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  日立冷蔵庫エコ偽装事件の真相    05.17.2009
     



 5月15日からエコポイントの活用によるグリーン家電普及事業が仮実施されている。統一省エネラベルの星印が4つ以上の省エネ性能をもつ製品についてエコポイントが付与され、ポイントはなんらかの買い物に使用できる。

 この制度でエコ製品の目安になるのが、統一省エネラベルの星の数である。この星の数は、メーカーによって本当に公正に付されているのか。そんなことを疑わせる事件が4月に発生している。

 それは、日立の冷蔵庫のエコ偽装である。4月20日に公正取引委員会から排除命令を受けている。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.april/090420.pdf



C先生:実のところ、最初、新聞記事を見た限りでは、何が起きたかさっぱり分からなかった。

A君:新聞記事を読んだもので、日立が何を出しているのか、ということでお詫びの文書を見たのですが、本当に何が起きたのか、その内容が理解できなかった。

B君:まあ、新聞報道からすべては始まるので、まずは新聞報道の解析からやるのが普通だろう。

A君:それでは、まず某紙の引用をしましょう。

 対象となったのは、昨年9〜11月に発売した「栄養いきいき真空チルドV」「ビッグ&スリム60」の2シリーズ計9機種。
 公取委によると、昨年11月以降のカタログやウェブサイト、今年2月の新聞広告などで「日立は業界ではじめて、リサイクル材を活用した真空断熱材の採用を始めました」、「製造工程でのCO2排出量 約48%削減」などと表示した。しかし実際には、6機種でリサイクル材を一切使っておらず、残り3機種も天板に半分使っただけ。CO2排出量の削減率も数%程度だった。
 公取委幹部は「消費者のエコに対する関心が高まる中、大企業として極めて問題ある対応」と指摘している。


B君:ついでだが、某紙のインターネット記事から引用を次に示そう。

 本体内の断熱材に廃棄冷蔵庫からリサイクルされた樹脂を使用することでCO2を約48%削減した、とカタログやウェブサイトで表示していた。
 だが、実際にリサイクル樹脂が使用されたのは一部機種の一部期間に生産した製品のみ。CO2の削減量も表示された数値を下回る十数%程度に留まったという。


C先生:新聞記事などを読んでどんな印象だ?

A君:まあポイントはと言えば、「リサイクル材を活用して、CO2排出量を約48%も削減した、とカタログなどで表示しているのに、実際には、リサイクル材をほとんど使っておらず、CO2排出量の削減も数〜十数%だった」、ということですよね。

B君:公正取引委員会がこのようなときに根拠とする法律が、景品表示法という妙な名前の法律で、これは、「優良誤認」に相当する、という判断になると、排除命令が出される。すなわち、製品の実態よりもずっと良いものだという誤解を与える表現があれば、不適切だから排除する。これが公正取引委員会の解釈だということになる。

C先生:ここまで読んでも、何の不思議もない、と思われるのが普通だろう。

A君:確かに。それほど不思議に思わない方も多いかもしれない。

B君:それも当然。普通の市民であれば、リサイクルをするとCO2排出量などの環境負荷が削減可能だと考えている。例えば、アルミ缶であれば、リサイクル材を使ったものであれば、大幅にCO2発生量の削減が可能だから、リサイクル材を使えば、CO2発生が抑制されるという表現が不思議ではないかもしれない。

A君:どのような意見があるか、ブログを探してみました。日立の行為を余り厳しく追及するのは気の毒なように思うというブログの作者は次のように記述していますね。

 「このメーカーは、真空断熱材の性能は、リサイクル品の樹脂を使うよりは、新品を使った方がライフサイクル的な省エネ性ではなく、冷蔵庫の使用期間中の省エネ性がむしろ良いのでユーザーに対しては、余り偽装とかいった意識はなかったのだろうと推察します。」

B君:ライフサイクル的という表現は、真空断熱材の製造時のCO2排出量を考えれば、と言った意味合いだろう。この人は、結構プロに近いらしくて、リサイクルプラスチックを使うと断熱性能が悪くなる可能性があることを見抜いているようだ。

A君:新品を使えばプラスチックからの放出ガスなども少ないが、リサイクルプラスチックを使うと、不純物も入っているので、ガスが放出され、せっかくの真空が真空でなくなる可能性があるという指摘ですね。

B君:真空が断熱性能が高いのは誰しも認めるところなのだ。真空断熱は、そのために断熱材の厚みを薄くすることができる。すると、小型なのに、大容量の冷蔵庫ができる。真空がその役割を背負っているのだ。しかし、もしも真空が真空でなくなると、とたんに熱伝導性が高くなる。すなわち、断熱性能が下がる。

A君:となると、できの悪い真空断熱材を使った冷蔵庫は、性能の劣化が極めて心配。

B君:事実、初期のシャープ製の真空断熱材は、そんな特性だったという噂を某メーカーから聞いたことがある。

C先生:まあ、余分は話は別にして、先に進もう。

A君:ライフサイクルアセスメントなどという手法を若干でもかじったことがあると、CO2削減というような表現には直感的に反応してしまって、これは妙だと思う。

B君:まあ、そうだな。なぜならば、プラスチックのリサイクルによって、新品よりも48%もCO2排出量が下がることは、まずあり得ないのである。

C先生:実は、各人なんか変だ、とは思っていたのだが、そんな状態で連休入りをしてしまったもので、1ヶ月近くも追求をするのが遅れてしまった。

A君:もっと早く調べる方が良かったのですが、色々と他にも話題があって。Webを調べていたら、山陽新聞が社説で、「エコポイントの対象であるエコプロダクツの信頼性が揺らぐような事件だ」、と書いてあることを発見。これは確かにそうかもしれないと思いましたね。

C先生:それでは、記述を続けよう。まずは、日立のお詫び文書についての検討から。

A君:日立は、以下のようなお詫び文書を公開しています。
http://kadenfan.hitachi.co.jp/info/owabi.pdf
 次の表が9機種の実態。ほとんどリサイクル材が使われていなかったことが分かります。


表1 日立による9機種へのリサイクル材の使用実績

B君:カタログには、以下のような記述がある。
 「加熱プレス成形真空断熱材 3719t/年、リサイクル材を採用した非加熱成形断熱材1952t/年」
そして、次のような図によって、本来であれば、48%の排出量削減ができたはずだ、という説明をしている。


図1 CO2発生削減

A君:この文章を読むと疑問が出てくる。非リサイクル材であれば、加熱プレス成形をして真空断熱材を作るのに、リサイクル材の場合には、非加熱成形をするということなのだろうか。

B君:その通り。非リサイクル材なら、加熱してプレスをしないと成形ができないのに、リサイクル材の場合には、なぜか簡単に圧力を掛けたぐらいで成形ができるということなのだろうか。

C先生:こんな状況が実現されるのも、実は、材質が相当違わないと理解できないことである。

A君:すなわち、非リサイクル材とリサイクル材は、実は、同じ全く違う種類の材料なのではないか、という推論が成り立つのだが、詳細が説明されていないために、余りはっきりしない。

C先生:そこで、再び振り出しに戻って、公正取引委員会の排除命令文書を見ることにしたい。

A君:4月20日にだされた排除命令の文書の現物を見ないでいたのは手落ちでしたね。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.april/090420.pdf
日立がお詫び文書に出した表1に相当する表が見つかる。それが表2である。


表2 公正取引委員会の排除命令の中にある表で、日立のお詫び文書の表に相当するもの。

C先生:そうなんだ。この表を見ていて、はっと気づいたのだ。なんと恐るべき言葉が出ているのだ。それが「グラスウール」である。再生プラスチックを使わない機種では、断熱材の芯材として、なんと新品のプラスチックではなくて、グラスウールが使われていた。

A君:本当ですね。ここで、まず謎が解けた。グラスウール、すなわち、ガラス短繊維が主な素材だったのです。

B君:ここで、真空断熱材の歴史を少々調べてみることにした。結論としては、真空断熱材の実用化は、パナソニックが先行した。

A君:いや、冷蔵庫への真空断熱材の適用は、ひょっとするとシャープが最初だったのかもしれない。 シャープのTechnical Journal の−通巻73号−(1999年4月)に環境特集が組まれており、そこに、真空断熱材の記述がある。
http://www.sharp.co.jp/corporate/rd/back_num/index.html
どうやらシリカの粉体を充填用に使っていたようである。

B君:パナソニックには、
http://panasonic.co.jp/ism/vacuum/index.html
に真空断熱材を使ったノンフロン冷蔵庫を発売したのが2002年との記述があるからみて、確かに、シャープが先行していた可能性が高い。
 しかし、先ほど述べたような噂があって、シャープの初期の真空断熱材は、寿命が短かったのではないか。使用中の冷蔵庫の消費電力を測定して、その真偽を明らかにしたいところだ。。

C先生:パナソニックの開発記によれば、最初は、あらゆる粉体あらゆる材料を充填した断熱材を試みたが、結局、ガラスファイバー製の芯材を使うことによって、性能が格段に向上したという記述がある。

A君:いずれにしても、2002年発売のナショナル製(当時)ノンフロン冷蔵庫の効率の高さは、まさに驚異だったですね。それ以後、ほぼすべてのメーカーがノンフロンに加えて、真空断熱を使ったモデルを発売したことによっても、その威力が分かります。

C先生:我々も知らなかったのだが、要するに、真空断熱材の芯材は、ガラスファイバーが普通だったのだ。日立も、今回の事件でリサイクルプラスチックを使うといった試みをする以前は、ガラスファイバーを加熱して成型し、そして、真空断熱材の芯材にしていたのだ。

A君:まあ当然なのですが。ガラスを加熱し、軟化させて変形して成型するという方法なだけに、当然のことながら、使用エネルギーが大きい。もしもプラスチック製の芯材を使うことが可能になれば、当然、成型温度は低くてすむ。したがって、製造過程の省エネとCO2排出量の抑制が可能になるというストーリーだった訳ですね。

B君:本当に気づかなかった。ガラスの替わりにプラスチックを使うことが省エネなのであって、プラスチックのリサイクル材を使うことが、省エネだという訳ではなかったのである。

A君:プラスチックとしてリサイクル材を使おうが新品を使おうが、実は、真空断熱材の芯材の製造に関わるCO2削減量などはほとんど変化しないと思われるのです。

C先生:ところが、日立の書いた文書では論理のすり替えが行われている。お詫び文書の中に、ガラスファイバーという言葉が入っていないのだ。ガラスファイバーからプラスチックに変更することによるCO2排出抑制であって、プラスチックを再生プラスチックに変えることによるCO2排出抑制ではなかったことを、一般に知られたくなかったという可能性は十分にあるように思える。

A君:それにしても不思議なのが、最初に示した新聞あるいは新聞関係のインターネットの表現ですよね。

 「実際には、リサイクル材をほとんど使っておらず、CO2排出量の削減も数〜十数%だった」。

B君:なぜ、こんな表現になったのだろう。記者が何が起きていたか、その真実を見抜けなかった。

A君:多分その通り。もし真実を見抜いていれば、こんな表現になったはずですから。

 「実際には、リサイクル材を使おうが、新しいプラスチック材料を使おうがCO2排出量の削減量は変わらない。ただし、ガラスファイバーを使った芯材をプラスチック素材に変えることによってかなりCO2排出が抑制されたと考えられる。大部分の機種ではガラスファイバー製芯材が使用されたことを考慮すると、その削減量は、機種にもよって違うが0〜十数%だっただろう」。

B君:この程度の事件、と言っては言い過ぎかもしれないが、こんなにスペースが必要な記述が行われるとは思えない。

A君:最近、新聞は中身が薄くなった。文字数を減らすと良い記事だ。文字数が多いとそれは読まれない。こう単純に決めつけている。

B君:文字数を減らせば分かりやすい文章になるというのはある程度本当かもしれないが、事実を十分に表現できないために、却ってわかりにくくなるということがあることを、新聞社はもっと厳粛に受け止めるべきだ。

C先生:確かにその通り。短く記述したら本質が失われてしまう可能性がある。特に、記者の実力が不足していると、今回のような記事になってしまう。

A君:新聞の読み方にまたまた新しい教訓が得られたようですね。

B君:短すぎる表現では表現しきれていない。ものの本質が歪んでいる可能性が高い。

C先生:さて、真空断熱材でエコ偽装が起きたのは、確かに遺憾なのだが、もっとも恐ろしいことがある。真空断熱材の性能が維持できていないとどうなるかである。そうなれば、消費電力が激増することになるからだ。

A君:こんなことは、消費電力を実際に測定してみれば分かることですね。

B君:ところが、一般市民で消費電力計を持っている人はまず皆無でしょう。

A君:現在インターネットなどで購入が可能なものは、ほぼ3種類に限られるが、冷蔵庫の場合には、以下の2種類がお奨めですね。
(1)エコワット 大体3000円。
 モデルに3種類あるが、二代目のT3T-R1 タイプは誤差が大きいとのこと。
http://www.cwo.zaq.ne.jp/rupisu/kan/ew3.htm
最新モデルのT3T-R2であればOK。
(2)ワットチェッカー 大体5000〜7000円。
 これもモデルが複数あるが、恐らく、どれでもOK。本格的な測定をしたい場合には、これがお奨め。エコワットよりも優れた機能あり。

B君:もっと多くの消費者が冷蔵庫の消費電力を計ること、これが消費者が自分自身を守ることに繋がることだろう。

C先生:そんなところだ。エコポイントは、景気対策だと達観をすることも可能だが、本当のところは、統一省エネマークは、本当の省エネ製品にのみ付与されるべきものだ。

A君:ところが、冷蔵庫、テレビ、エアコン、いずれも、時間とともに、消費電力は増大する可能性が高い。

B君:冷蔵庫は、断熱材の劣化によって。テレビは、液晶タイプであれば、冷陰極管の発光効率の低下、プラズマタイプであれば、蛍光材料の劣化によって、輝度が下がるから、同じ明るさで見るとすると、消費電力は大きくなる。エアコンは、フィルターは掃除をしてもどうしても汚れるし、放熱器も汚れるために、熱効率が下がる。

C先生:これまで家電製品の経時変化については、発火などの危険性があるということは指摘されてきたが、実は、消費電力も増えている機種がある。それがいずれも、今回のエコポイントの対象商品なのだ。景気対策としては仕方がない。しかし、本当のエコ商品を明らかにするためには、テストが必要不可欠なのだ。