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  東日本大震災の歴史的位置付け
  01.29.2012



 こんな題名の講演を、2月2日に仙台市で行うことになりました。三井物産環境基金の交流会&シンポジウムですが、一般向けでもあります。また、宮城県の村井知事の講演があります。

 さて、今回の話題は、「歴史的位置付け」ですが、これまで何回かそのような指摘を行なっているつもりですが、他に余りそのような観点からの議論が無いような気がするもので、問題点を整理しようということです。



C先生:東日本大震災が、被災者だけでなく、すべての人々にとって極めて大きな衝撃を与えたことは間違いない。この大きな衝撃によって、これまで「なんとなく行われてきたこと」が、どうみても浅薄な対応であったことがあぶり出されたと思う。そのようなことを一度整理して、当面の復興だけでなく、長期的な対応を含めて、今後に備えるといったことが必要なのではないだろうか。
 この記事の最後に付録として掲載するが、環境情報科学センターの雑誌「環境情報科学」の巻頭言にそんなことを書いたが、それを膨らませて、議論をしてみたい。

A君:浅薄な対応だけでなく、既得権といった今後の復興の妨害要因になるようなこともあぶり出すことが必要なのではないでしょうか。

B君:この日本社会は、戦後65年以上を経て、色々な種類のピンで地面にしっかりと固定された状態になっていた。東日本大震災によって、あるいはその後の津波の影響によって、それらのピンが浮き上がったのだが、また徐々に、ピンが地面に突き刺さる方向に動き始めている。今、ピンを抜かないと元と全く同じ社会に戻ることになる。

C先生:まず最初の課題は、どのような視点から、問題点を探りだすか。起きたことを起点として、それを発展させるといったやり方にするかどうか。

A君:となると、起きたことのリストですね。

表1:起きたことのリスト

●自然災害とそれによる直接被害
1.大震災そのもの
2.津波
3.交通・輸送網の喪失
4.半導体産業の被災
●間接的被害
1.福島原発の炉心溶融
2.放射性物質の大量放出
●間接的な影響
1.高線量地域の避難
2.避難地域外の放射線懸念
3.福島の農水産業への風評被害
4.同じく規制被害
●他の地域への影響
1.東京電力東北電力の計画停電
2.原発停止によるエネルギー不足
●低線量放射線被曝
1.見解の不一致
2.意図的な扇動
3.無責任な扇動
4.ゼロリスク反応

B君:それはそれで良いが、今後の復興と長期的な対応に関して、様々な問題点が明らかになった。ということは、未来の課題を起点として、それを実現するために阻害要因となることなので、未来からバックキャスト的に見ることも必要だと思う。
 未来的な課題はこんな感じか。

表2:未来的課題のリスト

◆今後の放射線被曝対応
1.危険の回避
2.不安の解消
3.無用・過大な費用の回避
◆脱原発を含むエネルギー戦略
1.自然エネルギー大量導入
2.電力網の全面的な見直し
◆津波被災地の防災対策
1.高台移転なのか
2.防潮堤の役割
◆次の大震災のための準備
1.東海・東南海・南海・日向
2.東京直下型
◆東北地方の農水産業未来像
1.セシウム対策
2.農業全体像 オランダ型?
◆東北地方の自然エネルギー産業未来像
1.風力
2.地熱
◆雇用:公共工事と地場産業
1.東北における雇用の確保
◆最終的には日本全体の将来像


C先生:これを全部議論するとなると、数回以上かかるかもしれない。すでに議論をしてきているように、例えば不安の解消という課題だけでも対応は極めて難しい。特に、科学的な理解を求めるといったことの困難さは際立っている。

A君:そのうち統計学をもっと理解すべきだ、などといった話になる可能性もありますね。

B君:統計学をどうやって理解してもらうか、それはこのHPの課題でもある。実際には次回以降にできたらやってみたい。

C先生:一度、どのような状況であるかを、ざっと振り返って、今週、中心となる話題を決めよう。

A君:それでは、起きたことから。まずは、その準備のために、情報源をいくつか挙げることにしますか。少々参照しながら、判断して下さい。


表3:起きたことのリストの詳細化と情報源の例

●自然災害とそれによる直接被害
1.大震災そのもの
 建物被害:これは、例えば建築研究所のこのようなページが参考になります。
http://www.kenken.go.jp/japanese/contents/topics/20110311/0311quickreport.html
2.津波
 日本地理学会の津波被災マップ
http://map311.ecom-plat.jp/map/map/?mid=40&cid=3&gid=0
 被害マップ
http://www.j-risq.bosai.go.jp/ndis/

3.都市インフラ・交通輸送網・通信網の喪失
 水道:http://www.suidanren.or.jp/action/dmg_rep.html
 下水道:http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/kentoukai/pdf/20110606-s02-01.pdf
 交通:http://www.mlit.go.jp/common/000141262.pdf
 通信網:http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2011pdf/20110601044.pdf
 エネルギー・東北電力:http://www.tohoku-epco.co.jp/csrreport/pdf/now2011_03-32.pdf
 エネルギー・仙台ガス:http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110605/biz11060523270007-n1.htm
 ライフライン総論:http://www.jsce.or.jp/committee/eec2/eq_report/201103tohoku/nojima1.pdf
4.半導体産業の被災
http://www.toyokeizai.net/business/industrial/detail/AC/cff3a066d151ad6f86fd399ff44f0ff4/page/1/


C先生:さて、「歴史的な位置付け」ということで何を取り上げるべきか。
 まず、いまさら調査しなくても分かることではあるが、M9級の地震による津波の被害が極めて大きい。ところが、M9級の津波は、起きる頻度と言えば、1000年に一度。700年という説もあるが。
 これをどう考えるか。

A君:岩手県から福島沖を震源とするものだとすれば、869年の貞観地震以来の巨大地震だった可能性が高い。

B君:東海・東南海・南海を震源とする地震としては887年の仁和地震、そして、1707年の宝永地震がこの規模だっただろうか。

A君:政府の地震調査研究推進本部は、昨年11月24日に三陸沖から房総沖を震源とするM9級の地震が、30年以内に30%の確率で起きるとしました。

B君:先日の朝日新聞によれば、北大特任教授の平川一臣氏が「科学」に発表するという論文によれば、下北半島沖にも可能性があるとのこと。

C先生:とはいえ、津波災害としては、例えば南三陸、陸前高田などで、どのぐらいの高さになるものなのだろう。そこを評価しないと、津波被害への対応ができない。

A君:地図を眺めると、もしも房総沖でM9が起きると、金華山から仙台郊外あたりは向きが悪いので、津波被害が大きいかもしれない。

B君:今回の東日本大震災でエネルギーを相当放出したのに、過小評価を避けるためだろうか、このような予測になっている。

A君:この予測がオオカミ少年的になっていないのか、その評価は歴史のみぞ知るなのでしょうか。地震学というものの再構築が必要のように思いますね。リスクを過大に評価しすぎることは、今回の低線量曝露のリスクについても言えるように、ある種の犯罪行為になりますからね。

B君:地域別に考えれば、歴史が示すように、1000年に一度のM9級大津波、そして、100年に一度のケース、30年に一度のケースぐらいに分けて対策を考えるべきではないか。

A君:ここでの議論としては、そういう仮定で考えましょう。
 1000年という時間は、ヒトの寿命の10倍以上なので、通常の発想では対応できない。よく誰かに何かを頼むとき、「よろしくお願いします」というが、それは、その人が生存している間に何かをやって欲しいということなので、1000年後のことをよろしくお願いしますとは言えない。

B君:あたり前すぎて無意味なことを言っている。現在80歳だとして、10歳の子どもに向かって、頼みごとをするとしても、100年後のことを頼むことは不可能。良くて、50〜60年後。

C先生:どうも、人間社会においては、情報の半減期というものがあって、多くのものは10年未満なのだが、伝言ゲームのような形式で未来に情報を伝達する場合の理論的な到達限界は50〜60年で、これでヒトに蓄積された情報は消滅する。しかし、人間社会には、古文書のような古い時代を文字や図の形で後世に残すということが可能だ。これがサルの社会との最大の違い。

A君:それに、貞観地震による津波の痕跡を地質学的に検討するといった方法論がある。これは、自然も、湖底の泥などに、歴史を刻んで保存しているということですね。

C先生:津波だけでなく、地震による被害もかなりのものであった。しかし、阪神淡路大震災の教訓を生かした復興が行われて、仙台市のガスはかなりのスピードだった。日本全国からの協力を得て、ガス供給が復活している。

A君:次に起こる東京圏の場合には、そう簡単にガスは復活しませんよね。なんといっても余りにも膨大だから。

B君:電力はまずまず復活するとは思うが、東京圏がやられたら、エネルギー供給の絶対量が極めて不足する事態になるだろう。そのような場合に、最後に頼りになるのは、やはり化石燃料。なんといっても備蓄が可能だから。

A君:現在備蓄されているのは、原油だけではないですか。原油の形ではなく、灯油か軽油で保存するのは難しいのでしょうか。

B君:多分そうなのだろう。原油なら、その後精製をするので、多少変質しても問題はないが、灯油や軽油を10年以上保存すると、明らかに変質するのではないだろうか。

C先生:いずれにしても、なんらかの形でエネルギーを保存するということを考えた方が良いことは事実だ。国レベルで戦略を練り直すことが必要なのではないだろうか。

A君:津波ではなく、震災の直接的被害なのに、かなり長い間それが続いたのが、ルネサスの半導体工場の被災でしたね。同じ半導体でも、産業用半導体は儲からない構造になっていたようで、どんどんと大規模化することが必須だった。

B君:ということは、多少、コスト高にはなっても分散型の生産体制を確保するということが必要なのだろうが、これに関して国としてどう関与するのか、難しいところだ。

A君:その多少コスト高になっても、というのが難しい。

C先生:それについては、後でまた議論しよう。それでは、間接的被害に議論を移そう。

表1の続き
●間接的被害:ほぼ福島原発関係
1.福島原発の炉心溶融
2.放射性物質の大量放出
●間接的な影響
1.高線量地域の避難
2.避難地域外の放射線懸念
3.福島の農水産業への風評被害
4.同じく規制被害
●他の地域への影響
1.東京電力東北電力の計画停電
2.原発停止によるエネルギー不足
●低線量放射線被曝
1.見解の不一致
2.意図的な扇動
3.無責任な扇動
4.ゼロリスク反応


A君:福島原発の炉心溶融は、明らかに人災だっと思いますね。

B君:万が一、あるいは、億が一かもしないが、もしも起きたら、元に戻るまでに相当の時間が掛かり、影響が膨大なハザードを引き起こす可能性のある人工物については、確率がほぼゼロであっても、リスクは大きくなるということの認識が無かった。

A君:全電源喪失などあるはずもないので、考えに入れないという方針を決めたのは誰なのでしょうね。リスクというものの本質を分かっていない。

B君:文系の社長が続く東京電力の弱点。

A君:マーク1のような40歳を超す初期型原発、人間で言えば昭和30年頃当時(男性の平均寿命が50歳)の70歳ぐらいの原発をこき使えば、それは儲かりますね。

C先生:「安全神話」というものがあって、「絶対安全」という有りもしない概念を使った住民との合意形成を進めてきたことが根本的原因だと思う。

A君:日本人のゼロリスク思想がもっとも特徴的に反映されているのが、「絶対安全なる安全神話」ですね。

B君:反原発団体と交渉すると、かならず「絶対に安全なのですね」と聞かれる。それに対して、イエスと答えないと、受け入れられない。何回もイエスと答えているうちに、いささかでもノーの要素があるので、安全性を多少なりとも向上させようとして改善しようとすると、「これまで安全でなかったのか」、とか、「この改善を行うのなら、すべての安全が保証されるまで、原発をすべて止めろ」とか言われる。

A君:そうこうしているうちに、電力側も安全神話が本当なのだと思い込まなければならなくなる。

C先生:マーク1は、GEの原発なのだが、そこに日本という土地に安全面での適合させる設計変更がどのように行われてきたのか、さらに、米国ではスリーマイル島事故の後で、原発の安全性を全面的に再検討して、その核心的情報が日本に伝達されているはず。それが活用されなかった理由も、もっと検討対象にすべきだろう。

A君:安全神話を巡る状況を歴史的に残すことが、極めて重要な作業になることは事実ですね。

C先生:低線量被曝と不安解消の問題も、根本から考え直さなければならない問題。反原発団体にとって、今は最高の状況なのだから、反原発の主張と低線量被曝のリスクとは完全に切り離して、福島の被害者の救済をすることを考えて貰いたい。そのような状況が作れなければ、反原発団体が広く支持されることは無いだろう。

A君:今後、原発の寿命を40年とみて、例外を除いて、その段階で止めることを原則とするという方針が出ていますが、重電の機器では、40年は普通かもしれないですが、それにしても良く持ちますね。

B君:メンテナンスの勝利なのだろう。ただ、いくらメンテナンスをしても交換が圧力容器など不可能なものもあるので、寿命を設定するということになる。

A君:原発を減らすという方針が決まったとして、今後、化石燃料を増やすわけにも行かない。となると、自然エネルギーへの依存をある程度増やす以外にない。しかし、その前にやることとしては、省エネへの全面的なチャレンジなのですが、そんな方向性が明確になりませんね。

B君:このHPの基本的主張だが、「省エネは、政府の仕事ではない、民間に任せる」と思われているのではないだろうか。

C先生:民間にお任せという方針も一つの国全体としての方針ではある。そのためもあって、最近、公共調達が問題視され、談合防止は当然として、民間活力にお任せを実現するため、一般競争入札が強く要請されている。しかし、そこには副作用もある。
 例えば、雪国の公共工事を多少競争性を低くし、夏の間の道路整備などで利潤を得られるような構造にしておけば、儲からない冬の除雪作業をやってくれる労働力が確保できる。なんでも一般競争入札にすると、入札価格がどんどんと低下し、地域の土木建設業が潰れてしまって、結果として、除雪作業をしてくれる人がいなくなるようなことも起きるのだ。
 すなわち、過剰競争になって民間の利潤が減り、雇用も減り、しかもデフレになるという副作用が起きる。
 こんなことは明らかなのだが、一方で、長い長い時間を掛けて作られた癒着構造があることも事実なので、どのような対応をすべきなのか、本当に難しい問題ではある。

A君:現在の公共調達は、国がもっとも公平性を求められ、地方自治体が次でしょうか。それに比べれば、電力とか高速道路とか言った公的な性格が強い組織なのに、株式会社になっているところの調達では、恐らく相当の癒着構造が残っているのではないですか。

B君:噂では色々と聞く。日本の地熱が普及しない理由は、まず、穴掘りのコストが世界的に10倍以上、送電線が1キロ10億円もかかるが、これが世界標準の10倍。電線が無いところに発電所を作ると初期投資が高くなりすぎるので、普及しない。

A君:外国では、穴掘りは成功報酬らしいですね。地熱を掘り当てれば払うという条件で契約が行われているらしいですが、日本では、蒸気が全く出ない場合でも、費用を払うとか。

B君:それでは、実質上高くなるに決まっている。

C先生:よくよく考えると、我々は妙な議論をしている。先ほど、一般競争入札でやると儲からないので、雇用が減るなどの副作用があるといったが、穴掘りを成功報酬型の一般競争入札でやったら、やはり費用が削減されるから、雇用が減ることにならないか。特に、外国企業の参入を認めたら、仕事が全部持って行かれることにはならないか。

A君:その通りですね。そして、雇用が減る。

B君:現在、非正規雇用が増えていて、不公平だという話もこのような議論に近い。非正規雇用をゼロにして、すべて正規雇用にすると、企業の人件費が高くなりすぎて、中国やベトナムなどとの労働コストの競争には絶対に勝てないので、グローバルマーケットでは負ける。

A君:この非正規雇用の問題の決定的な解決法はあるにはあって、すべての雇用の形態を非正規雇用の形態にすれば、少なくとも公平性の観点から言えば、解決法になる。終身雇用などという日本流の雇用形態をすべて無くすことになるので、社会的に非常に不安定な状況になるという副作用が予想されますが。

B君:アメリカの雇用は、むしろ、全員が非正規雇用という状態に近いのではないだろうか。

A君:日本は、セカンドチャンスが無い国だとも言われますが、それも恐らく解決する。しかし、それが良いとは言えないように思いますね。

C先生:別の話題だ。福島の農水産業の復活は、非常に大きな問題だと思うのだが、一部には、どうせ東電に補償させるのだから、一次産業従事者は、しばらく寝ていれば良いのだ、という考えの人もいるようだ。

A君:それは必ずしも正解ではないですね。やはり、人に喜んでもらうために働くというのが正しい状況。誰かに食べて貰うために、農水産業を行うのが正しい。誰も食べないもの作るような作業をやらされる立場を考えないと。徒労でしかない作業なのだから。

B君:このあたり、関西人の冷たさだけでなく、食品安全委員会の冷たさが非常に気になる。食品の規制を強めればそれで良いのか。食品の安全性が問題になったときには、なんでもBSEの全頭検査と同じことをやれば良いのか。

A君:BSEのリスク評価の責任者だった東大農学部の吉川泰弘先生が、食品安全委員会委員に着任することが民主党の反対でポシャったのが2009年6月5日。民主党は当然、そのとき野党だった。中西準子先生の記事がその状況を読めば、状況はよく分かります。
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak481_485.html

B君:中西先生は、事務局に責任ありという意見のように読める。今回も同様の事態なのかもしれないが。

C先生:最後に、未来的な課題もちょっと考えよう。

表2再掲:未来的課題のリスト

◆今後の放射線被曝対応
1.危険の回避
2.不安の解消
3.無用・過大な費用の回避
◆脱原発を含むエネルギー戦略
1.自然エネルギー大量導入
2.電力網の全面的な見直し
◆津波被災地の防災対策
1.高台移転なのか
2.防潮堤の役割
◆次の大震災のための準備
1.東海・東南海・南海・日向
2.東京直下型
◆東北地方の農水産業未来像
1.セシウム対策
2.農業全体像 オランダ型?
◆東北地方の自然エネルギー産業未来像
1.風力
2.地熱
◆雇用:公共工事と地場産業
1.東北における雇用の確保
◆最終的には日本全体の将来像


A君:問題になりそうな点を順不同で。
 一つは、除染の具体的なやり方。ここに選挙対策的な考え方が入ると、またまた税金の無駄使いになるでしょう。

B君:自然エネルギーの大量導入は、当然のことではあるが、本当に実現できるかどうか、現在の電力網を根本的に変更することなしには実現不可能であることなので、その方向性を作ることができるかどうか。

A君:復興のための街づくりの方針が、今のようなもので良いのか。1000年に1度の天災ばかりを考えるのではなく、もっとも守るべきものを決め、その保護を前提としながらも、日常的な生活の利便性も考慮した妥協案を作ることが、最大の決め手だと思います。

B君:もっとも守るべきものとしては、やはり人命なのだろう。なんといっても、復元が不可能なのだから。となれば、人命最優先、しかし、生活も優先するという方策がベストになる。

A君:30年周期の津波・天災を対象とした防衛策を講じつつ、人命の損失だけは、1000年級も考慮しつつ考える。

C先生:そんなところだろうと思う。
 さて、東北の自然エネルギーの有効活用を行うことを考えると、特に、風力と津軽海峡の潮流発電に注目することになる。風力の電力をせめて60Hz域に送ることができるような直流幹線網が良いと思うのだが、どうも、電力の専門家には、評判が良くない。高いというのだが、日本の送電網は元々高いので、それほど違わないのではないだろうか。それとも新しい技術への抵抗感があるからなのだろうか。

A君:電力網だけでなくて、津軽海峡の潮流発電の場合には、漁業補償の問題が非常に大きいようですね。大間のマグロがやはり問題のようで、一切拒否というのが漁協の態度らしいです。

B君:それが漁協のトップが変わると変わるというのだから、困ったもの。それこそ政治家の出番だと思うのだが、最近の政治家は、地元密着の主張ばかりで、日本全体のあるべき姿を議論するということをしない。

A君:原発を止めるのであれば、もしも気候変動対応を重視するという姿勢を持てば、再生可能エネルギーを使うことになる。再生可能エネルギーはあらゆるものを活用するというスタンスでなければ、何もできないのだから、漁業補償で、潮流発電が止められているようでは、話にならない。

B君:これも日本を固定しているピンの一本。今回の事態でも、あまり緩んでいないピンかもしれない。

C先生:ということぐらいだろうか。やはり、1000年という時間をどう考えるか、それが最大の問題なのかもしれない。そのぐらいのスケールの大きな問題のはずなのだが、低線量被曝が典型的なケースだが、余りにも視野が狭い議論が行われているように思える。もう少々広い心と視野を持たないと、それこそ、何年か後に、全く間違った対応をしたと言われるような気がしてならない。




付録:環境情報科学センターの機関誌「環境情報科学」の巻頭言として書いた文章

東日本大震災は、個人的にも最大の衝撃であった。歴史的に見れば、観測史上最大とされるこの地震は、岩手県から福島沖を震源とする869年の貞観地震以来の巨大地震であったものと思われる。また、東海・東南海・南海を震源とする地震としては887年の仁和地震、そして、1707年の宝永地震がこの規模だっただろうか。
 もしもこのような巨大地震が1000年間に1度程度の頻度で起きるとしたら、このような巨大災害に対して、日本人はどのような対処をすべきなのだろう。
 福島原発事故は、まさに想定外の事故であったが、その内容を吟味すれば、どうもリスク対応を怠ったという人災的な意味合いが強いようである。日本国内での原発は減少させる方向かもしれないが、世界全体では、原発はまだまだ推進の方向である。事故が起きなかったとしても、使用済み核燃料の処理をどうするか、という大きな問題がある。特段の処理をしないで保存すれば、安全に人が触ることができるレベルまで放射線強度が下がるには10〜100万年の期間が必要になる。もしもプルトニウムを分離して、いわゆる高レベルガラス固化体にした場合でも、1000年間の管理が必要となる。やはり1000年が鍵である。
 この1000年という時間をどのように考えるのか。寿命が高々100年しかないヒトという生物が、1000年という時間に対してどのように対応をするのだろうか。
 通常、災害などの危険性に対応するためには、リスクを考え、それに対応をするという方法論が理論的であるとされる。しかし、ヒトの一生を超える時間に対しては、通常のリスク論は通用しそうもないように思える。
 すなわち、少なくとも1000年後に起きる巨大災害を対象として、現時点で巨大防潮堤を作ったとしても、人為的な構造物に使われる材料の寿命は、プラミッドのように巨大天然石材を積み上げたものにすればいざしらず、コンクリート製であるかぎり200年程度までではないだろうか。
 となると、1000年周期の災害には、対処の方法が無いことになるため、リスクを計算したところで、無意味だということになる。
 しかし、一方で、100年以下の周期でやってくる大規模な地震と津波、例えば、1933年の昭和三陸地震、1896年の明治三陸地震などへの対応は、別の発想で対処すべきだろうと思われる。
 現在、津波の被災地で進められている対応策の一つに高台移転というものがある。これは、1000年後に起きる津波にも対応可能な方法論ではあるのだが、漁業関係者にとっては、船を係留している港から離れることは、船を沖合に出すという対応が遅れることを意味し、必ずしも完璧な方法ではない。そこで、50年以内に、海岸付近へ舞い戻ることが普通だろう。すなわち、海岸付近を強制的に水田化でもしない限り、その地域への移転を防止することはできない。
 人命を最優先するのであれば、むしろ津波に耐える10階建て程度のビルを海岸に建設し、そこに居住すると共に、避難ビルとしても活用するという方針が良いのではないだろうか。
 今回の東日本大震災によって起きた放射性物質による環境汚染に対しては、個々人によって様々な対応をするという現象が起きた。その最大の要因は、放射線被曝のリスクに対する国として統一されたメッセージが出されないことにある。また、自治体の長によるご都合主義的な対応も原因の一つである。
 現時点でも、内閣府の食品安全委員会の暫定基準の改訂の方針と、文部科学省の放射線審議会の見解とは全く異なったものになっている。
 すなわち、放射線審議会の対応方針は過去60年以上におよぶICRPの科学的検討結果に準拠したものとなっているのに対し、食品安全委員会の対応は、現政府の選挙民対応が強く反映したものになっている。
 この問題は、リスク科学がカバーできる範囲であり、合理的な対応が可能なものであるが、メディアなどにはそのような意識は無いようである。