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  地球温暖化はエセ科学か 03.04.2007
     



 ある読者からのメールで、
http://tanakanews.com/070220warming.htm
に、「地球温暖化はニセ科学である」、と書いてある。という情報をいただいた。

 そのHPの作者は、田中宇氏。国際政治の専門家のようである。記事は、2007年2月20日に書かれている。

 題名は、「地球温暖化のニセ科学」であって、「地球温暖化はニセ科学」ではなかった。微妙なニュアンスの違いはあるが、普通に読めば、余り差は無い。


C先生:この田中氏の文章だが、正しいが少ない情報と正しくない多くの情報がごちゃ混ぜ状態になっていて、その訂正だけは最低限やろう。

A君:自然科学が未来を取り扱うときに、どこまで信用できるのか、といったことは、なかなか微妙な問題ですから、後日、その議論でしょうが、できますかね。

B君:それでは、記述を引用し、そして若干の解説を。田中氏のHPからの引用(無断)は、《》でくくり茶色の文字で示す。

 《この概要版報告書は、海面上昇や氷雪の溶け方などから考えて、地球が温暖化しているのは「疑問の余地のないこと」("unequivocal"、5ページ目)であり、今後2100年までの間に、最大で、世界の平均海面は59センチ上昇し、世界の平均気温は4度上がると予測している。(13ページ、6種類の予測の中の一つであるA1Flシナリオ)》

B君:著者がこの「地球が温暖化している」ことを否定しているのかどうか、この文章だけではよく分からない。地球が温暖化しているのは、現時点では明白。疑問の余地は無いという判断も間違っては居ない。ただ、何回も述べているように、1800年代から、1960年ぐらいまで、人類の行為とは無関係に、地球は温暖化傾向にあった。すなわち、地球の自然な揺らぎであって、原因は、太陽活動が主なものだろうが、地球それ自体にも原因の一部があるのかもしれない。

A君:そして、1960年以降も、温度の上昇は明らか。ところが、田中氏は、やや後ろの部分で、次のような記述をしています。

《世界の温度を最も正確に計っているのは、アメリカの気象衛星だが、その測定値は、99年以来、上下はあるものの、全体としての平均温度の傾向はほとんど横ばいである。
 測定された世界の海洋の温度の平均値は03年以来下がっているが、これも温暖化とは逆方向である。海洋の温度が下がると、理論的にはハリケーンや台風が減る方向になる。最近は台風が多いとか、今年は暖冬だからという直観で「温暖化は間違いない」と軽信するのは、やめた方が良い。》

A君:地球の温度をどう測るか、これは難しい話ではあるのです。人体の場合のように、脇の下とか、舌下とか、耳の中とかいった場所が決まっているわけではない。陸地と海面の温度をどうやって平均するのか。色々と議論があるようです。しかし、地球温暖化の問題の初期に米国を中心に議論されたような、「地球の温度は上昇していない。上昇しているというのは、作りごとだ」、といった批判は、最近、勢いを失っているのが現状。様々なデータが揃ってきて、それを総合的に解釈しているということでしょう。データの一部には、田中氏が引用している例もあるのでしょう。田中氏がすべてのデータを見ているという訳ではないということでしょう。

B君:田中氏は、自分でデータを探している訳ではなくて、外国の、反温暖化記事などの間接的な引用しかしていない。自分で丹念にデータを探すことなど、当然、時間が無くてできないのだろう。

C先生:ただし、今年は暖冬だから温暖化は間違いは無い、などという結論は出せないということは、まっとうな指摘だ。100年間で3℃の上昇。1年にすると、0.03℃の上昇にしかならない。毎年の揺らぎはそれよりもかなり大きい。

A君:温暖化の原因が人類の行為かどうかについて。

 《また、過去50年間の温暖化の原因が、自動車利用など人類の行為であるという確率は、前回(2001年)の報告書では66%以上を示す「likely」だったのが、今回は90%以上を示す「very likely」に上がった。確率の上昇は、実際の気候変動をシミュレーションするプログラムがバージョンアップされて信頼性が高くなったからだという。
 この概要版報告書の発表を受け、世界の多くの新聞が「二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を急いで規制しないと大変なことになるということが、これで確定した」「温暖化について議論する時期は終わった。これからは行動する時期だ」「まだ議論に決着がついていないという奴らは、ホロコースト否定論者と同罪だ」といった感じの記事を流した。 》

B君:最後の方の記述は、主観的な判断に基づいていると思うけど、「新聞などは限られた字数で何を書くかが問題。すべてを報道することはできない」、ということを勘定に入れれば、まあ、あんな報道でも妥当だったとも言える。

A君:それから、アル・ゴアの話、と、スターンレポートの話になる。

 《IPCCの発表とほぼ同時期に、地球温暖化問題を以前から推進してきたアル・ゴア元副大統領が出演した映画「An Inconvenient Truth」(不都合な真実)の宣伝が開始された。この映画では、地球温暖化によって世界の海面が6メートル上昇し、低地にあるフロリダやオランダや上海が洪水に見舞われる光景が描かれている。
 これらの動きより数カ月前の昨年10月末には、イギリスの経済学者ニコラス・スターン卿が、英政府を代表して、地球温暖化への経済的な対策を提案する論文「スターン報告書」を発表している。この報告書は、地球温暖化による海面上昇が世界各地で大洪水を発生させて2億人が家を失い、温暖化の影響で干ばつになり発展途上国の飢餓がひどくなるなど、温暖化を放置することは、世界経済を毎年少なくとも5%ずつ破壊する悪影響をもたらすと分析している。
 スターンは、対策として毎年、世界経済の1%にあたる資金を、温室効果ガスの排出削減など温暖化対策の技術開発にあてるとともに、ガスの排出権を売り買いできる世界的な取引市場を創設すべきだと提案している。》

A君:IPCCの第4次報告書と合わせて、「三位一体」と称している。

 《だがしかし、この運動を裏づけるはずの「三位一体」は、実はいずれも正しくない。 》

B君:正しくない、と言い切るのは相当な度胸が居るが。

A君:まあ各論をそれぞれ議論することになるのでは。

《▼海面はそれほど上昇しない
 だが実は、今回の報告書は、温暖化について最重要の点である海水面の上昇予測について、前回よりもひどさの少ない分析をしている。デンマークの著名な学者であるビヨルン・ロンボルグ(Bjorn Lomborg)によると、2100年までの約100年間の海水面上昇の予測値の平均値は、前回の報告書では48・5センチだったが、今回は38・5センチに減っている。
 ロンボルグによると、海面上昇率の予測値は、1980年代にアメリカ政府の環境保護局は「2100年までに海面は数メートル上昇する」と予測していたが、その後IPCCが90年代に「67センチ」と予測し、2001年には48・5センチ、そして今回は38・5センチになった。予測値は、だんだん少なくなっている、つまり海面上昇による危険は、年とともに減っている。海水面は20世紀中に、人類が問題にしない間に20センチほど上昇している。今後あと40センチ上昇したとしても、大した問題ではない。

A君:20世紀中の海面上昇の値ですが、様々な説があるようですが、10〜30cmと言われています。この認識はOK。ただ、今後40cm上昇したとしても問題ない、というのは、言いすぎ。認識が甘い。

B君:ところで、海面上昇の予測計算だが、何が勘定に入っていて、何が入っていないのか。

A君:実は、自分も良く分からない。

C先生:今回のレポートでは分からない。フルレポートが出れば分かるだろうが、「多分」ということで述べると次のような仮定ではないだろうか。
 海面上昇の計算には、海水の温度上昇による膨張を基礎にして計算しているが、山岳氷河やグリーンランド、南極大陸の氷の量的な変化は勘定に入っていない(違っていれば、どなたか訂正を!)

B君:氷の量的な変化について、田中氏は、次のように記述している。

《温暖化で世界中の氷が溶けているかのような話になっているが、北極圏の氷は溶けているものの、南極圏(南氷洋)の氷は1978年から現在までの間に8%増えている。》

A君:山岳氷河やグリーンランドの氷河は明らかに減少している。これは良いでしょう。しかし、南極では、多少温暖化しても零下なので、雨ではなくて、やはり雪が降る。降雪量は、海面温の上昇で海水の蒸発量が増えるから、増加するはずなので、温暖化が進行すると南極の氷は増えると考えられている(勿論、南極でも、周辺部は氷は融ける)。南極の氷の増加は、温暖化が進行している証明の一つなのかもしれない。ところで、北極海の氷は、浮かんでいるので、解けても解けなくても、海面には影響しない。

B君:となると、グリーンランドの氷が解けて、その氷が南極に移るという現象が長期的には見られるはずだが、その中間過程で海面が上がるのか、下がるのか、計算ができていない、ということになる。

A君:田中氏は、ゴアが使っている海面上昇の5.5〜6mという数値は、1980年代に米国環境保護庁が使っていた大昔のものだ、としているようだが、これは、全く違う根拠に基づくものだと考えた方が良い。ゴアの「不都合な真実」の本(枝廣淳子訳)によれば、

『もしも、グリーンランドの、または、グリーンランドの半分と南極の半分の氷が溶けたり(氷は「解ける」か「融ける」が正しい?)割れたりして、海中に落ちると世界中の海水面(もともと海水面の影響は世界中だと思うが?)は、5.5〜6m上昇することになる』。

B君:ブレアの科学顧問デイビッド・キングの説らしい。

A君:グリーンランドの氷が解ける速度と、南極の氷が増える速度を計算で出すのは難しいのでしょう。

C先生:このあたり、モデルを実際にいじっている人からの情報を待ちたい。どこまで科学の結果を読むか、それは外から見ている人間にとっては、長時間を掛けて原著論文を調べれば分かるのだろうが、なかなかそうは行かない。

B君:ここで議論しているわれわれは、温暖化のモデル計算に関しては全くの素人。基本的にどういう計算をやろうとしているか、その基礎方程式が何かぐらいは理解しているが、どんな仮定が入っているか、どんなパラメータを使っているか、など、細かいところは知らない

A君:それから、海面上昇という問題を2100年までの数値で議論することは間違いで、例え大気の温暖化が2100年までに何度か上昇して止まったとしても、海面上昇は、300年ぐらい継続する。本当の被害は、300年後に出る可能性が高い。それを「大した問題ではない」と言い切ることができる田中氏はすごい。氏はわれわれ以上に温暖化の科学に対しては素人である、と言えるでしょう。素人ほど、断定的発言ができますから。

B君:次は、IPCC事務局が情報を意図的に変えているという話。

《▼学者の良心を悪用するIPCC事務局
 今後の気温上昇や、寒波や熱波の予測回数など、海面上昇以外の分野の予測値は、前回と今回の報告書で、大体同じ数値となっている。
 その一方で、温室効果ガスとして二酸化炭素と並んで悪者扱いされている大気中のメタンの量は、1990年初め以来増えていないことが、今回の報告書に記されている(4ページ)。メタンは、家畜の増加や水田の拡大によって増えるとされる。ほとんど温室効果ガスだけで温暖化を語っているIPCCの説に基づくなら、メタンの増加が止まることは、温暖化を緩和する方向の現象である。》

A君:この議論は、理路がよく分からない。メタンの寄与率を何%だと思っているのだろうか。計算の中には、メタンの大気中濃度は一定にして計算しているということではないだろうか。

C先生:確かに、このような計算の中身の詳しいところは、われわれは素人のためよく分からない。
 一つ言いたいことは、IPCCの今回のレポートと、東大の気候センターの計算結果は、かなり良く似ている。次に2枚の図を示す。



図1:気候センターの2004年発表の図

A君:この図で重要なのは、人類の行為による温度変化と、自然の揺らぎ、主として太陽の変動とそれを受け取る地球側の自然要因による変化を分けて計算していること。もう一つ、少々分かりにくいが、計算システムとしても揺らぎも灰色で同時に表現されている。

FULL:すべての要素を入れた計算結果(黒線と計算結果の誤差の範囲が灰色、赤の実線は実測値。
ANTH:人間活動による温度変化の計算結果。
NTRL:太陽と地球の揺らぎによる温度変化。
CTRL:計算システムの固有の揺らぎ。

A君:そして重要なことは、NTRL、すなわち、太陽と地球の揺らぎによる温度変化は、1960年までの温度の傾向をかなり良く再現していること、すなわち、もしもこの計算が正しいとするのならば、1960年までの温度変化は、ほとんどが太陽と地球の揺らぎで決まっていて、人間活動による影響は、1960年以降に見られるということが明確に分かる。

B君:今回の第4次報告書には、こんな図が出ている。



図2:IPCC第4次報告書の結果。

C先生:この図は、東大の気候センターのような計算結果を世界中の研究者から集めて、その平均的な結果を示したものだと思える。1940年頃の温度変化が再現できていないものの、1950年以降から人間活動の影響で、太陽と地球の揺らぎによる温度変化に比べてかなり高い温度になっていることを示している。

A君:田中氏は、この図などは無視なのでしょうね。

B君:科学だとは言っても、未来を読むことは、なかなか難しい。田中氏は、一部のデータが合わないということで、全体を否定したいようだが、多分、国際政治が専門ということで、自分の感性にあった部分だけを強調して物事を判断しているのではないか。

A君:われわれも、温暖化のシミュレーションについては、専門から程遠い。しかし、田中氏は、さらに専門家とは言えない。その割には、マイナーな情報を根拠に、ニセ科学と決め付けている感じがある。

C先生:最初に結論ありきなのだろう。ロンボルグとは、合って話をしているのだろうか。

 《これらのことがあるにもかかわらず、前回の報告書ではまだ議論の余地があるとされた温暖化の傾向や二酸化炭素排出との関係が、今回の報告書で「議論の余地がない」と断定された背景には、政治的な圧力があるとロンボルグは指摘している。
 IPCCには130カ国の2500人の科学者が参加している。ほとんどの学者は、政治的に中立な立場で、純粋に科学的な根拠のみで温暖化を論じようとしている。しかし、ロンボルグによると、問題はIPCCの事務局にある。事務局の中に、温暖化をことさら誇張し、二酸化炭素など人類の排出物が温暖化の原因であるという話を反論不能な「真実」にしてしまおうと画策する「政治活動家」がいて、彼らが(イギリスなどの)政治家と一緒に、議論の結果を歪曲して発表している。》

A君:このような記述が、国際政治の専門家としての直感を刺激するものがあるということなのだろう。

C先生:バイアスがあるという話。何事でも、バイアスの無いものなどは無い。事務局よりも、むしろ、IPCCに積極的に貢献している科学者には、ある種のバイアスが掛かっているということは事実かもしれない。すなわち、自らの科学的結論を政策に活かしたいと思うタイプの科学者が揃っている可能性は無いとは言えない。だからといって、結論を意図的に曲げたら、自殺行為だという認識は共有されているだろう。

B君:そんな国際政治の専門家にもっとも訴えたいことが次の話か。

《▼5月発表の本文は、2月発表の概要版と正反対
 2月2日にIPCCが発表したのは、報告書の概要版である。報告書の全文(本文)は、5月に発表される予定になっているが、公開前の本文の草稿を読んだ学者によると、本文ではいくつかの重要な点で、以前のIPCCの温暖化の予測が破棄されている。サッチャー政権の顧問をしていたイギリスの学者モンクトン卿(Christopher Monckton)は草稿を読んだ一人だが、彼によると今年の報告書の本文では「温暖化の原因は人類が作った」とする説の根拠である「産業革命以来の急速な温暖化」について、2001年の報告書は33%以上の度合いで誇張していたことが指摘されているという。(関連記事)
 IPCCは、90年、95年、01年と、後の報告書になるほど温暖化を深刻に描いているが、その方向は、07年の報告書の本文では初めて逆転し、深刻さを軽減する方向になっているということだ。それなのに、2月に発表された報告書の概要版では、5月発表予定の本文とは全く逆に、温暖化は以前に考えていたよりはるかに深刻だ、という方向性になっている。これは、ほとんど詐欺である。》

C先生:この話は、コメントの必要は無いだろう。5月に本文が出てくれば、分かる話だし。ただし、IPCCの事務局が科学者連の意向を無視してそのような暴挙をやれば、次の第5次の報告書作成に協力しない科学者が出てくるから、「ほとんど詐欺である」可能性は低い。

B君:まあ、IPCCの事務局が暴走するとしたら、自らの理論が信頼されなかったときではないか。

A君:関連して、一旦強く主張しても、撤回するのがIPCCだ。ホッケースティック説がそうだったという例示がある。

《IPCCの報告書で以前は強く主張されていたことが破棄されている例は、今回の概要版にも表れている。2001年の報告書では、温暖化を決定づける理論として「ホッケーの棒理論」が使われていた。「地球は産業革命以来、急に温暖化するようになった(だから犯人は人類だ)」と主張するこの理論は、二酸化炭素排出規制を求める先進国の政府と市民による運動の、最大の理論的よりどころになってきた。しかし、2001年の報告書の重要点の一つだったこの理論は、今回の報告書の概要版からは、きれいさっぱり消えている。
 実はホッケーの棒理論は、世界の学者の間では非常に評判が悪く「都合の良い過去のデータだけを寄せ集めて、歴史的な世界の温度変化だと強弁している」と批判されていた。専門家の間では、未来の温度予測はおろか、過去の歴史的な温度変化についても、まだ議論百出の状態なのである。「もはや温暖化は疑いの余地がない」という結論は、政治的な意図に基づいてIPCCの事務局が、他の学者たちの科学的誠実さを無にして暴走した結果のエセ科学である。》

B君:ホッケーの棒理論、恐らくホッケースティック説のこと。理論などではない。過去の地球の温度が、こんな風だったということで、Mannの温度データとも言われている。1998年、1999年の同氏の発表にオリジナルがある。過去の温度というと、田中氏は、「そんなもの分かっているだろ」、と思い込んでいるようだが、実は、そもそも地球の温度を測るのは難しい。しかも、過去の温度は、温度計など無いから、サンゴだとか、アイスコアだとか言った間接的なデータからの推測値に過ぎない。

C先生:ただ、Mannの温度データは、どうも細部の表現が無さ過ぎるという気もする。平安時代は、もっと暖かだったのではないか。また、小氷期は、もっと寒かったのではないか。いずれにしても、シミュレーション屋にとってもっとも楽なデータを採用したのではないか、という噂があった。

A君:われわれは、グレーデルの温度を使って説明することが多いです。


図3: Mannの温度データ。過去1000年変化が、アイスホッケー用のスティックの形に似ている。

図4: グレーデルの本の中の温度


B君:グレーデルの温度の方が、文学性があるというか、様々な人間活動が説明しやすい。まあ、実は、どの温度データを使おうが、計算値との比較には、1860年ぐらいから後のデータを使うので、余り大きな問題だとは思えない。

A君:次の疑義が、コンピュータシミュレーションへの疑問。これを絶対視するのは、確かに危ない。

B君:次の指摘は、それほどおかしくはない。

 《IPCCの報告書で問題にすべきもう一つの根本的なことは、コンピューターのシミュレーションプログラムを絶対視してしまっていることである。気候のメカニズムは非常に複雑で不確定要素が大きく、人類が分かっていないことも多い。分かっていないことを適当にシミュレーションに置き換える際に、政治的な思惑が入ってくる可能性は十分にある。》

A君:しかし、次の指摘は、今回の問題と全く関係ないどころか、わざと誤解を与えようとしているとしか思えない。

 《プログラムがバージョンアップされても、信頼性が上がるどころか、逆に政治的な思惑がより大きく入り込むケースは、米政府で盗聴を担当するNSAが、マイクロソフトの新しいウインドウズであるビスタの開発に入り込んでいたことに象徴されている。》

B君:大体、シミュレーションプログラムは、各研究者達が自作をしているのであって、マイクロソフトのようなOSの場合とは全く違う。この理屈がいかにおかしいか、分かっていないのか、それとも、この情報を最近どこかから得て、嬉しくて書いてしまったのか。

A君:まだまだ続きます。無視された説。これも良くある話。

《▼無視されてきた太陽黒点説
 IPCCの報告書では、温暖化の原因は、二酸化炭素など温室効果ガスの増加に集約されており、他の原因については少ししか議論されていない。だが、最近の研究で、実は二酸化炭素よりも太陽黒点の活動の方が、温暖化に関係しているのではないかという説が有力になっている。
 これはデンマークの学者ヘンリク・スベンスマルク(Henrik Svensmark)らが10年以上前から研究しているもので、以下のような説である。宇宙は、星の爆発などによって作られる微粒子(荷電粒子)で満ちており、微粒子は地球にも常にふりそそぎ「宇宙線」として知られている。大気圏にふりそそぐ宇宙線の微粒子には、その周りにある水蒸気がくっついてきて水滴になり、雲をつくる。ふりそそぐ宇宙線が多いほど、大気圏の雲は多くなる。(ほかに雲の水滴の核になるものとして、地上から舞い上がった塵の微粒子がある)
 太陽は、黒点活動が活発になると、電磁波(太陽風)を多く放出し、電磁波は宇宙線を蹴散らすので、地球にふりそそぐ宇宙線が減る。宇宙線が減ると、雲の発生が抑えられ、晴れの天気が多くなり、地球は温暖化する。逆に太陽黒点が減ると、ふりそそぐ宇宙線の量が増え、雲が増えて太陽光線がさえぎられ、地球は寒冷化する。世界史を見ると、太陽黒点が特に少なかった1650年からの50年間に、地球は小さな氷河期になり、ロンドンやパリで厳しい寒さが記録されている。
 IPCCでは「20世紀は、地球の工業化で増えた二酸化炭素によって温暖化した」という説が有力だが、スベンスマルクの説だと、20世紀は太陽黒点が多い時期で、宇宙線が少なく、雲の発生が少なかったので、温暖化の傾向になったのだとされる。雲を研究している学者の多くは従来、宇宙線の多寡は雲のできかたに関係ないと主張しており、スベンスマルクの説は否定されていたが、スベンスマルクらは2005年の実験で、宇宙線が水蒸気を巻き込んで水滴をつくることを証明した。
 実験は成功したものの、おそらく温暖化の二酸化炭素説が政治的な絶対性を持っていたため、地球温暖化の定説をくつがえす内容を持っていたスベンスマルクらの実験結果の論文の掲載は、権威ある科学の専門雑誌からことごとく断られ、ようやく昨年末になって、イギリスの王立研究所の会報に掲載され、遅まきながら権威づけを得ることができた。だが、IPCCの報告書は、いまだにこの新説を無視している。》

B君:太陽黒点の方が、温暖化ガスの影響よりも大きいということは、今回のIPCC4次報告書では否定されたと考えて良さそう。いずれにしても、上述の議論を解剖すると、そもそもシミュレーションプログラムというものが何か、その実体を分かっていない。シミュレーションは、すべての自然現象と同じメカニズムを計算の中に入れるということではない。
 実際には、雲がどのぐらいできるか、という確率のようなものを数値として入れているに過ぎない。その中に明示的に宇宙線の影響が書いてある訳ではない。確かに、雲の影響は、よく分からない。

A君:温度が上昇すると、大気中の水蒸気量は増える。しかし、蒸発量は、海からのものが多いものと思われる。その水蒸気がどのようにして雲になるか、など、分からない部分が多い。雲をどのぐらい正確に計算に取り込むか、そこには課題があるのは事実らしいですが、この宇宙線の説があったとしても、それを無視している訳でもなんでもなくて、そもそも、シミュレーションというものは、細かいメカニズムをすべて考えている訳ではない、そこまで完成度が高い訳ではないことにすぎない。

B君:少なくとも、田中氏が疑っているように、意図的に無視しているということは有りえない。まだ、計算に入れるほど、説として確立していないと考えれているか、あるいは、確立しているとしても、その影響の大きさが評価されていないだけだろう。

A君:さらに、無視された部分があるという指摘。

 《また、この説とは別に、人類が自動車や火力発電所を使うことは、大気中に塵を多く排出することになるので、それを核にして水滴が集まりやすく、雲が増えるはずなので、火の利用は温暖化ではなく寒冷化の原因になっているはずだ、という有力な説も何年も前から存在している。だがこの説も、以前からIPCCには無視されている。 》

B君:これは、最近のモデルには勘定に入っていると聞いている。エアロゾルの影響というのがそれではないか。ピナツボなどの火山噴火の影響で、実際に、地球は一時的に寒冷化している。その影響までは、あるパラメータを入れたと聞いている。

C先生:このあたりも専門家の方の解説が必要。

A君:そろそろ最終的なまとめ。

 《二酸化炭素が温室効果をもたらすことは、多分事実だが、温暖化には他の要因もあるというのも、多分事実である。今の世界の温暖化問題の議論は、多数の要因の中の一つしか見ず、他の要因を政治的に排除して成り立っている。このまま世界各国で温室効果ガスの排出規制が採られることは、温暖化防止にならず、逆に温暖化促進や、寒冷化促進につながる懸念さえある。》

B君:今回の第4次報告書の主張は、科学的な見地から言えば、二酸化炭素を含む温暖化ガスや現在シミュレーションで考慮している事項以外の理由による可能性があることは、まだ否定できないものの、その可能性は10%未満で、温暖化ガスなど現在科学者が考えている原因に責任がある可能性が90%。すなわち、原因がほぼつかめた、というのが、今回のIPCCの第4次報告書の主張だと言える。

A君:最後のまとめ。

 《なぜ、温暖化問題はエセ科学が主流になっているのか。誰がそれを企図しているのか。それは、次回の記事で考察するが、かいつまんでいうと「イギリスを中心とする先進国が、発展途上国の成長率の一部をくすねるために考えついたのが、地球温暖化問題である」というのが私の分析である。この分析は、すでに一昨年に書いた2本の記事で展開しているので、早く知りたい人は、とりあえず「欧米中心の世界は終わる?」と「地球温暖化問題の歪曲」を読んでいただきたい。
 イギリスのブレア首相が世界で最も強く温暖化対策を推進しているが、ブレアの任期は4月末で終わる。IPCCが温暖化対策の必要性を誇張した要約版を2月に出し、実は対策の必要性が低いことを述べた本文は5月に出すのは、ブレアが自分の任期中に何とかして京都議定書に代わる温暖化対策の国際的な取り決めをまとめたいと考えており、そのために歪曲を強めて急いでいるのだと考えられる。》

B君:温暖化問題について、ニセ科学が主流と決め付けているが、この結論は正しいとは言えない。さらに、この結論を導くには、サポートデータの精査が足らない。それはそれとして、ブレア政権が温暖化を武器に延命を画策しているということは言えると思う。だからといって、IPCCにそこまで大きな影響力を行使できたのか、それは5月に分かる。待つしかない。

A君:政治が報告書の中身に影響を与えたという事実も、今回のIPCC第4次報告書についても、すでに知られています。太陽と地球の揺らぎによる温度変化は、人間活動による温度変化の1/5程度であるという結論になっていたのですが、この数値を数値として書くか書かないかが議論になった。中国が反対して、この数値が消えたという話。

B君:ただ、その話だが、何を根拠に1/5というのか、時点を例えば2005年といった年に特定したときに言える話なのか、それとも、なんらかの積分値なのか。色々と細かい議論がありうると思うので、止めたとも思えない訳ではない。

C先生:気候変動が政治の世界にかなり近いことは事実である。スターンレポートにしても、英国財務省がスポンサー。英国は、折角できた排出権市場を今後長期に渡って商売にしようという思いが強いように思える。各国の思惑が交錯するのが気候変動の世界だけに、国際政治の専門家が入り込むことは、ある意味で当然なのだが、一方で、気候変動の科学は、特にシミュレーションの細部に関しては、われわれにとっても正しく理解するのが難しいレベルになっている。われわれも正直な話、ど素人である。これを国際政治の専門家が理解できる、と思う方がおかしい。恐らく、先に結論があって、それに合う見解だけを集めるという作業をすることになってしまうのではないだろうか。
 事実を見極めて客観的な結論を導くことは、やはりある程度の科学的素養があって、しかも、予見を出来るだけ持たず、また、ものごとを一段高いところから見ることができる人間だけだろう。これをやるには、時間もかかる。なかなか大変。調査の過程で発見した、増田先生のHPは、温度のホッケースティック説に関して、この条件を満たしているようだった。
http://web.sfc.keio.ac.jp/~masudako/memo/hockey.html