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  人間開発と「環境エネルギー」その1 04.25.2004



 オランダ、ボンから帰国早々の24日、土曜日であったにも関わらず、国連大学にて「環境とエネルギー」なるシンポジウムがあり、40分間の講演をした。

 エネルギーの話は、人間の生存の基本の一つであり、一方、エネルギーの供給には限界があり、なおかつ、エネルギー放出に付随する二酸化炭素発生は、温暖化を招く原因の一つ。すなわち、環境問題の基本的な形態である、人間活動と地球限界のせめぎ合いの典型。

 すなわち、エネルギー問題は、この地球上で人間がどのように生き、かつ、発展するか、という問題なのだが、経済的な発展だけではない人類の発展は、国連の枠組みの中では、「人間開発」の問題として語られる。

 今回は、まず「人間開発」とは何か。


C先生:国連の枠組みをまだまだ学習中。今回は、その一つ、Human Development(人間開発)なる言葉と絡めて、環境とエネルギー問題を少々語ってみよう。今回は、「人間開発」について。

A君:日本の環境問題を語るもっとも重要なキーワードが、「持続可能な生産と消費」であって、「持続型開発」ではないのですが、世界全体を語るとなると、やはり「開発」が付随したキーワードになる。

B君:「開発」ということになると、世界全体の自然が失われて、人工的な構造物が建設されてしまう、といった感覚なんだけど。

A君:国連型の使用法での「開発」は、必ずしもそうばかりではないようで。特に「人間開発」ということになると。

C先生:そもそも「持続型開発」とは何か、ということになると様々な議論がある。なにも無条件に経済だけを発展させよう、ということではない。要するに、人間としての最終目的は、決して経済的に成功することだけではない。

A君:国連関係だと「ミレニアム開発目標」というものがあるようですね。すなわち、Millenium Development Goals。

C先生:日本事務所が国連大学ビルの8階にUNDP日本支部がある。そのHPを見ると、そこに、説明がある。
 http://www.undp.or.jp/


ミレニアム開発目標(MDGs)

2000年9月ニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットでの公約を達成するため、8つの目標、18のターゲット、48の指標からなるミレニアム開発目標(MDGs)がロードマップ(行程表)としてまとめられた。
●達成期限: 2015年
●参加者:開発途上国の政府、先進国の政府、国際機関、市民団体、民間企業、学界、そして地球上に住む私たちすべて
●8つの目標と18のターゲット
目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
 ターゲット1 2015年までに1日1ドル未満で生活する人口比率を半減させる。
 ターゲット2 2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる。
目標2:普遍的初等教育の達成
 ターゲット3 2015年までに、すべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする。
目標3:ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
 ターゲット4 初等・中等教育における男女格差の解消を2005年までには達成し、2015年までにすべての教育レベルにおける男女格差を解消する。
目標4:幼児死亡率の削減
 ターゲット5 2015年までに5歳未満児の死亡率を3分の2減少させる。
目標5:妊産婦の健康の改善
 ターゲット6 2015年までに妊産婦の死亡率を4分の3減少させる。
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
 ターゲット7 HIV/エイズの蔓延を2015年までに阻止し、その後減少させる。
 ターゲット8 マラリアおよびその他の主要な疾病の発生を2015年までに阻止し、その後発生率を下げる。
目標7:環境の持続可能性の確保
 ターゲット9 持続可能な開発の原則を各国の政策や戦略に反映させ、環境資源の喪失を阻止し、回復を図る。
 ターゲット10 2015年までに、安全な飲料水を継続的に利用できない人々の割合を半減する。
 ターゲット11 2020年までに、最低1億人のスラム居住者の生活を大幅に改善する。
目標8:開発のためのグローバル・パートナーシップの推進
 ターゲット12 開放的で、ルールに基づいた、予測可能でかつ差別のない貿易および金融システムのさらなる構築を推進する。(グッド・ガバナンス《良い統治》、開発および貧困削減に対する国内および国際的な公約を含む。)
 ターゲット13 最貧国の特別なニーズに取り組む。((1)最貧国からの輸入品に対する無関税・無枠、(2)重債務貧困諸国に対する債務救済および二国間債務の帳消しのための拡大プログラム、(3)貧困削減に取り組む諸国に対するより寛大なODAの提供を含む)
 ターゲット14 内陸国および小島嶼開発途上国の特別なニーズに取り組む。(バルバトス・プログラムおよび第22回国連総会の規定に基づき)
 ターゲット15 国内および国際的措置を通じて、開発途上国の債務問題に包括的に取り組み、債務を長期的に持続可能なものとする。
 ターゲット16 開発途上国と協力し、適切で生産性のある仕事を若者に提供するための戦略を策定・実施する。
 ターゲット17 製薬会社と協力し、開発途上国において、人々が安価で必須医薬品を入手・利用できるようにする。
 ターゲット18 民間セクターと協力し、特に情報・通信分野の新技術による利益が得られるようにする。


A君:経済的なことも重要ではあるけど、それ以外にも、教育、平等・公平な社会、死亡率の低下、重大な病気の克服、などがあって、それらを総合した目標として、貧困の克服がある。

B君:貧困の克服のためには、上のターゲット13〜16で述べられているような援助も重要だが、12にちょっとだけ書かれているような良い統治、具体的には、努力をすると報われる社会の実現が重要。やはりコツコツと努力すれば報われ、何かずるいことをして儲けても報われないという社会が必須なんだ。同時に、コツコツと努力しても、暴力的に富が失われてはどうしようもない。

C先生:ターゲットに対して、やはりもっと具体的なことを明確な指標として達成されたかどうかを判定することが必要。このような指標を普通の社会ではIndexということが多いが、国連関係では、指標はIndicatorと呼び、指数をIndexと呼ぶことが普通のようだ。

A君:こんなページがあって、ミレニアム開発目標については、48個の指標があり、それぞれについてどんな状態であるか、リンクが張られていますね。http://millenniumindicators.un.org/unsd/mi/mi_goals.asp

B君:48個の指標を一応リストアップしておくか。

1.1日1ドル未満で生活する人口の割合
2.貧困格差の比率(発生頻度×貧困度)
3.国内消費全体におけるもっとも貧しい下位1/5の人口の割合
4.5歳未満の低体重児の割合
5.栄養摂取量が必要最低限のレベル未満の人口の割合
6.初等教育の就学率
7.1年生から5年生までの課程を修了する児童の割合
8.15〜24歳の識字率
9.初等・中等・高等教育における男子生徒に対する女子生徒の比率
10.15〜24歳の男性識字率に対する女性識字率
11.非農業部門における女性賃金労働者の割合
12.国会における女性議員の割合
13.5歳未満児の死亡率
14.乳幼児死亡率
15.はしかの予防接種を受けた1歳児の割合
16.妊産婦死亡率
17.医療従事者の立ち会いによる出産の割合
18.15〜24歳の妊婦のHIV感染率
19.避妊具普及率
20.HIV/エイズにより孤児となった子供の数
21.マラリア感染率およびマラリアによる死亡率
22.マラリアに感染しやすい地域において、有効なマラリア予防および治療処置を受けている人々の割合
23.結核の感染率および結核による死亡率
24.結核と診断された患者のうち、完治された結核患者の割合
25.国土面積に対する森林面積の割合
26.生物多様性の維持を目的とした保護区域の面積
27.エネルギー消費量一人当たりのGDP
28.二酸化炭素排出量(一人当たり)
29.浄化された水源を持続して利用できる人口の割合
30.適切な衛生施設を利用できる人々の割合
31.安定した職に就いている人々の割合
32.DACドナー諸国のODA純額の対GNI比
33.基礎的社会サービスに対するODAの割合(基礎教育、基礎医療、栄養、安全な飲料水および公衆衛生)
34.アンタイド化されたODAの割合
35.小島嶼開発途上国における環境に対するODAの割合
36.内陸国における運輸部門に対するODAの割合
37.無税・無枠の輸出割合
38.農産物、繊維および衣料品に対する平均関税および数量割り当て
39.OECD諸国における国内農業補助金および輸出農業補助金額
40.貿易力育成支援のためのODAの割合
41.重債務貧困諸国において帳消しにされた公的二国間債務の割合
42.商品およびサービスの輸出額に対する債務返済額の割合
43.債務救済として供与されたODAの割合
44.重債務貧困諸国の決定時点および完了時点に到達した国数
45.15〜24歳の失業率
46.安価で必須医薬品を継続的に入手できる人々の割合
47.1000人当たりの電話回線数
48.1000人当たりのパソコン数

A君:随分と複雑ですね。

C先生:これらの指標を全部満足しないと、先進国とは言えないのだから、先進国になるということは、結構大変なことなんだ。ただ、UNDPの「人間開発指数」なるものは、もっと簡単。

A君:人間活動に関する開発指数のもっとも中心になるのが、その人間開発指数HDI=Human Development Index(indicatorではない)は、3種類の価値観の指標化ですね。対象は、(1)長寿で健康な生活、(2)知識、(3)人間らしい生活水準。
 (1)は、出生時の平均余命を平均寿命指数に変換。(2)は、成人識字率と総就学率を使って教育指数へ変換。(3)は、一人あたりのGDP(平均購買力PPP)をGDP指数に変換。そして、この3種の指数を統合指標である人間開発指数に変換しています。

B君:このあたりの方法論は、ライフサイクルアセスメントの統合化とまあ似たようなところがある。

A君:HDIの指数化のプロセスは簡単ですね。まず、それぞれについて、ゴールポストというものを決めるのです。

(1)平均余命の場合なら、ゴールポストは最大85、最小25です。そして、例えば73.4の国があったとしたら、

Life expectancy index=(73.4−25)/(85−25)=0.807

(2)成人識字率、総就学率のゴールポストは、最大100、最小0。だから、成人識字率が85.3の国があれば、

Adult literacy index=(85.3−0)/(100−0)=0.853

総就学率が69だとしたら同様に

Gross enrolement index=0.690

この2種類の数値を2:1に重み付けをして、

Education index=(2/3)×0.853+(1/3)×0.690=0.798

(3)GDP(PPP)の指数化のためのゴールポストは、最大、最小が、それぞれ$40000と$100。ただ、GDPは余りにも数値にバラツキがあるので、対数を使用する。ちなみにPPPとはPurchase Power Parityの略。購買力換算後のGDP。

今、GDP(PPP)が$3680の国があったとすると、

GDP index={log(3680)-log(100)}/{log(40000)-log(100)}=0.602

そして、最終的には、以上3種類のindexを平均して、HDIが算出される。

HDI=(1/3)×(Life expectancy index + Education idex + GDP idex)


B君:比較的単純だ。ちょっと興味が沸いてきたが、UNDPのHDIのランクで日本は何位なんだろう。

A君:UNDPのHPから、報告書をダウンロードできますよ。
http://hdr.undp.org/reports/global/2003/
しかも、数値データだけもダウンロードが可能。
http://hdr.undp.org/reports/global/2003/indicator/index.html

B君:なるほど、1位がノルウェー、以下、アイスランド、スウェーデン、オーストラリア、ベルギー、米国、カナダ9位日本スイス、デンマーク、アイルランド、英国、フィンランド、ルクセンブルグ、オーストリア、フランス、ドイツ、スペイン、ニュージーランド、イタリア。

20位までの表を見たい場合には、ここをクリック。ただし、かなり大型の表。ファイルサイズは19kB。

A君:日本の9位ですが、なんと教育指数が低くて、9位なんですね。20位までの国では、イタリアを除くと、他の国はすべて日本より上。すなわち、19番目/20カ国。寿命では、日本がダントツトップ。GDPは、20カ国中では、14番目。

B君:日本の常識では、日本の教育レベルは高いと思われているが、必ずしもそうではないということか。

C先生:どうもそのようだ。ただし、教育内容を比べているようなものではなく、進学率だけからの指数なのだ。0.94という数値は、同様のレベルの国(0.93〜0.95)が、ベラルーシ、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ハンガリー、ウルグアイ、アルゼンチン、スロベニア、イスラエル、イタリアなどで、バルバドス(0.96)、韓国(0.96)、ポルトガル(0.97)などに負けている。ちなみに、スウェーデン、ノルウェーなどは、0.99。

A君:もしも、教育指数が0.97になれば、HDI全体ランキングで2位になれる。0.99になれば、1位になれる。

B君:さらなる人間的発展を果たすには、経済的な発展の追求よりも教育をもう一度見直すことが、やはり必要なのではないだろうか。

C先生:教育指数を見ると、識字率はほぼ完全。しかし、初等中等高等教育への入学率が低いのが日本の実情。83%にすぎないのだ。英国ではなんと112と100%を越しているが、2種類の高校に行く人がいるということだろうか。

A君:OECD諸国の中では、英国の科学に対する理解率が高いのですが、この数値はそういうことを意味するのでしょうか。

B君:いずれにしても、現状の日本の人間開発に関する問題点が教育にあるということを再認識すべきだ。

A君:知識があることを幸せだと思えるような教育ですかね。進学競争のための知識獲得でない教育とも言えますが。

B君:それよりも、日本の状況をそれなりに幸せだと感じるための教育かもしれない。

C先生:UNDPの人間開発報告書は、国というものの発展を議論するために有効だと言えるだろう。経済的発展だけではなく、別の指標で豊かさを表現するようにならないと、地球環境問題、特に、次世代との調停を必要とする資源・エネルギー分配に関する議論をするときには、是非ともこのような観点が必要だ。

 次回に、環境とエネルギーと開発の話を。