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   The Global Risk Report 2017の読み方
     
ビジネス界の気候変動重視は変わらず 03.05.2017
               



  ダボス会議(正式名称は、World Economic Forum Annual Meeting)と言えば、世界中のビジネス界の重鎮が、1月にスイスのダボスに集まる会議として知られています。ある社長のもつ世界観を評価したいと思ったら、「ダボス会議に出席しているかどうか」ということが判断基準になるぐらいの会議だと思います。日本の社長の出席者リストを誰か作っていただけませんか。

 今年のダボス会議は、習近平国家主席が中国の国家主席としてはじめて出席。しかし、スピーチへの評価はほぼ最悪。一方、ドナルド・トランプ氏は出席しませんでした。それも当然で、グローバル企業のトランプ評価は最悪であることは、ご本人がもっとも良く分かっているので。

 同様に、メルケル首相は、様々な国内の事情から、昨年に引き続き欠席、フランスのオランド大統領、イタリアのレンツィ首相、カナダのトルドー首相、ユンケル欧州委員会委員長も欠席。

 そして、「今年ほど、悲観的であった雰囲気の会議は過去にはなかった」という評価のようだです。この会議、世界の金持ちのトップ0.1%が主要な出席者だということも事実。その一方で、世間の組織に対する信頼度は、1位がNGO、そして、2位ビジネス、3位政府、4位メディアの順という状況。

 メディアへの信頼感は最悪な状態。むしろ、Googleなどの検索情報の方が信頼されている。しかし、それが別の問題を起こしていますね。すなわち、ニセ情報に対する対応力が、一般社会にまだできていない。その悪影響がでていると思います。

 そして、個人からの評価についても、明確に企業のCEOに対する信頼が落ちている。すなわち、リーダー、特に、CEOに対して不満を持っているし、その信頼度の低下はひどい。

 そして、人々は国際化やイノベーションも嫌っている。こんな中味の会議だったようです。

 会議とは別に、このダボス会議では、アンケート調査に基づく「The Global Risk Report」を毎年発表しています。パリ協定が2015年の12月でしたので、パリ協定を受けて、ビジネス界がどのような対応をしたのか、その評価ができる最初のものになります。果たして、ビジネス界はパリ協定をどのように評価しているのでしょうか。

http://www3.weforum.org/docs/GRR17_Report_web.pdf



C先生:世界中が、非常に不安定になっている。特に、リーダーに対する信頼感が揺らいでいる。人々は、国際化やイノベーションを嫌っている。これがダボス会議の結論だとすると、大変困ったことに、パリ協定とは、「気候正義」に基づく国際的協調によって、イノベーションを実現することで、気候変動による人々への被害を最小化し、地球を持続的にすることが最終目的。

A君:イノベーションという言葉も、悪いのかもしれませんね。トランプ大統領を支持した「ラストベルトの白人労働者(失業者)」は、イノベーション、例えば、製造装置の自動化が自分たちの仕事を奪ったと思っていますから。

B君:パリ協定を実現するためのイノベーションは、どちらかと言えば、「分散型イノベーション」であって、どこかの企業が独占的に利益を確保するためのイノベーションとは、全く性格が異なるものにならなければならない。そもそも、そのイノベーションが実用化されるときに、開発した企業が持っている知的財産権が有効に活用できるというほど近い未来ではないのだ。長期的なイノベーションを様々な形で社会全体が共有するという形、それが「分散型イノベーション」。これを実現しなければ。

C先生:「分散型イノベーション」を実現するという長期的な目標が、はたして社会的合意になっているかどうか、それが大問題ということだな。かなり本質的な問題で、本日の議論の中では、充分な検討ができないと思うので、継続的な検討課題としたい。
 ということで、今回は、「The Global Risk Report」に話を絞る。

A君:了解。この報告書を作るために、いくつかのことを行っているようですが、それらの中でもっとも重要なことは、「Global Risks Perception Survey(GRPS)」です。これは、年齢層、国籍、職業:ビジネス、学界、市民社会、政府、に多様性をもたせた調査対象にアンケートを解析したもの。

B君:"This year's findings are testament to five key chanllenges that the world now faces”という文章が次に出て来るのですが、"testament"という用語をどう訳すべきか。普通なら証、証拠。しかし、遺言とか神との契約。the Testamentは新約聖書ですから。

A君:この問題は保留して、まず、現社会が直面している5つの課題とは何かを示すべきでは。

B君:それが、サマリーにはリストのような形で明確に記述されてはいない。しかし、本文のp17を見ると、このように書かれている。
– fostering greater solidarity and long-term thinking in market capitalism,
– revitalizing global economic growth,
– recognizing the importance of identity and inclusiveness in healthy political communities,
– mitigating the risks and exploiting the opportunities of the Fourth Industrial Revolution
– strengthening our systems of global cooperation
.

A君:一応訳してみますか。
-市場資本主義におけるより強い結束の形成と長期的思考の強化
-世界レベルの経済成長の再強化
-健全な政治コミュニティーのおけるアイデンティティ確立と包括的思考の重要性の認識
-”第四産業革命”のリスクの削減とチャンスの有効活用
-グローバルな協力体制の強化


B君:日本語にすると却って分かりにくいけど、まあ、良いことにしよう。なぜなら、現象面での悪いこととして、以下のような認識があるという記述だと思えば、まあ、当然とも言えるので。
-市場経済では、短期的な思考が多く、それではダメだということ。
-政治コミュニティーが健全ではないこと。特に、社会全体に包括的に対応するという考え方が不足し、自己中心的てあること。
-第四次産業革命への人々の対応が不十分であること。
-国際的協力が無視され、身勝手な国家が増えていること。
 しかし、二番目の指摘は問題。なぜなら、
-世界レベルの経済成長の再強化

を実現しようとすると、上記の四項目に示した旧来の思考法を必然的復活させてしまう可能性があることを認識しなければならない。すなわち、実現は、極めて難しい。

C先生:我々がもっとも関心が高いことは、パリ協定などの環境対応がどのような位置づけとして、経営者や学者によって認識されているか、ということだ。

A君:それについては、むしろ、思ったよりもかなり理解が進んでいるという印象ですね。やはり、欧米の企業、あるいは、インドでも、グローバル企業であると自己認識している企業、例えば、タタ・モータースのような企業の意識は高いのですが、その意識が、このGlobal Risk Reportの平均的な意識であるようです。

B君:中国企業だと、意識が高いと思える実例は?

A君:先進企業の集合体の例として、RE100、すなわち、再生可能エネルギー100%を主張している世界88社に入っている中国企業としては、Broad Groupがあります。エアコン屋です。もう一つは、Elionで、自然エネルギー屋です。現時点では、中国は、自然エネルギー大国ですから。日本はそれに比べるとかなり遅れています。

B君:日本企業は、現実主義だからね。全面的に悪いとは言えないのだが、もっと理想主義的な経営方針を出すことができないのだろうか。そうしないと、世界的なトップ企業としての認知を得ることはできないのだが。

C先生:そろそろ、今年の報告書でグローバルリスクがどのように認識されているか、結果を示す段階になった。

A君:ほぼ毎年お示ししている図は、このようになりました。


図1 2017年版の全体図。緑の色が環境関係を示す。横軸が「起こる確率」、縦軸が「そのインパクト」を示す。


図2 その右上部分の拡大図。

A君:重大もっとも可能性があり、深刻なリスクが、「異常な気象現象」。二番目が、自然災害。気象関係は除外したもの。三番目が、大規模な難民増加。四番目がテロ。5~7番目が、水関連での危機、気候変動防止と適応の失敗、サイバーアタック。

B君:結果的に、2017年のリスクは、昨年までのリスクとそれほど違わないという結果になっている。

A君:それを明確に示しているものが、図3です。2007年から2017年までのリスクについて、上側の図が、起こる確率、下側がそのインパクトを示していますが、2011年以来、余り色合いが変わっていません。詳しくは、本文を見て下さい。


図3 2007年(左)から2017年までの11年分のリスクの分布。上が可能性、下がインパクトのトップ5位まで。ブルーの経済的リスクが減少し、グリーンの環境の社会オレンジの地政学的リスクが重大になっていることが一目瞭然である。

C先生:ということで、これに基いて何を議論すべきだが。まずは、このような世界的な動向に、なぜ、日本の企業がついて行けないのか、その問題だけは、今回議論しておくか。

A君:色々なファクターを議論しなければならないと思うのですが、日本の場合、欧米に比較すれば、政治的になぜか安定していること、といってそれが本当に日本の将来にとって良いことなのか、と言われると難しいですが。

B君:安倍政権についても、すべての人々が評価しているというよりは、「他に無い」という言う要素が強いように思う。ものごとを分かっていない上に、反対のための反対ばかりしている野党に任せると碌なことにならない、という経験をしっかりしてしまったためではないか。日本の政治が、既得権益に甘いことも絶対的な事実なのだけれど、英国のEU離脱とか、トランプ大統領のような全否定的な政治家が出現しないことがもっとも大きいのかもしれない。

A君:となると、政治以外。まあ、経済界の話になるでしょうね。

B君:経済界のマインドの違いでも議論するか。なぜ、日本経済界のマインドは世界から二周遅れになるか。

A君:非常に簡単に言えば、それは、自分さえ困らなければ良いという、自分中心主義が成立する国だからですよね。世界的に遅れていても、日本国内では余り困らない国だからですよ。

B君:何を例に挙げるべきだろうか。まずは、日本と世界の違いを明確に示すなにかを探すか。

C先生:それについて、最近、講演などがあると、こんなことを発言しているので紹介しようか。それは、富士山と八ヶ岳の話。日本の代表的な山である富士山は、実は、日本人のマインドを全く表現していない日本人のマインドは、むしろ、八ヶ岳的なのだ。せっかくだから、そのパワポを示してみるか。



図4 最近、講演で使い始めたPPT。日本のカルチャーは富士山型ではなく、むしろ、八ヶ岳的であることを指摘している。

A君:なるほど。簡単な話ですね。指摘は余りされないことですが。

B君:富士山は、日本を象徴する山なのに、日本人という集合体のマインドは、全く、八ヶ岳的である。人によって、住んでいるところが固定されていて、そこから山に登りはじめると、出発点が同じなので、いつでも同じ八ヶ岳の一つの頂上には行くけれど、他の頂上には行ったことがない。そこから、いつでも、同じ個人的視野でものを見ている。

A君:ところが、欧米人のマインドは、中腹まで昇る段階では、なにも共通とは言えないのだけれど、頂上まで登って周りを見渡すと、そこは、富士山のように、かなり狭い山頂になっていて、すべての人々の共有スペースである。しかも、標高がかなり高い場所である。すなわち、自己都合が優先される場所ではなくて、かなり高度な倫理・正義・哲学によって行動の裏付けがあることが優先的に評価される場所である。

B君:トランプ大統領がすべての人から評価されないのは、日本人的な八ヶ岳の頂点までしか登れない人だからだ。しかし、米国の真の問題もそこにあって、あの国は、平均的に言えば、知性が高い人ばかりではないので、一部から熱狂的に支持されている

A君:Global Risk ReportのExecutive Summaryでは、Older and less-educated peopleという表現になっていますね。具体的には、ラストベルトで失業中の白人高齢者を意味していると思いますが。

C先生:先週の金曜日に、広島大学のプロジェクト評価に出かけたとき、同じ評価委員会に参加しているテキサス大学の教授と休み時間に話をしたけれど、やはり、そのような人々に対しては勿論のこと、若い学生などに対して、ヒラリー・クリントンは何のアッピールもできなかった。それが最大の敗因だ、と言っていた。その通りだと思う。ヒラリー・クリントンの主張が、全く響かなかったといことなのだろう。なぜなら、establishedの完全なる見本のような存在であり、サンダーズ上院議員のような社会に対する強いメッセージも出すことすら無かった。

A君:日本の気候変動への抵抗勢力としては、しばしば経団連がそうだと言われるのですが、不思議なことに、日本ですら、個々の企業そのものは、経団連ほど抵抗勢力ではないのですよね。

B君:「官僚」ではなくて、しばしば「民僚」と呼ばれる経団連プロパー職員が、自分たちの使命として経団連を守る、というより、自分達を存在を守るという意図から発言をする。富士山はもとより八ヶ岳ほど高さの頂上すらも見ていない。せいぜい、伊豆の大室山ぐらいなものだろう。もう不要になったことが明らかな組織なのだから、いくら守ろうとしても無理なのだけれど。

C先生:悪口だらけになってきた。しかし、すべての人々が、ダボス会議で何が語られ、何が現時点での社会の実情だと考えれていて、何が、その社会における正義だと認識されているのか、といったことを考えるようにしないと、このダボス会議のGlobal Risk Reportが示すようなリスク感覚を持てなくなってしまう。そして、結果的には、自らが所属する組織が自滅するようになってしまう、ということを示していると強く思うのだ。
 そんな意味で、毎年1回発表さえれる報告書の紹介をしてみた。もっとも、今年は、ある意味で、予想通りの報告書になっているので、余りインパクトがなかったが、別の見方をすれば、世界における問題点は、先進的ビジネス界では、ほぼ共有されているということを示しているのだと思う。
 日本企業で、二周遅れを解消したいと思う企業であれば、このような報告書を詳細に検討することをお奨めしたい。自社の持つべき方向性が良く分かると思うので。