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  地熱いよいよ本格化か
  03.25.2012



 Facebookでの「環境学ガイド」でも話題になっているように、3月23日付けの日経新聞1面トップ記事が『国内最大の地熱発電、福島で原発1/4基分』という記事であった。

 抄録『出光興産、国際石油開発帝石、三菱マテリアルなどは福島県内で国内最大の地熱発電所を建設する方針を固めた。環境省が地熱開発について国立・国定公園内での掘削を条件付きで認める規制緩和を実施するのを受けたもので、新設は1999年以来。2020年ごろの稼働を目指す。発電容量は27万キロワットになる見通しで、原子力発電プラント4分の1基分に相当する。総事業費は1千億円規模になるとみられる。』 日本経済新聞

 また、国立公園内に地熱発電所を設置することについての規制緩和も進むことが次のように報道されている。

 『自然公園内で地熱発電推進=基準緩和受け、東北など5カ所で−枝野経産相
 枝野幸男経済産業相は23日の閣議後の記者会見で、環境省が国立公園などの自然公園内での地熱発電所の設置基準を緩和したことを受け、北海道や東北の5ヶ所で開発を進める方針を示した。「地熱発電開発の優良事例として進展するように取り組みたい」と意欲を語った。
 開発を進めるのは、福島県内6地域(福島市、二本松市など)、秋田県小安地域(湯沢市)、木地山・下の岱地域(同)、北海道白水沢地域(上川町)、阿寒地域(釧路市など)の5カ所。経産省は今後職員を派遣し、地元との共生や環境への配慮といった方針について自治体に説明する。』
 時事ドットコム

 地熱は自然エネルギーの中では、「ゆらぎがない」という点で特異な存在で、石炭火力、原子力、大規模水力発電と同様に、ベース電力として使うことができるという特性を備えている。

 これまで普及しなかった理由は、次の3点が指摘されている。
(1)適地が自然公園の中
(2)発電量が小さく、コスト的に魅力的でない
(3)温泉組合との交渉が厄介

 これらのうち、(1)が解決の方向になり、(2)についても、自然エネルギーの買い上げ制度への期待が高まって、実現の方向になっている。(3)がどうなるかは、未知である。

 今回、これらの記事を深堀りしてみて、どのようなことを理解すべきなのかを探る。そして、地熱発電を様々な観点から見直すことを試みたい。

目次:ただし、今回は1〜3まで、4.5.はそのうち
1.そもそもどのぐらいのポテンシャルがあるのか
2.実際に作るつもりの地熱は
3.福島のどこに作るのか
4.どのぐらいのコストになるのか
5.他の自然エネルギーとの比較



1.そもそもどのぐらいのポテンシャルがあるのか

 日本の地熱発電のポテンシャルは、アメリカ、インドネシアについで、世界3位だと言われている。インドネシアが1位なのか、アメリカが1位なのか。資料によって違う。

 「地熱発電に関する研究会」というものがあって、経産省のWebから、こんなファイルが入手できる。
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g81201a05j.pdf

 その4ページに、世界の地熱資源量というスライドがある。


図1 世界の地熱資源量

 この図によれば、世界最大の地熱資源量を有する国はインドネシアで、ついで、米国、日本となっている。この3ヶ国は、4位以下を完全に引き離してトップ3である。

 しかし、そこに示されている数値は、20540MWeである。MWeのeとは恐らく、発電量の意味であろうと思われる。1MW=1000kWであるから、10MWが1万kWである。日本の資源量は、2054万kWだということになる。

 それなら、日経の記事でも使われている賦存量2347万kWとは何なのだろうか。

 先の資料の後半に、村岡ほか(2008)資源量評価における地熱資源量評価結果というものがある。

 『そこでは、表が小さく示されており、次のような記述がある。全国の150℃以上の熱水系資源については31,860 MWe(×30年)となり,宮崎ほか(1991)の1.55倍となった。  ただし、大きな資源量を持つ地域(特に大雪・十勝)のデータ密度の問題があるので、下方修正すると23,470 MWe(×30年)』という記述がある。


図2 村岡(2008)の結果

 ここに2347万kWという根拠があるものと思われる。

 国立・国定公園内にどのぐらいの地熱資源が存在しているか、についても、村岡ら(2008)が推定をしている。その結果は、前出の図の次のスライドにある。


図3 地熱資源量(150℃以上)の国立国定公園特別保護地区・特別地域内の割合

 このスライドの中の表から見ると、2347万kWの資源量のうち、開発規制を受けないものは425万kW、すなわち、全体量の18.1%に過ぎない。

 ところで特別保護地区、特別地域とは何か。EICネットによれば、次のように定義されている。

特別保護地区とは自然公園法で定められていて、
 『国立公園、国定公園では、特別地域の中で特に優れた「景観を維持」するため、公園計画に基づき特別保護地区を指定することができることとされている(自然公園法第14条)。
 この場合の「景観の維持」は、単に視覚としてとらえられる自然景観のみを意味するものではなく、規制の内容等からして「生態系の維持」を意味するものと解されている。
 国立公園については環境大臣が、国定公園にあっては都道府県知事が自然公園法の規定により指定するが、これにより特別地域での規制に加えて植栽、放牧、落葉・落枝の採取、たき火などまでが規制対象とされる。この地区での現状変更行為は原則として認められない扱いとされている。』


 特別地域には第一種から第三種まであり、次のように分類されている。

第一種特別地域
 「特別保護地区に準ずる景観を有し、特別地域のうちでは風致を維持する必要性が最も高い地域であって、現在の景観を極力保護することが必要な地域」
第二種特別地域
 「特に農林漁業活動については努めて調整を図ることが必要な地域」
第三種特別地域
 「特に通常の農林漁業活動については原則として風致の維持に影響を及ぼすおそれが少ない地域」

 環境省の「地熱発電事業に係る自然環境影響検討会」という会議で、特別地域などでの地熱発電の設置の可否について検討が行われてきた。そして、23年度最後の検討会が2月14日に行われた。その結果が地熱発電が規制緩和という記事になっているものと思われるのだが、現時点でネットから得られる資料は、「基本的考え方(案)」であって、
http://www.env.go.jp/nature/geothermal_power/conf/h2305/mat04.pdf
最終的な結論を見つけることはできなかったが、恐らく、この論調で決まったものと思われる。

 結論に近いと思われる7.は以下のように記述されている。

『7.国立・国定公園内における地熱発電事業の基本的考え方

 以上をまとめると、事業用としての大規模地熱発電所については、国立・国定公園の風
致景観や生物多様性に対する影響を軽減するための技術に改善や進展が図られており、その実績も蓄積されてきている。特に資源調査(地表調査や坑井調査)では、原状復旧などの配慮がなされることで風致景観等への影響を小さくすることが可能となった。
 しかしながら、次に示す 4 点については現状での技術においても大きく改善されておらず、現時点で風致景観等への影響が十分に軽減されたとは言えないものと判断される。
○ 発電所の建設については、本館(タービン建屋)、冷却塔、気水分離器、送電鉄塔、道路等の各種工作物が必要であり、大規模な造成を伴うほか、個々にまたは施設群
としての存在によって風致景観等に与える影響が大きいこと。
○ 操業段階においても、蒸気の減衰等から継続的な坑井の再掘削が必要となり、その都度、工事に伴う仮工作物の設置、騒音の発生、工事車両の出入等が生じるほか、新たな敷地の造成等も必要となること。
○ 汲み上げられた蒸気から分離された熱水は地中に還元されるが、還元熱水の地中内部での詳細な動向や、スケール付着防止を目的として還元熱水に混入される場合のある硫酸の影響など、地下の環境に与える影響は必ずしも解明されていないこと。
○ 過去の事故の例として、資源調査段階での有毒ガスによる作業員の中毒や、鬼首地熱発電所の敷地内での噴気事故などがあり、事故の発生による周辺地域住民や公園利用者等への影響が懸念されること。
 これらのことから、今後とも地熱発電事業の立地は、特別地域など国立・国定公園の自然環境保全上重要な地域及び公園利用者に影響の大きな地域は原則として避けるべきであると判断される。少なくとも特別保護地区及び第 1 種特別地域においては、地熱発電事業の実施に伴う影響は大きいと考えられるため、避ける必要がある。
 一方、普通地域については、風景の保護上の支障の有無等について個別に検討し、その都度開発の可否の判断を行うことが適切であると考えられる。
 また、坑口を普通地域もしくは公園外の地表部に置き、傾斜掘削によって第2種及び第3種特別地域内の地下深くの地熱資源を利用する場合には、自然環境保全や公園利用への特段の支障がなく、特別地域の地表部へ影響を及ぼさないと考えられる場合においては許容されるものと判断される。
 以上の見解を踏まえ、国立・国定公園内での地熱発電事業の取り扱いに関して、以前の通知は廃止し、新たな通知を明示することが必要である。
 なお、国立・国定公園における地熱発電事業の実施については、地域にとっても重要な再生可能エネルギーの活用につながり、地域住民の暮らしに深く関与することから、温泉関係者をはじめとする地域の関係者による合意形成が図られ、かつ当該合意に基づく地熱開発計画が策定されることを前提とすべきである。』


 もしもこれが最終結論であれば、国立公園であっても、第一種から第三種の特別地域に設置することは許可しないが、国立公園内の普通地域もしくは公園外に設置して、斜め掘りによって、特別地域の地下の地熱を使うことは容認する、ということになる。

 一方、エネルギー・環境会議の「コスト等検証委員会」の報告書は、昨年の12月19日付で公表されている。
https://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20111221/hokoku.pdf
その中の図11は地熱の導入ポテンシャルを示す図であり、図4に示す。


図4 地熱発電の導入ポテンシャル

 国立・国定公園の特別保護地区・特別地域を除く150℃以上の熱水資源として、430万kW、国立・国定公園の特別保護地域・特別地域の外縁部から1.5kmの傾斜掘削を含む資源量が640万kWと読める。

 ところで、「1.5kmの傾斜掘削」の調査は、環境省の「平成 22 年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によって実施された。
http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/gaiyo.pdf


2.実際に作るつもりの地熱発電は?

 ここまで調べてくると、大体の筋が見えてくる。環境省で行われてきた国立公園に関する規制緩和は、最初から決まっていた落とし所があって、そこに落ちたのだろう。

 現政府にとってかなり上位の会議であるエネルギー・環境会議の12月19日付けの報告書の図11が示している430万kWとその外側640万kWの合計(多分640万kW、430+640ではないと思う)が、今後20年程度で導入すると考えられている地熱の導入上限なのではないかと推測される。

 すなわち、原発で言えば、最終的に6基分程度の導入量を考えているのではないか、ということになる。

 もっとも、ここまで考えてきた地熱は、150℃以上の温度を持ち、そのまま発電用に使用できる蒸気が得られる、フラッシュというタイプである。

 先程の図4のもっとも外側に位置する1400万kW分は、53℃以上の熱水資源であり、これから発電を行う場合には、バイナリー発電という方法を採用することになる。

 バイナリー発電とは、ペンタンなどの蒸発しやすい有機媒体を用いて行う発電であり、今回検討してきた資源量の対象外である。

 この分を考慮すれば、若干の追加分があるのではないだろうか。しかし、その量は、良くても原発2基分程度となるのではないだろうか。

 ということは、総地熱発電量は、原発8基分が最終的な量となるのではないだろうか、と推測できる。


3.福島のどこに作るのか

 さて、東北地方の地熱開発について、日本地熱開発企業協議会は、2011年9月22日付けで、「東北6件の地熱開発有望地区について」という文書を公開している。
http://www.chikaikyo.com/news/images/110922.pdf

 この文書には、『表 新規開発可能量推定結果一覧』というものが掲載されているが、福島県の場合、磐梯国立公園についての推定結果が相当するものと思われるが、賦存熱量ベースでのポテンシャル出力であれば、1251〜2502MWe=125〜250万kWである。そのうち、公園外が、567〜1134MWeであるので、56〜113万kWのポテンシャルがあることになる。

 この量はあくまでもポテンシャルであって、実現可能量は、一般的に20%程度ではないか。となると、10〜22万kW程度かという推測ができる。

 先ほどの表には、久蔵森、一切経山、東吾妻、安達太良北、安達太良東、安達太良西、磐梯山北の地域がリストアップされており、実際に現地調査を行ったようで、それによれば、その合計が655〜740MWe=65〜74万kWである。この中で、公園外となると、17万kWしかない。第一種の特別地域は使うもの無理で、通常地域に発電所を設置し、多少の斜め掘削を行うことで、第二種、第三種の特別地域の一部が使えると仮定すれば、10万kW程度が増加して、日経新聞による27万kWという数値になるのではないか、と思われる。


結論

 今、エネルギー関連では、色々な検討が行われている。自分自身が関与した、環境省の『2013年以降の施策小委員会』による2050年の技術WG・マクロフレームWGの報告も、結局のところ、エネルギー・環境会議が決めるゴールに続く道を作らされている感じであったが、多分、今回の国立公園の検討も、さらには、地熱の開発の話も、すべてのゴールはすでにあって、その上での規定路線が実現されつつあるように思える。