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      水素ステーションの優劣  12.06.2014

               それが水素燃料自動車の環境負荷を決める




 トヨタが12月15日に発売を開始する世界最初の水素燃料電池車MIRAIは、究極のエコカーと呼ばれています。

 しかし、良さそうな評価が出てくると、逆張りをするジャーナリストが出て来ます。

 ジャーナリスト 新田賢吾という人が書いた記事が、新潮社フォーサイトに出たようで、YahooニュースなどがWebで引用しています。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141128-00010000-fsight-bus_all
 その題名は、「燃料電池車は”ガラカー”になる:これだけの理由」です。ところが、まだまだ勉強が足らないのでしょう、重要な事実の見落しが余りにも多くて、これでは、誤った情報を振りまいているようなものです。

 正しい指摘もあって、確かに水素燃料電池車の環境性能は、水素次第です。すなわち、水素をどのような方法で作るかによって、決まってしまいます。ということは、水素を補給する水素ステーションを上手に選択し、どのような水素であるかを見極めないと、普通のガソリン車よりもCO排出量の多い水素を買う羽目に陥るでしょう。

 といっても、その車の排気ガス中にCOが出てくる訳ではないのです。だから、却って厄介なのです。水素を作り、供給する過程で、間接的に出るCOの量が非常に多い場合があり得るということを理解する必要があります。

 というのも、水素は、地球を掘っても出てくる訳ではないので、実に様々な方法で作る以外にないからです。一次エネルギーではない、という言葉で表現できることです。

 水素が何を原料にして作られ、どのようなエネルギーを用いて様々なプロセスが行われているか、それを理解することが、水素燃料電池車を理解することと同義だということになります。

 という訳で、水素には、カーボンフットプリント(商品の一生で排出されるCO量を表示する仕組み)が初めて役に立つのではないか。したがって、カーボンフットプリント表示の強制化を、是非とも制度化して欲しい、と個人的に思っています。



C先生:という訳で、今回は、水素ステーションというものの環境負荷、もっと正確に表現すると、水素ステーションで売られる水素の環境負荷がどのようにして決まるか、をできるだけ簡単に記述してみよう。

A君:分かりました。結構な難題ですね。余りにも多種多様な方法を用いて水素を作ることができますから、やはり、選択肢を若干制限しないと、すべてを記述するのは、無理のような気がします。

B君:どこから始めるか。方法として、2つある。いきなり、フローチャートのようなものを出して、それを説明するというトップダウン的方法。水素とは何か、といったことから順番にやるボトムアップ的方法。さて、どうする。

A君:フローチャートから行きましょう。ちょっと作ってみました。かなり簡略化したものになっています。水素の原料用の化石燃料としては、天然ガスを使う場合に限定。オンサイトの電力、すなわち、水素ステーションが持っているメガソーラーとか風力の電力を使う場合。一方、オフサイトの電力は、通常の商用電力ですが、これもいろいろとあり得ます。例えば、石炭火力で作られた電力に限定する場合とか。まだ、様々な工業用プロセスでできる副生水素を使う場合もあります。といったところに限定しました。

B君:番号を入れられないか。

A君:う! 入れましょう。ちょっと待って下さい。

A君:できました。番号ではなく、文字になりました。色分けもしましたが、説明は不要だと思います


図1 水素供給のフローチャート

B君:予備知識が必要だと思うので、いくつかの項目の説明をするか。

A君:逆向きの方が分かりやすいので、アルファベットに逆らって右から。まずは、燃料電池車FCV本体から行きますか。燃料電池は発電機です。水素が燃料です。水素は余りにも軽いので、700気圧程度に圧縮されて、タンクに入れます。そのため、水素ステーションでも、高圧状態(G)で貯蔵されています。高圧にするには、圧縮機の運転(F)が必要ですが、そのためには、電力が必要です。

B君:燃料電池車に使われる水素は、かなり純度が高いものが必要。そのため、プレッシャースウィングという方法で、精製されるのが普通(D)(K)。ただし、水の電気分解(O)で作った水素は、最初から高純度なので、精製は不要。

A君:水の電気分解には、当然電力が必要ですが、この電力として何を使うか、それが大変に重要な問題。CO発生量が少ない電力を使わないと、水素の折角の特性である「水しか排出しない」ということが無意味になります。なぜなら、水素を作るときに大量のCOを出していても、最終的には、燃料電池車がそのCOを出したことにするのがルールです。オンサイト電力(R)とは、水素ステーションが持っている発電装置を使うことを意味していて、オンサイト電力が太陽光発電とか風力発電で作られていれば、CO発生量は無視できますので、環境負荷的には最善の水素ができます。

B君:しかし、オフサイト電力(Q)とは、電力会社などから電力を買うことになる。そのときに、石炭発電で作った電力を買うと、そのCO排出量は相当に多いので、結果的に、燃料電池車が大量のCOを排出するという評価になって、なにも威張れないという状態になる。

A君:水の電気分解だけでなく、都市ガスが来ている場所であれば、都市ガスを水素ステーションで改質(C)して、水素を得るという方法論も可能です。ただし、この場合には、精製(D)をして、高純度水素を作る必要があります。その都市ガス(B)は、現時点では、天然ガス(A)から作られているものが多いです。

B君:さて、水素ステーションで水素を作るのではなくて、水素を外で作って、受け入れるという方法(N)がある。そのとき、水素は余りにも軽くて、ということは、体積が莫大なので輸送(M)をするのが大変。そのため、液体水素の形にする場合がある。そのために高圧にして液化(L)というプロセスを行う。

A君:天然ガスを改質(H)て作ったものも精製(K)されて、高純度水素になります。

B君:水素をわざわざ作らなくても、様々な化学プロセスの中で、副生する水素(J)がある。この水素もやはり精製(K)を必要とする。

A君:これらの(H)から(I)までのプロセスには、様々な電力(P)が使われています。例えば、自家発電をした電力、電力会社から購入した電力などなどです。この発電の際にやはりCOが排出されますから、この電力を何から得るかが一つ重要なファクターだということになります。

B君:勿論、ここで示したプロセスがすべてではない。オンサイトで水素を作る水素ステーションの場合には、都市ガスを改質するだけではない。場合によっては、灯油を改質するといった場合だって無いとは言えない。

A君:現時点では実施されていないと思いますが、バイオマスを改質して水素を得るということだって、不可能ではない。そして、電力にも自然エネルギーからのものだけを使えば、CO2排出量ゼロの水素も作ることができます。

B君:排出量がマイナス、ネガティブエミッションと言うが、そんな水素すら作ることができる。バイオマスから水素を得る。そして、炭素分は、なんらかの方法で地下に貯蔵するという方法だ。

C先生:実体はさらに複雑だ。当然ながら、すべての方法をカバーするのは不可能だ。しかし、このフローチャートが理解できれば、新しいことであっても、若干の記述があれば、その内容が分かるはずだ。

A君:それでは、あるプロセスとあるエネルギーで水素が作られたとして、その水素を使って水素燃料電池車が走ったとき、どのぐらいのCOを排出したことになるか。これを検討してみましょう。

B君:それには、この報告書が有効だ。「総合効率とGHG排出の分析」 平成23年3月、総合効率検討作業部会、財団法人日本自動車研究所。

A君:この報告書は、様々な条件で作られる水素の製造時におけるCOを、製造条件を幅広に変えて、非常に包括的に検討しています。水素製造のすべてを語っている報告書だと言えるでしょう。

B君:目次を見てみると、3.のWell to Tankから解析が始まる。このWellとは井戸のことで、油井を意味する。しかし、油井だけでなく、石炭の鉱山なども含む概念だ。要するに、化石燃料の採掘段階から考えているという意味だ。

A君:Tankは、水素タンクです。Well to Tankですから、化石燃料の採掘段階から、水素が水素タンクに収まるまでという意味です。

B君:水素の直接的な原料になるものだけでなく、プロセスに使われる電力などのエネルギー源についても、採掘段階まで戻って解析が行われている。火力発電所からの電気の場合には、発電効率が重要な要素だ。

A君:バイオマスの場合には、土地利用の変化をどうあつかったか、といった記述まであります。例えば、ブラジルで作られるサトウキビ由来のバイオエタノールの環境負荷を考慮するときには、もし、森林であった土地を開墾してサトウキビを栽培している場合には、242g-CO2/MJという排出量を計算に加えているという細かいことをやっています。

B君:Tankまでを解析しているので、水素ガスを700気圧以上まで圧縮するのに必要なエネルギーも勿論解析の中に入っている。どうやら、その圧力は80MPaらしい。そして、効率は0.914という数値になっているけれど、圧縮するために水素の低位発熱量の0.086倍が使われるということ。実際には電力を使って圧縮をするので、もしも発電効率が40%の電力を使っていたら、2.5倍しなければならないので、実質的には、効率は0.785倍になってしまう。ということは、600km走る水素燃料電池車の満タン分の水素を高圧に圧縮するエネルギーは、その約2割、すなわち120km程度走行分に相当するということを意味する。

A君:このあたり、かなり複雑なので、キチンと理解するには、それなりの経験が必要ですね。

B君:そして、この報告書の最終的な結果は、Well to Wheelと呼ばれる。Wheelは当然、自動車の車輪を意味する。すなわち、車輪を駆動する段階=走行段階までを意味している。ある水素を使って水素燃料電池車を走らせたとき、何グラムのCOが出るか、という数値で示す。走行モードはJC08という燃費測定の基準となっているもの。

A君:実際には、JC08の燃費を実現することは不可能なので、これよりも多いCOを出すのですが、他の車でも似たようなものなので、まあ良いのでしょう。

B君:その結果が、次の図。かなり細かい。左にどのようなエネルギーを使うか、上から、ガソリン車、ディーゼル車、都市ガス車、電気自動車、そして、オンサイト改質をした水素を使う水素燃料電池車、オフサイト改質をした水素を使う水素燃料電池車、水電解して得た水素を使う水素燃料電池車。


図2 「総合効率とGHG排出の分析」 平成23年3月、総合効率検討作業部会、財団法人日本自動車研究所より


A君:最初に示したフローチャートを見ていただければ、どうやて水素を作ったか、若干分かるのではと期待します。

B君:そして、結果が真ん中と右のグラフだ。

A君:真ん中のグラフが、1km走行あたりのエネルギー投入量。右側のグラフが、1km走行時に排出されるCOの重量(グラム)。

B君:余りにも複雑なので、いくつかを抽出して、簡単な図を作ろう。


図3 いくつかのケースを抽出した図

A君:これからみて分かることは、オフサイトで水素を作って、液体水素にして運搬すると、通常のハイブリッド車の環境性能に負ける

B君:データがこの報告書には無いのだけれど、自然エネルギーで電力を作り、オンサイトで水の電解を行って水素を作り、その電力で圧縮して高圧水素にすれば、実質上、CO排出がゼロの水素も作ることができる。

A君:これがFCVの本当の意味での存在価値ですね。将来、自然エネルギーで水素が作られるような社会になれば、CO排出量がほとんどゼロ。

B君:ということから、水素ステーションで販売する水素には、カーボンフットプリントの算出と表示を義務化しないと、水素燃料電池車の環境優位性が全く活かされないことになりかねない。

A君:カーボンフットプリントとは、ある製品の一生で排出するCOの量を意味する言葉です。水素の場合には、原料採掘から水素が水素燃料電池車のタンクに収まるまでですか。

B君:最後になるが、副生水素を使う場合にはどうなるか。次の図で示そう。


図4 副生水素の場合 図3と同じ出典

A君:コークス炉ガスの場合と、ソーダ工業で発生する電解水素のケースが出ています。結果には大きな差はないです。両方とも副生水素なので、水素ステーションまで運搬しなければならない。そのため、液体水素にしたら、平均的に100g-CO2/kmになって、やはり普通のハイブリッド車の環境性能にかなわない

B君:データは不要だと思うけれど、オンサイトで家畜糞尿や下水汚泥からメタンを発生させてそれを水素に転換するという方法も大体30g-CO2/kmといった数値になって、かなり良い。

A君:これは、地域での水素を活用せよということになります。水素燃料電池車も、電気自動車も同様ではあるのですが、地域のエネルギーで走るということが可能ですね。

B君:地域でのエネルギー自給ができれば、それは、地域経済の活性化の一つの方法にもなる。

A君:ぞれぞれの地域で最適の水素という考え方が成立するかもしれません。

B君:それは重要な特性かもしれない。では、最後の最後に、最悪のケースを。

A君:最悪は、石炭火力発電の電力を用いて、水を電気分解したケース。これはコストが最も安いかもしれないので、そんな水素が出てくる可能性も無いとは言えない。ところが、その場合のCO排出量は、254g-CO2/km。これは、普通のガソリン車の1.7倍ぐらいの排出量になってしまうのです。

C先生:まあ、これで結論が出たようだ。
 水素の選択が水素燃料電池車の環境性能を決める。すなわち、これまでのように、車の選択が環境性能を決めるのではないのだ。どの水素ステーションで水素を入れるかが、水素燃料電池車の環境性能を決めてしまうのだ。ということは、どのような水素なのか。その指標は、カーボンフットプリントと言えるg-CO2/kmで良いのだけれど、それをどこからでも分かるように、公表しないと全く無意味になってしまう。
 ということは、「水素ステーションは、カーボンフットプリントを公開すること」という制度を是非とも作る必要がある。そうしないと、水素燃料電池車がなんなんだ、ということになってしまう。それには、水素ステーションというものが、水素燃料電池車の環境性能を決める最大の要素だということを、すべての人々に知ってもらう以外にないだろう。