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 鳩山イニシャティブは何を狙うべきか   10.25.2009
      



 鳩山イニシャティブと呼ばれる途上国への貢献の内容が全く見えない。それも当然で、現時点から詳細な検討を行うようである。

 具体的な発表は、12月のCOP15の会場でということのようである。しかし、やはり何か言いたくなる。
 そこで、12月のCOP15開催後、的外れであったことが明らかになることを覚悟の上で、本音は何かを推察し、今後どんな方向性があり得るのかを考察をしたみたい。



C先生:鳩山イニシャティブだが、そもそも、何が定義なのか、それ自身にも誤解があるように思える。

A君:鳩山イニシャティブの定義ですか。

B君:まだ混乱状態にある。25%削減目標そのものを鳩山イニシャティブだと考えて書かれたWebページも多いようだ。

A君:しかし、どう考えても、国連の気候変動サミット(9月22日)での鳩山首相の演説がもっとも信頼性の高い文書です。演説の場所が国連だということで、正本は英語版と考えるべきでしょう。
http://www.mofa.go.jp/policy/un/assembly2009/pm0922.html
 この演説は3つの段落に分かれていて、削減目標(reduction targets)、途上国支援(support for developing countries)、そして、結論、でした。

B君:なるほど。鳩山イニシャティブという言葉が出てくるのは、途上国支援の部分だ。日本語訳では、「私は、以上を『鳩山イニシアティブ』として国際社会に問うていきたいと考えております。」となっているが、「以上」がどこからどこまでを意味するのか、日本語はもともと不明確だから、この文章でもいささか不明確。

A君:やはり英語の方が、厳密な表現をするには適しているようですね。英語版では、"I would like to propose to the international community a "Hatoyama Initiative", based on what I have just outlined."となっていて、「直前に述べたこと」を意図した発言であったことが明確です。すなわち、鳩山イニシャティブとは、途上国支援の枠組みだけに関する提案だと判断でます。というか、それ以外の解釈は不可能。

C先生:途上国支援だということになれば、その内容は以下の四項目からなる。外務省による日本語訳を示そう。

 第一に、わが国を含む先進国が、相当の新規で追加的な官民の資金で貢献することが必要です。

 第二に、途上国の排出削減について、とりわけ支援資金により実現される分について、測定可能、報告可能、検証可能な形での、国際的な認識を得るためのルールづくりが求められます。

 第三に、途上国への資金支援については、予測可能な形の、革新的なメカニズムの検討が必要です。そして、資金の使途の透明性および実効性を確保しつつ、国連の気候変動に関する枠組みの監督下で、世界中にあるバイやマルチの資金についてのワンストップの情報提供やマッチングを促進する国際システムを設けるべきです。

 第四に、低炭素な技術の移転を促進するための方途について、知的所有権の保護と両立する枠組みを創ることを提唱します。


A君:例によって、英語版が正本ですが、それを日本語に無理矢理訳したと思われるため、日本語訳はこなれていません。そのため、本音が分かりにくい文章です。

B君:もっとも、その英語版を読んでみても、やはり国際会議流の文書だ。余りストレートな表現ではないので、真意を図りがたい部分が多い。

C先生:まあ、そんなものだ。しかし、本音を探りつつ、大胆に日本語に翻訳すればどうなるかを検討してみて欲しい。

A君:結構大変ですよ。しかし、まあ、このような感じになるのでしょうか。

 第一:先進国よ、相当な覚悟をもって、途上国に資金援助を行え。そのための、新しい官民の枠組みを作れ。

 第二:途上国への援助が必要だとの共通認識が得られるためには、先進国から提供された資金が温室効果ガス削減の目的に沿って使用されたかどうか、「測定可能」、「報告可能」、「検証可能」でなければならない。そのためのルールを作ろう。

 第三:途上国支援のためには、新しい仕組みが必要だが、効果が予測できる形で実施されるようなものでなければならない。その仕組みは、国連の気候変動条約の監督下で行われるべきである。支援の透明性、すなわち、資金が効果的に活用されたことが確認できることが条件である。同時に、途上国が使える二ヶ国、多国間の支援について、また、その組み合わせについて、分かりやすい情報提供が必須。

 第四:日本は知的所有権が確実に保護されることが条件だと考えており、この条件を満たすような低炭素化技術の移転を推進する枠組みを提案する。


C先生:よし。これで行こう。それでは、それぞれの項目について、どのような本音が隠されているのか、その推察を行ってみたい。

A君:まず、第一項目に隠された本音からですが、文章を再掲しますと、

 第一:先進国よ、相当な覚悟をもって、途上国に資金援助を行え。そのための、新しい官民の枠組みを作れ。

B君:これは、過去の自国への利益誘導型の資金援助に対する批判ではないか。そもそも途上国援助は、自国の企業の海外進出の支援になるからとか、あるいは、自国への資源の確保のためとかいった、これまで裏に隠された目的を排除して行うべきだ。

A君:さらに言えば、目的意識を統一して、気候変動防止という明確な目的をもって行うものとすべきだ、という主張のようにも思える。

B君:批判の矛先は、中国かもしれない。かつて最大のODAを受けていた国である中国は、このところ、アフリカなどで多額のODAを行っている。そこには、中国の資源戦略や経済圏拡大の意図があることを感じざるを得ないからなあ。

A君:中国だけが対象では無いように思えますが。新しい官民の枠組みの「新しい」という言葉は、これまでのODAを改革し、支援対象国の低炭素化をもっと意識した枠組みを意識せよということを意味すると思われるので、単に中国だけでなく、すべての国に対する牽制球的な意味合いが、かなり強いのでは。

C先生:牽制球か。それを投げるとなると、その返球が来ることになる。それに備えるためには、今後の日本の途上国支援は、形を根底から変えるべきだとも読める。

A君:確かに。21世紀のどこかの時点で、ほとんどすべての国が気候変動への適応策を行う必要に迫られると思われます。国によっては、河川の堤防の強化を、そしてある国では海岸線の強化を、さらに、先進国においても、集中豪雨のために地下街の防災態勢を強化しなければならないかもしれません。そう考えると、気候変動を多少とも遅らせることを目的として、低炭素化型の途上国支援に移行することには、合理性があるようにも思えますね。

B君:しかし、大きな問題として、中国のように、すでにODAを卒業した国に対して、どのように支援をするのか、という問題がある。

A君:それはそうですね。中国支援というと、日本国民の多くが、もう必要はない、と発言をするでしょう。

B君:しかし、一方で、地球レベルでの温室効果ガスの削減を目指すなら、もっとも低炭素化が必要な国は中国だ。

A君:もっと目的を固定した支援なら、京都議定書の枠組でもCDMの最大の実施国は中国でしたから、許容されるかもしれない。

B君:そうだな。中国の石炭による発電は、なんとか対策が必要だ。となると、中国に対しては、CCS(炭素回収貯留)の大規模実証のために先進国が支援をするということならば、意味があるかもしれない。

C先生:低炭素化のための支援は、ある国に特定の目的を決めて行うべきではないか、というのは、良い提案かもしれない。単に低炭素化というと、その資金援助が何に使われるか分からないから。

A君:インドへの支援は必要不可欠ですね。インドの今後を推測すると、原子力の拡充に向かうことがほぼ確実なので、原子力の安全性をあらゆる可能性を考慮して高度化する方策の実証、といった観点から支援をすることはあり得るのかもしれない。場合によっては、次世代型のトリウム転換炉の開発支援といった考え方もあるのかもしれない。

B君:日本で、新型転換炉の開発を行うのは、現状では難しいだろう。国民の受容性を得ることが不可能に近いので。

A君:となると、世界的にやっておくべき開発も、インドに頼むということですか。

C先生:生物多様性とかその他の目的を組み合わせることも可能だろうと思う。

B君:東南アジアの経済発展過程にある多くの国では、土壌中の炭素の保全が重要だ。湿潤な土地をパームヤシプランテーションにすることで、土地が乾燥すると、土壌中の有機物が好気性の微生物によって分解され、炭素分が二酸化炭素として空気中に出てしまう。このような国に対しては、生物多様性保全あるいは土壌環境保全といったことが、化石燃料に関わる低炭素化に加えた副次的目的になり得る。

A君:このように、国を特定して、ある技術に特化して支援するとなれば、まあ、理解も得られやすい。

C先生:ただし、すべての国の状況が、低炭素化が重要だという段階になっているとは言いがたい。アフリカの半乾燥地域にある最貧国は、まだまだ低炭素化の対象外である。今後しばらくは、エネルギーをもっと使わなければ発展が不可能な国だからだ。すなわち、このような国では、低炭素化は実質上できないだろうから、低炭素化という目的を拡大解釈する必要が出てくるように思える。

A君:となると、人口問題との関係ですか。気候変動による悪影響は、2070〜2100年ごろに最悪になるものと推定される。その時点での影響を多少なりとも下げるには、世界人口の増加が2050年頃にピークになり、その後減少に向かうことが必要不可欠でだと考えられます。

B君:しかし、これも難しいところがある。人口を制御するという発想は、国際社会では今でもかなりタブーに近い。そこで、教育の充実を代替の目的にすることが普通だ。教育程度が高くなって、自分の子どもを大学に進学させたいと思うような社会になれば、確かに、子沢山は大変だと思う親が増えてくる。

A君:教育は重要です。もしも教育が充実すれば、気候変動に対する認識や、二酸化炭素吸収源である森林の保全の重要性などに対する理解も進むことが期待できます。また、持続可能な発展のために、生物多様性を守る意識も高まると思われます。

B君:そのように考えれば、教育支援も低炭素化の間接的に貢献できるから、目的の一つだと考えることができるだろう。

C先生:しかし、なんとなく面倒だ。このような言い方だと、いちいちそのすべてを説明しなければならない。そこで、むしろ、なんらかの標語を導入すべきかもしれないと感じがする。
 まあ、その候補の一つを出せと言われれば、「新一石二鳥」ではどうだ。低炭素化に間接的・直接的に貢献できる目的をリスト化して、低炭素化を第一の鳥とした場合の第二の鳥として組み合わせて使うことにする。

A君:なるほど。最貧国の支援は、低炭素化と教育の新一石二鳥型支援、東南アジアのある国の支援は、低炭素化と生物多様性保全の新一石二鳥型支援、といった表現方法にする。

B君:それは、日本国民対策として、良いかもしれない。このような工夫をすることによって、支援をする側の国民が持ちがちな、気候変動対策と言われて、実は、支援メカニズムによって金をむしられるという感覚を若干なりとも緩和することができるのではないだろうか。

C先生:そろそろ、第二のメッセージの検討に移ろう。

A君:了解です。

 第二:途上国への援助が必要だとの共通認識が得られるためには、先進国から提供された資金が温室効果ガス削減の目的に沿って使用されたことが、「測定可能」、「報告可能」、「検証可能」でなければならない。そのためのルールを作ろう。

B君:途上国への支援が、有効に活用されているのか、他の目的に流用されていることは無いのか。このような疑念は、しばしば指摘されているなあ。

C先生:最近、標語が決まったようだ。測定可能(Measurable)、報告可能(Reportable)、検証可能(Verifiable)のMRVと言われる3条件が重要だから、それを確実に担保できるルールを作ろうと言われ始めている。

A君:それは極めて妥当な主張です。COP15での重要議題になるでしょう。日本にとって、特に重要ですね。なぜならば、このMRVの3条件が満足されない限り、技術移転による途上国支援によって、排出削減のクレジットを得ることができるという主張をしたとしても、削減量に定量性が無い限り、意味を成さないですから。

B君:もしかして、この第二のメッセージの意図には、ひょっとしたら、先進国間の排出権取引に対する牽制という意味合いが含まれているのかもしれない。そんな気がする。

A君:すでに、実施した排出権取引ですと、日本が国として行った排出権の購入先は、ウクライナとチェコです。
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/focus/32/news.pdf
 ウクライナとは3000万トン、チェコとは4000万トンだが、金額はどうも公表されていないようです。しかし、
http://jp.reuters.com/article/jpEnvtNews/idJPJAPAN-37154020090325
によれば、チェコは500億円だったようですね。
 また、今後、ラトビア共和国からも購入予定で、契約の締結が行われたようですよ。

B君:チェコ、ウクライナ、ラトビア。これらの国は、いわゆる附属書1に属する国で削減目標を持っている。チェコはEUに加盟しているため−8%であるが、ウクライナ、ラトビアはいずれも0%である。

A君:しかし、その排出量削減の実績がすごい。気候変動枠組条約のHPによれば、
http://unfccc.int/files/ghg_data/ghg_data_unfccc/image/pjpeg/changes_in_ghg_excluding_lulucf.jpg
2007までで、チェコが−22.5%、ウクライナが−52.9%、ラトビアが−54.7%ですよ。

B君:いずれも大幅な削減を実現しているので驚く人もいるだろうが、これは削減の努力をしたためではなく、経済が破綻状態に近いため十分なエネルギーを使えないのが実態だった。

C先生:これらの国との契約は、G I S ( Green Investment Scheme)という枠組みで行われている。これは、京都議定書第17条に基づく排出量取引のうち、割当量等の移転に伴う資金を温室効果ガスの排出削減その他環境対策を目的に使用するという条件の下で行う、国際的な排出量取引のこと、と規定されている。
 すなわち、目的を限定しての取引なのだ。先方に渡ったお金は、その目的にのみ適正に使われなければならない。

A君:しかしなんですよ。これらの附属書1の国においても、国によっては、上述のMRVの3条件が守られているとは言いがたいのです。
 そこで途上国にもMRVを要請するのだというメッセージによって、現状での附属書1の国からの排出量取引の状況に対する不十分な対応を指摘しようとする意図があったのではないだろうかと強く思います。

B君:ウクライナは、真面目だったという噂がある。ということは。。。。。。。

C先生:まあ、先に行こう。第三のメッセージにも、同様の意味を読み取ることが可能であるが、詳細は省略するのが良さそうだ。

A君:それでは、第四のメッセージの意図に行きます。

 第四:日本は、知的所有権が確実に保護されることが条件だと考えており、この条件を満たした低炭素化技術の移転を推進することを提案する。

B君:これは簡単。中国を先頭とする工業化を目指す国々に対するメッセージだとも言える。知的所有権保護ができない国には、技術移転をしないというメッセージである。

A君:京都議定書の枠組みで認められていたCDM(Clean Development Mechanism)で日本はすでに2300万トン以上の契約を行ってきました。
 一方、CDM事業を引き受けている国は、圧倒的に中国です。最近では、中国での水力発電によるCDMが多すぎるという文句が出ているようです。

B君:CDMは、中国への支援を増大しただけでない。タダならまだマシだが、技術の逆有償での移転を加速したとも言えるからなあ。

A君:低炭素技術を売り物にしたいと考える日本としては、この状況は余り望ましいとは思えない。すなわち、CDM以外にも、技術移転でなんらかのクレジットが獲得できることが必要なのですが、一方で、生命線となる知的所有権は守りたいという思いを強くもつべきのも当然のこと。

C先生:どうやって、日本産業界が知的財産権を活用できるようにするのか。今後の日本の産業界の進むべき方向を確保するものだと言える。
 そろそろまとめに行ってくれ。

A君:このように見てくると、鳩山イニシャティブには、多くの思いが込められていて、あらゆる国に対して、随所に本来のあるべき姿を取り戻せという強い意志の表現が行われているとも言えそうですね。

B君:以外と強いメッセージ性がある。このような断固としたメッセージは、分かる国には分かるはずだ。その効果がでるような方向に国際交渉が進むことを希望するね。

A君:最近の環境大臣の談話によれば、鳩山イニシャティブによる途上国支援の具体的な内容は、COP15で発表されるらしいですが、なんとか効果が見えるようなものになると良いですね。

C先生:すでに述べたことの繰り返しになるが、その際、支援する国の状況を個別に検討し、各国に単に低炭素化を要望するだけでなく、「新一石二鳥型支援」の形態にすべく、常にもう一つの目標を設定することを考慮するのは是非とも実現したい。
 すなわち、この支援によって、もう一つの個別目標も同時に実現することを目指す。そして、その個別目標は、地球レベルで見たときに、人類によって十分に共有しうる目標だと感じることができるようなものにする。

A君:最近の日本の市民レベルでの反応を推察すると、低炭素化の支援によって、実は地球環境レベルでの広がりのある効果を同時に生み出すことを目指している、というメッセージを出すことによって、日本国民の税金を他の国々によって吸い取られているという感触を持たないで済むような工夫が必要不可欠だと思います。

B君:交渉が効果的に行われるためには、現在日本が行っているODAの枠組みを全面的に見直す覚悟も必要なのかもしれない。

A君:日本への経済的な利益が結果的に生まれるという仕組みを目指すことも重要ですよ。相手国への技術移転によって、日本の低炭素技術が普及し、結果として知的財産権が新たな見返りを生み出すといった仕組みを組み込むことも必要不可欠ではないですか。

C先生:なかなか注文が難しいことになっている。そのようなことが国際交渉の場で容易に実現されるとは思えないなあ。しかし、十分に準備し、あらゆる検討し尽くして国内の合意を固めておくことが、極めて重要なコペンハーゲンでのCOP15への対応策として必要不可欠であることは事実だ。もちろん、COP15の期間内だけでは最終的な結論に到らないという可能性も考え、その後の適切な対応策も熟慮されるべきだろうよ。