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 高校生はどんな理科を学んでいるのか    06.07.2009
     
  大学初年度の環境学シラバスの検討1



 「大学への新入生は高校の理科で何を学んでいるのか?」

 4月末の青森での環境教育シンポジウム以来、これまでほとんど知らなかった高校での理科の授業内容のチェックを始めた。

 以前にも記述したことがあるが、高校の理科の学習要領は、こんな風になっている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301/03122603/006.htm

 先日、新宿紀伊国屋に出かけて、高校理科の参考書を探したのだが、もっとも欲しかった理科基礎、理科総合A、理科総合B用のものは何も見つからなかった。

 そして買ってきたのが、次の2冊。
 「視覚でとらえるフォトサイエンス」
 理科総合A、理科総合B

 数研出版、ISBN4-410-29091-6と7
なによりも感心したのが、その価格である。オールカラー、クラフト紙製で、各420円(税込)だった。

 たった64ページ程度の本だが、環境を理解するために必要な理科の知識が60%ぐらいは含まれている感じである。是非、購入をお奨めしたい。

 本日は、高校の理科の履修の実態を調査し、大学の学部別で、何を知っているだろうか、を推定することが目的。



C先生:大学初年度の学生に環境科学を教えることは、実はなかなか大変なのだ、ということが徐々に分かってきた。それも、上智大学の大学院で、分離融合型の学生を対象にLCA(ライフサイクルアセスメント)を教えてみた過去数年の経験などなどからの話だ。

A君:LCAは、主としてエネルギーというもの、電気というもの、材料というものの、製品の成り立ち、などが必要な科学かもしれません。

B君:LCAは単なるツールかもしれないが。身につけても十分に使えないのでは意味がない。

C先生:文系の学生だと、まず、高校で物理をやってきていないようなのだ。高校の必修科目に物理はない。

A君:2003年度に高校に入学した生徒から理科の必修科目はこんな風になっているようです。

*理科のうち、「理科基礎(2単位)」「理科総合A(2単位)」「理科総合B(2単位)」「物理I(3単位)」「化学I(3単位)」「生物I(3単位)」「地学I(3単位)」のうちから2科目を履修しなければならない。
*理科の必修2科目のうち、「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」のいずれか1科目は必ず履修しなければならない。


B君:ということは、理科基礎、理科総合A、理科総合Bは、何か1科目は必ず受講している。

理科基礎の内容は、以下の通り。

(1)  省略
(2) 自然の探究と科学の発展
ア 物質の成り立ち
(ア) 原子,分子の探究
(イ) 物質の合成への道
イ 生命を探る
(ア) 細胞の発見と細胞説
(イ) 進化の考え方
ウ エネルギーの考え方
(ア) エネルギーの考え方の形成
(イ) 電気エネルギーの利用
エ 宇宙・地球を探る
(ア) 天動説と地動説
(イ) プレートテクトニクス説の成立


理科総合Aの内容は、以下の通り。

(1)  省略
(2) 資源・エネルギーと人間生活
ア 資源の開発と利用
(ア) エネルギー資源の利用
(イ) その他の資源の開発と利用
イ いろいろなエネルギー
(ア) 仕事と熱
(イ) エネルギーの変換と保存
(3) 物質と人間生活
ア 物質の構成と変化
(ア) 物質の構成単位
(イ) 物質の変化
イ 物質の利用
(ア) 日常生活と物質
(イ) 生物のつくる物質

理科総合Bの内容は、以下の通り。

(2) 生命と地球の移り変わり
ア 地球の移り変わり
(ア) 惑星としての地球
(イ) 地球の変動
イ 生物の移り変わり
(ア) 生物の変遷
(イ) 遺伝の規則性
(3) 多様な生物と自然のつり合い
ア 地表の姿と大気
(ア) 多様な景観
(イ) 大気と水の循環
イ 生物と環境
(ア) 生物の多様性
(イ) 生物と環境とのかかわり

A君:要するに、理科総合Bを履修し、もう一つとして生物Tを履修すれば、生物系の科目のみで高校の理科の必修科目の条件を満足することができる。

C先生:高校の教育方針に依存するのだが、理系・文系の進路別の教育を早くから始めるということが行われているとすると、物理、化学、地学を全く履修しないで、卒業するという大学生が誕生することになる。

A君:環境系というと、文系の学生を受け入れる場合も多いので、そうなると、高校レベルの物理、化学、地学を全く知らない環境理工学部の学生が居たりする。

B君:それは大変なことになる。しかし、逆も言えそう。環境系だということだと、どうしても生物の知識が必要不可欠だが、理科総合Aを履修し、物理T、化学T、地学Tを履修すると、生物を全く履修しないで卒業が可能。もっとも、このような学生は少ない可能性が高い。文系の学生と物理との相性は悪そうだから。

C先生:ここで考えなければならないのは、大学初年度の環境科学という文理融合教科のシラバスはいかにあるべきか、ということなのだ。となると、やはり文系の教育を受けてきた学生と理系の教育を受けてきた学生は別々にしなければならないという結論だろうか。

A君:理系高校の教育がどのようなものか、芝浦工業大学附属高校の理科のカリキュラムがありました。
http://www.shibaura-it.ac.jp/itabashi/contents/education_subject_science.html

B君:なるほど。4年生(高校1年)で化学T(一部)と理科総合B+生物T(一部)が必修。
 5年生になって、化学T(残り)が必修。そして、理系の必修として、物理T(全部)と生物T(残り)を学ぶ。
 6年生になって、化学U(全部)が理系の必修になって、物理Uか生物Uを選択する。ただし、芝浦工業大学への進学を希望すると、これ以外に、総合学習として、芝浦化学、芝浦物理または芝浦化学がある。

A君:詳しく言えばその通り。しかし、簡単に言えばこうです。最終的には、物理Uと生物Uの選択があるだけで、化学、物理、生物に関しては、ほぼ全部カバーしている。しかし、地学が全く入っていない。

C先生:地学がカバーしている領域にも、環境を語る上で必須の事項もあるように思うが。

A君:地学Tの内容なこんな様子。

(1) 地球の構成
ア 地球の概観
(ア) 太陽系の中の地球
(イ) 地球の形状と活動
イ 地球の内部
(ア) 地球の内部構造と構成物質
(イ) 火山と地震
ウ 地球の歴史
(ア) 野外観察と地形・地質
(イ) 地層の形成と地殻変動
(ウ) 化石と地質時代
エ 地球の構成に関する探究活動
(2) 大気・海洋と宇宙の構成
ア 大気と海洋
(ア) 大気の熱収支と大気の運動
(イ) 海水の運動
イ 宇宙の構成
(ア) 太陽の形状と活動
(イ) 恒星の性質と進化
(ウ) 銀河系と宇宙

地学Uは、こんな風です。

(1) 地球の探究
ア プレートの動きと地殻の変化
(ア) プレートの動き
(イ) 大地形の形成
イ 日本列島の変遷
(ア) 島弧としての日本列島
(イ) 日本列島の地史
(2) 地球表層の探究
ア 地球の観測
(ア) 重力と地磁気
(イ) 気象と海洋の観測
イ 大気と海洋の現象
(ア) 気象と気候
(イ) 海洋の現象
(3) 宇宙の探究
ア 天体の観測
(ア) 天体の放射
(イ) 天体の様々な観測
イ 宇宙の広がり
(ア) 天体の距離と質量
(イ) 宇宙の構造

B君:環境科学に必須な項目がそれほど多いとは思えない。むしろ、理科総合Aの
ア 資源の開発と利用
(ア) エネルギー資源の利用
(イ) その他の資源の開発と利用
の方が、環境科学向けの地学関連知識のように思える。

A君:そうですかね。中身を見ないとなんともですが、地球の歴史とか、様々な知識があった方が、環境学としても面白い。

B君:理科総合Bには、
ア 地球の移り変わり
(ア) 惑星としての地球
(イ) 地球の変動
といった項目がある。

C先生:その理科総合Aとか理科総合Bは、理系の学生は学んでいるのだろうか。

A君:先ほどの芝浦工業大学附属高校の例だと、理科総合Aは無視されていますね。

B君:待てよ。理科総合Aは、それでは誰が履修しているのだろう。

A君:おもしろいデータが見つかりました。九州大学の平成18年度入学者を対象にした未履修科目の%のデータです。
http://rche.kyushu-u.ac.jp/investigation/data18unstudy_subject_new.pdf

理学部、医学部でのデータもあるが、ここでは省略。



A君:念のため、未履修率ですからね。

B君:なるほど。理科基礎を教育学部に進学してきた学生は誰も履修していない。地学Uも履修率が0%か。

A君:教育学部で物理と地学の先生は育たない。

B君:生物の簡単なところを教える理科の先生だけ。

A君:工学部はこんな風です。




B君:なるほど。地球環境に入学してきた学生は、ほぼ、物理T、物理U、化学T、化学Uを履修していて、生物は、生物Tを履修したのがほんのちょっと。

A君:まあ、大部分の学生が生物T、Uを学んでいない。

B君:さらに言えば、地球環境に入学してきた学生の全員が地学T、地学Uが未履修だ。

A君:だから大変なんでしょうね。

B君:もう一度全体的な傾向を見ると、理系は、圧倒的に、化学と物理だけ。そして、文系の場合だが、理科総合Aと生物Tを履修するという学生がもっとも多く、場合によると、化学Tと生物Tの学生も居るということか。

A君:待ってくださいよ。それはあり得ない。理科基礎、理科総合A、理科総合Bのいずれか1科目は必修のはずですから。化学T、生物Tだけは禁じ手。

B君:このデータをみても、その条件は満たされていない可能性が高いように見えるが。

C先生:そういえば、都立高校などで、理科の履修条件を満たしていないという高校が補習授業をやったというニュースがあった。

A君:すごいページがありました。
http://www20.atwiki.jp/hisshuu/pages/4.html
こんなにも未履修の高校があったようです。

B君:ここまで学習要領が守られていないということは、一体なぜか。まあ、受験を優先すると、こうなるというのが真相なのだろうが。

C先生:この九州大学の調査を見ると、そんな実体がよく見えるようだ。

A君:そもそも基礎とか総合とかいう科目を作ったのも、理科を高校生にまんべんなく学ばせるということが目的だったはず。

B君:神奈川県立川崎高等学校の履修にあたっての諸注意という文書
http://www.kawasaki-h.pen-kanagawa.ed.jp/contents/risyuu_syocyuui.htm
では、理科の履修について、次のように述べている。

【理科】
@ 「理科総合A」か「理科総合B」の他に「化学T」「物理T」「生物T」「地学T」を履修するようにしましょう。
A 看護・医療系に進学を希望する生徒は、「化学U」または「生物U」まで履修することを勧めます。
B 家政系に進学を希望する生徒は、「生物T」か「化学T」の履修が必要です。
C 理工系大学進学希望者は「物理U」「化学U」までの履修を勧めます。
D 医歯薬科系大学進学希望者は「生物U」「化学U」までの履修を勧めます。
E 理系の専門学校に進学を希望する生徒は、「理科総合B」と「物理T」の履修を勧めます。
F 「理科総合A」と「化学T」、「理科総合B」と「地学T」の同時履修はできません。
G 「生物U」を履修するには「化学T」を履修していることを勧めます。


A君:この高校では、理科総合A、理科総合Bのいずれかを必修としているようだ。その他の組み合わせは比較的自由で、例外的に、「理科総合A」と「化学T」、「理科総合B」と「地学T」の同時履修はできません、との記述があるだけ。これで、バランスのよい履修になるのだろうか。

B君:いやいやなんとも言い難い。例えば、許容されている組み合わせの理科総合A
と物理Tだと、かなり偏った知識になりそうだ。

A君:いずれにしても、環境を学ぼうとするのであれば、できるだけ広い知識が必要ですよね。

B君:もう一度整理しよう。九州大学の工学部の地球環境学科への入学生が、生物の内容が多い理科総合Bは93.6%が未履修、生物Tが86.4%が未履修で生物Uが100%未履修。これは、地球環境を学ぶ学生としては大問題だ。

C先生:やはり理科総合A、理科総合Bというものを国立大学は受験科目として設定すべきなのではないだろうか。そして、文系には理科基礎を受験させる。

A君:米国では、すべての大学初年度で、バイオサイエンスを学ばせているとか。これは本当でしょうかね。

B君:こんな文書があった。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/gakujutu/toushin/990603.htm
「因みに、米国では、MITとCITとが、近年、生物学とくにバイオサイエンスをすべての学生に必修とすることを発表した」、という記述がある。

C先生:大学初年度での一般教養科目として環境を必修にするには、高校で何を履修してきたかによって、かなり様々な対応をしなければならないようだ。特に、文部科学省のもくろみとは異なって、どうも理科基礎、理科総合A、理科総合Bが本当の意味で必修になっていないことがあるとしたら、これは大変なことだ。

A君:どんな履修を前提としているのか、少々調べてみましたら、北海道教育ネットワークというところに次のような文書が見つかりました。
http://www.koukou.hokkaido-c.ed.jp/tebiki/h13/H13rika.pdf
 様々な履修の選択の仕方が記述されています。

B君:これは、文部科学省が示したものなのだろうか。

A君:不明ですので、後日さらに調査の予定。
 いずれにしても、この文書には、様々な履修プランの例が示されています。

C先生:個々の例をここで議論するにはスペースが不足。しかし、ここに例がア〜キまであるのだが、それを見ると、比較的教科のバランスを考えたものになっているのだ。

A君:しかも、もしもこの例のように実施されているとしたら、理科基礎、理科総合A、理科総合Bの履修率がかなり高くなっているはずで、九州大学の調査のような数字にはなるはずもない。

B君:ということは、受験重視の高校が、やはり履修をまじめにやっていない。結果として言えることは、現在の高校理科教育のレベルを落としている最大の原因が、高校自身だということか。

A君:そこまで言い切るのは危険だけれど、どうもそのようにも見える。

B君:やはり、センター試験の理科は、理科総合A、理科総合B、理科基礎だけにするという方向が正しいのかもしれない。理系の学生だと、理科総合の両方が必修。文系だと理科基礎が必修。

C先生:それも難しい。なぜならば、センター試験の問題は、恐らく教科書に書かれている範囲という条件を厳密に守る必要があるからだ。そして浅く広い範囲から試験問題を作るのは至難の業だからだ。毎年同じ問題になりかねない。

A君:しかし、現在でも、毎年作っている訳ですよね。もしもそうなれば、環境教育がかなり楽にはなりますね。

B君:無いものねだり。理科の各教科の先生が大反対をすることだろう。

A君:そんなことも無いのでは。二次試験には、化学とか物理とか生物の試験をやれば良いのだから。

B君:受験生に不評を買うのは事実かも。負担が増えるといって。

A君:負担が多少増えることが悪いとは思わないけど。

B君:受験生はそうは思わない。大学入試に手段は選ばず受かることが最大の目標なのだから。日本の科学技術の実力が落ちる原因も、ここにあるのだが。

A君:ニーズがあるところに制度無視ありですか。

C先生:まあこんなところにしておいて、次回以降にでも、環境教育に必要な項目というものはどんなものかを考えて、そして、そして、高校でどのような履修をしてきたかによって、大学の初年度にどのようなクラス分けがあり得るかを検討することにしよう。