-------

    国によるSDGsの実施方針が変更?   02.16.2020
       やっと国連合意文書とほぼ同じになった

               



 今回、この事実に気付いたのは、「環境管理」なる雑誌、これは(社)産業環境管理協会の発行になるものであるが、その2月号を何気なく読んでいたためである。
 その16ページから、佐野郁夫氏が「ビジネスの道しるべとしてのSDGs」という解説記事を書いていて、その最初の記述が、「政府のSDGsへの取り組みの着目点」の、その最初の記述に、次のような文章が書かれている。

 政府では2016年5月に、関係機関相互の緊密な連携を図り、総合的・効果的に実施するため、内閣総理大臣を本部長、全閣僚を構成員とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、同年12月22日には、国内外でSDGsの目標を達成するための「SDGs実施指針」を策定した。
 この実施指針は2019年12月20日に改定されており、改定後の実施指針では、優先課題として、8項目が次のように示されている
『People 人間』
(1)あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー業同の実現
(2)健康・長寿の達成
『Prosperity 業務』
(3)成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
(4)持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備
『Planet 地球』
(5)省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
(6)生物多様性・森林・海洋等の環境の保全
『Peace 平和』
(7)平和と安全・安心社会の実現
(8)SDGs実施推進の体制と手段



C先生:SDGsが国連で合意されたのが、2015年9月のことだ。これまでも国連は様々な枠組みで、世界全体の成長の方向性を決めてきた。SDGsの前の枠組みが、MDGs=Millennium Development Goals で、新しい世紀=21世紀が来ることを契機として、20世紀の最後の年、2000年9月の国連ミレニアム・サミットにおいて採択された。

A君:そのMDGsでは、以下の8項目の目標が設定されました。
1.極度の貧困と飢餓の撲滅
2.普遍的初等教育の達成
3.ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
4.幼児死亡率の削減
5.妊産婦の健康の改善
6.HIV、マラリアその他の疾病の蔓延防止
7.環境の持続可能性の確保
8.開発のためのグローバル・パートナーシップの推進

B君:これらの目標を2015年までに達成することが合意されていた。そして、その次の目標になったのがSDGsだ。MDGsまでは、努力するのは国が主体であったと考えられるのだけれど、SDGsでは、その実現の責任の所在であるが、経済を支えている企業の責任が大きいことが認識されて、企業がSDGsに取り組むことが推奨された。

A君:確かにそうも言えるのですが、SDGsはすべての人々がそれぞれの立場で、取り組むことが必要であり、例えば、研究者であっても、自分の研究課題に、SDGs的な要素を入れ込むことが不可欠だというのが、本来の意図だったと思います。

B君:企業の場合には、経済活動なので、その行動の方向性を全地球的なものに拡張することが求めらるのも当然。何といっても、気候変動は資源問題、食糧供給や森林の減少といった地球レベルの問題や、経済活動と非常に密接な関係があるので。

C先生:MDGsのときには、先進国におけるなんらかの社会的な構造変化も求められているという感覚より、むしろ、先進国は、途上国を支援して、そのあらゆる状況を改善すべき、というニュアンスが強かった。それもこれも、気候変動問題が、MDGsには明示的に含まれていなかったことが大きい。勿論、環境の持続可能性の確保という項目は入っているので、ここにも当然のことながら、気候変動問題も含まれていたのだけれど、MDGsの段階では、むしろ、生物多様性条約の方が中心的課題だと考えらえていたように思う。

A君:野生動物の国際取引に関するワシントン条約とか、湿地の保全に関するラムサール条約などの個別的な国際的枠組みだけでは不十分生物多様性条約が1992年に採択されて、その後、2011年には名古屋議定書が採択されました。

B君:MDGsという枠組みは、どのぐらい有効だったのか、ということになると、これは、中国・インドの経済成長が著しかったもので、かなりの項目で進化が見られたという評価になっていると思う。国連の功績は、MDGsなる枠組みを作ったことが主なものだった。

A君:MDGsのときには、日本国内での問題意識はほとんどゼロに近かったと思いますね。3の「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」、7.「環境の持続可能性の確保」ぐらいが国内の課題だったのですが、いずれもかなり抽象的。8.「開発のためのグローバル・パートナーシップの推進」となると、これはさらに抽象的でしたから。

B君:さらに言えば、京都議定書なる気候変動対応の国際的枠組みがあったが、まだ、各国がその重要性を十二分に認識しているという状況ではなかった。日本の場合には、温室効果ガスの排出量の削減ができなかったもので、海外から排出権を買うということでなんとか誤魔化したのが実情。

C先生:まあそんな状況でSDGsの時代になるのだけれど、それが2015年9月。そして、2015年の暮れにはパリ協定が合意される。しかし、日本でパリ協定が非常に大きな将来的課題になるという意識も不十分だったし、SDGsに関しては、省庁から出される文書にしても、余り本質的な議論が含まれていない感触で、「まあ適当に取り組んだら良いだろう。日本政府としては、取り組んだ企業の数ぐらいでしか評価されないから、まあよろしく」。こんな感じ。

A君:これが全く不思議なところなのですが、例えば、SDGsの17のゴールの日本語版としてIGESが訳したものが公開されたのですが、明らかな誤訳があっても平然と放置される。

B君:大体、国連文書などは、途上国の官僚でも理解できるように、極めて易しい英語で書かれている。国連文書の場合でも、英語が正文である、と日本政府が宣言すればそれで良いのだけれど。二ヶ国間の交渉の合意文書では、正文は英語である場合が多いのだから。

A君:国連の正式文書は、英語、フランス語が作業言語、他の公用語として、スペイン語、アラビア語、ロシア語、中国語。

B君:日本語は国連公用語ではない。これは、日本語を正式原語とする国は日本しかないからで人口数が少なすぎる。しかし、国連文書の英語は、すごく分かりやすい表現で書かれている。それも、途上国の担当者でも十二分に分かるようにという配慮があるからだと思う。

A君:日本語を母語あるいは第二言語とする人数は、たった1.31億人で、第15位の言語。これも、日本列島がいかに孤島であるかを示しているようです。

C先生:そろそろ、背景はお分かりいただけたと思うので、本題に入ろう。

A君:まずは、SDGsの正式名称から。これは、国連のSDGsの公式文書を見るのが、もっとも正統的なアプローチ。
https://www.mmv.org/sites/default/files/uploads/docs/publications/2030_Agenda_Sustainable_Development.pdf

B君:その題名が、"Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development"

A君:そして、公式文書の常として、序文=Preambleから始まります。

B君:目次的に書けば、こんな感じ。

Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development

 Preamble
  People
  Planet
  Prosperity
  Peace
  Partnership

 そして、これらが、5Ps(5つのP)。

A君:それでは、繰り返しになりますが、上記の今回の改定後の実施指針では、優先課題として、8項目が次のように示されています。
『People 人間』
(1)あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダーの平等の実現
(2)健康・長寿の達成
『Prosperity 業務』
(3)成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
(4)持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備
『Planet 地球』
(5)省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
(6)生物多様性・森林・海洋等の環境の保全
『Peace 平和』
(7)平和と安全・安心社会の実現
(8)SDGs実施推進の体制と手段


 そして、残念ながら最後のPartnershipが抜け落ちています。

B君:まず、最初に説明すべきことが、People、Prosperity、Planet、Peace、 Partnershipが何かということ。

A君:実は、これらは5Ps(Five "P"s)と公式文書で書かれていることです。SDGsの目標を達成するには、「5つのP」から始まる項目を対象として主として取り組むことがより効果的な取り組みだと考えられるのです。

B君:「より効果的」だと推奨という感触なのだけれど、5つのPを改善するという意図をもって、SDGsを実施せよという国連合意文書の意志のように思える。
 このようなことが、国連の合意文書の中身だったのだけれど、これまでSDGs推進本部は、この5Pを全く無視してきた。

A君:まだ無視していることがあって、それは、国連文書では、「5Pを実現することによって、最終的にTransforming our worldを実現することがSDGsの本当の狙いである」ということになっているのだけれど、日本政府としては、現時点の世界そして日本がもっとも優れた状況にあると認識しているためだろうか、Transforming our worldは外してしまったということなのでしょうね。

B君:Transforming Our Worldの本当のニュアンスは、より良い世界にしたい、程度の記述だし、本来の対象としては、主体が国連であることもあって、途上国の状況の改善に主眼があって、すべての国の現在の政治体制を変えろということである訳はない。それぞれの国が、それぞれの主権に応じて、独自の方針で改善すればよい。

A君:まあ、要するに、ここにも日本政府の現政権に対する過剰反応が見ることができるということでしょう。

B君:企業がSDGsに取り組む場合であれば、やはり、Partnershipを含めた5Pをどのように形態にすることを目的とし、それをより効果的に実現するかに取り組むことが求められる。Partnershipは、というよりも5Psはその全部が実は手段あるいは中間的な目的として考慮すべき対象のリストであって、最終目的ではないという表現がもっとも正しい解釈。

A君:そのあたり、様々な解釈があり得ると思います。Peopleであれば、個々の個人がやりがいを感じる社会にするとか、個人の人権が十分以上に守られるとか、色々なことがあり得ると思います。

B君:Planetは、当面の目的そのもので、地球温暖化によって、大陸レベルでの森林の火災による消失が起きたり、台風などが強大になりすぎている現実にも対処する。これで近未来の悲劇的状況を回避することは必須。勿論、地球の重要な役割である食料生産の基本的条件を満たしながら、それぞれの地域で最適の形態を守るとか、地球の資源の活用を世界レベルで最適化するといったことも極めて重要。

A君:Prosperityは、経済力に限る訳ではなく、精神的に豊かさが感じられるということがもっとも重要な条件ではないですか。

B君:米国の大統領選挙の状況を見ていると、やはりあの国でも、Prosperityが重要。やはり、ある階層に偏り過ぎていると思う。すなわち、富裕層優遇的政策が若者達の政府に対する反発の根源となる経済的な余裕の無さの原因だと思う。18歳から29歳の58%がサンダース候補を支持。

A君:米国の大学の授業料は非常に高くて、多くの学生が学費を借金して大学に通うのが実体に近いようです。

B君:サンダース候補は、そのような借金を帳消しにするようなことを言っている。全米での学生ローンの総額は165兆円らしい。

A君:当然、それに対しては、共和党系の市民は大反発するに決まっているので、サンダース氏が民主党の候補になったら、トランプ大統領がさらに4年間政権を担当することが確実になる。そうなると、地球の未来が暗くなる。

C先生:個人的には、3月3日から参戦するマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長に期待している。気候変動対策にも大変に熱心な人なので、がその理由。資金力では、ずばぬけている候補者なので、結構良いところまで行けるのではないか。

A君:5Pの最後の項目であるPartnershipの説明に移りますか。残念ながら、2019年12月版の日本政府の改定後の実施指針からは抜け落ちた言葉が、このPartnershipなのですが、企業とか個人が、それぞれの得意分野を生かしてより効率的な実施を行うことを望む、ぐらいの言葉があれば良かったのに、と思いますね。

B君:悪口になるけれど、日本政府のSDGsに対する態度としては、「できるだけ参加企業が増えて、日本では、これだけの企業が主体的に取り組んでいますよ」と自慢できることが重要なのでは。

A君:いくつかの企業がチームを組んで実施したら、それが1件としてカウントされてしまう可能性があって、それが嫌だったということですか。

B君:主体の数え方など、各国が独自に決めればよいだけで、それに文句を言うような国連なのだろうか。

A君:確かに大いなる疑問だけれど、実は、Partnershipが5Psの構成要素であることをうっかり忘れたというのが、より実態に近いような気がしますね。

B君:まあ、SDGsなどは、政府の仕事としては半端なものなのだろうから、それがもっともあり得る解釈かもしれない。そんなミスをしても、誰も指摘できない程度の担当グループだった。

A君:「官僚は、ある程度以上の英語力がある」のが常識だったのだけれど、このところ、怪しいのかもしれません。

C先生:そろそろ話題も尽きた感じだな。SDGsは、このところ多くの企業が取り組んで、例のバッジを着けている人がかなり多くなった。しかし、バッジを着けている人の何%がSDGsの国連の合意文書を読んだのだろうか。恐らく、0.5%もあれば、良いところだろう。
 やはり、日本社会は面白いところだと思う。あのバッジが日本におけるpartnershipの象徴になっているのかもしれない。他国であれば、様々な異なる特性の人々とSDGsの本当の在り方を語るといったことがpartnershipの最重要項目になるのだと思うのだけれど、そのような議論ができるところまで成熟しないで、日本では、形が最大の重要事項になる。やはり、各企業にとっては、なんとか「形を作る」ことが最優先項目。実質的かつ有意な変化を求めてはいけない。それを報告して貰った日本政府は数に直してそれで満足している。やはり、面白い社会だと思う。