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いよいよ10月。この夏は、自ら課した本を書くという宿題のために、土日は自宅に篭り、その割には、9月なってアラスカでオーロラ写真の撮影などをやって来ました。 本日は、9月29日に行われた「ハマのSui-Do!」というイベントに講師に招かれ、何を喋ったかというご紹介。 なんといっても、お相手が藤田志穂さんでしたので、 http://ameblo.jp/fujitashiho できるだけ柔らかい雰囲気で講演と質疑を行いました。 パワーポイントのファイルが http://lebenbaum.art.coocan.jp/PPT/index.html にありますので、御覧ください。 最初に20分程度、水について最低限知っておいて欲しいことを5項目の事実として説明しました。 事実:水について知っておきたいこと (1) 水をいくら使っても、地球上の水の量は変わらない (2)水がどのぐらいないと困るか? (3)本当に水が手に入らないと? (4)食糧の生産には水が絶対! (5)飲み水としての水道水 それぞれについての説明 (1) 水をいくら使っても、地球上の水の量は変わらない 地球上の元素は、たとえ大気のように逃げやすいものであっても、地球の重力で逃げられないようになっている。厳密には成層圏の上部から水素、ヘリウムは宇宙に逃げ出しているが、微量である。 水の量は、化石燃料を燃やすとできる水のためにほんの少し増えている。 それなのに、水不足になるのはなぜか。 それは、水はあっても使えるとは限らない。使いやすい淡水は、水の0.01%しかない。しかも、水は重い・安いの二重苦があるので、トラックなどでは運べない。使うところまで流すことが基本で、川の水が使える水の基本。ある地域の川の水は、その流域で降った雨が頼り。 ちなみに、1トンあたりの価格 農業用水 2〜3円 工業用水 29〜64円 水道水(原価) 158円 沖大幹先生のこの図を見て下さい。ものによって価格というものが大きく違うことが分かる。 水を除くと、古紙、鉄くずなどが安く、セメントがそれよりは高い。 水で例外的に高いものが、ミネラルウォーター。これは、芋、砂糖、大豆、生乳、石油、鋼材、などよりも高い。 (2)水がどのぐらいないと困るか? 家庭で水を何に使っているのか。その総量は? まず、1日あたり1人で200リットル。お風呂に1杯分ぐらい。その内訳は、トイレの洗浄に28%、風呂24%、炊事23%、洗濯16%。大部分は、洗浄用、よごれを落とすための用途。 (3)本当に水が手に入らないと? これは命にかかわる。1日に2リットル程度の水を飲む必要がある。 それどころか、食糧の生産には、水が必須。だから、水が入手できないと、生存ができない。 (4)食糧の生産には水が絶対! 日本の食糧自給率は、39%。もしも100%自給したら、水は足りるのか? このグラフは、やはり沖先生が作ったもので、水ストレスと呼ばれる数値を示している。水ストレスが大きいとは、40%を超すと赤信号。10〜20%が黄色信号。 このグラフは、日本での雨水の使い方を示したもの。 降水量は、年間6400億トン。蒸発してしまうものが、2300億トン。まあ、1/3だと思えば良い。残りの4100億トンが使える可能性があるけど、多くは、川から海に流れてしまう。 年間、使っている水が815億トン程度。 実は、地下水というものが使われている。これは、もともとは雨水で、地下に染み込んだもの。それが地下を流れているだけ。 農業用水が最大の水の用途で、年間544億トンもある。もしも、食糧を100%自給しようとすれば、あと700億トンぐらい使うことになって、水資源の35%を使うことになる。そろそろ水資源に赤信号が点灯するぐらいになる。 ところが、世界には非常に特殊な地下水に依存して農業をやっている地域がある。 この写真はどこでしょう。「オズの魔法使い」という児童文学の主人公、ドロシーが住んでいたのが、カンザス州の州都であり、州の東の端にあるカンザスシティー。いかにも平らで、四角い農地ばかり。 ところが、西部になると景色が違う。西部の農地は、このようになぜか丸い。これは、雨水や河川水によって灌漑が行われているのではないことを意味している。 ![]() 図 カンザス州西部の農地 その水源は、このオガララ帯水層。もともと氷河の水なので、化石水とも呼ばれて、化石燃料とにていて枯渇する。正確には、若干の雨によって地下水は増えるので、数1000年後になれば使えるようになるかもしれない。 このオガララ帯水層というものが重要なのは、地球の気候変動、日本だと温暖化としか言われないが、これによって米国中西部は乾燥地になることが予想されていること。 地中海周辺国、オーストラリア南部、南アフリカ、南米の最南部、そして、北米のメキシコから米国中西部は乾燥化が予測されている。となると、このオガララ帯水層は、完全に枯渇する。 (5)飲み水としての水道水 乾燥化すると飲み水も無くなってしまう! それほど心配はないです。なんといっても1日2リットルが摂取する水の量。このぐらいであれば、ミネラルウォータでも行けないことはない。それに、若干の調理用の水があれば、なんとかやれる。 東日本大震災を経験した人々の中には、水を極限まで節約して、恐らく、1人1日10リットル以下で過ごした人もいたのではないでしょうか。 ところで、ミネラルウォータは水道水の1000倍もしますが、なぜこんなに高いか。 コストの推測値は大体こんなもの。それでも、こんな状況であることを分かっていれば、飲むことは否定しない。さて、横浜の水道は不味いのか。これを後ほど体験して貰えると思います。 こうしてみると、水道水のもっとも重要なことは、水道管を通って皆さんの手元に来ていることだという結論になる。そのために、ミネラルウォータの容器代と流通経費がほぼ不要になり、水道管のお陰で、毎日200リットルも、水を運ぶ必要がない、楽な暮らしができるということになる。 。 以上で説明が終了。これからは、こちらからの質問です。 問題を8題。答えられますか? 世界編 1.世界で水道を使えない人は何%? 2.水と人口爆発はどう関係しているか? 3.途上国に水道ができると寿命は70歳!? 恐怖編 4.水道供給が止まると襲いかかる恐怖は? 5.放射性物質入りの水はどのぐらい恐い? 安全編 6.水道水よりミネラルウォータは安全? 7.塩素消毒は体に悪い? 8.ノロウイルスが入っていてもOKは本当? これらのうち、1,5,6,8の4項目の説明を行いましたが、ここでは、全部解説します。 解答編 世界編 1.世界で水道を使えない人は何%? 答:約23%ぐらいでしたが、2008年には、13%ぐらいに減少。現時点では、11%ぐらいに減っています。 2.水と人口爆発はどう関係しているか? 答:途上国での子どもの重要な役割は、水汲みと焚き木探しでした。水道ができると、水汲みが不要。エネルギーを買うようになると、焚き木探しが不要。そのため、子どもの数は減ります。 さらに、その国に工場ができるようになると、そこでの日給が高い。しかし、英語を話す必要がある。ということで、教育熱心になります。しかし、途上国でも教育費は高い国が多い。となると、子どもの出生率が大幅に下がります。 3.途上国に水道ができると寿命は70歳!? 答:データ上はそうのように見えます。良質な水道水が使えるようになると、寿命は最低でも70歳になります。そして、良質な水道水を全員が使えるような国では、寿命が80歳になっています。 ![]() 図 寿命と水道の関係 寿命というものは、実は、経済力と非常に大きな関係があります。所得が増えれば寿命が伸びますが、70歳を超えるのは、平均的に$4000〜$5000/人・年といったところです。所得が多いのに、この平均値を越していない国には、それなりの理由があるということになります。 ![]() 図 寿命と所得の関係 ボツワナなHIVエイズ、赤道ギニアは所得格差でしょう。 乳幼児死亡率が寿命にもっとも影響しますが、日本の乳幼児死亡率がどのように変化してきたか、これを知ると日本という国の進歩のすごさが分かります。 乳幼児死亡率が向上する理由は、衛生面と栄養面が大きくて、医療はそれほどでもありません。 4.水道供給が止まると襲いかかる恐怖は? 答:水は重いので、それを運ぶにはエネルギーがいります。エネルギーの供給が途切れると、大変なことになります。 電気も水もない状態。これは、東日本大震災では、3日間ぐらいでした。この場合の最大の恐怖は、飲み水がないことです。高層マンションの場合、地上まで歩いて飲み水を取りに行くのか? 是非、飲み水の備蓄を。 電気は3日ぐらいで来ますが、水道は、しばらく掛かります。ガスはさらに時間が掛かります。給水車が水を運んできても、暑い中で行列をするの? これが恐怖です。やはり水は大切です。 やはり沖先生のスライドがネタですが、水だけを心配するよりは、水とエネルギーと食糧は、いかなるときでも関連がありますので、この三位一体が重要です。 5.放射性物質入りの水はどのぐらい恐い? 答:2012年の4月1日から、食品の新しい基準値ができました。線量の上限を年間5ミリシーベルトから1ミリシーベルトに引き下げ、これを元に基準値を設定しました、となっています。 そして、飲料水の基準は20倍も厳しくなっています。 そして、この図にあるように、13〜18歳の男子が放射線に対して、もっとも敏感なのですが、これを考慮して厳しい基準にしました、ということです。 ![]() 図 食品放射線基準の考え方 これなら、基準のギリギリ(90%)の食品を食べ続けた場合でも、年間被曝予想量は、0.074mSvとなるそうです。10倍以上の余裕があるので、大丈夫だということです。 ここで持ってしまいそうな誤解が2つあります。 その1:飲料水はやはり危なかったから20倍も厳しくしたのだ!! その2:やはり年間5ミリシーベルトは危なくて、1ミリシーベルトなら安全なのだ。 飲料水の誤解ですが、現状の水道水で、10ベクレル/kgという基準値を超す可能性が無くなったので、厳しくした、というのが真実です。ちょっと妙な気がしますか。これが行政のやることです。 分かりにくいかもしれませんが、基準値は一つしかないので、それを例えば15歳ぐらいの男子の場合、一般食品と牛乳と飲料水に割り振るのですが、飲料水は非常に厳しくしても、給水が止まる可能性がないと判断して、厳しくし、一般食品のレベルをできるだけ高くしたというのが、実態のようです。 もう一つの疑問。1ミリシーベルトは安全基準なのか。これは、安全ということとは全く無関係な基準値です。自然放射線は、場所によって様々ですが、ヨーロッパの場合、高いと3mSv、低いと1mSv程度のようです。平均的に2mSv。 この程度の差があって、3mSvの地域に住む人は、平均値よりも1mSv程度は高いですが、だからといって、これまで何100年もの経験があり、何も起きないことを知っているため、移住をしようとは思っていません。この程度ならあたり前に受け入れるのです。1mSvほど被曝量が多くても、これは住民によって受け入れられる数値だ、ということです。 単にそれだけ。 宇宙飛行士は、宇宙に長期滞在すると大量の放射線を浴びます。基準が決まっていて、飛行開始年齢が27歳から29歳だと、生涯での被曝量600mSvが基準値です。 半年宇宙に滞在すると、180mSv程度の被曝量になるそうです。大変な商売ですね。 しかし、宇宙飛行士になりたい人はそれを受け入れているわけです。 6.水道水よりミネラルウォータは安全? 答:ミネラルウォータは水道法で規制されているのではなくて、食品として管理されています。しかも、嗜好品として。 毎日飲むこともないし、飲んだとしても1日500mLを1本ぐらいということです。 一方、水道水は、毎日2リットル飲むことを考慮した基準になっています。 さて、どちらの基準値が緩いか、厳しいか? あたり前ですよね。水道水の方が基準が厳しい。場合によると5倍も緩いのがミネラルウォータ。 特に、ヒ素は水道水の最大のリスクで、発がんの確率があります。ミネラルウォータなど、地下から採水された水は、1日1本までとするのが安全。 7.塩素消毒は体に悪い? 答:水道水は塩素で消毒されているから危ないでしょ? と言われるかもしれませんね。 ペルーという国の例を見てみましょう。1991年に数10万人がコレラに感染し、7000人が死亡。これは、ペルーの水道局が、米国の塩素消毒によってクロロホルムなどの発がん物質が発生するから、という報告を重大視して、塩素消毒を止めたためといわれてきました。 最近の研究では、もともとペルーの水道には、塩素消毒を行う設備がなかったからコレラが発生したという見解もあります。 いずれにしても、水道水が塩素消毒されていれば、この死亡事件は防止できたでしょう。 発がん物質であるクロロホルム、あるいは、先日の千葉県の例だとホルムアルデヒドが水道水に混じるという事件が起きました。 基準値をわずかに超えた水道水を飲むことは、どのような影響があるのでしょうか。 日本の水道の基準は50項目ほどあり、極めて厳しくて、発がん物質だと1万倍程度の安全係数を掛けています。基準値を僅かに超えた水を飲んだ場合には、がん発症の確率が1.0001倍になるかもしれません。大変なことでしょうか。 一方、「野菜嫌い」の発がんリスクは、1.06倍、「運動不足・肥満」の発がんリスクは、1.22倍。 余り気にする方が損をするように思えますね。 8.ノロウイルスが入っていてもOKは本当? 答:途上国の水道水にはノロウイルスが若干残っている状態が普通。ノロウイルスはたった10個のウイルスでも発症する可能性があります。 しかし、途上国の人々はこのような水を飲んでも大丈夫。腸内の常在菌がノロウイルスをやっつけてくれるから。 日本人で、このような強い味方である常在菌をもっている人はほぼ皆無。理由はノロウイルスが全くいない水道水を飲んでいるから。そのため、日本には、ノロウイルスに対する基準もないのです。 |
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