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   環境俯瞰力をどう高めるか    12.19.2015
          環境経営のアドバイス力に効く        




 EA21関係者以外の方へ:今回の記事は、かなり内輪の動機で書かれています。現在、筆者が所属(非常勤)している持続性推進機構は、環境省がスキームオーナーであるエコアクション21=EA21(環境管理マネジメント・システムEMS)の認証登録機関であるEA21中央事務局が存在している一般財団です。ISO14001の中小企業バージョンだとお考え下さい。中央事務局の元に、現時点で54の地域事務局、800名の審査人、そして、認証登録件数は約7600社です。

 この事業の核心は、当然ながら、クライアントである認証登録事業者の満足度にあります。それには、審査人の多様なアドバイスを行う能力が非常に重要な要素になると考えています。

 EA21の全国大会が、今年、10月16、17日に、横浜市のパシフィコ横浜で行われ、600名ほどの審査人の他、地域事務局を含め、合計700人を超す参加者になりました。

 そこで、基調講演をやらせていただき、審査人の持つべき実力として、『俯瞰力』、中でも、『環境俯瞰力』をいかに高めるか、これが重要な要素の一つであると述べました。

 しかし、もう一度考えてみると、審査人に必要な俯瞰力は、環境経営を含む環境に関わる「環境俯瞰力」だけではなくて、経営者や従業員などの意識をどう刺激し、どう変えるかといった、対人間力向上に有効な『人間俯瞰力』も必要という結論になります。しかし、その向上を図ることは、かなりハードルが高いことなのかもしれません。

 ここでは、まずは、環境俯瞰力とは何か、どうやって向上させることができるか、を考察してみたいと思います。

 対人間力向上、具体的には、相手の性格を細かく分析する能力だと思いますが、これに関する人間俯瞰力の話は、どうも人生経験=どれぐらい様々な人々と話をしたか、によって獲得する以外にないような気がするので、今回は、記述なしにしたいと思います。



C先生:結構、難しい課題に取り組むことになる。まず、環境俯瞰力の要素としては、どのようなことがあるのか、その解析を行ってみよう。

A君:横浜での講演のPPTを見ると、環境俯瞰力=環境分野に対する視野の広さ × 視力 ではないか、という感じですね。

B君:まあ、「それで正解だ」というには、まだ未熟成だと思う。いずれにしても、環境問題のもっとも難しいところは、その重みづけがどんどんと変わってしまうこと。それは、環境問題の宿命のようなもので、環境問題とは、その定義そのものが「人間活動に起源する諸問題」なので、人々がコントロールをする気になれば、現時点であれば、ほとんどの場合において可能。しかし、何か状況が変わったら、あるいは、その国の状況に応じて、「環境」というものの重み付けが違ってくる。

A君:これまで、様々な環境問題があったけれど、現時点での状況では、もっとも難しい環境問題が地球温暖化かもしれない。これは、すでに「制御可能のレベル」を超したかもしれない。COP21での合意形成が、あれほどの注目を集めた理由の1つがこれですね。化石燃料という大変便利なエネルギー源を人類が使い始めて250年ぐらいが経過したけれど、億年単位で植物が大気中から吸収したCO2を、その100万倍の速度で大気に戻してしまっては、当然だめだということですから。



C先生:本題に行こう。各項目について、詳細な議論は後ほど行うとして、それでは、環境俯瞰力などの定義を行ってくれ。

A君:以下、基本的な定義です。この3名では、ほぼ合意されていることです。

定義1:環境=地球全体=地球(人間以外)のすべて + 人間のすべて

定義2:環境問題=地球のすべて x (欲望がドライブする)人間の活動のすべて、という相互作用によって引き起こされる諸問題

定義3: 環境俯瞰力=(地球と人間に関する)視野の広さ x 動画的視力

定義3補1: 視野の広さ=歴史的な広さ x カバーする分野の広さ

定義3補2: 動画的視力 = 観察・分析の鋭さ x 考察の深さ x 時間による変化の検出力

定義3補3: 人間に関する理解は、特に、時間的な変動や揺らぎをフォローすることが重要。


 時間的変動の理解は、長い経験を持っていることがプラスに作用する数少ない場合でもある。人間に関する理解では、日本人と西欧人、(多神教と一神教)の違いによる発想の違いを含めて理解すべき。



B君:合意しているとは言っても、実は、まだ仮説の段階だ。しかし、これを基礎にして議論をはじめるのだろうな。

A君:若干の説明を。定義1のポイントは、「環境」の定義だということですが、地球のすべてに人間のすべての和で積ではないということです。他の動物類は、地球の中の一要素として入っています。これは、文句はでないと思うのですが。

B君:他の動物類が引き起こす環境影響を考える必要がないということは、要するに、人間という生命は、かなり特殊で、地球を破綻に導くことができるぐらい数も多いし、影響力が大きい。こんな生物は他にいない、ということだ。

A君:確かに、人間とは、それ以上でもそれ以下でもないですね。

B君:そして、定義2は、環境『問題』の定義で、能力の高い人類が、その強い欲望に基いて行う人間活動が、地球の自己修復能力を超して破壊することによって、起きる現象が環境問題。勿論、地球全体だけではなくて、地域における地球の自己修復能力を超すことが歴史的に起きた公害問題や自然破壊の実体であった。

A君:地球の自己修復能力はなかなか大きいので、人類がエネルギーを操る能力を圧倒的に増大させた産業革命以後に問題が起きた。それ以前には、公害や環境汚染はなかった。

B君:産業革命以前の歴史を振り返ると、そのとき起きていたことは、エネルギー源や材料として使われる森林の減少ぐらいで、これがもっとも大きな環境破壊だった。

A君:米国の環境問題の歴史は、そのほとんどすべてが森林破壊だった。実際、東海岸から西海岸まで、サルなら木を伝わって行けるほどの密林だったと言われています。そのため、米国の環境問題は、いまだに森林保護と密接につながっていますね。

B君:人口密度の高い国は、森林破壊問題と並行して、石炭の燃焼による大気汚染を経験している。ロンドンのスモッグがその例だが。

A君:森林資源が人口に比べて充分に存在した国では、木材を暖房に使うが、そのぐらいなら森林はそうは減らない。ところが、イギリスは、製鉄などの産業によって木材の大量使用が使われ、山はハゲ山だった。そのため、石炭がロンドンなどで暖房に使われて、スモッグが発生していた。

B君:1950年から始まった農業革命によって、人類は人口を急激に増やした。その人口増加は、アフリカにも及んだ。

A君:ということで、アフリカでも森林破壊が起きた。

B君:中国の状況も似たようなもので、ご存知のように中国の山は、今でもハゲ山が多い。これに加えて、石炭によるエネルギーの大量使用が行われた。現在でも、石炭発電所のSOx対策は不十分なのだと思う。

A君:中国にも大気環境の規制があるのだけれど、それに違反しても、罰金を払えば良いという中国流の経済合理性のある法体系だったので、大気汚染が良くならない。

B君:最近の北京のPM2.5汚染は、禁止されている野焼きの煙の影響が大きいという説もある。この罰則がどのぐらい厳しいか、よく知らないが。

C先生:話が拡散状況にあるが、要するに、環境問題の解決を目指すためには、定義2のように地球の能力の限界のすべてと欲望による人間活動のすべてを理解する必要がある、ということが言いたい訳ね。

A君:まあそうですね。欲望にはキリがないので、人口が多い地域では、どうしても環境問題が起きる。しかも、ほとんどあらゆる問題が、ということが言いたいのですね。

B君:確かに、人間の欲望は複雑だから、ほぼあらゆる環境問題が起こりうる。しかし、ここで定義3に入りたいのだけれど、そもそも日本という国は、公害先進国だったので、ほとんどすべての公害を経験してきた。その点、人口密度の低い米国・カナダ・オーストラリアなどの国と違って、自国の歴史を振り返れば、世界的な公害問題の発生の予測と、その対策を充分に提案できる国とも言える。

A君:環境俯瞰力を持つには、自国の歴史は大体は知っているだろうから、日本人が有利ということになりますね。

B君:まあ、そうなのだけど、日本人の目からは、西欧人の考え方を理解しがたいものに見えてしまう、という大きな問題がある。

A君:その話は、このところ随分やりました。基本的な違いは、一神教の宗教と無神論とも言える東アジアの多神教の違い。

B君:なぜ、中東からヨーロッパ各国が一神教になったか。その理由は、場合によると、森林破壊がその原因なのかもしれない。BC2000年頃には、すでに中東の森林はかなり減少していたらしい。

A君:しばしば議論している話ですね。森があると、森に生命を感じる。そのため、森が豊かな国は、森の精の存在を信じて、八百万の神の国になり、砂漠の国では、太陽の影響が非常に強いので、太陽神の一神教になる。太陽は、人類を超越した存在であるので、超越した神を信じる一神教になるということです。しかし、八百万の神は、人類の友達のようなものなので、多神教の神が超越した力を持つことはないので、神が人を造ることもない。

B君:自分を造ってくれた超越した神には、逆らうと命の糸を切られてしまうので、一神教では、それを防止するために正義を守るという概念が強い。ただし、イスラム教では、ジハードであれば、どのような場合でも正義になってしまうという解釈ができるようなので、現在、困った事態になっている。

C先生:ちょっと話を戻すが、日本人であれば、自国の環境の歴史は知っているだろうから、環境俯瞰力を持つのに有利ということだった。しかし、それには、多様で複雑な事象を整理することが必要不可欠ではないのか。

A君:まあ、その通りですね。若干単純化して、様々な公害の発生と解決を整理するという作業は必須になるでしょう。

B君:以前、そんな図を作りましたが、再度、作りますかね。

C先生:実は、横浜国大と広島大の主として留学生を対象にして、英語で講義を行うことになった。実際に行う講義は、反転授業なので、パワポを使って講義をしているところをビデオで撮って、大学院生には、それを見て事前学習をしてもらう。講義の当日は、実は講義ではなくて、主としてワークショップ。議論をし、何かをまとめることで、自らの理解を確実なものにする。そのビデオ用パワポのために、日本における環境問題のリスクの推移のようなものを示す図を作った。残念ながら、日本語に訳している暇が無かったので、英語のまま。



図1 2005年程度までの理解による推移予測

C先生:この図1は、2007年のIPCCのAR4が発行されたごろでも、まだ、現時点とは違う感覚を持っていたと思うので、その図を示したものだ。そもそも、現時点ほど、温暖化の進行が深刻になるとは思っていなかった。それは、まずは、中国を筆頭とする途上国からの排出量が、これほど増えるとは思っていなかったからだ。加えて、グリーンランドの氷が溶け始めても、2100年頃には、温暖化対策が進むだろうから、溶ける速度も遅くなるだろうと思っていた。この二点が、現在の考え方ともっとも違うことかもしれない。
 ということで、現時点では、図1を変えて、次のような図2で示す考え方になっている。



図2 最近の理解による未来の推移予測 変わっているのは、CO2と材料の過剰使用。CO2排出量は、今世紀中にゼロにする必要がある。

A君:かなり、定義3の話になってきているように思いますね。時の流れを含めて、過去からの全体的な傾向がどのように変わりつつあるのか、それを知ることが重要。

B君:その図1と図2は、完全に定義3に即した考え方。しかし、特に難しいのが、「動画的(さらに詳しく言えば、タイムラプス的)な視力を持つこと」か。要するに、比較的長時間の変化も同時に情報化すること。

A君:常に動きをフォローして変化を検出できていても、それに加えて、その変化の方向が何を意味するのか、という説明ができることが求められるでしょう。それは、その変化をどのような座標軸でプロットするこか、を探るという発想が必要不可欠ということになると思われます。上の図の場合には、縦軸はリスクの大きさのような感じでしたが。

C先生:リスクの大きさがまあ妥当な縦軸になるだろう。中国のPM2.5騒ぎが大変なのだが、これでも実害がでるのは、最悪な状況の1〜2日後に弱者が呼吸器疾患を起こして、救急車で搬送されるといった程度。そこで実際に命を失うのは、若者ではなくて、老人が多いというのが常識なのだ。

A君:縦軸になる実害が本当にあるということは、実は、実証されにくいということですね。

B君:日本の水俣病のように、確実にメチル水銀中毒の影響と思われる死者がでることは、環境問題では、もともとかなり限られている。

A君:それでも、日本では、大阪の印刷会社でのジクロロプロパンによる胆管がん多発事件がありましたが、ごく最近、オルト−トルイジンによる膀胱がんが問題になりました。

B君:これらの物質への暴露は、職業的な暴露に限られている。いわゆる環境問題ではないと見るべきではあるけれど。。

C先生:また横道に入ったが、そろそろ元に戻して、結論に行こう。
 まず、いくつかの定義をした。この定義だけが正しいというつもりはないけれど、そこに書かれた項目のすべてを効果的に強化することが、環境俯瞰力を高めることを意味することは、ほぼ確実なのではないか、と思う。
 俯瞰力を強化する方法には色々とあるが、いずれにしても、なんらかの学習を実践することが第一段階。そして、何か一つ学習したら、それを使うことが必要で、具体的には、他人に向かって言ってみるという方法論が有効。最良の方法は、それを含んだ講演などをすることだろうが、審査の段階ででも、担当者などに自らの薀蓄の一つとして話して見るという方法論が、充分に有効なのではないか、と思われる。自らの経験でも、同じ題目で講演をすると、相手の反応を次の講演にフィードバックすることで、講演の質が高まることは事実。そのため、同じ薀蓄を何回も繰り返すことが重要なのではないだろうか。いずれにしても、かなり不確実な記述しかできない。しかし、とにもかくにも、ご健闘を祈りたい。