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 中長期計画のヒアリングスタート      05.15.2010
     



 25%削減を決める法律案、地球温暖化対策基本法案が、衆議院の環境委員会で強行採決された。どうも相当に荒れたようだ。

 環境委員会には、民主党案、自民党案、公明党案が提出されていたが、面白いことに、もっとも厳しい案が公明党の提出案で、無条件に25%削減を目指すものだった。自民党案は、麻生政権時代と同じく、8%削減。民主党案は、例によって、条件付きの25%削減案。

 ところで、2008年度の排出量の確定値が報告されているので、これを取り上げることから議論をはじめたい。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12390

 さらに、中長期計画の小委員会が発足し、5月12日からヒアリングがスタートした。ヒアリングは、以下の7社・団体から行われた。

積水ハウス
パナソニック
清水建設
ダイキン工業
WWF
イオン
佐川急便



C先生:この5月、6月で、かなり大量のヒアリングというものをこなす必要がある。小委員会は、朝9時あるいは13時から3時間もある。

A君:1回に7社。この数は多いですね。180分ですから、まあ15分程度のプレゼン、最大でも10分の質疑。

B君:25分×7=175分だが、やはり、何かと時間が掛かる。


2008年排出量確定値

C先生:まずは、2008年度の排出量確定値の話題から行こう。この年は、かなりとんでもない年だったので、排出量の推移も驚くような結果だった。

A君:前年度からの変化率が、−6.6%。これは、エネルギー起源のCO2排出量。すなわち、化石燃料を燃やしたことによる排出量だが、
産業部門は−10.4%もの減少。
運輸部門は−4.1%。
家庭部門ですら、−4.9%。
もっとも減らなかったのが、
業務その他部門で、−3.3%


B君:そして、基準年(1990年)比だと、2008年の排出量は、
CO2合計で +6.1%
産業部門は−13.2%、
運輸部門+8.3%、
業務その他部門+43.0%、
家庭部門+34.2%、
エネルギー転換部門+15.2%


A君:しかし、全温室効果ガス、すなわち、CO2に、メタン、一酸化二窒素、代替フロン3種の合計だと、基準年(1990年)比で、+1.6%まで下がってきている。

B君:2007年が排出量最高で、+8.55だったのだから、この1年の減少は、すごいものだ。

C先生:推移のグラフを出したい。




 このように、2008年はガクッと減った。その理由は、最初に説明しようかと思ったのだが、すべての人々が分かっていると思う。

A君:とは言え、一応、もう一度。
 2008年7月に、原油価格が$149というとんでもない価格になった。
 2008年9月に、金融危機、いわゆるリーマンショックが勃発して、世界的な大不況に。100年に一度の危機だと言われた。

B君:要するに、エネルギー価格が上昇すれば、エネルギーの消費量は下がる。また、不況になると、エネルギーの消費量は下がるので、CO2排出量も下がる。この2つのことを数字で実証した年だった。

C先生:もう一つ、エネルギー消費量が影響を受けるのが、気候だ。特に、冬の気温が低いとエネルギー消費量は増える。
 2008年の冬は、2月は多少寒かったようだが、それでも家庭部門でもエネルギー消費量が減った。それは、どうも1月、3月は暖かったことも利いているようだ。
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/index.html

A君:環境省の報告書では、
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=15529&hou_id=12390
面白い解析が行われています。それは、もしも原発の稼働率が高かったら、というものなのですが、その分で、5.1%ほど下がったはずで、となると、基準年比で−3.4%だったことになって、実は、目標値をすでに達成していたことになる。




B君:森林吸収で−3.8%、排出権取引などで−1.6%の対応をすることになっているので、1990年比で、−0.6%まで下げれば良いことになっているので。

C先生:原発の稼働率というものは、極めて重大な要素なのだ。ここで仮定している稼働率の値84.2%というのは、過去、なぜかうまく稼働していた1998年の実績値だ。最近では、日本の原発は、安全を超最優先しているので、点検期間が長すぎるという話も出ているぐらいだ。

A君:韓国がUAEに対する原発売り込みに成功したのですが、そのとき、「日本の原発を導入すると、稼働率が低いから韓国製をどうぞ」と言ったとか。

B君:実は、単に基準、すなわち、整備期間の設定が違うだけ。これも、そろそろ国際基準を作るべきなのだろうが。

C先生:話を排出量の2008年確定値に戻して、セクター別の状況について、検討をしてみよう。

A君:それは、次の図3ですね。これは、電気や熱などについて、それぞれのセクターに配分をした後の推移です。




B君:毎回言っていることではあるが、産業部門は、1990年以降、着実に減らしてきている。やはり、家庭部門が伸び、そして、業務その他部門の伸び率は高い。それが、いずれも、2008年には下がった。

A君:いずれにしても、これは京都議定書の目標期間である2008年〜2012年の話。

B君:中長期目標は、ポスト京都の枠組みである2020年が中期、長期とは2050年目標。

A君:大分先とは言いたいところですが、実際には10年後なんですね。

B君:25%削減を10年でやるのは大変。

C先生:このセクター別の推移を踏まえて、小委員会におけるヒアリングについて、若干検討をしてみたい。


各社のプレゼン

A君:それでは、まずは積水ハウスのようですね。

B君:配布された資料は、そのうち公開されるはず。

A君:発表の内容は、家庭部門からの排出量をゼロにできる家があり得るというもの。

B君:まず面白いのは、一般市民の認識がかなり異なっているというもの。何に異なっているのか、というと、どの用途によってどのぐらいのCO2が排出されているか、ということ。

    一般市民の認識  現実の消費実態
 暖房用   40%     29%
 冷房用   30%      2%
 給湯用   16%     33%
 照明・家電 14%     26%
 調理用    0%     10%

C先生:この誤解はどうも一般的なことのようだ。東京を含む地域について、東京理科大学の井上研が調査したものがベースのようだ。冷房を過大評価している。

A君:どうしてそう感じるのでしょうか。どうにも、冷房というと、エアコンなどという大げさなものが頑張って仕事をしているように見えるからでしょうか。

B君:確かにそう思っているのかもしれない。エアコンの原理であるヒートポンプを理解するのがまず難しい。もしもヒートポンプの実態を知っていれば、室温と外気温との温度差が重要だということにすぐ気付き、冬よりも夏が温度差が低いという事実を認識できるのだろうが、そこが難しいのかもしれない。

C先生:実際、ヒートポンプというものを中学生レベルの知識で教えてみたいと思ったことがあるのだが、未だに成功していないのだ。そのぐらい難しい。

A君:自動車に乗っていて、夏にはエアコンを入れるから燃費が下がるということを良く知っているのかもしれませんね。冬には燃費はあまり下がりませんから。

C先生:プリウスに乗ると、夏の冷房よりも、冬の暖房で燃費への影響が大きいことが良く分かるようになるのだが。

A君:プリウスは、夏は電動のエアコン、冬はエンジンの熱。このエンジンの熱が足らないぐらい効率が高いということを理解することも難しいようですね。

B君:それはそれとして、最低限の知識として、エアコンでは、室温と外気温の温度差が決定的に重要だということは、覚えてもらう必要がある。
 夏だと、外気温35℃、室内28℃で、温度差は7℃。しかし、冬になると、外気温は東京でも3℃、室内20℃。温度差17℃。

C先生:この最低限の知識というのは、別途メモしておいてほしい。そのうち、環境を理解し行動する最小限の知識というものを整理したいので。

A君:いずれにしても、積水ハウスの主張は、給湯、暖房、照明など、バランスの良い対策を行う必要があるというもの。

B君:推奨のコンビは、断熱がまず第一。省エネ機器としては、高効率エアコン、LED照明、省エネ節水便器、そして、太陽電池+燃料電池。

A君:これは、いろいろな意見がありそうですね。
 断熱が第一、高効率エアコン、省エネ節水便器には、誰も文句はないところでしょう。断熱に加えて指摘されている樹木を利用した「涼房」も可能なら是非。日当たり風通しも重要。
 それ以外のものでは、まず、LEDは、全面的なお勧めではない。ダウンライトのような用途に限ってお勧め。

B君:そして大問題が燃料電池か。現時点での製品がどうにも完成度が低いのが気になるところ。

A君:たしかに総合エネルギー効率は、80%近くに行く可能性はあるのですが、それには条件があって、発電量に見合うお湯を使い切ること。

B君:それでも最近は発電効率がかなり高くなっていて、33%(高位発熱量基準)、37%(低位発熱量基準)。

A君:いささか専門的ながら、高位、低位とは、ガスを燃やしたときにでる水分を水蒸気のまま出してしまえば、発熱量が低い。しかし、水蒸気を液体に戻すときの熱も使えると考えれば、発熱量は高くなる。最近、潜熱回収型とか言われるのですが、潜熱とは、水蒸気が液体の水に戻るときに出す熱量のこと。

B君:難しい。いずれにしても、製品化された当時、効率は255%ぐらいだったので、今やかなり高くなった。これに加えて、熱回収を行うので、合計80%(高位発熱量基準)のエネルギーが有効活用されるという話。

A君:しかし、熱回収効率が47%でこれがお湯。そして、発電効率が33%だから、いまだに燃料電池は、「発電もする湯沸かし器」、という性格。

B君:だから、お湯を十分に使わずに、冷ましてしまうようだと、高い総合効率が保てないことになる。

A君:発電能力が1kWですから、それほど発電機としての機能が高い訳ではない。

B君:未だに価格は高い。東京ガスのエネファームだと、税込み価格が346万5千円。補助金が最大130万円付くので、215万円程度にはなる。
 これをハウスメーカーだとかなり安価に売ることができるらしい。

C先生:しかし、燃料電池を設置すると、太陽電池とのダブル発電ということになって、電力会社が買い上げる余剰電力の価格が安くなってしまうのではなかったか。

A君:そうです。1kWhあたり48円が太陽電池だけの場合。燃料電池やガスエンジンによる発電(エコウィル)を設置している家庭は、ダブル発電ということになって、1kWhあたり39円に下がります。

B君:価格的にはどうなのだろう。

A君:東京ガスのHPにある毎月100m3の家庭の場合の料金は、一般料金、すなわち、何も特別の設備を持っていない家庭だと、13716円。1m3あたりにすれば137円。基本料金を考えると、120円程度と考えるべきでしょうか。

B君:ガスの発熱量は、高位発熱量が10750kcal/m3、低位発熱量が9710kcal/m3.平均的に10000kcal/m3。

A君:10000kcalの35%が電力になったとしますか。3500kcal分ですが。1kWhの電気のジュール熱=860kcalとすると、4.1kWh相当。1kWhあたり29.3円ぐらいになる。通常の電力よりもやや割高と言えるけど、お湯が4500kcal分ぐらいは沸く。もしも水の温度が10℃で、お湯が60℃だとすれば、温度差が50℃。90リットルぐらいに相当する。お風呂の温度で良ければ、40℃だとすれば、150リットル分になる。1m3のガスを使って電気を発電するだけで、お風呂分のお湯が沸いてしまう。

B君:やはり、夏だとお湯はどうしても余るという計算になるのではないか。冬に、温水式の床暖房でも使っていないと、コスト的に見合うことにはならないのではないか。

C先生:このあたりの話になると、本当に難しい。誰も最適設計ができないのではないだろうか。実際のところ、この日のコメントとしても、誰か経済性、CO2発生量、などなどを考慮したソフトを作るべきではないか、という話もあった。

A君:積水ハウスの資料には、太陽熱給湯器は、少なくとも強制循環式はコストパフォーマンスが悪く、屋根は太陽電池優先と思われるという記述があったのですが、これには反論しないのですか。

C先生:それは本当だ。冬用に70度ぐらいの角度で設置した太陽熱温水器は結構有効だ。真冬でも、お風呂1回分程度は沸く。最近、強制循環式も、多少安くなってきた。工事費を入れて50万円を切ればと思うがもう少々だろう。
 しかし、風呂にしか使わなければ、1日150円程度の稼ぎにしかならない。雨が降っても、前日が晴れだとお湯は残っているので、250日分は太陽熱で行けたとしても、高々4万円/年。元をとるのに13年掛かる。
 屋根置き型の自然循環式であっても、加圧式スカイブレンダー(Noritz)を付けることも可能になったので、温度を設定した自動給湯ができるようになった。これなら、装置の実売価格が20万円台になるとすれば、コスト的にもまずまずだ。
 もしも、集熱器をエコキュートの補助用として位置づければ、コストパフォーマンスが良いものにすることも可能だ。
 共通していることだが、不凍液を交換したり、といったメンテを考えると、その問題も無いとは言えない。

A君:積水ハウスのプレゼンの紹介だけで、終わってしまいそうですが。

C先生:パナソニックの発表は、製造業としての地球温暖化防止の話だった。個別の製品についての細かい話は無かった。
 清水建設の話はなかなか面白い話で、オフィスビルの環境配慮を進めれば、CO2排出量を半減できるという。従来型の省エネでは15%ぐらいだけれど、先進的な省エネ技術を駆使すれば、外装システムで4%、照明システムで17%、空調システムで12%、エネルギーマネジメントで2%、合計35%の省エネが可能。しかし、問題は、コスト高。

A君:ということは、25%削減をオフィスで実現するのは難しいということですか。

C先生:まあ、15%削減ぐらいを目標にしないと、一般家屋の場合だって、ハウスメーカーが施工するばかりではなくて、工務店が施工する戸数の方が多いのだから。ビルだって、同様で、オーナーの意識が高いとは限らない。

B君:既存のオフィスビルの改良は、これは結構大変。エアコンシステムなどを新しくすれば、省エネになって、長い目でみればコスト的にも見合うことは分かっているのだけれど、やはりその投資をするとは限らない。

C先生:他の企業のカバーが不可能になってきた。ダイキン工業の発表の中には、面白いデータがあった。環境省のHPにデータがアップされたら見て貰いたいところだが、それは、エアコンのインバーター利用率。
 日本は需要849万台のすべてがインバータ化されているが、米国の需要1444万台のうち、インバータを使ったものはほぼ0%。まだ、エネルギー代を気にしていない国なのだ。欧州は比較的夏でも涼しいし、冬はエアコンでは難しいので、台数も614万台と日本全体よりも少ない。インバータ率は20〜30%とのこと。

A君:ヨーロッパは、国の状況がさまざまなので、CO2排出量削減の方針もさまざま。スウェーデンは、電力が水力と原子力なので、他の燃料の使用を止めて、電気に切り替えることでCO2削減を進めようとしている。そのため、冬が寒いのに、地中熱とか河川熱を利用してエアコン化を進めようとしている。

B君:ヨーロッパで面白いのは、お湯の使用量が少ないことだろうか。特に、ドイツ、フランス、イタリアはお湯を使わない。お風呂に入らないことがその理由だろうか。

C先生:以上の4社は、どうも、排出削減目標が厳しければそれなりに商売につながるという感じの発表だった。
 それに対して、イオンは、そもそも資料を公開しないで委員限りとしているし、排出量の総量を公表しないで、削減量だけを公表しているなど、やはり、省エネをやってコスト面での節約になるところ以外には投資をしたくない、ということがミエミエの発表だった。というよりは、それを主張したかったのではないだろうか。
 佐川急便は、中間的で、省エネによってコストの削減も狙えるのでやりたいところだが、なかなか良いトラックが無いというのが主張のようだった。

A君:確かにディーゼル車ぐらいしか無い。トラックのハイブリッドはそれほど効率がよく無い。小型の軽トラぐらいであれば、電気自動車にするという手も、そのうち出てくるかもしれないですが。

B君:まあ、そんなところで終わりかな。

C先生:確かに、個々の発表については、こんなところなのだが、このような発表を聞いていると、次々と考えなければならない事項が多いことに気付かされる。
 すでに述べたように、どうも家庭用の省エネ対策については、その選択が極めて難しい。コストは、エネルギー単価が将来変わるだろうから、もともと難しいのだが、CO2削減を目的とした場合でも、導入する機器によって相性というものがあるので、どのような組み合わせでも良いというものではないのだ。

A君:そう。「燃料電池は湯沸かし器なのに発電もする」から、太陽熱温水器との共存は無い。太陽熱温水器と太陽電池は屋根の面積を奪い合う。現状、北海道などでは、冬の暖房をエアコンという訳にはいかない。

B君:北海道こそ、電発と風力発電を大量に導入して、冬の暖房をエアコンにすることが有効なのでは。土地に余裕があるから、地中熱でも河川熱でも利用が考えられる。

A君:静岡県を代表として冬に日照時間が長いところでは、太陽熱温水器を冬の効率を狙って垂直に近い角度で設置するのが、基本になりそうに思いますね。

B君:自然循環型で垂直設置型というものを作ってもらわないと。コスト的に見合わない。

A君:Noritzあたりに頼むのでしょうか。しかし、普及をさせるには、地元企業の方が良いか。となると、矢崎でしょうか。

C先生:矢崎には、エコキュート・ソーラーヒートというベストミックス型の製品がある。これを特に、冬の日照時間の長い地方では普及させてみたいところだ。

A君:この機器は、すでに、天候予測機能を持っているようですね。スーパーコタツ文明機器に相当するのではないですか。

B君:驚くべきことに、風呂からの熱回収機能も持っている。かなり究極に近いのではないだろうか。

A君:C先生の自宅の現有の太陽熱温水器が壊れたら、次は、これではないですか。

C先生:・・・・・・

A君:そろそろまとめですかね。

C先生:この小委員会は、6月末ぐらいまで開催される。まだ8回もあるのではないか。毎回6〜7社・団体だとすると、かなり多くの意見を聞くことができるようになる。
 そこでの希望は、やはり、海外対応だ。日本でCO2を1トン削減するのに要する費用の、おそらく1/10以下の費用で削減できる途上国がほとんどだと思う。
 となると、日本のODAの基本的な考え方を、少なくともアジア諸国に対しては変えるべきなのではないだろうか。一定程度の経済レベルになって電力の供給が行きわたっていれば、何事につけても低炭素的な発想を行うことが可能なのだから、これは有効なのではないか。
 残念ながら、アフリカとなると、まだまだそうもいかないようには思える。しかし、自然エネルギーを導入するといった考え方ならば、やはり対応ができそうに思える。ただし、オフラインでの利用が主になるように思う。アジアでも、ミヤンマーとか、ラオスは、アフリカと同様の考え方をしなければならないかもしれない。
 こんな広範な議論ができるようなヒアリングの対象が選ばれることが望ましいと思う。