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   次の氷河期は来ない?
     
CO2の長寿命がその原因 02.05.2017
               




 H.J.Schellnhuber(シェルンフーバー)氏などがNatureに発表した論文”Critical insolation−CO2 relation for diagnosing past and future glacial inception”が騒ぎを起こしているようです。
http://principia-scientific.org/meschugge-outlandish-new-claims-half-life-co2/ 
(この記事自体は、温暖化懐疑論者の主張。日本ではほぼ消滅しましたが、まだ欧米では健在であるようです)

 何が問題になっているか、というと、大気中のCOの寿命です。これまでIPCCの第三次レポート(TAR)
https://www.ipcc.ch/ipccreports/tar/wg1/pdf/TAR-03.PDF
による半減期≒500年が科学界では信じられていたと思いますが、一部の温暖化懐疑論者は、最初に引用したPrincipia-scientificでもそうですが、これまで、CO半減期は数年〜数10年だから温暖化しても大したことはないと主張していました。

 このNatureの論文で、シェルンフーバー氏は、COの半減期(寿命)は万年オーダーだと主張しているとのこと。 他にも、Michel Crucifix 氏など、同様の寿命を主張している人も居るようです。

 もしも、COの寿命が万年オーダーであれば、シェルンフーバー氏が主張するように、次の氷河期は来ないことになりそうです。これは人類の生存にとって良いことかもしれませんが、一度上昇した平均気温は、個々の人間の寿命と比べれば、ほぼ無限に続くことを意味します。これは、地球上のすべての生物の寿命と言い換えても同じことです。となれば、生態系への影響も無限に続くと考えざるを得ません。もっとも、COの大気寿命が1000年だとして、気温上昇分の半分は元に戻るとしても、2000年たって気温上昇分がやっと1/4ですから、その影響は、1万年の場合と余り変わらないことなのかもしれませんが。

 :Natureに掲載されたシェルンフーバー氏の論文の全文は、ネットにありますが有料です。そこで、この論文のサマリーは次のサイトを御覧ください。
http://dl.umsu.ac.ir/bitstream/Hannan/108775/1/
2016%20Nature%20Volume%20534%20Supplement%201%20June%20(2).pdf

 私自身、この記事の執筆段階で論文そのものは読んでいません。なぜならば、半減期の議論がこの論文の中にあるとは思えないからです。別途、どこから探し出したいと思っています。
   

C先生:シェルンフーバー氏は、環境省の長期ビジョンの検討会で、ドイツからわざわざ来日して講演をしてくれた。信頼できそうな科学者という印象だった。現時点では、温暖化懐疑論者にとっては、どうやら目の上のタンコブ的な存在になっているようだ。

A君:本日の議論は、シェルンフーバー氏によるこの論文やCOの寿命に関する主張の真偽を検証することではなくて、そもそも大気中のCOの寿命というものは、どのようなものなのか、それを考えてみようということに限定したいと思います。

B君:そのまえに、シェルンフーバー氏の論文の本題である氷河期だが、最後の氷期が今から1万年以上前になるのだけれど、過去、氷期は、数千年から数万年ぐらいで次の氷期が来た。だからそろそろ次の氷期の兆しぐらいは出ても良さそうなのだけれど、それが全く見えない。フーバー氏らの解析によれば、「兆し」とは北緯65度ぐらいの地域の温度を決める要素である太陽放射(=太陽光の強さ)で、これが下がりはじめ、ある限界値より下がると氷期が始まる。すでに現時点でその限界値を切っているのに、地球全体の気温が下がる兆しが見えない。それは、地球からの放熱を妨害する大気中のCO濃度の影響を受けていて、現時点程度のCO濃度があれば、たとえ太陽光が弱くなっても、氷期に向かうスイッチが入らない状態になっているからだ、というのが論文の主旨。

A君:現時点ですと、まだまだ大量のCO排出が続いているので、大気中のCO濃度はとても減るような状況ではないのですが、2050年には全世界からの排出量を半減することがパリ協定のゴールであり、今世紀の後半のどこかでNet Zero Emissionを実現することが目標ですから、それから大気中のCO濃度が減りはじめて、フーバー氏の主張する氷期になる条件である、CO濃度が290ppmぐらいになるのはいつか。それが問題だということになるのです。

B君:実は、氷期にならない方が良いから、350ppmキープぐらいが、人類にとっては、もっとも嬉しいことなのではないか。

A君:まあ、気温上昇とのバランスを考えると、300〜320ppmで良いのでは。

B君:それはそれとして、一応450ppm以下をなんとか実現したいというのが、パリ協定のゴール。しかし、これが本当に実現できるかどうか、かなり不確実性が高いのが現状だろう。

A君:550ppmになると、2.5度の上昇となってしまう。今世紀末で450ppmはすでに厳しい状況。500ppmで止まれば、それでもまあまあと評価せざるを得ない。これが正直なところ。

B君:2100年に500ppmなってしまったとすると、そこから300ppmになるには、排出量をゼロにしたとしても、COの大気濃度が40%減るまで待たなければならない。半減期がもしも万年オーダーだとしたら、相当期間、場合によったら5000年近く待たなければならない。グリーンランドの氷は溶けるのに、1000年以上かかると言われているけど、5000年だと確実にすべて溶ける。結果として、7mの海面上昇必至の状況。

A君:一方、もしもCOの大気中での半減期が10年だったとすると、500ppmから300ppmに戻るのに、7〜8年もあれば良いことになるので、グリーンランドの氷が溶けることもないですね。

B君:という訳で、COの大気中での半減期は実に重要な問題。シェルンフーバー氏の説が正しいとしても、もし、半減期が10年だったら、余り大きな影響にはならない。だから、半減期が何年か、これが次の氷河期の議論には勿論、温暖化リスク論にとって、中心的な課題の一つだという訳だ。

C先生:現時点での合意は、恐らく、半減期が数100年というところだと思うのだけれど、その解説をしているサイトを紹介して、その考え方をチェックしよう。

A君:このサイトのこの記事が良いのでは。
https://www.skepticalscience.com/co2-residence-time.htm
skeptical science(懐疑的科学)というサイトなのですが、副題があって、Getting skeptical about global warming skepticism. 要するに、「温暖化懐疑論に懐疑的になってきた」というサイトです。

B君:確かにまともだ。多少引用、
 懐疑論者の主張
「COの大気寿命は短い。審査を受けた論文のすべてが、COの大気中の寿命は短いとしている。」
 科学的な事実
「COの分子一つ一つに着目すれば、大気中に存在している時間は、確かに、5年ぐらいと短い。しかし、現実に起きていることは、空気中に存在するあるCO分子に注目すれば、平均5年ぐらいで海中に溶け込むが、そのとき海水中に存在している別のCO分子が空気中に飛び出す。すなわち、大気中のCOと海水中のCOは平衡状態にある(一つの分子が溶け込めば、別の分子が一つ飛び出すので、濃度は変わらない)。」

A君:その通りで、NASAが描いた図のように、地球上のCO分子は、複雑な循環をしています。
http://earthobservatory.nasa.gov/Features/CarbonCycle/


図1 地球上のCOの複雑な循環

B君:この図の右側の海洋のところを見れば、Air-Sea Gas Exchangeとかかれているが、海洋と大気はCOの交換をしているということだ。地球上の炭素は合計65兆トンぐらいだけれど、その大部分は、岩石中に存在している。石灰石が主要な鉱物だ。そして、環境中での循環については、かっては、もっと複雑な絵が描かれていたのだけれど、このNASAの図のように、地圏と海洋に分けるのがもっともシンプル。単位は炭素でGigaトン(10億トン)。これをGton-Cと書く。

A君:図1の中央付近にあるように、まず、人間活動によるCO排出量9Gton-Cぐらいで、赤字で書かれています。右側の図に有ったように海と大気のCO分子の交換量が90Gton-Cで、人間活動によるCO量は、それに比べるとかなり少ないのが現実。

B君:この図の右側が示しているもう一つ重要な海の堆積物が2Gton-C増えていること。これだけの量は循環量から除かれること。実際には、石灰岩になって海底に蓄積されると考えられている。これがプレートの移動に伴って、一部が地上から石灰石として掘れる形になって、セメント原料になっている。それには、無限に近い時間を要するのだけれど。

A君:図1の左側ですが、重要なことは、植物は光合成によって大気からCOを吸収するけれど、100年オーダーでモノを考えると、植物の呼吸と微生物による植物の腐敗によって、ほぼ同じ量のCOが大気に戻ってしまうということです。確かに、土中の炭素として蓄積される量も無いとは言えないけれど、かなり少ない。植物量を増やそうとすれば、それは、生きた木として地上に確保しなければならないということになります。そうすることによって、はじめて、COの地上での蓄積量が増えることになります。

B君:大気中のCOは、海水に溶け込んだものは、海底に徐々に移行するけれど、その速度はそれほど早くはない。そのため、人為的なCOの放出量の1/3は大気中に残ってしまうということだ。

A君:この図でやや疑問が残るのは、人間活動によって9Gton-Cが放出。海底に2、大気中に残るのが5でまだバランスが取れないのですが、残りはどこに行くのか、ですね。

B君:よく分かっていないというのが、現実ではないか。理屈としては、大気中のCOがいきなり岩石に吸収されるということが考えられるのだけれど。

A君:いずれにしても、COの大気中寿命に関しては、もし、COの形で大気中に存在していても、次の瞬間には、植物によって吸収されたり、海水に溶け込んだり、ダイナミックに移動し、そして、他の化合物になったり、一部は海底に固定されたりしています。しかし、確実に大気に戻るという変化も起こしているので、大気中のCOの寿命を正確に推定するのは、なかなか難しいことなのです。

B君:このような循環をすべて考慮した結果として、これまでCOの寿命=半減期は数100年ではないか、と考えられてきた。シェルンフーバー氏の新しい論文では、実はもっと長いという仮定しているようだが、その理由には、今回たどり着いていない。いずれにしても、最終的に大気に戻らない形に変化するには、海底の石灰岩になることが必須のようで、それには、相当長時間が必要のように思えるので、そんな議論から導いたのではないか。

A君:確かにそうですね。土壌中の有機化合物になったとしても、例えば、泥炭のような形で存在していると、湿地では泥炭はほとんど分解されませんから、やはり相当に長いと考えられますね。でも、これだと数100年以上かもしれません。

B君:そうだろう。しかし、どんどんとCO排出量を増やしている状況だと、もっとも簡単な物理現象として、海洋に吸収されるものがまず増えるけれど、実は、すぐに大気に戻ってきてしまって、そこで単純に循環しているだけで、決して、大気中の濃度を下げることにはならないというメカニズム、すなわち、半減期には利かないというメカニズムが主体になっているのかもしれない。海水中で石灰岩になって、海底に蓄積される量が除去されるだけ。その割合は2%程度と少ないことが分かっているし。

A君:例え植物に吸収された場合でも、草のような植物であれば、そのうち枯れて土にはなりますが、いずれ微生物が分解して元に戻ってくるので、固定される量は少ないでしょうね。まあ数10年で、大部分が大気に戻るでしょう。泥炭になるには、その地域が冠水状態になっている場合でしょうから、その割合はそれほどではないでしょう。

B君:他のメカニズムを考えても、少なくとも、数年とか10年とか言ったオーダーで大気に戻る。すなわち、大気中の二酸化炭素が半減するとは考えにくい。

C先生:まあ、これ以上議論をしても、グルグルと循環しているだけだ。シェルンフーバー氏が、COの半減期を1万年以上だと考えているのか、それ理由が分かったら、ここでまた紹介することにして、本日は、ここまでにしよう。
 シェルンフーバー氏のように、ポツダム気候変動研究所所長を務めているなど、60歳台後半でも第一線の研究者として活躍している人が多い一方で、欧米の温暖化懐疑派も、それにしても信念が強いというか、まだまだなかなかしぶとく活動を続けている。
 例えば、
http://euanmearns.com/the-half-life-of-co2-in-earths-atmosphere-part-1/
のように、いかにも妥当と思わせる数学的技量を持って懐疑論を推進していることに感心してしまった。
 それに比べると、日本の温暖化懐疑派だった人々は、結局のところ、自分の書いた本が売れればよいということだったように思えるのだ。確かに、一部に、懐疑論の本を求めている読者層が存在していたのだから本が売れるのは当然だったのだ。パリ協定が重要問題となっている現在、日経新聞の論調がパリ協定推進であることは当然として、経団連の提言にも、「パリ協定はすべての主要国が取り組む歴史的枠組みであって、日本としても『環境と経済』を両立しつつ、2030年の中期目標の達成に国を挙げて取り組むべき」、と書かれている。もはや、懐疑論を述べるにも、IPCCのAR5を熟読玩味できる程度の相当の科学的実力がないと、まともな原稿が書けない時代になったというべきなのだろう。