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     ハーバードで学ぶ日本の歴史  08.02.2020
       
現時点の政治家との格差はなぜ?
               



 本日の話題は、ハーバード大学の大学院の講義です。ネタ本は、『ハーバード日本史教室』 佐藤智恵著。冒頭の「はじめに」に紹介されていることは、期末試験の問題でして、ハーバード大学で行われている日本史の授業、講義のタイトルは、「アジアの中の日本、世界の中の日本」というものだそうですが、その講義の試験問題です。2つの課題を50分間、文字数制限なしで、当然英語で答えるというものです。
 
(A)日本と朝鮮半島の間には、緊密かつ複雑な歴史がある。古代から近代までの間で、三つ、または、四つの時代を取り上げ、「友好」と「敵対」という側面から、両者の関係の変遷を説明せよ。
 
(B)日本の歴史の転換点である1600年、1868年、1945年の中で、どの年がもっとも重要だと考えるか。日本の政治、社会、文化の変革に与えた影響という観点からその理由を述べよ。また、他の二つの都市の重要性についても論述せよ。
 大変に奥が深い出題で、これを日本語で答えても良いと言われても、まともに答えることができる日本人が、何%いるのか。
私自身の知識レベルでは、合格点を取れるとはまるで思えないレベルなのです。
 「日本の歴史」に関する教育を大学の教養課程で受けた記憶は全くないのですが、この書籍で紹介される
ハーバードの教授連による講義であれば、もし受講したら考え方が変わるに違いないと思いました。
 やはり、
日本の歴史、世界の歴史をもっと知るべきだな、と再認識させて貰ったというのが、この本に関する正直な印象です。
 話変わって、最近、
SDGsに取り組む企業・団体などが一般的になりましたが、非常に残念なことには、SDGsに関するもっとも基礎的な書類である、「国連総会における合意文書」を読んでいるSDGs担当者が、日本の企業や自治体にはほとんどいないという感触なのです。今回のハーバードにおける日本史に関する教育の方法論を知ると、どうにも、日本の大学における教育が、文系・理系を問わず、このところ特に劣化が激しいのではないか、といった感触があります。そのために、肝心なエッセンスが抜けてしまうのでは。
 先日、
7月12日にアップしました、「精華大学(北京)の研究能力」の中で記述しました世界の大学のランキングを見ても、東大が世界36位、京大が65位。しかも、この2校がトップ100入りしているだけ。日本第3・4位の東北大学、東京工業大学は、251〜300位。その次のランクである大阪大学・名古屋大学は、301〜350位で、私学としては、慶應義塾大学と早稲田大学が、共に、601位から800位ですから、どう考えても、日本の大学は、世界的な競争力をすでに失っています。
 最近の日本の大学での講義の質などは良く知らないのですが、いずれにしても、日本の大学は危機的状況であるように思います。
今回の書籍でのハーバード大学の教授陣は、日本史の講義でありながら、同時に、世界観・地球観をもしっかり教え込んでいるという感じがしました。日本の大学人の評価には、その人の講義の良し悪しも考慮するということが、必須のように思います。

 繰り返しですが、引用した書籍は、

 
中公新書ラクレ 599
 「ハーバード日本史教室」 佐藤智恵著
  2017年10月10日初版
     同年10月30日3版



C先生:この本を読んでみて、最初に思ったことは、まず、
序がなかなか良くできていること。さすがに江戸時代にハーバード留学をしていた日本人の記録はないらしいけれど、明治時代になると、岩倉使節団の米国派遣を機に、ハーバードに多くの日本人エリートが留学している。

A君:その先頭を切ったのが、
金子堅太郎氏。官僚から政治家に転身した人物で、帝国憲法の起草と日露戦争の講和外交に貢献した人物だとのことです。伊藤博文内閣では、農商務相・司法相を歴任しました。

B君:金子氏は、セオドア・ルーズベルト大統領と親交があった人で、
日露戦争のポーツマス条約締結時に、日本に有利になるように、アメリカ国内で日本の広報活動を行った人とのこと。

A君:実際、日露戦争に関しては、当初米国では、ロシア支持者が多かったのが、金子氏の活躍によって、徐々に
アメリカ世論は日本支持に傾いたとのこと。講演会だけでなく、社交界のパーティーなどでも日本の立場についての演説をしたらしい。相当な人物だと思われますね。

B君:その
演説は、ハーバードの地元の新聞であるボストン・ヘラルド紙に絶賛されるようなものだったらしい。

A君:それって、講演の内容が勿論もっとも重要なのですが、
同時に、英語の語学力・表現力が半端ではなかったということを意味していると思います。

B君:結果的に、
金子氏の外交力でポーツマス条約が日本に有利になったと考えられていることを知ると、やはり、外交を支える人材の質は、語学力を含めて、非常に重要だ。

A君:
最近の政治家で、ハーバードを卒業した人がどのような人なのかをちょっとチェックしてみました。
 以下、リストです。
選択条件は、「大臣経験者」としましたので、数は本当に限られています。
 ・茂木敏充氏(元外務大臣)
 ・塩崎恭久氏(元厚生労働大臣)
 ・上川陽子氏(元法務大臣)
 ・林 芳正氏(元防衛大臣・元農水大臣)


B君:また昔の話に戻るけど、
ポーツマス条約の日本全権代表として参加した小村寿太郎氏もハーバード卒業生だったとのこと。文部省が派遣する官費留学生の一人で、その第1号だったというから、かなり特別クラスだったのでは。

A君:帰国後も
外務次官、駐米、駐露、駐清公師などを歴任し、その後、外務大臣として、日英同盟、ポーツマス条約に調印をしている。

B君:米国側の
歴史的キーパーソンは、セオドル・ルーズベルト大統領だったようで、日本人のハーバード卒業生と親しく交流し、かなり影響を受けたということは有名らしい。日本側の具体的な名前としては、金子堅太郎氏、小村寿太郎氏、松方乙彦氏、山本五十六氏、など。

A君:最後は
山本五十六氏ですか。この本の記述によれば、夜な夜なポーカーをして随分とお金を儲けたと書いてあります。

B君:
今回の著者は、ハーバードに関する新書をもう一冊出している。それが、「ハーバードでいちばん人気の国・日本」なるもので、本当か、と思うようなタイトルだ。

A君:そのうち、そのタイトルが現実だと言えるかどうか、しっかり検証しましょう。その本を買うことになってしまうかもしれないけれど。

B君:
ハーバードで日本史の授業が始まったのは、1930年代とのこと。しかし、積極的に推進されるようになったのは、1973年に日本研究所が設立されてから。その設立に尽力したのが、エドウィン・O・ライシャワー氏(1910〜1990)。日本で生まれ日本で育ったけれど、第二次世界大戦中には、米政府にて対日情報戦に従事していた。その後、駐日アメリカ合衆国大使を務め、大師退任後、ハーバード大学の教員になって、日本研究の推進者として大学の要職を歴任した。

A君:現時点では、1973年の日本研究所の設立から40年以上を経過しているけれど、時代の変遷とともに、教員の研究内容も変わってきたそうです。1970年代には、歴史と文学の研究に限られていた。しかし、
現時点では、芸術、文化人類学、社会学、建築学、法律、公衆衛生学などの多岐に渡っているとのこと。

B君:学生側の興味もかなり変化していて、
最近、学生の人気を集めているのが、良くある話だけれど、日本のマンガ、アニメ、ファッションなど。

C先生:ここまでが序論。これから先は、担当教官が、自分の講義の概要を説明することになる。合計、10名の教授が登場するから、本当に簡単にお一人あたり、300字以内ぐらいで、ご紹介ということでどうだろう。

A君:了解ですと言いたいですが、
内容の濃さを考えると、無理です。むしろ、今回、普通に記事にして、それを前提に、その後の対応を考えるべきだと思います。とにかく、行きます。一番手は、アンドルー・ゴードン教授。授業の題目は、「アジアの中の日本、世界の中の日本」。約3ヶ月で、日本史の通史を学ぶことになるようです。

B君:その狙いも明確で、「
日本史を日本独自の物語として単体で捉えるのではなく、世界との関連性を明確にしつつ解説すること。さらに、支配者の政治史としての日本史ではなく、社会史、経済史、文化史を含む重層的な歴史として、その魅力を語るとのこと」。

A君:これを履修しているのは、全員が学部生で、歴史専攻、東アジア研究専攻だけでなく、他専攻の学生も教養として学んでいる。

B君:著者からの最初の質問は、「なぜ学生にとって、日本史の通史を学ぶことが重要なのですか」。ゴードン教授の答えは、「
アジアは、世界の政治、経済、文化に多大な影響を与えていて、日本はアジアの中で重要な役割を果たしているから」。

A君:どのような内容に人気が集中しているか、という質問に対しての答は、
「歴史的人物の中では、サムライがダントツ人気」

B君:それに続いて、第二次世界大戦に特に関心を持っているとのこと。特に、この戦争が、日本史の中で、どのような意味を持ち、日本に何をもたらしたか、という点に興味が集中している。

A君:ただし、
莫大な数の日本人の名前を憶えて貰おうという方針で講義をしてはいない、とのこと。当然、もともと無理でしょう。むしろ、より本質的な問題である「日本史に変化をもたらしたものは何だったか」について、特に、世界とのつながりがどう変化したかを説明しているとのこと。

B君:なるほど。日本国内の問題だけが日本の国を変える訳ではないのは事実。これは、日本の場合に限らず、歴史というものの本質なのではないだろうか。

A君:
教材としては、日本の古典を使うらしいのだけれど、そこで具体的な名称としては、源氏物語、今昔物語、方丈記だそうだ。ただし、江戸時代については、庶民の日常生活を書いた「放屁論」(平賀源内)、「北越雪譜」(鈴木牧之)などを使うとのこと。

B君:あれま。その最後の二冊は読んでない。買って見るかな。

A君:そして、
明治時代の大日本帝国憲法、戦後の日本憲法も必ず教えるとのこと。

B君:さきほどの二冊と憲法が必須か。

A君:そこで、
著者がした質問は、「源氏物語の評判が悪いそうですね」

B君:この質問への答えだが、
「光源氏については、そうも言える。9歳ぐらいの少女を将来の妻にするために自分のもとにおいて、自分好みの女性に育て上げるというのは、今の時代で言えば、性的虐待とも言えるので」

A君:古い歴史的価値観だと言われれば、その通りで、それなら、むしろ、「枕草子」を教材に使えば良いのに。

B君:いやいや。
源氏物語そのものはなかなか素晴らしい文学だと認識されている。ただ、光源氏は「嫌いだ」ということのようだ。まあ、米国で育てば当たり前とも言える。

A君:アメリカも、例の警察官によるフロイドさん殺害事件が起きるような国であるという点で、現時点でもある意味変わった国だと思う。それに比べれば、
源氏物語が書かれたのは1000年ごろから1006年頃と思われるけれど、現時点での常識をこの時代の文学に当てはめるのはいかがなものか

B君:本を離れれば、
「チョコレートと兵隊」という1938年の日本映画が大人気とのこと。この映画は、戦時中のプロパガンダ映画なので、日本でもアメリカでも長らく見ることができない映画だった。実際、見たことは無いね。

A君:この映画は、米軍が日本人を研究するための資料として活用されていて、米軍が日本との心理戦に役に立てるために利用されていたとのことです。

B君:
とてもプロパガンダ映画とは思えない内容だ。父親に召集令状が届き、中国に出征することになった。戦地で受け取る慰問袋には、大量のチョコレートが入っていた。そこで、チョコレートの包装紙を集めて、手紙とともに日本の息子に送ることとした。その包装紙には点数が付いていて、100点分集めると、チョコレートを1つ貰えるという仕組みだった。息子は大喜びをして。母親にたまった包装紙を製菓会社に送って貰う。そして、製菓会社からチョコレートが届いた同じ日に、なんと、父親戦士の知らせが届くという極めて悲しい話

A君:プロパガンダ映画だ、として見せられた学生は、このような悲しいストーリーが、どうしてプロパガンダ映画なのか、と疑問に思う。当然ですよね。でも、
日本人にとっては、明らかにプロパガンダ映画と言えるでしょうね。まあ、言ってしまえば、「これに耐えられて、初めて、日本人だろ」

B君:短編小説も課題になる。一つの例が、
城山三郎の「メイド・イン・ジャパン」(1959年)。1950〜60年頃、日本製品は「安かろう悪かろう」だったいうことに、学生は非常に驚くとのこと。

A君:新渡戸稲造の「武士道」も教材の一つだそうです。

C先生:そろそろ、まとめに入ってくれ。

A君:了解です。本日は、このアンドルー・ゴードン教授の講義だけで終わりですね。最後の結論に入りますが、
ゴードン教授は、「日本は品格ある国家をめざすべきだ」と提唱しています。

B君:
現時点のアメリカをゴードン教授はどう評価しているのだ。

A君:
「アメリカは品格のある国家とは言えません」。これが評価です。トランプ大統領の名前が明示的に出てきます。

B君:
中国も品格が無い国に分類される。力任せは品格の無い証拠だからね。確かに、国が品格を保つことは、重要なことではある。最終的に、平和で暮らしやすい地球をどう作るか、をしっかりと考え、それを前提に自国の未来を考えることが、品格ある国の条件だと思う。

C先生:そろそろ、
ゴードン教授の講義を閉めよう。やはり、広い視野で地球全体を眺めているね。日本に対する評価は、いささか甘いと思うけれど、中国のように、一帯一路構想のようなものを真正面から推し進める国と比べれば、日本のおっとりしたところは、品格の一部であるとみなすことは不可能とも言えない。しかし、日本の政治家に品格があるのか、と言われれば、少なくとも議員になっている政治家は、自らに求められる品格とは何かということすら、きちんと考察していないと思う。選挙違反を平然として、夫婦で議員になることだけが目的だったとしか思えない実例が出てしまったし。ゴードン教授は、現米国大統領は大嫌いみたいだ。当然だね。品格という言葉を使う人と、トランプ大統領との相性が良い訳は無い
 さて、いずれにしても、まだ第1講義が終わるだけだよ。どうする。第10講義まであるんだけど。

A君:かなり内容が濃いし、
このような日本を教材とした教育がハーバード大学で行われていることを説明することは、日本人にとっての共通理解ではないことを知って貰うために、有効だと思います。まだ、続けるべきでしょう。

B君:ちょっと
日本を持ち上げすぎの本ではあるけれど、ハーバードの教授が語っていることを正確に伝達しようとはしているようにも思える。まあ、続ける以外に無いのでは。まあ、夏休みだし、コロナもあるので、丁度良いのでは。

C先生:分かった。それでは、本日はこのあたりで終わりにしよう。しかし、このペースが良いとも思えないので、
もう少々加速して、ポイントを選択しつつ効率的に進めることにしよう。この本に書かれていることは、日本という国を褒めすぎているように思える。ちょっと、現実に引き戻して、「アベのマスク」を再度、施設などに配布しようとして、「もう必要ありません」と言われるような首相がトップの国である事実を再認識しつつ、次回以降を進めることとしよう。それにしても、コロナはなかなかしぶとい。夏には一旦は消えるものとばかり思っていたのだが。