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  人間開発と「環境とエネルギー」その2 05.02.2004



 前回、UNDP流の人間開発の説明をし、開発というものが必ずしも経済的な発展のみを意味するものではなく、「健全な寿命、広範な知識」の獲得、が大きな目的で、それを可能にする経済的な基盤が必要という文脈。

 今回は、それがどのようにして実現できるのか、主としてエネルギーとの関連性で見たい。


C先生:本日使用するデータは、やはりUNDP人間開発報告書HDRのもの。

A君:極めて単純な仮定を採用するのでしょうね。開発の段階ですが、経済活動が盛んになる 〜 教育程度が向上し有効な投資が正しく判定 〜 水道などの基盤整備への投資が行われる 〜 衛生状態・栄養状態が向上 〜 寿命が延びる 〜 環境への配慮を行う教育が普及 

B君:実際には、一次元的に進歩が行われる訳ではなく、フィードバックが行われて、全体としてより適切な進歩が行われる。

A君:しかし、開発というものには、色々な考え方があって、一般的な開発段階として、次のようなものを考えるのが、これまでは普通だったのでは。

 野性→狩猟生活→遊牧生活→移動型農業→定住型農業→商業型農業→工業化

B君:生産を中心にした開発ならこれになるだろう。最初の段階は、農業への移行であることは事実。

A君:まず、経済活動が盛んになるということは何なのか。これから考えることは、やはり定住型農業以降の話なのかもしれません。いずれにしても問題は多々ありますが、開発ためには、エネルギーと資源の消費が必須。資源側はいろいろありすぎて、議論が難しいので、エネルギーと経済の関係だけ、まず調査しましょう。

B君:HDRにも出ている。データを図にすればよい。

A君:HDRが元だとすると、GDPは当然購買力へ換算されていることになりますね。いわゆるPPP(Purchase Power Parity)。縦軸がエネルギーを石油換算したもので、単位はkg/人。勿論、両軸とも/年、ということで。

B君:その通り。

A君:この図をみて、実にばらばらだと言うことしか分からないですね。

B君:まあそうとも言えるが、いくつかのタイプ分けが可能ではある。どう分けるか。

A君:産油国型、大国型、北欧先進国型、アジア先進小国型、香港型、温暖小国型ぐらいでしょうか。

B君:それをどう描く? 曲線で描くか、それとも直線で描くか。

A君:直線で描いてもなんとなくピンと来ないので、飽和型の曲線で描いてみましたが。まあ、こんな感じでもいけそうな。図1。


図1 GDPとエネルギー消費量の関係。飽和曲線風。

B君:クズネッツ型で描くとどうなる。


図2:エネルギー消費量とGDPの関係 クズネッツ曲線調

A君:こんな図2になりますが、まあ、これは非現実的ですね。例えば、日本もアメリカもこれからGDPを拡大しようとすると、エネルギー消費が低下することになっていますから。

C先生:まあ、図1の飽和型タイプで議論することにしよう。ルクセンブルグとアイスランドが例外的に突出しているが、それを除けば、今後の発展の方向は分からないということにしておこう。

A君:勿論、図2のクズネッツタイプをもっと極端に減らしたタイプが究極の目的なんですが、それが共通理解になっている訳ではないのが問題。

B君:いわゆる公害関係のクズネッツカーブが理想なんだが、エネルギー消費に関しては、どのような曲線になるか合意は無い。

A君:曲線の引き方で様々な異なった結論が導けるようですが、もしも図1、図2のタイプの線の引き方だと、GDP/人が1万ドルに到達するとそれから先は、余りエネルギー依存はしないということになるのでは。

B君:ただし、国の特性によって必要となるエネルギーの量が違う。

A君:しかも、同じようなタイプであっても、かなり効率の高い国がある。例えば、産油国型というとサウジ、ブルネイはバーレーンやクウェート、UAEよりも効率が高い。これは、どこが違うのか。こんな研究が必要ですね。

B君:一つは歴史だろう。サウジとバーレーン、クウェートのGDPの成長を見ると、図3ようだ。要するに、GDPが急成長したのがクウェート、バーレーンもかなり直線的に成長。そして、サウジはまあまあ平衡状態。


図3: 産油国の成長の違い。バーレーンの着実な成長とクウェートの急成長が目立つ。

A君:成長をするために、多くのエネルギーを使っているという解釈。インフラなどの整備も必要だし。でも、もう一つの人間開発の指標である識字率などとの関係はどうなっているのでしょうか。

B君:それは調べてみる必要がある。

A君:調べてみましたが、どうもバーレーンは、非常に識字率が高い国ですね。


図4:産油国の識字率。バーレーンは非常に高い。

B君:サウジアラビアはまだ成長過程。ただ、クウェートは、どうも識字率は伸び悩みか。

A君:識字率が高い国だったから成長ができたという考え方もありえますね。

C先生:まあ、エネルギー消費、経済成長、さらに、識字率の増加がどのような関係があるか。これは、その関係を記述するのは難しそうだ。世の中には、開発学なるものがあるのだが、途上国の経済的な発展をどのようにして効率的に行うか、これを学問にするというものらしい。しかし、先進国に生まれ育った自分自身を考えると、どうも自分と自国の行動を棚上げしているようで、すっきりしない。

A君:国連にしても世界銀行にしても、やはり組織に所属している個人は、先進国型の生活を享受していますからね。

B君:まあ、人間開発であって、経済開発ではない、といっても、まあ似たようなものだ。

C先生:余り理屈については深入りしないで、客観的事実を記述することにしよう。

A君:図2のエネルギーとGDPとの関係から見ると、どうも2000kg石油/人というエネルギー使用で、ポルトガルなどは、20000ドル/人近くを稼いでいる。世界平均が大体そんなところだとすると、エネルギーの消費が大きな限界とはなっていない可能性があるのでは。

B君:特に、開発途上国問題は南北問題といわれるように、南にあるのが途上国。そうだとすると、生命維持のために暖房が必要という状況ではない。となれば、かなりエネルギー消費量を抑えながら、発展を目指すのも不可能ではない。

A君:10000ドルぐらいのところで、かなり低いエネルギー消費量の国があります。コスタリカですが、この国は中米ではもっとも政治的に安定した国で、1952年以降の大統領選挙はすべて民主的に実施されているそうです。

B君:最近、エコツーリズムで有名な国になっている。野鳥に関して、
http://www.tekipaki.jp/~texbird/index1.htm
こんなページがあった。

C先生:コスタリカのエネルギー消費は、たしかに少ない。自然保護面でも環境先進国であることに間違いは無いだろう。

A君:南なら1000kg石油/人のエネルギーでなんとかなるのでしょうかね。

B君:もう一つの人間開発の要素である寿命はどうなっている。

A君:それには、こんな図が有ります。この図は、1995年の平均寿命とGDPをプロットしたものですが、寿命が70歳に到達するのは、実はそれほど難しいことではないようです。


図5: 寿命とGDPの関係。

C先生:数字だけを見ると、GDPが3000ドル/人を超すと、なんとか平均寿命が70歳を達成できる。先ほどの結果から見ると、1000kg石油/人というエネルギーで、なんとか1万ドルに行く国もある。となると、1000kg石油/人あれば、なんとかなることになる。

A君:コスタリカの識字率とエネルギー消費さらに、GDP(PPP US$)の推移を図に示しました。


図6:コスタリカのエネルギー使用、GDP、そして識字率の変化

B君:この国は、なぜかエネルギーも余り使わず、GDPを伸ばしている。識字率が最初からかなり高いのが、特徴かもしれない。

A君:しかし、バーレーンのように、識字率も急上昇というわけには行かないようですね。

C先生:寿命の話に戻るが、1000kg石油/人でまずまずの寿命の確保が可能。それは、主として、水道の整備などによる衛生状態の改善が理由になるのだが。それ以後の長寿命化には、医療の向上が必要。もっとも医療の改善には相当な金が掛かるし、長寿命化にそれほど有効という訳ではない。要するに、健康状態を保つことが段々難しくなる年齢層を医療技術でなんとか生命を保つことになるからだろうが。

A君:そして、図を見てください。これは、2001年の寿命とGDPとの関係をプロットしたものですが、なんと変なところに点が出現してくるのですよ。


図7:2001年のGDPと寿命との関係

B君:たしかに、1995年からたった6年しかたっていない。良いところとしては、5万ドルを超している国がある。

A君:ルクセンブルグ。この理由はまあ、本題ではないですね。

B君:1万5千ドルを超しているのに、寿命が50才しかない国がでてきた。

A君:南アフリカ。その隣がボツワナ、ナミビア。

B君:ということは、1995年では、寿命が高い国だったのが、たったの6年でここまで落ちたといことか。

A君:ボツワナについて、調査してみましょうか。こんな状況のようですね。


図8: ボツワナのGDPと寿命。寿命な急激な減少が起きている。

B君:いずれもHIV/AIDSが原因。この国の場合、GDPがまだまだ増加しているところがすごいが。人口は減っているのだろうから、それが原因なのでは。

A君:国全体としてのGDPも増えています。

C先生:これが2002年のヨハネスブルグWSSDでアフリカが問題だとされた大きな原因。HIV/AIDSの克服が必須。

A君:そろそろ結論ですか。人間開発ということが、寿命と教育の2点であるとするのならば、エネルギーの必要量は、1000kg石油/人。それが供給できるかどうか、これは後日また議論するとして、バイオエネルギーだけでなんとか供給ぎりぎり。先進国が、やはりエネルギー使用量を下げることと、地球上の全人口がやはり減ることが必要のようですね。

B君:それは、化石燃料とウランを全部使い果たしたときの話。それまでは、化石燃料とウランを十分活用して、1000kg石油/人のエネルギーをバイオエネルギーと自然エネルギーで得ることでなんとか持続可能な、かつ寿命と知識面で優れた活動ができるようなインフラを整備することが必要。

C先生:自然エネルギーとして、風力、太陽光だけでなく、太陽熱なども十分に活用しないと。それ以外の自然エネルギーは、本当にエネルギーゲインがあるのかどうか、批判的に検証する必要がある。怪しいものが多い。海洋温度差発電のなどは、その代表だろう。これはエネルギーを使う方だが、水素燃料自動車も相当怪しい。エネルギー効率が悪いし、大体、無公害が売り物になるのは過去の話だ。

最後に、UNDPのウェブサイトには、GDPと寿命に関する見事なアニメーションソフトがある。ブロードバンドをお使いの方は、ご覧になればいかがだろうか。http://hdr.undp.org/reports/global/2003/flash.html