研では、小水力は建設後も40年は動作すると考えているようで、将来、比較的低い買い取り金額で運用できるエネルギーだと考えているようだ。

C先生:ということで、どんな技術をどの程度のコストでどの程度の量導入可能かを示すグラフ、いわゆる限界削減費用カーブを比較のために示そう。




図 日本エネルギー経済研究所による限界削減費用カーブ ただし、90年比▲7%モデルに導入された技術のみ。





図 国立環境研究所による限界削減費用カーブ エネ経研の上図に相当する90年比▲7%モデル

A君:どうみても、かなり様相が違いますね。どちらが正しいということを判定するのは極めて困難ですが。

B君:要するに、この手の積み上げモデルも、本来、かなり科学的な色合いはあるものの、それぞれの技術の位置づけや限界、さらには、社会との整合性などの評価がかなり違うものだから、モデルに入れるときの最終的な取り扱いが違ってしまう。

C先生:もっと細かく検討することによって、様々な限界が見えてくるように思えるが、そろそろ次の話題に行く。
 それは、今、話題になった限界削減費用カーブについての検討だ。

A君:了解です。資料は以下の通り。

限界削減費用
RITE
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/02-1-1.pdf
国立環境研
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07kankyo/02-2-1.pdf




図 RITEによる先進国が全体として25%削減時の限界削減費用を均等化した場合の各国の削減可能量



図 国立環境研による先進国が全体として25%削減時の限界削減費用を均等化した場合の各国の削減可能量


B君:いずれも90年比、05年比と算出されているのだが、縦に並べてあるもの、横に並べてあるもの、と特徴的だ。

C先生:細かいところはどうでも良いのだが、若干のデータの違いはある。特に、ロシアの数値がかなり違うが、まあ、大体の傾向はほぼ同じとも言える。

A君:しかし、限界削減費用の推定値が大幅に違う。国環研は$166/tCO2としているが、RITEは$88/tCO2だ。

B君:ほぼ2倍も違うということはなぜだろうか。

C先生:恐らく、外国のデータが違うのだろう。日本の結果を見ると、国環研の$166/tCO2が、より多くの削減が可能だと結論されていて、まあ、日本については、それほど違わないデータを基礎にして算出したのではないかと推定できる。

A君:90年比でみると、ロシアは▲47%も可能だったものが、05年比になると、▲17まで減っている。

B君:これは、いくつかの要因が考えられる。物価が上昇したこと、人件費が上昇したこと、さらには、エネルギーの効率化が進んだこと。あるいは、経済が縮小して、排出量が下がったという表現の方が適切かもしれないが。

A君:米国が90年比で▲19%だったものが、05年比だと▲30%にもなっているのは、この15年間で、米国は逆にバブル景気を実践して、その結果、排出量をどんどんと増やしたという歴史が見えますね。

C先生:面白い指摘だけど、本来の解析をやってからにしよう。

A君:まあ、そうしますと、RITEの場合ですと、先進国全体が▲25%をするのに必要な費用は、$88/tCO2で済むのに、日本だけは、それだけの費用を掛けて90年比で減らそうとしても、エネルギー起源のCO2は増えてしまう。それだけ、エネルギー効率が高くなっている。

B君:国環研のデータを見ると、1990年比で様々な仕組みを作ると、米国、EU、ロシア、その他の先進国間で、排出権取引を行った場合に、都合が良いことが見える。いずれの国も、ほぼ同じような削減コストなので、それほど不公平は出ない。

A君:ところが、1990年比で排出権取引をやれば、もしも日本が高い削減目標値を掲げたとすると、日本だけが、排出権を買い手で、他の国々は売り手になる。まあ、安く買えるのかもしれないけど、EU、米国、ロシアのために、日本の税金が使われることになる。

C先生:日本と言う国がエネルギー効率が高いことは、他の先進国に知れ渡っているから、国際的な排出権市場を作れば、日本からの資金の流出が狙えることは常識。ただし、それが他の先進国の目的なのか、と言われると、なんとも言えない。

A君:まだ多少検討できることはあるのですが、解析はこんなところでしょうか。

B君:GDPがどのぐらい下がるか、雇用がどのぐらい下がるか、そんなデータはあるのだが、どこまで信用できるか不明。

C先生:あとはメディアが良く引用する消費側への影響。ハイブリッド車がどうなっているか、新築すべてに断熱が強制されるか、など。

A君:メディアは、こんなことになるんだぞ的な記事を書きたいのでしょうね。

B君:家を建てるとこんなに金が掛かるようになるぞ、という脅しか。

C先生:断熱の良い家に住むと、エネルギーの消費が下がって経済的だという以上に、なんとも快適らしい。我が家の断熱は、エコライフ的に見て最大の弱点。

A君:ハイブリッド車に乗ると、某車種を運転しているときに発生する強権的なマインドにならない。

B君:エコマインドは、精神的に豊かにする。

C先生:そんなことは、メディアは書かないな。
 ところで、本日の解析から何が言えるのか、ということになると、これはなかなか難しい問題だ。
 一応の解を、日経エコロミーに投稿したので、その最後のまとめを読んでいただきたい。ただし、掲載されるのが、数日後なので、以下、相当部分を掲載しておきたい。



結論
25%削減の可能性と国際関係

 以上の検討から、比較的単純に結論できることは、自国内での努力だけで25%の削減を目指すことは、少なくとも費用面から見れば不可能だということである。

 限界削減費用で判断すれば、真水の国内での削減量は、最大でも90年比で−10%まで程度で留め、海外から排出権を購入した方が良い。残りの15%分を排出権取引で調達するとなると、約1億5千万トン/年が必要。もしも、二酸化炭素1トンの価格が4000円になったとしても、6000億円程度で済むからである。

 しかし、だからといって、必要な費用だけを考えて削減量を決めるのは、それほど賢い選択だとは思えない。

 まずは、この6000億円/年を何か有力な省エネ技術の開発に投資すると、大きな削減量が見込まれるという美味しい話があるとすれば、それに投資をする可能性もない訳ではない。国内でのグリーン産業育成に繋がるからである。

 今回の各モデルでは、すでに記述したように、2020年で、$90/バレルという原油価格が仮定されている。現時点ですでに$70程度である原油価格がこの程度で収まるのか。その答えは誰も知らないのだが、少なくとも$150/バレル超えぐらいの覚悟をある程度決めておく必要があるのではないだろうか。

 エネ経研の報告に原油価格の感度分析の結果があるが、原油価格の経済への影響は、実のところ相当大きいと言わざるを得ない。

 繰り返しになるが、国内のエネルギー、特に、安定的に使用が可能な地熱とか、小水力のようなエネルギーは、多少の費用が掛かっても、エネルギー安全保障という観点から、できるだけ整備を進めておく必要があるだろう。

 洋上風力も場合によっては候補に入れるべきかもしれない。その際には、費用も勿論問題だが、それ以前に、設置方法によっては、漁業権が問題にならないのだろうか。

 そのために必要なことは、費用の調達に加え、国立公園と地熱発電の共存を目指すという新しい方針への変更、あるいは、水利権や漁業権など古くからある社会システムをいかに変更するか、などの検討が必要不可欠であろう。これこそ政治的な決断によって、なんとかしなければならないことだ。

 原子力については、2020年までの対策としては、すでに遅きに失しているので、今回の解析にすでに組み込まれている量以外は、見送りとならざるを得ないだろう。2050年を予測すると、エネルギー価格の高騰に音を上げる日本国民が目に浮かぶので、それが良い悪いは別として、「原発の増設が必要不可欠だ」という国民的合意に到達するに違いないと予測している。

 国際交渉としては、基本的な主張を繰り返す覚悟が必要である。まずは、日本の限界削減費用が、米国、EU、ロシアと比較して、余りにも大きいことである。すなわち、何が公平なのか、その議論を巻き起こすことが必要である。

 その際に必要となるのが、2050年までに地球全体で50%の削減という長期目標である。この長期目標を検討すれば、先進国がいくら削減しても駄目であることは明々白々なので、排出権取引は、本来、途上国に資金が渡る仕組みとして、途上国と先進国の間で行われることが本筋であるという主張に妥当性を与えることができる。もっともどのような枠組を提案すべきか、と問われれば、かなり難しい。

 COP15では、資金提供や技術移転についても新しい仕組みができるはずなので、そこで、排出権取引などと組み合わせて、どのような枠組を提案するか、これから英知を集めて検討すべきである。しかし、今となっては、もう遅いかもしれないことを憂う。

 さらに途上国に対しては、効率指標の重要性を主張することも忘れてはならない。途上国の現状では排出の絶対量を削減することなどは不可能であり、できることは効率の向上に限られる。CO2削減量/GDPのような効率指標をすべての途上国が改善しなければ、地球全体としての防止策にはならない。

 最後に、製造業が先進国から途上国に移転することは、時の流れとして当然のことだと理解すべきである。日本も、そうやってここまで経済力を付けてきた。

 しかし、日本が経済力を付けた時代と現在という時代との違いは、地球の限界がまだ見えなかった時代と、すでに明らかになった時代の違いである。

 いかに途上国といえども、国際的にみて十分な市場占拠率を有する企業、例えば、アルセロール・ミッタルのような企業は、国と国の枠組を越えて、自らが効率指標を設定し、鉄鋼の生産が例え先進国から途上国に移ってきたとしても、二酸化炭素の排出が増えることがないよう、エネルギー効率を高める努力をする義務があるだろう。

 この最後の考え方が、国際的な評判は良くないが、セクター別アプローチの基本思想であり、説明の仕方によっては、受け入れられる可能性が無いとは言えない。

 中期削減目標は、いずれにしても国際的な交渉事項なので、過度な地球本位主義に陥ってはいけない。地球本位的な考え方は必要だが、本当に必要なことは2050年での50%削減であって、2020年は、その途中過程に過ぎないからである。個人的には、地球全体の排出量を中期的に若干多めにして、人口の多い途上国の経済発展を早期に完了させるという方法すらあるように思える。もっとも、その際、先進国としての責務は何かという話になると、これも難しいが、かなりの削減を宣言しないかぎり、何も進まないことも事実である。すなわち、交渉パワーとして、中期目標を高めに設定するという戦略はあり得るだろう。

 先進国の経済発展は、ある程度に留まるのが当然なのに対し、途上国の経済発展は人口の減少に繋がるので、極めて重要である。だからといって、経済至上主義に陥っても行けない。勿論、日本国内で古い既得権の長期確保を狙うなど、論外である。

 いずれにしても、気候変動問題という問題の多様な側面を定量的かつ戦略的に十分に解読した上で、COP15に臨む必要がある。