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  環境問題の虚実・表裏・損得 01.27.2008
     その2:ガソリン税暫定税率廃止



 どうしても、日本の政治はポピュリズムの傾向を強めている。今さえ良ければ、自分さえ良ければという、徐々に強まりつつある選挙民の心理をいかにして自らの政治的な利益につなげるか、といった政治家の戦いをみると、いい加減にしろ、と言いたくなる。

 ヨーロッパにおけるガソリン代は、環境税のためもあって非常に高い。だから日本のガソリン代は高くても良い、という福田首相の論は暴論である。ヨーロッパの環境対策だけが正しい訳では無い。もう少々グローバルに見たら、どんな絵が見えてくるのか。


C先生:事実の確認から。ガソリン税は、本則税率と言われるものが28.7円1974年に暫定税率を導入し、34.5円にアップ。その後、2回のアップを経て、1979年に現状の53.8円になっている。これは、揮発油税+地方道路税の合計金額だ。

A君:1954年に、ガソリン税は道路特定財源になっているので、すでに54年間もその状態を維持している。

B君:軽油が対象の軽油取引税や自動車にかかる自動車重量税、自動車取得税も道路特定財源。

A君:暫定税率が導入されたのは、70年代の石油ショックが一つの原因になっていて、消費抑制や道路財源充実が理由になっていた。

B君:08年度の道路特定財源は、国・地方で合計5.4兆円。そのうち、2.6兆円が暫定税率分

C先生:暫定なのに、なぜ30年間も継続したのか、これが今となっては、最大の問題。

A君:利権の確保がその原因だ、と朝日新聞は解説している。すなわち、道路工事を続けたい建設会社行政上の権益を手放したくない役所予算配分に口を出して票や献金を期待する政治家

B君:それらが一体となって権益を守ってきた。

C先生:その通りなのだ。しかし、歴史的にみると、もう少々違った見方も可能になる。それは、日本と言う国が、どうやって工業化を進めてきたかということと関係している。工業化を進めるにあたって、農業からの労働力を何かに移す必要があった。一部は工業に移ったものの、必ずしも全員がそうなった訳ではない。農業だけでは食えなくなって、やむを得ず土建業に移動した農家出身者も多い。すなわち、日本は農業国家から土建国家になったのだ。

A君:土建業というものの労働集約性を活かして、農業従事者を減らした。そのため、ある程度の規模の土建プロジェクトは必要不可欠。そして、そのもっとも効率の良いものが道路工事だった。

B君:掘り返せば、何回でもやれる。無限の需要がある。

A君:桜島の砂防ダムも無限の需要がある。いくら建設しても、数年で満杯になってしまう。

B君:自動車ユーザにとっては、ガソリン代が下がればありがたい。これが一般的な感想だろう。

C先生:確かにそうなのだが、その分税収がへって、財政が悪化する。現在の日本は、世界的に見ても、税金が安い国に属する。特に、小泉内閣のときに高所得者の所得税税率の引き下げが行われた。消費税税率にしても、5%という値は、ヨーロッパの25%、米国の10%弱に比較すれば、圧倒的に低い。

A君:北欧は税金は高い。税金で半分持っていかれる。しかし、教育費も医療費もタダだし、そして年金も確実に手に入る。だから、老後の蓄えが不用な社会になっている。

B君:日本の場合、どのような国にするのか、という長期的なビジョンを語ることなしに、目の前の税金をどうするか、といった議論しかできないことが最悪だ。

A君:政治家も、自らの再選の可能性しか考えていない。ということは、参議院議員でも6年間、衆議院議員だと、最長でも4年という視点しかもてないことになる。

B君:傷ができると絆創膏を張るだけ。そして、世界でも最悪と言われる借金漬けの国になってしまった。

C先生:技術水準など、良い部分もある日本なのだが、未来に向かってまず、長期ビジョンを作り、それに向けて様々な対策を打つ、という積極姿勢が見られるようになれば、今回ほどの株安に見舞われることもない。

A君:それが残念ながら、この国ではもっとも難しい。

B君:今回、ガソリン税暫定税率に対して、どのような対応を提案できるのか、そこに政治家としての適正というか、その人物の大きさを見ることができる。

C先生:新聞の論調をこれまでフォローしてきたが、主要紙では、いずれも、暫定税率の廃止には批判的。同時に、道路財源として固定してしまうことにも賛成できない、としている。同感だ。

A君:主要新聞が全部反対しても、個々の政治家は、例の小泉劇場と呼ばれた衆議院選挙以来、「分かりやすいことが第一」、「国民にはガソリン値下げがもっとも分かりやすい」、と考える存在に成り下がってしまった

B君:もっと哲学的、長期的な見通しを語って欲しいところだ。

C先生:それにしても、ガソリン値下げ、というと、無条件に、というか、反射神経的に「それは良い」と言える国民が大部分ということに、ものすごく大きな危機感を感じる。

A君:副作用は相当大きい。道路工事に従事している労働者が失業するだろう。これは、特に、地方において、経済的なダメージを与えるだろう。

B君:ガソリンが多少売れて、石油連盟の各社は、多少儲かるだろう。しかし、だからといって、そこでの経済効果は極々限定的だろう。

A君:地方への打撃は、それ以外にも相当大きい。暫定税率を廃止すると、最大の被害は北海道で、578億円の減収になるとのこと。東京都が505億円、もっとも減収の少ない島根でも52億円。

B君:北海道の経済は、かなりよれよれ状態。洞爺湖サミットがあっても、回復というわけには行かない。

C先生:ガソリン代が値下がりすると助かる、と考えるのは、どんな層なのだろうか。もっとも深刻なのは、当然のことだけど、業務上でガソリンや軽油を使う業種。最大のものは、運輸業。この業種は、燃料費の増大を運送費に転嫁できないでいる。なんらかの補助が必要かもしれない。

A君:次が、運輸業ではないが、どうしてトラックなどを必要とする業種。例えば、建設業など。

B君:タクシー業界は、すでに値上げした。東京の場合だと、660円から710円へと50円上がった。2kmだと、都内の場合、0.3リットルぐらいガソリンを使う。45円ぐらいか。

A君:ガソリンではなくて、LPGでしょう。しかし、多少安い。昨年11月の段階で、93円/Lぐらい。ガソリンよりも多少発熱量が低いでしょうが、それでも、2km走るのに、30円程度で済むのでは。

B君:ということは、タクシーの場合には、今回の値上げで、燃料費の上昇を上回る補充ができたというべきか。

C先生:結論的には、軽油の価格は、やはりなんらかの対策が必要ということか。ガソリンはどうだ。

A君:通勤に使っているサラリーマン。特に、公共交通の無い地方での通勤用。これはこたえるかもしれない。

B君:まあ、それはそうだろう。しかし、4月からガソリン代が下がるからといって、すぐさま喜ぶという単純な反応はして欲しくない。やはり、一歩下がって、世界状況を見てから判断して欲しい。

A君:これをチャンスに、何人かが同乗をする方法を考えるとか、場合によっては、燃費のよい車への乗り換えを考えるとか。

B君:経済的なことだけを考えると、買い替えは無い。片道50kmといった長距離の通勤していたとしても、100km/日。それが10km/Lの車を20km/Lの車に乗り換えても、毎日10Lのガソリンが5Lに減るだけ。1Lが150円だと、毎日、750円の節約。月20日とすれば、1万5千円。1年で18万円。

C先生:どうせ買い換えるのなら、燃費の良い車を選択しようという程度の動機にはなりそうだ。

A君:そんな動機をこの暫定税率を改正することによって、支援するというのであれば、本来の筋のようですね。

B君:それなら、我々のいつもの主張である、燃費別の費用負担。例えば、重量税や保有税も、燃費を基準にすべきで、軽自動車だから安いという税制は止めるべきだということに一致する。

A君:例えばですが、こんな方向性ですか。ガソリン税をカタログ燃費によって変える。そして、結果的にガソリン価格を次のようにする。まあ、例えばですがね。

グループ特=25km/L超  50円/L値下げ
グループS=25km/L以下 40円/L値下げ
グループA=20km/L以下 25円/L値下げ
グループB=15km/L以下 据え置き
グループC=10km/L以下 25円/L値上げ



B君:それは良いかもしれない。ところで、 現時点でのカタログ燃費の情報は、
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/
にある。そこで、10・15モード燃費を基準にするならば、上の提案での大きな境目である15km/Lとは、1.5L級の車なら大体パスするが、1.8Lだと駄目。10km/Lとは、2.5L級の車だとOKだが、3L級になるとこれを下回るために、ガソリン代が高くなる、といった感じのものであり、軽自動車だと、MT車かCVT車で軽量級だとまず20km/Lを超すが、AT車あるいは重量級はそれ以下となる場合がある。

C先生:なかなか面白いが、それを実現するとなると、各自動車の登録燃費をガソリンスタンドで分かるようにしなければならない。

A君:比較的簡単ではないですか。自動車の登録情報はどうせどこかにある訳で、最近の駐車場や高速道路の入り口のように、車のナンバーを読み取る装置を設置すれば、後は、簡単な情報処理でできる。

B君:現在、高速道路入り口や駐車場などでナンバーを読み取られていることを皆さんはご存知だろうか。

A君:普通の道路を走っていても、例のNシステムが読んでいる。

B君:大分前になるが、筑波の医者が妻と子供を殺し、死体を横浜に投棄したが、それがNシステムで取られた情報で足が付いた。

C先生:関係の無い話は止め。ところで、日本のガソリン税は世界的に見て高いのかどうか。

A君:その話は、ドイツのODAを担当しているGTZのデータが有効。まず、2004年のデータをお見せしますか。ここのデータは公開されています。
http://www.gtz.de/en/themen/umwelt-infrastruktur/transport/10285.htm



図1:ドイツGTZによる世界の自動車燃料の価格 アジア編 2004年

A君:各国の数字は、左側が軽油1Lの価格(セント)、右側がガソリン。現時点の価格はこれよりもかなり高くなっているが、重要なのは色で、濃い緑色の国、日本、韓国、香港、トルコなどの国が属するが、これらの国では、ガソリン税などが課せられている。薄い緑色の国、例えば、インドなどであるが、これらの国では、ほぼ国際市場価格で販売が行われている。問題は、他の色の国である。黄色の国、中国やタイなどでは、政府からガソリン価格に対する補助金の支出が行われていて、国際市場価格よりもかなり安い価格での供給が行われている。赤い国は主として産油国であり、ここでは、補助金の額が極めて高い。トルクメニスタンに至っては、1Lがなんと1〜2セントである。

B君:さて、黄色や赤の国々で、政府からの補助金の支出が行われているのはなぜなのか。その目的は、「金持ち優遇」による政府の人気取りである。すなわち、ポピュリズムである。

A君:それでは、同じ報告書の2007年版、データは2006年11月のものを示しましょう。



図2:GTZの自動車燃料の世界比較 アジア編、2006年11月現在

B君:もっとも驚くべきことは、日本の色の変化だ。2004年のデータで濃い緑色であった日本が、なんとなんと薄い緑色に変化している。この色は、ガソリン税は掛かっているが、非常に高いとは言えないという色である。そして、さらに驚くべきことかもしれないが、これまでガソリンに補助金を支出してきた国々の多くが、日本と同じ色、すなわち、ガソリンに課税を始めていることである。中国しかり、タイしかりである。今や、ガソリンに政府の補助金が入っているのは、多少の補助をしているインドネシアを含め、ほぼ産油国のみになった。

A君:このようなガソリン税に対するGTZの見解ですが、途上国における道路整備のためには、概ね1Lあたり10セントのガソリン税を課すことで、少なくともトラック輸送を円滑化するための道路整備に必要な投資は可能になるとしていて、政府からの補助金が支出されることに反対している。そして、世界は、概ねそのような方向に向かっている。

C先生:現実には、政府からの補助金が出ることは、産油国を除けば、アフリカ諸国を含めて希なケースになっている。ガソリン代による金持ちへの人気取りというポピュリズム政策は、もはや世界的に時代遅れであることを意味する。
 途上国以外ではガソリン代はどうなっているか、若干説明を。

A君:米国の自動車燃料政策の方針は、低いガソリン税を課税し、ほぼ国際市場価格での販売ですが、このところ、ご存知のように、トウモロコシから作ったバイオエタノールへの傾斜を強めています。その理由は、と言えば、これまたポピュリズムであり、現政権の支持者が多く住む米国中西部穀倉地帯の農業振興によって、政治的な基礎固めをしたいからでしょう。

B君:ヨーロッパのガソリン価格は、概ね、200円/リットル程度であって、日本よりも常に数10円高い。しかし、ヨーロッパの物価は、もはや日本では考えられないぐらい高い。例えば、ロンドンの地下鉄の初乗り料金は3ポンドである。今は1ポンド210円程度であるから630円。昨年の9月ごろには、1ポンドが250円だったので、なんと初乗り料金が750円だった。となると、生活者の実感としては、ヨーロッパのガソリン代は、それほど高いものではないのかもしれない。

C先生:話を日本に戻すが、今回のガソリン国会の争点も、流石にガソリン税をゼロにするということではないものの、やはり基本的に政治的ポピュリズムがガソリン値下げを主張する側の根底にある思想だと言えるだろう。すでに示した2枚の図からも明らかなように、この発想は、アジアの途上国においても、ここ数年で消えてしまったものとも言える。産油国を除くと、アフリカでも有り得ない方向性である。まさに、日本における政治の後進性を象徴するものではないだろうか。
 しかし、道路整備をこれまで通りに続けるのも、これまた後進性を示すことにしかならない。

A君:環境対策をするのが正義だとは言いたくないのですが、次のようなな感想をどうしても持ちますね。
 2008年1月、京都議定書の第一約束期間が始まっている。しかし、日本の場合、二酸化炭素排出に限って特例で4月1日からスタートということになっている。その4月1日にガソリン価格が下がる(現実には遅れるようだが)ということが起きたら、これを他の国は何と言うのだろうか。

B君:福田首相がダボスであんなことを言っているが、日本という国はどういう国なのだ。また、株価が下がる

C先生:昨年の6月にドイツで行われたサミットあたりで、世界は、これまでの「経済と環境の両立」という考え方から、「環境と経済の両立」という考え方に変わった。すなわち、これまでの「経済を発展させることが、人類の目的である。その発展によって、環境被害が余りひどくならないように対策を打つ」、という考え方から、「環境制約を最重要課題と考え、その中でいかに経済発展を実現するか」、という考え方に変わった。マラソンの折り返し点のようなものである。最初に折り返したのは、北欧とドイツ、それに加えてイギリスぐらいか。そして、他のEU諸国もほぼ折り返し点に到着した。先進国で最後尾にいるのは、アメリカ、その前を走るのが日本・カナダである。
 こんなことまで考えた上で、ガソリン税の暫定税率をどうすべきか、十分に議論をしたい。しかし、残念ながら、どうしても時間切れだけが見える状況。

A君:やはり長期ビジョンを作らないと。

B君:それができないのが、今の日本の特徴。

C先生:政治家諸氏、ここが政治家としての器の大きさを示す良い機会。長期ビジョンをきっちりと述べて欲しい。選挙民諸氏、目前の利益と未来の明るさはしばしばトレードオフの関係にある。未来に明るさの見える長期ビジョンを述べた政党をサポートしたい。