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   地球は寒冷化に向う!!? 
   01.12.2013 
           グリーンランド海水温度の振動




 この冬、北米の厳しい寒さは相当なもののようです。日本でも、酸ヶ湯温泉の積雪は、2014/01/11 15:00時点で290cmで、これは昨年の史上最高積雪量566cmを抜くかもしれません。

 さて、この記事を書くことにしたのは、1月8日に北京から帰国し、一風呂浴びてテレビを見たら、「2015年ぐらいから地球が寒冷化する可能性が高い」という発言をしている人がいました。そんなはずはないだろう!

 この番組はNHKの橋本奈穂子アナのニュースウェブ24で、ゲスト出演をしていたのは、(独)海洋開発研究機構(JAMSTEC)の主任研究員中村元隆氏であることが分かりました。

 その後、Facebookで貰った情報で、番組のビデオがNHKのサイトのアップされているのを知り、それを何遍も見返すことによって、その発言から読み取れる情報は何かを検討しました。

 ニュースウェブ24では、視聴者からのTwitterでのレスポンスを見ることができますので、視聴者がどのように受け取ったかを知ることができて、判断材料にもなります。

 このような作業の結果、いかにテレビの生放送で発言時間が限られているとは言っても、中村氏は、昨年のIPCCのWG1の報告書を全否定するニュアンスで語っていて、これは「武田邦彦効果などではびこった温暖化懐疑論」の再発を狙ったものとしか思えなかったのです。

 ついでに、webを調べてみると、中村氏の地球寒冷化に向かうという主張が掲載されている新聞が2紙ありました。

 産経新聞の長辻象平氏の論説
http://sankei.jp.msn.com/science/news/131020/scn13102003200000-n1.htm

 その中の一文は、
「中村さんも二酸化炭素などによる温室効果を認めているが、それを打ち消す気温の低下を見込んでいるのだ」。

 朝日新聞デジタルの瀬川茂子氏の解説
http://www.asahi.com/tech_science/update/0629/TKY201306280627.html

 同じく一文を。
 「二酸化炭素の増加による温暖化との関係の研究も必要という」。

 この長辻氏と瀬川氏のお薦めにしたがって、二酸化炭素の増加による温暖化との関係を研究してみることにします。



 最初に、以下のような作業をして、図をひとつ作成しました。

 まず、中村氏の主張を100%正しいとし、同時に、IPCCのWG1の報告書向けに、中村氏の所属するJAMSTECにある地球シミュレータUを使って、他のJAMSTECの研究員などのチームが取り組んだ革新プログラムの結果を、気温上昇分をIPCC AR5に若干近づけるために調整したもの作成し、それと比較してみました。

 これが、こんな図になりました。


図1  中村氏の主張する60〜80年周期の温度変動(緑線▲)とIPCCの予測(茶色■)を加えた合計(青色◆)。GreenLand湾の影響による気温の振幅は、中村氏が主張する0.5℃を採用。

 さて、中村氏の語るGreenLand湾の海水温度変化による気温の振動の寄与が重要という主張と、このグラフは、果たして同じ感触でしょうか。青線が地球の気温変化ですので、どうみても、2015年頃から寒冷化が始まるというグラフには見えないのです長辻氏が述べている「打ち消し」効果も、一時の停滞がちょっと見えるだけで、大きい効果には見えないのです。

 本文の最後に、付録として、番組のTwitterと発言を簡単に記録してみました。記録の正確度はそれほど厳密ではないです。最後にお読みいただければ、と思います。



C先生:まずは、この10分ぐらいの動画を見てもらいたい。−−− さて、どう思う。
 ところで、中村氏の発言の一部は、付録を見て欲しい。

A君:極めて不親切な説明で、自分の研究は100%確実。それに対して、IPCC AR5のWG1の報告書の未来予測は、全くあてにならない。なぜならコンピュータには限界があって、正しい答が出るとは思えない、と言っていますね。

B君:温暖化懐疑論の何人かの発言を思い起こす。アラスカ大学の赤祖父氏が代表例だが、IPCCの報告書用に計算をしているプログラムには、最初から答が仕込まれているといったニュアンスの発言をしていた。

A君:最近は黙っているようですね。

B君:日本からの北極研究に対する研究費の流れが順調だからではないだろうか。

A君:コンピュータによる予測はあてにならない、という論拠は何だとしているのでしょうか。

B君:中村氏は海洋の専門家らしいので、海洋の影響が予測プログラムにきちんと入っていないと言いたいのではないか。

A君:確かに海流の流れは、全くと言ってよいほど、温暖化予測では考慮されていません。それは、長期間に渡る気候変動に大きく影響するというよりも、図1に示すように、数10年といった比較的短期の周期的な変動に効く可能性が高いからでしょう。

B君:勿論、海洋の影響が気候変動に全く考慮されていないという訳ではなくて、海洋と大気間の熱の移動などは、温度差を考慮してプログラムされているが、細かく海流までを考慮している訳ではない。

C先生:中村氏がテレビで示していた熱塩海洋循環の図を説明してほしい。なぜ熱塩循環という名称なのかも含めて。

A君:そうですね。中村氏が見せていた類の地球レベルでの海流の絵を示しますか。全く同じものではないですが、手元にありますから。

B君:海流の図も簡略化したものや詳しいものまで色々ある。中村氏が示していたものは、若干簡略化されているものだった。

A君:詳細図は、次のようなものです。



図2 熱塩海洋循環詳細図 熱による水の蒸発による海水の塩分濃度の上昇によって引き起こされている循環

C先生:この図で、大西洋のグリーンランド付近と深く関連するところの説明を簡単にしてみるか。

A君:了解。地球レベルの海流の流れを、海の表層部(赤)と深層部(青)に分けて示している図です。地球には、大規模な海流の流れがあるのですが、その最大の駆動力は、当然、太陽エネルギーでして、赤道付近を通っているときに最大のエネルギーを受けます。
 一つは、大西洋のアフリカ沖を通過するときで、ここで太陽熱を受けて、かなりの水分が蒸発し、塩分濃度が上がります。そのときに、雨が大量に降れば話は別ですが、そうでなければ、赤道付近を通過することで、海水の比重は高くなります。それが北上して冷やされるとさらに重くなりアイスランド付近で一部が沈み込みます。海流はさらに北上して、残りがグリーンランド湾で沈みます。図では、小さな黄色の楕円でその領域が示されています。
 この海流は、メキシコ湾岸流ですが、海水の温度が高いので、そのお陰でヨーロッパの冬は、その位置から考えられるほど寒くないのです。
 海底近くを逆行して戻る状況が青い線で示されています。
 赤道を通過するもう一つの地点は、ニューギニア付近を通過しているときですが、そこから赤道にほぼ平行に移動し、喜望峰の沖に向かうのですが、余り緯度が違わない経路なので、北部大西洋ほど気候に影響するような重大な現象が起きるということではないのです。

B君:ちょっと追加すると、塩分濃度が高い領域が、この図で緑色で示している海面の部分。そして、水色で示している海面が塩濃度の薄いところだ。赤道の真上は、雨が多いためもあって、塩濃度は高くはない。

C先生:中村氏が言っている話は、結局のところ、グリーンランド海で海流が大量に沈み込むか、あるいは、アイスランド付近で大部分が沈み込むかが、この状況がある周期をもって変化しているということなのではないか、と思う。それが60〜80年なのだろう。

A君:60年から80年周期になっている理由やメカニズムは、中村氏でも分かっていないようですね。我々のような素人が考える方が発想に自由度があって良いのかもしれない。ちょっと検討してみましょうか。

B君:なにかが蓄積されていって、60〜80年で一杯になって、反対側への移動が起きる。丁度「ししおどし」の仕組みみたいなことが起きているのだろうか。

A君:なかなか考えにくいですけど、そうでない限り、このような振動現象は出現しないように思いますね。

B君:「ししおどし」の場合、水の蓄積が進むと、重心がずれるという効果。やはり、何か蓄積して行くと、不安定になるというメカニズムが必要。

A君:蓄積されていくものとして候補になるのは、塩分濃度の高い海水(濃度差)、温度の高い海水(温度差)ぐらいなものでしょうか。

B君:閉鎖系に近い地中海が原因になるとかはないのだろうか。ちょっと考えると、地中海の塩分濃度は、水分の蒸発が激しく、雨は少ないだろうから、普段は上昇し続けるようにも思えるのだ。どこか限界値があって、それを超すと何かが変わる、ということはないのだろうか。

A君:もしも地中海の塩分濃度が大幅に上昇しているときに、地中海・黒海沿岸・エチオピアなどに大雨が降れば、それが原因となって、増えた海水がジブラルタル海峡から大西洋に流れ出す。すると、海水の比重が大きくなって、海流もアイスランドのかなり手前で沈み込むようになる。これが起きれば寒冷化する。雨量が普段よりも多いと、地中海から流れ出る海水の塩分濃度が低いので、沈み込むのが、グリーンランド湾になる。

B君:可能性は無いとは言えない。エチオピアあたりに大雨が降ればナイル川が増水するし、ヨーロッパを悠然と流れるドナウ川だって、黒海に流れ込んでいる。ドニェストル、ドニェプル、ドンなどの河川もある。これらの河川の流域での大雨は地中海から大西洋への海水の流れを増やすに違いない。

A君:ちょっと話変わって、IPCCのAR5によれば、2100年頃と現在の雨量の変化はこんな感じです(図3)。黄色いところは減少。緑のところは増加です。温暖化が進行することによって、大西洋の雨は減るようですね。ということは、海水からの水の蒸発量は増大する。ということは、地中海を考えなくても、アイスランドより手前で、海流が沈み込む可能性が高まることですね。もしそうなれば、欧州は大々的に寒冷化する。しかも、この変化は周期性ではなくて、一方的に温度が下がる。すなわち、この熱塩循環は、ティッピングエレメントの一つとしても認識されていて、熱塩循環が止まれば、ヨーロッパの寒冷化が現実になる。

B君:温暖化が進行すると、地中海付近の雨量はかなり減少する。一方、サハラ砂漠の南限の付近の雨は割合としては増えるけれど、もともと少ないので、絶対量はそれほど増えることはない。エチオピアの山岳地帯は雨が増えるから、地中海に流れ込む河川の総流量がどうなるか、よく分からない。


図3 雨量の変化。1985−2005年と2081ー2100年の比較 

A君:いずれにしても、中村氏の言う振動周期も、温暖化の進行によって、影響を受けることになる。どのような仮説を立てるかで、影響が違うようですね。ただし、今回の我々の仮説は、ジブラルタル海峡を流れる海水の塩分濃度と温度の推移を測れば、一発で、正しいか正しくないかが分かってしまいますね。

B君:そうだ。反証可能性が高い仮説なので、哲学者ポパーの言に従えば、科学的仮説だと評価することもできそうだ。中村氏がなんらかの仮説を提案したとして、もしも測定ができないような仮説であれば、それを証明するには、やはり大規模なシミュレーションを行うことになりそうだ。すなわち、大規模研究費が必要不可欠か。

A君:繰り返しますが、ヨーロッパの気温は、メキシコ湾岸流のお陰。もしそれが止まって太平洋岸並みの気温になると、ヨーロッパ北部は居住できなくなる可能性もあります。これが、EUが温暖化研究や対策に熱心な理由の一つだと思うべきです。しかし、かなり温暖化が進まないと、そこまでは行かないというのがこれまでの研究結果のようです。

B君:中村氏の言うグリーンランド湾の変化は、振動であって温度が上がってもそのうちまた下がる。一方的に温度が上昇して、あるいは、その影響で熱塩循環が完全にストップして危機的になる地球全体の気候変動と違って、それほど重大なことではないので、大型の研究費が付くことはないな。彼としては、こんなに理学的に面白いことに、なぜ研究費が付かないのだ、といって不満を持っている可能性が高い。

C先生:さてそろそろまとめに行こう。最初に示した図1のように、中村氏が重要だと入っている60〜80年周期の振動は、単なる揺らぎにしかなっていない。

A君:中村氏の語っている振動は全体の傾向を決める訳ではない。気温の上昇は、地球全体のもっともマクロな効果なので、全体の傾向を決める。

B君:言い換えれば、全体の傾向を決めるのは、個々の海流がどうとかといった問題ではなくて、地球全体のエネルギーバランスが最大の問題。加えて、ティッピング・エレメントが重要だ、ということだ。

A君:念のため再確認をしますが、太陽活動が変動すれば、地球全体のエネルギーバランスを大きく変えるので、温度・気候は当然大きく変わります。中村氏の考え方の重要性は、地球環境レベルでは低い。

B君:海洋の効果も、大気とどのぐらいエネルギーを交換するかという点で重要なポイント。しかし、地球が温室効果ガスによって地表に近い部分にエネルギーを貯めるので、エネルギーが海洋により多く向かえば、大気温度はそれほど上昇しない。しかし、いつかなんらかの相互効果によって、海洋に溜まったエネルギーが大気に移行すれば、相当大きな気温上昇になる。

A君:海洋の影響は重要ではあるけれど、長期的な気温変動を計算する方法論に、細かい要素を入れることは、却って不確実性を高めるだけ。ある程度単純なモデルでも、それなりの結果は出る。加えて、不確実だ、不確実だと言われつつも、数理的・統計的な方法論を導入するなど、進化している。しかも、IPCCの報告書は、各国の計算結果のある種の精度競争になっていて、30件以上の計算結果の平均値で議論されるようになっている。世界全体での研究者の協調によって、言い換えれば、研究量が増大したことによって信用できるだけの結果を産み出している

A君:この手の科学の結論は、いわば多数決の時代になったということです。

B君:このような共同作業に対抗して、たった一人の研究者が、地球レベルの気候変動の研究ができる時代は終わった

C先生:中村氏は、この流れに逆らう以外に方法がない状態に追い込まれているとしたら、それは気の毒なことだ。だからといって、自分の思いだけを強烈に主張していては、ますます孤立するだけのように思う。



付録:ニュースウェブ24におけるTwitterと発言の記録

Twitter

偏西風の蛇行の原因は?
北極圏の寒気が発達しやすい?
日本でもありうることですか?
四季が二季になっている!
残念ながら温暖化だ。それで気候変動がはげしくなるのだ!
地球の長い歴史をみれば異常気象とも言えない。
異常気象ではない?
60〜80年周期なのか。
そもそも世界の平均気温って上昇している?この周期の原因は?
海水温度の変化。
やっぱり深層海流か
やっぱり北極からの流れか!
何度ぐらい上下するのですか?
黒潮のながれも変化?
食糧危機になりそう
海流が変化した証拠はあるのですか?
太陽が原因か?人の営みか?
我々は何ができるのか?
人間では太刀打ち出来ない
海流って気温と関係があるのだ
氷河期を乗り越えた人間だ
人間が原因でないの?
まだ、地球に住みたいよ?



橋本アナ:「もっと長期的にみたら、気温はどうなるのですか?

中村:「分からない、はっきり言って分からない!」、「気候シミュレーションモデルを用いて色々と研究されていますが、色々と欠陥が多くて、数10年以上の気候を予測する『質』は無いのです」、「コンピュータの性能かによって制限されているところが多いのです」、「そもそも自然というものが非常に複雑なシステムですから」、「地球の大気だけの要素だけでなく、大気と海洋の相互作用とか氷など、これによって非常に複雑な振る舞いをする」、「さらに我々が分からないのは、太陽です。太陽の活動が1%、2%変わると地球の気候は非常に大きな影響を受ける」、「とても予測などできません

橋本アナ:「何百年ぐらいたったら、2014年というのはあんな年だったのだ、ということが分かる」

中村:「そんな感じでしょう」、「われわれの時間のスパンでは、この潮流の流れの変化が、特にヨーロッパの人々にとっては重要」。

橋本アナ:「冷静に分析して、あまり大騒ぎしないことですね」(進行が、当初の打ち合わせの通りに行かなかったのではないだろうか。苦しいコメントのように聞こえた。)

中村:「まさにその通り」


Twitter

予測できないんだ?
海洋生物も大変だ
長期的にみると右肩上がりになっているの?冷静に分析して、あまり大騒ぎしないことですね。
第一線の研究者でも、分からない!
地球は複雑すぎる。
また生態系が変わるのか?
自然の脅威ですね。
分からない。ある意味で正解だ。