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   2014版「世界のリスク」 
   04.05.2014
          ダボス会議のGlobal Risks




 毎年スイスのダボスで行われている世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、通称、ダボス会議だが、2014年1月22日には安部首相が基調講演を行っている。

 WEFは、このところ毎年”Global Risks”という文書を公表していて、2014年版は第9版になる。

 今年の「世界のリスク」はどう変わったのか?



C先生:ほぼあらゆるリスクを取り上げ、その世界経済への影響を明らかにしようという意図で作られている報告書だ。しかし、毎年形式が変わってしまうので、歴史的な動向などを追うには余り適したものになっていない。

A君:昨年版では、5つの分野、Environmental、Technological、Geopolytical、Economic、Societalについて、それぞれ10項目のリスクを取り上げて、それらをImpactとLikelifoodの2次元で評価していました。
 ところが、2014年版になって、リスク項目が分類されずに、合計31項目になっています。

B君:5つの分野に分かれているということは、分かりやすい一方で、それぞれの分野に無理矢理10個ずつの事象を入れ込んでいるという印象が無い訳でもなかった。

A君:今年のリスクの評価のワースト10を表で示します。

1位:主要国での財政危機
2位:構造的な高い失業率
3位:水の危機
4位:所得格差
5位:気候変動防止と適応の失敗
6位:異常気象の異常度と頻度の上昇
7位:世界的なガバナンスの不安
8位:食料供給危機
9位:主要な財政上のメカニズムの崩壊
10位:政治的・社会的な不安定性の増大


B君:こうしてみると、リスクのワースト10に入るようなものは、環境関連か、経済・財政関連の項目だ。

A君:確かに。環境関連=水、気候変動、異常気象、食料供給。経済・財政関連=財政危機、失業率、所得格差、ガバナンス、財政メカニズム。

B君:10位になっている政治的・社会的な不安定性の増大は、その原因が経済・財政か環境かということになりそうなので、まあ、全部が環境関連か、経済・財政関連と言える。

A君:10位以下を含めて、次の図に、31個のリスクのImpactとLikelihoodを示します。ちょっと読みにくいですが。


図 WEFのグローバルリスク

A君:このリストには明示的に示されていないのですが、組織の信頼性喪失、リーダーシップの欠如、女性格差、そして、データの管理の失敗の4つの項目については、常に注意を払っておくべきことだ、としています。

B君:加えて、報告書によれば、あるエクスパート達は、新しい技術、例えば、合成生物、自動運転技術、3−Dプリント技術などによる、新しいタイプの公害、事故、乱用・誤用などを注視すべきだ、としているらしい。

A君:合成生物による生態系の破壊が起きるとしたら、確かに嫌な感じがしますね。

B君:合成生物というものの研究レベルはどうなっているのだろう。本当にこの学問体系が進化すれば、新しい医薬品を合成する微生物を合成できるかもしれないけれど、新しい病原菌、例えば、免疫システムをくぐり抜ける病原菌などが合成できるということなのだろうか。

A君:昨年の報告書にはX-factorという項目があって、宇宙人との出会いなどが書かれていますから、まあ、無視して進めましょう。

B君:WEFのリスクは、大体10年後までを見通していることになっている。しかし、10年以上先になって、顕在化することが予測されるリスクが3つほどあるとしている。 第一が、多極化する世界の不安定性。これは分かる。第二が、”喪失の世代”となっていて、仕事のない世代とほぼ同義。特に、スペイン、ギリシャなどで深刻なのだ。

A君:世界の失業率は、後ほどグラフで示します。

B君:この問題の実態は何かと言えば、先進国では、高価な教育を受けても、教育自体が時代遅れなので、仕事を遂行するのに役に立たないこと。加えて、途上国では大学卒の活用の場がないこと。

A君:日本の大学での典型的な大教室での講義中心の教育は、もはや時代遅れなのは確実。知識は別途獲得し、問題解決についての議論を中心に据えた教育に切り替える必要があるのでしょう。

B君:そして第三がデジタル世界の崩壊。それは、サイバー攻撃をすることが、サイバー攻撃からシステムを守ることより圧倒的に簡単であるというアンバランスさに由来している。全く新しい考え方を導入する必要があるが、それが何か、現時点では未知のままである。

A君:以上でやっと報告書の10ページまできただけで、ここからIntroductionが始まりますが、省略。そして、次がPart 1.Systemic Risks

B君:Systemicという言葉だが、医療関係では、”全身性の”という意味で使われる。勿論、”体系の”、”システムの”という意味もあるけれど、Systemic Abnormalityを「全身性異常」と訳す感覚の方が、このSystemic Risksを正しく理解しているような気がする。

C先生:このレポートの目的は、ビジネスセクターが、リスクにどのように対応すべきかを示すということなので、それぞれのリスクに対する細かい説明はない。ただ、BOX1.3という囲み記事=Risks that Flow from Waterというものがあって、ここで水のリスクだけが説明されているようだ。

A君:水のリスクがなぜSystemic Riskなのか、ということを説明しようとしているようです。まず、水は少なすぎても、多すぎてもリスクだ、という当然の記述があって、その次に、パキスタンでの2010年の洪水、タイでの2011年の洪水の記述になっています。そして、2011年の東日本大震災の津波。いずれも経済に対する影響が大きかったということを言いたいようです。

B君:水によって、住民の生活が困るかどうか、といった視点はほとんどなくて、世界の経済への影響が大きい何かが起きるということなのだろう。

A君:水不足の記述もあって、2010年のロシアの干魃によって、農業産物の輸出が現象し、北アフリカから中東での穀物相場の上昇を招いた、となっています。世界経済への影響がその主な視点だということが分かりますが、その次に、これがアラブの春の間接的な原因になったのではないか、ということを記述しています。

B君:だからSystemic すなわち、地球全身性の危機だということを言いたいのだろう。

A君:そして、p26から注目すべきリスクになります。まずは、すでに出ているSystemic Riskであることを理解すべし。

B君:そして、地球全体とはいいつつも、リスクにはやはり地理的な分布があることを理解せよ。2013年にデモが多発した国の地図があって、ロシア、ウクライナ、ギリシャ、トルコ、中国、タイ、エジプト、南アフリカ、ブラジル、チリ、アルゼンチンだそうだ。

C先生:国と国との関係もギクシャクしつつも、TPPなどによって、ある種の経済的アライアンス組もうとしている。

A君:アライアンスを組む理由は、経済的な結びつきを強くすることによって、より高い利益を得ようとする国々の思いがある訳ですが、経済にとって、エネルギー資源は依然として大きなファクターだと指摘しています。天然ガス供給については、これまでの中東とロシアに米国が割って入った。そして、世界最大の生産国になった。2020年頃からは、輸出国になる可能性が高い。

B君:この報告書が出たのが、2014年1月。そして、先ほどのデモがあった国としてウクライナが上げられている。一方、ロシアの天然ガス生産はやや落ちていることもグラフとして示されている。すなわち、ロシアはエネルギー生産に全面的に依存した経済なので、ロシアの力は落ちつつあるとも言える。

A君:なるほど。これが、先日のクリミア半島併合の背景の一部にはあるのかもしれない、というように読みなさい、というのがWEFのGlobal Risksの主張だと言いたいようで。

B君:次に、”喪失の世代?”という記述始まる。リスクの高い世代というのは、2013年で13歳から23歳ぐらい。この世代は、職の獲得競争に入るとき、失業、もしくは、不安定な状況に出会う確率が高い。特に、中東と先進国、なかでも、スペインとギリシャの状況が悪い。途上国では、若者は正式の職に就けないケースが高まっている。

A君:次の図が、失業率ですが、これを見ても、アジアの状況はまだまし。


図 世界の地域での若年層の失業率


B君:そして、教育の将来という記述になる。結論は、学校から職場への遷移をいかにスムースに行うかが問題。ドイツとスイスのような二重の教育システム、すなわち、仕事の現場でプロとしての技術を身に付けると同時に、職業訓練校での教育も受けるというやり方は、成功しているように見える、ということだ。

A君:日本の教育システムの改善は必須なのですが、上図のように失業率が比較的ましな国なので、真剣度が不足しているのかもしれないですね。

C先生:デジタル社会の崩壊に行こう。デジタル社会では、攻撃することは簡単だけれど、防御することは極めて難しい、というアンバランスがある。どうしたら良いのだ、ということだろう。

A君:現時点だと、インターネット経由の経済的取引がかなりの割合になっているので、インターネットそのものが信頼されなくなったら、変わりにどのような経済システムを構築したら良いのかよく分からないですね。

B君:最悪のシナリオが、サイバーゲドン。言うまでもなく、ハルマゲドン in Cyberspaceのこと。インターネットがもはや信頼出来ないものとして見捨てられること。

A君:となると、インターネットに変わる何か手段はあるのかということも問題なのですが、そもそも、「信じるとは何か」という問題になるかもしれないですね。

C先生:これで、42ページぐらまで来た。そして、解決策を考える段階になった。原理的には、Risk Analysis and Management Processで可能だという立場のようだ。

A君:そうなのでしょう。ただし、色々と問題はあって、その一つが、いつでも議論している認知バイアスの問題。これも指摘されていますね。

B君:ここではAvailability Biasが取り上げられている。要するに、最近起きたことがまた再現されると考えるバイアス。遠い過去に起きたことを忘れてしまうバイアスと言っても良い。

A君:最近起きたことが繰り返されるよりも、しばらく忘れていたような事態が起きると大変なことになることは、東日本大震災と福島第一原発事故が証明しているのですけどね。

B君:そのような事態を避ける一つの方法が、何か危ないかを直感的に判断するのではなく、定量的に検討が可能な方法論を採用することだろう。ここで挙げられている方法として、シナリオ分析、ストレステスト、ランキング/スコアリング。

A君:様々な方法を活用して、リスクを評価することが自らを救うことになる、ということになれば、様々なリスクに対してバランスのよい対応ができるようになるでしょう。

C先生:一つの結論として、45ページにあるように、「長期的な思考をする企業文化」に向おうという提案になる。これがもっとも大切なことのように思う。指摘されているように、政府も同様の長期的な発想法に変わらなければならない。すなわち、自分の任期内だけを考えるような発想を変えなければならない。

A君:NIMTOF philosophyという略語がでてきますね。説明なしに。どうやら、Not in my term of office philosophy.らしいですね。
http://www.eoearth.org/view/article/154752/

B君:政治家が長期的なビジョンを持てないのは、確かにNIMTOF症候群だからなのかもしれない。

A君:そして、Part3.これは、実は、次のレポートが10周年だということだけが書かれている。大体10年レベルでリスクを考えた来たWEF "Global Risks"が10年目を迎えるということは、自分自身の予測が果たして正しかったかどうかを自己評価することになりますね。

B君:そして結論が52ページに。簡単にまとめれば、次の言葉が重要だということ。
★ Trust
★ Long-term thinking
★ Collaborative multistakeholder action
★ Global Governance


C先生:まあ当然の結論とも言える。このGlobal Risksでは、Risk Governanceという言葉が余り重要視されていないように思えるのだ。確かに、自分が作りだしていないRiskであれば、Governanceすることは不可能で、Riskに対応するしか手が無いのも事実。しかし、自分だけが作っているということではないが、現在時点で良いとされている社会システムがもたらしているRiskであれば、旧来の社会システムに変えて、新しい社会システムを考えるということが、社会を構成している人々にとって、当然の責任だと思うのだ。例えば、ある企業の構成員であれば、その企業内の旧来のシステムは、変えることができるのは当然。これを拡大すれば、現在の地球上の人間社会システムの構成員である個人が、その人間社会システムの仕組みを変えることは可能であると同時に、自らの責務でもあると考えても、不思議ではない。実行不可能だからといって、個々の構成員に全く責任が無い訳ではないのだ。