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   「2052」の読み方
        07.20.2013 
      ヨルゲン・ランダース著   




 「成長の限界」発刊から40年であった昨年、著者の一人、ヨルゲン・ランダースは、「2052」を書いた。

 2052 A global Forecast for the Next Forty Years, 今後40年のグローバル予測、日経BP社、2013年1月15日初版。

 未来を予測することは難しい。これは、拙著「地球の破綻」で繰り返し書いたことである。なぜか、と言えば余りにも暗い未来であれば、人々は、そして市場はそれに反応して、なんらかの対策を練るからである。これが、「成長の限界」の予測が全く当たらなかった理由である。もう一つ予測が当たらなかった理由がある。それは、1970年代は、まだ中国などの発展が遅れていた時代であって、急速に発展していたのは、我が日本だけである。そのため、先進国の人口の割合はそれほどでも無かったために、地球にはまだまだ余裕があった。

 余りにも甘い未来予測を行えば、多くの人々は思考停止に陥って、その予測は外れる。当たる未来予測を書くには、その主張が余り一般化してはダメなのである。

 今回の著書で、ヨルゲン・ランダースは、やはり間違いをしている。それは、「成長の限界」が持っていた「明白な限界」を意図的になのだろう、40年後にも再現しようとしていることである。それは暗い未来を提示することによって、人々や市場が反応して、問題が解決することを意図的に目指しているようにも思える、という部分である。

 しかも、そこには大きな矛盾がある。それは、本人も認めているように、地球の限界は、かなり迫っていることである。そのため、「成長の限界」のときと同じレベルでの「予測からの乖離」を、市場に依存することなどで、簡単に実現することは難しい。

 すなわち、現時点では、すべてを人々の判断や市場メカニズムに任せておいたら、本当に「地球が破綻」してしまう可能性が高い。すなわち、やはり具体的な解決法の提案が不可欠であったにもかかわらず、それを明確に提示できていない。要するに、「成長の限界」の後継本を再度ベストセラーにすることを目標に、前作に似たイメージで著作を行い、その目的自身は果たしたと思うが、本来、解決法をもっと明確に提示する責任があったはずの部分をスキップしてしまった。ある意味で、責任を回避している。

 しかも、細かいところで、個別の予測にも問題があるようである。全部を議論するのは不可能なほどページ数が多いので、議論は部分的になるが、ご容赦を。



C先生:「2052」は結構売れたようだ。アマゾンなどの書評を読むと、ちゃんと内容を把握しないで、最後の最後にある「20の個人的アドバイス」だけを引用している人が多い。ランダースの本心は不明だが、恐らく、こんなにも惨めな未来が来るのだから、なんらかの行動を起こすように、というアドバイスをしたつもりなのかもしれない。

A君:そうも考えられるけれど、それはそれとして、まず指摘したいことは、この本は、実のところ、すごく読みにくい。なぜか、と言えば、30数名の個人が寄稿をしていて、その主張がそのまま掲載されているから。

B君:ランダースは、その記述を批判する訳でもなく、強く支持する訳でもない。これらの個人の主張をどう評価しているのか、不明のままであって、一体、この本の著者は何を言いたいのだろうか、という疑問が湧いてしまう。

A君:まあ、多くの仲間に寄稿を依頼したのでしょうから、それを批判的に取り扱うのも難しい。

B君:ランダースの主張も、もちろん、チラチラと出てくる。例えば、p281に、『修正資本主義:賢い政府のより強い役割』という文章があるが、これが彼の言いたい最大の本音だろう。

A君:『賢い政府』ですか。米国型の国の選挙民は、自分の利益が消えてしまったら、いくら『賢い政府』でも、決して、それを選択しない。

B君:日本でも恐らく同様。上場企業に対すHealth, Safety & Environmental Governanceの開示義務は、現状では、インドにすら負けている。米国よりはましだろう、と思う人も多いが、米国と日本の違いは、米国の一流企業には、経営者が自発的に行うところがあること。一方、日本では、サラリーマン社長の悲しさか、何か余分なことをすると株主から文句を言われる、と思い込んでいる経営者が多い。

C先生:日本の経済界は、ある意味で、米国よりも制度面での干渉を嫌う。それなら自分で方針を決めて、自分で責任を果たせ、と迫ると、本音がでる。自分では判断できないので、政府が「やれ」と言ってください、ということになる。

A君:要するに、経営者の責任感が短期的利益確保に偏っている。これが日本の企業の本当の競争力に翳りが見える最大の原因かもしれない。

B君:社長のサラリーマン化は、是非とも避けなければならない。任期が2年とか4年とか言われたら、もっとも正しい選択は、リストラの断行と研究開発投資の回避。株価が上がるので、社長の評価も上がる。製造業だと、開発投資をしなければ、すぐジリ貧になるのは見えているのだが。

A君:GEの社長の任期は15年ぐらいを目処にして、人選をするようですね。となると、いくらなんでも50歳前後で着任しないと。現社長のスメルト氏は、50歳前に着任しているようです。

B君:15年の任期と言われると、製造業なら、何も研究開発投資をしないでそんなに長期間放置したら、確実に潰れる。だから、真剣に何かに取り組む。すなわち、リスクを取る社長になる。

A君:いやでも長期的な開発戦略に取り組むでしょう。

C先生:大分脱線しているので、軌道修正を。


予測の妙な部分

A君:それでは、40年後の予測でこれは妙だというところをリストアップします。

B君:了解。まず、世界人口予測。2040年から人口が減り始めて、ピーク人口が81億人だとしているけど、この予測で本当に大丈夫か。

A君:これは国連の人口予測では、もっとも低い水準に属するものです。たしかに、これまでの予測をみても、国連の人口予測は多少過大であることが多いのです。しかし、低位予測よりは上、中位予測よりは下というところが、歴史が証明している「まともな予測」です。

B君:だとすると、この人口予測は少なすぎると結論すべきではないか。

A君:人口が減少するという根拠だが、やはり、出生率の減少。これは我々も同意見。しかも、教育費がその主な理由になるところも同意見。しかし、アフリカの出生率は、そう簡単には下がらないというのが、我々の予測なので、ここまで人口が減ることはないでしょう。

B君:もしも人口の予測が間違っているとすると、どこに大きく影響するだろうか。

A君:我々はアフリカの人口はそうは減らないということになると、アフリカの市場でのBOP(ベースオブピラミッド)ビジネスは、一定以上の規模を保つ。飽和していない市場があるということは、それなりの仕事がアフリカには残っているということを意味するのでは。

B君:となると、ランダース予測では仕事は無くなるという予測なのだっけ。

A君:いえいえ。ランダース予測のもう一つ奇妙なところが、2052年でも、仕事はそこそこある、というところ。

B君:それは、高齢化というものの実態を感じていないのではないか。ランダースのようにノルウェーのような国に住んでいると、税率が高く、高福祉国だから、65歳になれば、引退して残りの人生は年金で、という考え方が染み込んでいて、しかも、それがいつまでも続くと誤解している。そんな国は、例外的なのに。

A君:日本の場合、現在のような年金制度を維持しようと思ったら、年金給付開始年齢は78歳にしなければならない。ということは、多くの高齢者も働くことになる。となると、経験の浅い若年層にとって、半ば引退した65歳から70歳ぐらいまでの経験豊富な人間と、安い給料で仕事を奪い合うことになって、状況は厳しくなる。

B君:ノルウェーがもう一つ有利なことは、北海油田があること。油田の位置は、英国からノルウェーに移動しつつあるけれど、まだ、スカンジナビア半島を回りこんで、ロシア領に入っても、まだ油田はある。

A君:ノルウェーは、やはり進んだ国で、北海油田からの上がりの一部を将来世代のためと称して基金として積んでいる。このような国に住んでいると、どうしてもあるバイアスが掛かった意見になっていまう。

B君:逆に言えば、日本に住んでいると、仕事は無くなるという方向のバイアスが掛かった意見になるということだろう。

A君:アジア諸国はまだ若い。データは、ここから。
https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/fields/2177.html
特にベトナムは28.7歳(2010年)で、タイの35.1歳、中国の36.3歳に比べても、当然日本の45.8歳と比べても大幅に若い。ちなみに、ノルウェーは40.6歳。ということでベトナムでは、失業率はかなり低いし、近い将来はある程度明るい。

B君:我々の予測は、ベトナムのような国であっても、まともな仕事こそ、2050年前後でもっとも貴重品になるなのだが、日本の年齢構成などを考えると、さらに厳しい状況になってしまうということを述べているのだ。

C先生:ランダースは、中国についても、予測をしているので紹介して欲しい。

A君:中国が世界のリーダーになっていると予測しています。その理由は明白で、2052年で中国の人口は、米国の人口の3.5倍、経済は2.5倍。一人あたりにすると、米国人の70%になるとしています。

B君:中国の強みは、他の民主主義的国家に比べれば、国家が強いこと。思ったような政策を決定することができること。

A君:ランダースは、中国でも反体制派が常に存在するために、政治的な不確実性は多少あるものの、一般民衆の利害と国の利害は基本的に一致しているから、決して、一般民衆は現在の共産主義を破壊しないと考えているようです。

B君:一致している利害とは、「欲しい物を得る」ということだそうだ。

A君:と言われると、そこは正しいと言わざるを得ない。しかし、最近、一般民衆がデモを起こして、様々な政策を覆すことが起きている。その大部分は、自らの健康に関わることなので、もしも、環境への配慮が遅れると、中央政府への反発も大きくなるでしょう。

B君:エネルギーが不足して、石炭を大量に使わなければならなくなって、大気汚染がひどくなるばかりだろう、と思ってきたが、このところ、中国にもシェールガスがあるという話になってきている。しかし、開発はかなり遅れる可能性が高いと思う。

A君:米国のシェールのように、西部の誰も住んでいないようなところのシェールとは違って、住居が近くにあると、これが新たな環境問題を引き起こすということではないですかね。となると、人口をかなり移動させなければならなくなる。これも社会の不安定性にはマイナス要因になる。

B君:ランダース程の楽観的な見方はできない。日本人としては、「できない」というよりも、「したくない」というバイアスがあるということかもしれないが。

A君:ランダースに言わせると、中国の究極の目的は、自給自足国家になることだ、としているのですが、これは本当でしょうか。

B君:これまでの動きでは、そうとも見えるが、それ以上とも言えるのではないか。

A君:ただ、中国の統治構造は、歴史的に見ても周辺地域を完全に支配するというよりも、ある種の属国として認めるというやり方だったので、周辺国は、属国になってしまえというのが、ランダース流の考え方なのかもしれない。

B君:属国になるか、中国の一部になるか、それは、自前の言語をもっているかどうかが判断基準になるというのが、これまでの歴史ではないか。

A君:世宗が1446年にハングル文字を公布したというのは、そのためなのかもしれない。漢字という表意文字の使用を止めて、表音文字を使うという全く異なった言語体系にする。これによって、中国の一部になることを拒否したとも言えるのかもしれない。しかし、韓国の歴史は厳しいものだった。

B君:いずれにしても、属国化など飛んでもないと思う日本と、遠く離れたノルウェーでは、見方が全く違う。

C先生:かなり地域差が意見の相違になっているという見解になってきたようだ。
 もう一つ、これが最大の問題だと思うのだが、ランダースは、今回も、問題の解決法を示していない。「成長の限界」のもう一つの後継シリーズであるメドウズ達は、かなり精神論に近い解決策を提示するというのが常道だった。この違いについて、どう思うか。

A君:「成長の限界」の場合には、このような考え方を世界でほぼ最初に示したと言ってもよい、と思うのです。それである意味充分に存在意義があった。ところが、今回の「2052」では、それなりの試みを行なっている書籍も報告書もあるので、本来であれば、解決法に特徴をもたせるべきだった。

B君:解決法を示していないというよりも、彼が考える「修正資本主義」は、世間に受け入れられないと最初から諦めているのではないか。

A君:「成長の限界」の場合には、公害であるとか、エネルギー枯渇とか言った「モノの危機」を価格などで解決すればよかったから「市場メカニズム」が有効だったけれど、今回は、根本的な社会システムの変更だから、地球上の人類がある合意を形成するという、もともと不可能に近いことを提案するわけにはいかなかったのでは。

B君:例えば、温暖化の問題にしても、現時点で投資をすれば、将来投資をするよりも総投資額は少なくて済む、という主張をしているけれど、これは、イギリスの経済学者ニコラス・スターン卿の報告書でも述べられていることで、何も新しくない。

A君:いまとなっては、陳腐な主張だと言えますね。このような陳腐な主張では、目前の経済状況が問題になっている国では、全く動けない。自国の経済破綻の方が、余程重要な問題なので。

B君:それで「地球の破綻」では、各国のODAを若干増額して、電力を利用できていない13億人をゼロにすることで、アフリカを中心とした人口増加を速やかに低下させることで、2100年頃の危機を解消すべきという提案も行なっている。

A君:ランダースだと、人口は2040年から減り始めるということなので、人口は大きな問題だと理解されていない。見解の相違かもしれない。

B君:それはそれとしても、グリーン成長も、ほぼ諦められているように思える。

A君:グリーン成長は、残された数少ない成長であって、しかも、これまでの大資本が成長する部分に加えて、地域のエネルギーなどによる経済成長も加味できるものなので、修正資本主義的なものだと思うのですが。

B君:ノルウェーだと経済は石油依存だし、やはり、グリーン成長といっても、なんとなく疎外感があるのではないか。

A君:しかし、最後の20のアドバイス、(1)収入よりも満足に目を向ける、から始まるものですが、収入なしに満足せよと言われてもそれは無理。ある程度の収入や年金が保証されている国であるノルウェー人が言っても、という感想になるのではないですかね。

B君:収入を得るためにグリーン成長を使うというのは、少なくとも、日本のような国にとっては必須だと思う。

A君:この本を読んで、それなりに評価している日本人が多いところを見ると、やはり思考停止に陥っているとしか思えない。このままでなんとかなる国であるノルウェー人が書いた本であるということに、気づいていないのではないですか。

B君:(8)決定を下すことのできる国に引っ越しなさい、というのもあるが、これもノルウェー人から、南部ヨーロッパに住む人々へのアドバイスでしかなくて、アジア人には無理。日本人にはもっと無理。

A君:(11)子どもたちに北京語を習うように勧めなさい、は、日本人にも通用するかもしれない。もっと中国語を理解できる日本人が増えれば、日中関係は変わるかもしれないから。

B君:(12)成長は良いことだという考え方から脱却する、だが、これはグリーン成長やそのためにかなりのイノベーションが必要不可欠であるという我々の認識と必ずしも一致しない。

C先生:このような本を見ると、世界観は、やはり、その人の育った環境、住んでいる国の影響を強く受けるものだということを再認識させられた。その意味でも、世界観の延長線である未来予測は難しい。どうしても、身体と脳みそに染み付いた主観によって影響を受けてしまうのだ。
 そこで、読み方をお薦めしたい。
 もしも「2052」をお読みになって、何か正確かつ有用な材料を入手されたいとお考えならば、まず、ノルウェーという国について情報を集め、その社会システムや政治、さらには、教育などについての基礎知識を得られてから読み進められることを推奨させていただきたい。