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  水素の車への利用、議論に終止符? 11.26.2006
     



 先週は、月曜日に北九州市でエコテクノ2006の中で行われた国連大学ゼロエミッションフォーラム、そして、金曜日には名古屋大学の交通・都市国際研究センター設立記念シンポジウムに参加。いずれも話題は自動車だった。もっともゼロエミッションの方は、自動車のリサイクルや材料・資源面、名古屋大学の方は、自動車技術の未来像を議論したと言える。


C先生:先々週、ブログの方に書いたが、BMWが発表した水素エンジン車。朝日新聞の記事を読むと、記者・デスクは、この発表の本当の意味を分かっていない。

A君:再掲しましょうか。

 BMWがハイドロジェン7を公開した。燃料は液体水素とガソリンの共用で、水素で200キロ、ガソリンで500キロ走れる。
 動力源は当然エンジンで、走行中でもボタン一つで燃料を切り替えられる。
 マツダの水素カーは、気体水素を使うため、走行距離はBMWの半分。
 普及のカギを握る「水素スタンド」網の整備を急ぐよう世界中の政府や経済界に働きかける。

C先生:BMWというメーカーが、「この程度のことしかできない、未来技術を持たないメーカー」であるということを物語っている、という報道が行われるべきだ。BMWに乗っている方々、自分の乗っている車は恥ずかしい会社が製造したものだ、と思ってもらいたい。
 液体水素というものは、始末が悪いものだ。完全に密閉状態のタンクに貯めることはできない。長期間使わない場合には、徐々に気化する水素を外部に放出しなければならない。すなわち、満タンにしておいても、そのうち、空になる。また、地下駐車場などだと、爆発する危険すらある。もっとも、毎日使うような条件であれば、余り問題はない。
 水素スタンドをどのような形で作るのか、誰も名案が無い。
 一方、水素カーを作るだけなら、簡単なもの。

B君:温泉カワセミ氏のコメントも再掲。

C先生へ
 仰るとおり液体水素は始末の悪い燃料ですが、こと移動体に関してなら液体のみならず『水素そのもの』が質の悪い燃料と言わざるを得ないでしょう。
 液体水素の場合のデメリットは、低温に維持するための設備や蒸散問題に加え、なんと言ってもその低比重による体積効率の低さが無視できないですね。なんせ、灯油の1/10に充たない密度ですものね。その低密度のせいで、高圧圧縮ボンベでも対抗馬になりうるくらいですから。
 そういえば先頃発表されたホンダの燃料電池車は、高圧圧縮(350気圧)の水素ボンベだけで、570kmの航続距離を実現したそうです。ニュースを初見の時はスゴいと思ったのですが、よくよく見てみると、なんと燃料タンクの容量が171リットルもあるのを見て、つい笑ってしまいました。

http://www.honda.co.jp/news/2006/4060925c.html

 そのせいか、結構立派なサイズの車体なのに、乗車定員が4名しかないのはご愛敬ですが。

投稿 温泉カワセミ | 2006/11/20 0:03:58


C先生:そろそろ本論に行こう。
 JHFC(Japan Hydrogen and Fuel Cell Demonstration Project=水素・燃料電池実証プロジェクト)なる機構がある。日本の水素自動車関係者が大体ここに揃っている。効率の研究が過去3年間に渡って行われ、その最終報告書が9月にインターネットにアップされた。これが水素エネルギーの自動車への利用の可能性に対する結論だと言える。
http://www.jhfc.jp/j/data/data/h17/h17_kekka_main.pdf
 今年の3月に行われた発表会の資料も、インターネットで入手できる。
http://www.jhfc.jp/j/data/h17_exhibition.html
 その結果を冷静に読み取ると、水素エネルギーの利用に対して、当然のことながら抑えれれた表現ではあるが、「可能性が皆無とは言えない」といった消極的な結論のように見える。すなわち、余程のことが起きなければ、水素燃料電池車は実現しない。まして、水素エンジン車などが実用化される訳も無い。なぜなら、水素燃料電池車は、車のエネルギー効率が高いが、水素エンジン車の効率は、普通のエンジン車のものとほぼ変わらないため、技術的な価値が皆無だからである。

A君:報告書の方は、なかなか読み難いのですが、発表会での石谷先生の総合効率検討結果が見る価値ありです。
http://www.jhfc.jp/j/data/data/h17/06_h17seminar.pdf

B君:内容は、Well to Tankの効率。すなわち、一次エネルギー採掘段階から燃料製造段階、そして、燃料タンクに納まるまでの効率の検討結果をもっとも関心を呼んでいるもの。

C先生:上述したように、燃料電池車は、水素を出発点にすれば、エネルギー利用効率が高い。どういう方法か分からないが、自然に水素で満タン状態が作られれば、燃料電池車は有力候補である。しかし、水素というやっかいなエネルギーをどうやって作って、そして、車にどうやって供給するか、そこが最大の問題点。その過程のエネルギーが定量的に解析されたというのだから、興味を持つもは当然。

A君:解析の対象ですが、考えられるほとんどすべてのプロセスが含まれている。まず、その結果が、29枚目のスライドに出ている。

B君:これをさてどう読むのか。一次燃料投入原単位(単位車載エネルギー当り)となっていて、概略の値を示すと、

(1)高圧水素  1.4〜2.3ぐらい
(2)液体水素  2.0ぐらい
(3)ガソリン    1.2ぐらい
(4)ディーゼル  1.15ぐらい
(5)CNG    1.3ぐらい
(6)電力     2.3ぐらい

となっている。高圧水素だと、効率は最善の場合で、1/1.4*100=71%。電力は、43%ぐらいということ。

A君:一方、タンクからの走行効率が、33枚目のスライドに出ている。1km走行あたり一次エネルギー投入量で、単位はMJ/kmで、その結果の概略値は、

(1)FCV JHFC実証平均 1.4ぐらい
(2)FCV JHFC実証トップ 1.05ぐらい
(3)FCV 将来   0.8ぐらい。
(4)ガソリン     2.2ぐらい
(5)ガソリンHV   1.4ぐらい
(6)ディーゼル    1.8ぐらい
(7)ディーゼルHV  1.1ぐらい
(8)CNG      2.2ぐらい
(9)BEV      0.4ぐらい
注:BEV:純電気自動車

B君:Well to Wheelすなわち、総合効率が37枚目のスライドに出ている。1kmあたりの一次エネルギー投入量で、単位はMJ/km。概略値は、
 
(1)FCV現状   1.5MJ/km
(2)FCV将来   1.1MJ/km
(3)ガソリン    2.7MJ/km
(4)ガソリンHV  1.7MJ/km
(5)ディーゼル   2.0MJ/km
(6)ディーゼルHV 1.2MJ/km
(7)CNG     2.7MJ/km
(8)BEV     0.95MJ/km

これが効率。

A君:もう一枚結論があって、それが、Well to WheelのCO2発生量。1km走行あたりCO2総排出量(10・15モード)。単位は、g−CO2/km

(1)FCV現状   85g−CO2/km
(2)FCV将来   65g−CO2/km
(3)ガソリン   195g−CO2/km
(4)ガソリンHV 125g−CO2/km
(5)ディーゼル  150g−CO2/km
(6)ディーゼルHV 90g−CO2/km
(7)CNG    150g−CO2/km
(8)BEV     48g−CO2/km

C先生:今、示して貰った値は、石谷先生が使ったPPTファイルの図から目視で読み取ったもの。実は、9月に発表された報告書の方には、数値が出ているのだ。ところが、この6ヶ月間で、多少数値が変わっている。いじられているのは、FCV将来、BEVの2種類だ。

A君:本当だ。FCV将来の数値が良くなっていて、BEVの数値が悪くなっている

B君:まあ、FCV将来の値がBEVよりも悪いということになってしまっては、FCVの将来は無いことを宣言するようなものだから、将来はもっと良くなるという夢を描いて、そして、将来に多少の含みを持たせたいのだろう。そのための修正。

C先生:技術的な発展が無いとは言えないのは事実だ。しかし、正直な話、以上の様々な情報を総合して、全体的な印象からは、水素エネルギーが車などの移動用エネルギーとして使われる可能性は、本報告書ですでに全面的に否定されたのではないか、と見る。

A君:NEDOの予測では、2020年には、早くも水素エネルギー燃料電池車が実用になっているとの予測でしたからね。余りにも早く否定的な情報が出るのはまずいのでは。

B君:いやいや、いくら上塗りを厚くしても、隠せない事実がある。

A君:BMWの話に戻りますが、水素エンジン用であれば、実は、水素源が無い訳ではない。この報告書でも議論されている副生水素というもので、コークス炉から出るもの。コークス炉から出る水素には、当然、一酸化炭素などを含むもので、精製しないと触媒が働かなくなってしまう燃料電池用には使えない。精製しないで、そのままこの水素を使うというシナリオが水素エンジン用としてはありうる。もっとも、この水素を使ってしまうと、コークス炉ガスで加熱しているプロセス用に別の燃料が必要になるのですが。

B君:たしかに、この報告書での水素源としては、これらの副生水素が有望という結論になっている。逆に言えば、わざわざ水素を作るとエネルギー的にも合わない。ということは、製鉄所内の利用に限れば、水素エンジン車もありということか。

A君:ただ、BMWの水素は、液体水素ですからね。高圧ならまだしも。大体、効率的に意味が無い技術が、今後実用に向かう可能性は無いですね。

B君:やはり、多少優遇策を考えても、BMWの水素エンジンは、使い道がないという結論だな。

C先生:ここまでの記述ではよく分からないことに、再生可能エネルギーを使った場合の水素製造がどう評価されたのか。記述が若干必要だろう。

A君:それは、報告書の方にしかデータが無いようです。報告書のp97に最終的な取りまとめの図があって、さらに、文章として、若干のとりまとめがあるのですが、余り詳しい説明は無いです。

B君:例えば風力発電で電気を起こして、なんらかの最新的な方法で電気分解をして、水素を出すぐらいなら、そのまま電気自動車用に使う方がはるかに合理的だ。

A君:水素源としては、その通りで、結果的に、コークス炉か苛性ソーダの製造工程での副生水素を使うことが現実的で、それ以外の方法論は、再生可能エネルギーを使った場合でも、「可能性が無い」というのが、結論ですね。

C先生:結論的に、やっと、本HPがここ2〜3年言い続けてきたことが、追認されつつあるように思える。これが今後2年以内に社会的常識になれば良いのだが。

A君:水素以外の自動車の動力としては、将来とも電気自動車か内燃エンジンなんでしょうか。

C先生:そんな議論が名古屋大学では行われた。その結果だが、大体次のような理解で良いのではないだろうか。

2020年ぐらいにほぼ実現すること。
 ガソリンあるいはディーゼルのハイブリッド車。ただし、夜間充電が可能ないわゆるプラグインハイブリッド車
 しかし、主要な都市内交通としては、電気自動車

2040年ぐらいまでに確立すること。
 炭化水素あるいは、DME(ジメチルエーテル)のような含酸素炭化水素といった液体燃料を燃やす固体電解質を用いた新式燃料電池車。しかし、この手の300℃程度の温度での運転を前提とする燃料電池が車に使われるには、ウォームアップが難しい。そのため、駐車中にも燃料電池の運転を続ける必要があるので、家庭用の電力システムが大幅に変わる必要がある。

A君:水素以外の燃料を使うもの、特に、液体燃料を使うものであれば、可能性が無い訳ではない。

B君:ただ、車の燃料のように大量に使うものは、地球への影響が大きいので、慎重に考える必要がある。DMEは、もしも漏れ出したときの環境影響の評価が必要。

C先生:地球レベルでモノを考えると、バイオエタノール、バイオディーゼルだけで車を走らせる訳には行かない。現在の大型の大食いの車を米国人並みの走行距離で走らせると、また、もしもトウモロコシや米を原料としてその発酵でエタノールを作るとすると、人間100人分ぐらいの大食い

A君:もしも世界中の車の普及率が20%になったとすると、一体、何が限界なのか。やはり燃料でしょうか。

B君:100人分の食糧を食う車が人口の20%分存在したとすると、人1人に車が0.2台。車が100人分の食糧を食うとすると、世界人口が20倍以上になったと同じだけの食糧が必要になる。だから、バイオエタノール、バイオディーゼルでは難しい。農地が無い。

A君:可食部からは無理なのは当然ですが、いかに農産廃棄物がエタノールの原料になったとしても、これだけの量を供給するのは無理でしょう。

C先生:限界は明らかだろう。車のエネルギー消費量を今の5%以下程度にしないと、将来の地球上での普及はありえない。それでも、人間と同じぐらいの食糧(エネルギー)を食うことにはなるが。

A君:5%以下への削減というのは難しい。

B君:そうでもないのでは。まず、車の重量を今の1/5にする。そして、効率を現在の4倍にする。これで20倍になって、5%という条件を満たす。ただ、JHFCの報告書にあるデータから見ても、電気自動車以外には無い。現状でも15倍までは可能だからなんとかなるのでは。タイヤの材質を変えるとか、様々な工夫をすれば。新燃料電池車ができれば、そちらの方が良いかもしれないが。

A君:短距離用は電気自動車、長距離用は新式燃料電池車。とすると、平均的に車重が300kg以下の電気自動車というのが、現状の技術を前提とした場合の、2050年程度の都市交通用の車。何人乗りでしょうね。

B君:一人乗り、二人乗り、四人乗りぐらいのバラエティはあるのでは。四人乗りは、タクシー専用か。

C先生:それでも、バイオエネルギーを一次エネルギーとした供給は難しい。となると、やはり石炭、あるいは、原子力シナリオになってしまうのだろうか。

A君:石炭は液化ですか。石炭発電だと、二酸化炭素の貯留が必要になるかどうか、それが今後必要な検討事項。

C先生:限界は燃料だけではない。実は、北九州市の方のシンポジウムは、車のリサイクル関係の話だったのだが、普及率を20%として、総人口が80億人だとしても、世界中に16億台もの車が存在することになる。バス、トラックは、ディーゼルハイブリッドでやってもらうとして、また、乗用車は電気か燃料電池で行くとしても、車を作るのに必要な材料が足りるか、という問題がある。もしも1台1トンとすると、16億トン。日本のような国での鉄鋼の蓄積量が、2004年で12億トンぐらい。16億トンもの材料が、5年程度の寿命の車に使われてはどうしようもない。寿命は、30年を目指さないと。もっと重要なのがやはり軽量化なので、超長寿命化はなかなか難しそう。

A君:世界的に見ると、車の寿命は結構長いのではないですか。15年ぐらいはすでにいくらでも実例があるので、将来、30年は当然でしょう。

B君:早く壊れる車は駄目。超長寿命の車か。電池が問題だな。電池の寿命を格段に延ばすという技術開発が必須だ。

A君:電池も、現在のプリウスのようなNi−H電池では駄目でしょう。資源が足らないのでは。やはりLi−MnO2系の電池でしょうか。

C先生:現状の知識からならそうだろう。2050年ごろに今の知識が通用するようでは、問題は解決できない可能性が高いが。

A君:車重300kgの車となると、衝突時の安全性が確保できないという問題が出そうですね。

B君:トラック・バスのような重たい車は、衝突回避装置が付いているから、まあ、大丈夫なのではないか。車重300kgの電気自動車にも衝突回避装置は付いている可能性も高いが。

C先生:2050年に向けてのビジョンはこんなところか。現時点でも実現が可能なビジョンではあるが、こんな現実的な解にはならないで、もっと画期的な解がでることを希望したい。
 最終結論。車用としては水素エネルギーに可能性が無いということが、すべての日本人にとっても、また、BMWにとっても常識になる時が早く来ることを望みたい。これが、研究の方向性が健全になる必要条件。