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   水力発電が日本を救う
     
竹村公太郎氏の著書のご紹介 07.23.2017
               
    



 本日は書籍のご紹介です。著者は竹村公太郎氏。なんと私と年齢が一緒のようです。もともと建設省のお役人として、多くの水力発電用などのダム・河川事業を担当してこられたようです。

 この本での最大の主張は、副題でもありますが、「今あるダムで、年間2兆円超の電力を増やせる」。電力消費量は、かつて年間1兆kWhと覚えたものですが、このところ年々減少気味でして、2015年の確定データで、7971億kWhでした。これは、前年比3.2%減です。

 もしも2兆円電力を増やせるとしたら、20円/kWhだとすれば、1000億kWhの増加??? これは、大きい。自然エネルギーではありながら、水力発電は、安定な電源ですので、極めて有効。

 さて、その主張の根拠は何でしょうか。

     

C先生:この竹村氏の主張が本当に実現できるとしたら、これは非常に大きなことだ。もしも水力発電がさらに発展することが、もしも生態系への影響なしに可能であれば、やらない方が不自然だとも言える。やはり、自然の力に頼るのが、地球上の生命体である人類にとっても、もっとも自然のように思えるので。

A君:なぜか、「自然」が多用されていますね。ということで、その内容のご紹介。まずは、目次からです。

目次
[序]100年後の日本のために。
[第1章]なぜ、ダムを増やさずに水力発電を2倍にできるのか
[第2章]なぜ、日本をエネルギー資源大国だと呼べるのか
[第3章]なぜ、日本のダムは200兆円の遺産なのか
[第4章]なぜ、地形を見ればエネルギーの将来が分かるのか
[第5章]なぜ、水現地域が水力発電事業のオーナーになるべきなのか
[第6章]どうすれば、水源地域主体の水力発電は成功できるのか
[第7章]未来のエネルギーと水力発電

B君:書籍の説明が後になったけれど、
水力発電が日本を救う  単行本p190
竹村 公太郎 (著)
出版社: 東洋経済新報社
ISBN-10: 4492762280
ISBN-13: 978-4492762288
発売日: 2016/8/19

A君:[序]は、まさに「まえがき」でして、特に、中身はありません。[第1章]は、まず、巨大ダムを増やす時代ではない、という記述から始まります。それも当然で、実は、日本にもはや巨大ダムは作れない、その余地はもはや無いというのが実情だからです。当然、竹村氏もそのような記述から始まるのです。加えて、竹村氏は、ダムを3つも、川治ダム、大川ダム、宮ヶ瀬ダムの3つを作った経歴があり、これらのダムが山村地域の犠牲の上に、主として大都会の住民のために造られたものであることを十二分に理解している訳です。すなわち、このやり方は、すでに時代遅れだという訳です。この発言をもっともリアルに言える人は竹村氏だと言えるでしょう。

B君:しかし、それなら、水力発電は増やせるというのは、不思議ではないか、と思うのが普通。これが、本書を思わず買ってしまう原動力になっているのだと思う。まあ、本を売るという立場からは、旨い表現を書名に使った本だと言えそうだ。

A君:それならなぜ、ダムも増やせないのに、二兆円分の電力が水力発電でできると言うのだろう。そこで、竹村氏は言う。「ダムを増やさなくても、水力発電は増やせる。場合によれば、2倍、3倍も可能かもしれない」。その理由は、「日本のダムの力は充分に発揮されていない」。なぜか、日本のダム湖には、水が半分しか溜まっていないから。

B君:またまた衝撃的な記述。半分しか水が溜まっていないなどと誰も思っていない。まあ、渇水時だとそういうこともあるだろうけど。

A君:そこで、竹村氏の謎解きが始まる訳ですね。日本のダムは水を半分しか貯めていない。その理由は、わざわざそうしているから。

B君:これまた「えーーー」、となる。

A君:しかし、そろそろ種明かしの言葉が出て来るのです。それが、「多目的ダム」。しかも、法律で決っている。「特定多目的ダム法」という法律だそうで。この法律によれば、ダムはなぜ作られるのか、それには二つの目的があるから。一つは、「利水」、もう一つが「治水」。

B君:そろそろ常識的な話になってきた。今年は、関東地方だと荒川水系が水不足だ。しかし、利根川水系は、まずまずの水が貯まっている。そのような情報は、このWebサイトを見れば分かる。
利根川水系
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000111.html
荒川水系

http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000113.html

A君:これが、荒川水系の現時点でのデータです。現時点でも減り続けています。



図1 荒川水系の貯水量 平成24年1月から現在までの記録

B君:7月1日から10月1日までの間は、夏季制限期間と呼ばれる線があって、その期間内では、貯水量の上限がかなり低いレベルで決っていることが分かる。荒川水系だと常時満水容量と呼ばれる物理的な限界が14.420万m3。ところが、7月1日から夏季制限期間が始まり、10月1日に解除される。これは、梅雨時にはできるだけ水を貯めて、梅雨明けなどの集中豪雨や台風の雨に備えようという考え方。もっとも、このところ日本の気候は妙なので、いつまでこの考え方が継承されるのか。

A君:今年は、すでに台風が上陸していますが、今後、温暖化が進むと、日本の雨の傾向も大幅に変わるでしょうね。いずれにしても、夏季制限期間には、ダムには本当に水が半分ぐらいしか貯められないのです。荒川は、8月末には、半分以下です。

B君:それにしても、荒川の常時満水容量はかなり多いのに、平成24年から、一度も満水になったことが無いことが一目で分かる。

A君:全国の同様の情報は、
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/kassui/dam_info.html
このサイトにありますが、実は、すでにご紹介した関東地方整備局の情報がもっとも詳しいようで、夏季制限期間のような記述があるかどうか、中部地方整備局の各ダムについてはあることを確認しましたが、他の地域では未確認です。どうやら、地域によって、表現方法が全く違うという感触です。もう少々統一できると思うのですけどね。

B君:そろそろ本題の竹村氏の著書に戻ろう

A君:まだp25付近ですが、大雨が降ることを想定して、毎年夏には、半分ぐらいしか水を貯めないのは、果たして合理的なのか。という問を発している訳です。たしかにダムの建設目的の半分は治水ですから、仕方がないとも言えるのですが。

B君:確かに、しばらく前までなら、なんとなくその表現が妥当のように思える。なぜならば、今は、天気予報の精度が向上して、台風が来るという予測もかなり信頼できる

A君:さらに言えば、日本の河川は、海外から滝のようだと言われるように、上流から河口まで、1日で到達する川も多いのですが、ミシシッピー川だと1ヶ月ぐらいかかる。台風が来ることがかなり確実になって3〜5日前に放水すれば、充分に間に合う

B君:ただし、そこで議論されているように、予備放水をすると、河川が急に増水するので、中洲などに取り残される人が出る危険性がある。

A君:竹村氏は、その通報システムの設置にいくら金を掛けても、電力が売れるので、プラスになると主張しています。確かに、現在ですと、雨が降ってもいないのに、河川が急に増水すると、川遊びをしていて流される人が結構多いように思いますが、それも情報の提供次第ですね。台風が来そうもないときには、原則的に予備放水はないので。

B君:2050年のエネルギー供給、特に、電力供給状況を予測すると、やれることはすべてやって置いた方が良さそうだから、そのぐらいのことは覚悟して、水力発電を増強することが正しいのかもしれない。

A君:しかし、問題はあるのです。このように多目的ダムの場合には、利水と治水の二つの目的があるのですが、その運用の根拠である多目的ダム法は、なんと、1957年に制定されて以来、一度も改正されていない60年前の社会事情に併せて作られた法律なのに、ということだそうです。

B君:確かに、1957年の電力使用量はどのくらいだったのか。最初の原発ができたのが、1965年の東海発電所の黒鉛減速炭酸ガス冷却炉。福島第一原発事故によって、今後、原発のあり方が大きく変わるだろうという現時点からみると、1957年に成立した法律で水力発電が規制されていることは、妙なことなのかもしれない。

A君:竹村氏は、それは行政機関が変だから、と断言してしまうのです。多分、「先輩、そんなことを言わないでくださいよ。まず、予算が取れることに注力しないと」と言われるだろうなどと言いつつ、なんですが。

B君:さすがに行政経験者で河川局長までやっただけのことはある。行政機関の自己評価は、いくら予算が取れたか、すなわち、金がすべてで、法律改正などという予算が付かないことには、誰も努力しないとを十二分に見切っている。

A君:さらに河川法に突っ込みます。明治29年に河川法が成立したときには、川の氾濫をいかに防止するか、という法律だった。そして、昭和39年に利水がはじめて加わった。そして、さらに、平成9年になって、「環境保全」という言葉が加わった。これらは河川法の第一条に書かれていて、第一条は普通は変わらないもので、これが二度も変わった河川法は珍しいとのこと。

B君:だけど、水力発電は民間がやっていることなのだけど、国民全体に深く関係するのだから、なんとかならないのか。という疑問が当然湧く。

A君:それは、「水」が誰のものか、ということで、議論が難しい。特定の個人や企業の持ち物ではないので。水は国民すべてによって共有されているということらしいです。

B君:となると、発電にだけ使うということで、電力会社が儲かるだけであれば、川の水は使えない。それを使う代わりに、地域の経済などにも貢献をしなければならないことになる。

A君:ということで、国が正面に出ないとなんともならないのが、「水」の世界。そこで、竹村氏は、河川法第一条に、水の使用目的として、「エネルギー活用」を加えるべきだと言うのです。

B君:河川法にそれが加われば、地方自治体も動かなければならない。

A君:実際、河川法に「環境」が加わったので、地方自治体もかなり積極的に動くようになったらしいです。以上で、やっと第一章が終わりです。
 しかし、これからの第二章は日本は水に恵まれているという話。確かにその通り。そして、第三章は、日本のダムは200兆円相当の遺産であるという話。例えば、ダムは半永久的に壊れない。そもそも鉄筋を使っていない。ほぼ永遠の財産だとみなせるということです。

B君:アーチ式のダムも鉄筋が使われていないのか。それは知らなかった。

A君:ダムというものは、どうも引っ張り応力が掛からないように設計されているということのようです。引張応力に対応するために鉄筋があるので、もし、圧縮応力だけでしたら、たしかに鉄筋は不要です。こんな記述は無いのですけど。

B君:なるほど。アーチ式でも、あの構造だと引張応力は掛からないように出来ている。若干の剪断応力は掛かりそうだが。

A君:ということで、様々な新情報が語られて、そして、古いダムは嵩上げをするとたった10%の嵩上げで、発電量が2倍に増えるという本題になりますね。
 ということで、ダムは100年、200年後にも財産だといことのようです。

B君:嵩上げもあり得るが、中小水力も使うのだろうな。

A君:現在の水力発電による電力の価格が900億円相当。それが嵩上げ350億円や中小水力1000億円を増やし、合計1350億円相当増加、ということになっています。

B君:確かに2倍以上になる可能性がある。しかし、中小水力は伸びないなあ。なんとかしないと。

A君:第4章の地形を見ればすぐ分かるという話は、教養番組。そして、第5章の中小水力について、水源地域がオーナーになるべき、という話。これは、重要です。極めてまともなことが書かれていますので、お読みいただきたいです。そして、第6章が、その成功話の予測。そして、終章です。

B君:なるほど。結論として、水力発電が馬鹿に出来ないものであることは、分かったような気がする。

C先生:そろそろ終わりだな。これまでの人口増大社会は、日本にとっては、一過性の現象だったと喝破している。今後は、人口が減るから、それでGDPが下がるから、という問題ではないくて、どれほど、幸福感が得られる社会にすべきか、あるいは、いかに持続可能な社会にするのか、それが問題の本質であるというまとめになっている。極めてまともな本であることがよく分かった。問題もすべて明らかになっている。この本は、できるだけ多くの人が読んで、その内容に賛同すべきもののように思える。そうしないと、政治が動かない。政治が動かなければ、河川管理は変わらない。まず国が動き、そして、地方自治体が動くということにならないと、本書のような提案は、単なる夢物語で終わる。結論的には、本書は、これからの国の方向性をどのように考えるのか、例えば、国のGDPを増やすだけで良いのか、それとも、日本の財産とも言える水力発電を活用して、人口を適正な速度で減らしながら、一人あたりのGDPは増やすといった、派手ではないけれど、幸福感がしっかり得られる社会を目指すべきだという提案をしている本であった。元河川局長が書いたということに大きな意義があると思う。国土交通省へのプレッシャーになることを期待したい。