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   今年もICEFは盛況でした 10.08.2016
      
Energy Storageは未来ネタ満載の領域
        



 本年も椿山荘で、10月5・6日に3回目が開催されたICEFですが、Innovation for Cool Earth Forumが本名です。このCool Earthという表現は、一部では評判が悪いのですが、なんといって安倍首相が音頭を取って始められた国際会議でして、今年は、安倍昭恵首相ご夫人のご挨拶がありました。そのためか、定員である1000名の登録があったようです。

 また、外国人が多いのも特徴でして、すべて英語(例外は政治家のご挨拶のみ)という仕組みと、京都で行われるSTS Forumの直後に行われることもプラスに作用しているようです。

 会場は、椿山荘会議棟の5階のOrionがPlenaryセッション、そして、1階と4階の4会場で、4ラウンドのConcurrent Session が行われました。合計、16のトピックについて、議論が行われたことになります。

 全体の様子や内容については、ICEFのWetサイトをご参照下さい。
https://www.icef-forum.org/

 さて、本日の話題は、担当したConcurrent Sessionの一つ、Energy Storageのご報告です。
 このSessionの資料は、以下にあります。
https://www.icef-forum.org/platform/thematic_discussion_topic10_session.php


C先生:これでICEFも3回目。毎回、Concurrent SessionのChairをやっている。今回のテーマはEnergy Storageで、これはカバーする範囲がかなり広い話題で、単に、リチウム電池の話ということではない。

A君:最初のスピーカーは、米国バーモント州で、リチウム電池や新型の鉛電池付きの太陽電池の普及をしているMullendore氏で、特に、災害時などの非常用電源を考えると、公共の場所が、このような自律的な発電設備を備えておくことが望ましいという方向性。

B君:ただし、非常時に、どのぐらいの電力を、どのぐらいの時間に渡って供給するのか、によって、必要な設備に対する考え方が相当違ってくる。公共施設であれば、食事の提供までするのか、が決定的。

A君:そこまでの設備があるという訳ではなく、スマホの充電とか夜間用の非常灯用の多少の電池の充電ぐらいを住民に提供するという程度の考え方のようでした。バーモント州であれば、非常用に薪を大量に備蓄というのが良さそうにも思いますね。

B君:次のスピーカーは、住友電工の矢野氏で、話題は、同社が昔からやっているフローバッテリー。一度、放棄されそうになり、そして、蘇った技術。フローバッテリーと言うのは、実は、色々なタイプがあるのだけれど、住友電工のものは、もっともオーソドックスなバナジウムを使うもの。

A君:このタイプのバッテリーの最大の特徴は、液体を使っているので、液体を貯めるタンクの容量を増やせば、電池の容量が増やせること。もう一つが、普通の電池と違って、自己放電を起こすことが無いため、長期間にわたって電気を貯めることできる、という長所があること。

B君:もう一つあえて言えば、寿命が長いこと。リチウム電池だと、スマホの電池のような使い方をすれば、2年程度。電気自動車用のように、かなり余裕を持たせれば、まあ、5年ぐらいか。それがフローバッテリーだと、矢野氏の説明では、理論的な寿命は無限大なのだけど、何かと劣化する部分も無いとは言えないけれど、まあ、20年ぐらいは大丈夫とのこと。

A君:リチウム電池だと反応物が劣化してしまうのですが、このフロー電池は、反応物は、二種類の別々に保存している液体なもので本質的に劣化メカニズムも違うということですね。

B君:ということは、このフロー電池であれば、かなり長期間のエネルギー貯蔵が可能だということになる。それは大きな特徴だ。

A君:ということは、非常用電源としてのポテンシャルがあるということですね。

B君:非常用ということになると、普通はディーゼル発電。しかし、将来、非常用とは言え、ゼロカーボン電源が求められるようになれば、一つの候補はフローバッテリー。

C先生:次のスピーカーが、Ravi氏。世界的に活躍中らしい。電力貯蔵についても、なかなかの経験がある人のようだった。その主たる主張は、現時点では、リチウム電池の量を単に増やすような設置方法ではコストに見合わない。現時点でもっとも狙い目になるのは、ディーゼル発電機を使っている島嶼とのこと。できるだけ少ない電池への投資でなんとかすることがコツ。

A君:日本でも沖縄や奄美列島では、ほとんどの電力はディーゼル発電。確かに発電単価は高いので、太陽電池や風力の電力を最小限のリチウム電池を入れて蓄積する、あるいは、平滑化することで、発電された電力の使用効率を高めることによって、妥当なコストで高効率な運用ができるようになる、とのことでした。

B君:もっともっとノウハウを聞き出したかった、という感じだ。

A君:最後は、東芝の大田氏で、自立型水素エネルギー供給システムH2One(エイチツーワン)の発表でした。ハウステンボスの「変なホテル」第2期棟に設置されたもの。

B君:太陽光発電、蓄電池、水素製造装置、水素吸蔵合金タンク、純水素燃料電池によって構成されたもので、短めのコンテナ5個に収められている。

A君:12室からなるホテルの全電力を水と太陽光発電のみで年間を通じて供給できる。特に、水素吸蔵合金タンクを用いることによって、高圧タンクによる貯蔵タンクのサイズが1/10になっているとのこと。

B君:例えば、日照時間の長い夏の間に太陽光で発電した余剰電力を、水素の形で備蓄するために、冬まで貯めるといったことができる。

C先生:ICEFも短期的な視点よりも、徐々に、2050年ぐらいのイメージを確立しようと考え始めていて、今回の第三回目のコンカレントセッションには、核融合宇宙発電といった実用化そのものにも不確実性がある技術まで取り上げられている。

A君:もっと具体的に言えば、今回のICEFでは、パリ協定のNet Zero Emissionというゴールが共通の検討対象として取り上げられていて、もしも、Net Zero Emission(=COの発生量ゼロ)を実現する前提で考察することが不可欠。まず発電コストを考えると、太陽電池がやはりかなり大量に使われることになるだろうと予測されている。太陽電池は、日射の角度と時間によって発電量が決まってしまうので、冬にはどうしても不利ですね。

B君:その点風力は、日射の影響による季節変動というよりも、場所の特性が支配的とも言える。

A君:要するに太陽電池をいくら大量使っても、それだけでは、問題解決にはならないどころか、季節変動、時間変動、などなどの別の問題が発生するということです。さらに、風力を加えてもまだ技術が不足で、あらゆる可能性を考えた上で、電力供給、エネルギー供給の未来像を書くことを考え始めた、ということだと思います。

B君:再生可能エネルギーで、安定なものと言えるのは、地熱発電ぐらいなものだから、まあ当然。宇宙発電、核融合が実現すれば、現在の火力発電、原子力発電と同程度の安定性を得ることはできる。

A君:しかし、宇宙発電、核融合は、そもそも実現できるのかどうか、どのような技術になるのかなど、相当未知というか、不確実な状態だと言えるでしょう。

B君:そうすると、確実に言えることが、どう考えても、なんらかの形でのエネルギー蓄積技術がなければ、Net Zero Emissionは実現できない。

C先生:ということで、Energy Storageは重要であることは誰もが合意している状態。しかし、具体的に何が実用に近いのか、と言われれば、それはまだ良く分からない。その理由だが、いくつもある。
 まず、現時点で、新しい電池の研究が盛んに行われていて、2050年頃にどのような電池が実用になっているか、それすら実は良く分からない。電池と簡単に言うけれど、ボルタが電池を発明して以来、人類が実用化した電池の種類はそれほど多くない。1859年にガストン・プランテが鉛蓄電池を発明。1867年に発明されたルクランシェ電池が屋井先蔵によって乾電池に進化。その後、1899年にニカド電池がスウェーデンのユングンナーによって発明。1990年に、量産化されたニッケル水素電池。そして、現在主流になったリチウム電池ぐらいなものだ。リチウム電池は最後のシステム化と製造プロセスが実用上の鍵になったようなものなので、ノーベル賞の対象にはなりにくいと思うが。

A君:10月9日の日経の1面に、ホンダがマグネシウム電池の実用化を目指すという記事がありますが、確かに、マグネシウムはリチウムの次の候補として最有力ですね。これは、誰もが認めていること。

B君:ただ、電池というものは、正極、負極、電解液、セパレータ、そして、その他に製造方法と余りにも多くの要素があって、それぞれに10種類の改良手段があるとすれば、全部で10万種類の検討をしなければならない。だから半分は体力勝負。

A君:そして、あっと言う間に開発に10年ぐらい掛かってしまう。

B君:あとマグネシウムは2価のイオンなので、1価イオンであるリチウムに比べると、どこか違う。それは、2価イオンはやはり動きにくいので、大電流は取り出しにくい。

A君:我々の見解は、将来は、複数の種類の電池を組み合わせ、それを上手にコントロールしながら使われる。

B君:リチウム電池は、サムソンの新型スマホが発火事故を起こしているけれど、自動車用がもしもこんなことを起こすと、容量が大きいので、人命が関わる事故になるかもしれない。それに対して、マグネシウムになれば、多少はましかもしれない。このような安全性の確認が結構大変で、ホンダの言うように、簡単に商品化できるかどうか、それは大きなチャレンジということになるだろう。

A君:自動車用となれば、まあ、候補は限られているのですが、目的が電力関係のエネルギー蓄積技術だとすれば、候補は電池に限らない。あらゆる可能性を検討して、新しいイノベーションを起こさなければならない分野でしょうね。

B君:要するに、どんな場合でも100点満点というエネルギー貯蔵技術は恐らく存在しない。なぜなら、状況によって、最適な技術というものがありそうに思うのだ。

C先生:そうそう、最後にその話をしなければ。エネルギー貯蔵用のデバイスが接続されるのは、これまでだと、揚水発電のように、電力グリッドの一部として、組み込まれる場合が多かった。しかし、今後は、Behind-the-meter、すなわち、ユーザ側が自分で設置した太陽電池や風力発電で発電した電気を貯めるという方法で使われるようになると言われている。というのは、現在でこそ、FIT=Feed-in-tariffのお陰で、自然エネルギーの電力をかなり高い金額で買い上げてくれるけれど、そのうち、FITがなくなってしまえば、自分で発電した電気を自分用として使った方が、経済的なメリットが出るようになると考えられているからだ。

A君:ということは、現在利用されている電力グリッドの構造は、様々な新しい形式のものになり得るということですかね。

B君:そのあたりは、まだまだ未知の世界であるような気がする。始めのころ、スマートグリッドの話を聞いたとき、これはなかなか優れものか、と思った。しかし、それだけではないかもしれない。これが現在の感想だ。

A君:現在、日本で使われている電力グリッドは、非常に頑強にできていて、米国でも起きた大停電のような事態は、幸いにして起きていないですね。しかし、そろそろ電力も自由化されて、電力グリッドの役割も徐々に変わるかもしれない。

B君:Behind-the-meter型になれば、何軒かの家を集めて、一つのCellにして、その中でのエネルギーのやり取りをできるようにするローカルグリッドという考え方が成立するようになる。

A君:都会では難しいかと思うけれど、電力の自給を目指す地域もできてくるかもしれない。そうなると、電力グリッド全体のあり方も変わってくるでしょうね。

B君:新しいグリッド形態の一つの例として、技術的な検討が行われているのが、デジタルグリッド。電源開発から現在東大の特任教授である阿部力也氏が提案しているもの。
http://www.env.go.jp/council/06earth/y0618-03/mat03.pdf

A君:このタイプになると、電力送電企業がもつ電力網というものが、どのような役割を果たすのか。より具体的には、受け入れられるのは何で、受け入れ難いものは何、といった議論から始めなければならないですね。現在の日本の状況では、どうしても既得権益を守るという姿勢が強すぎるので、またまた世界に遅れるということになりそうに思いますね。

C先生:既得権益と言えば、ヨーロッパでGoogleマップを使って、目的地までどうやって行くのだろうなどと検討していると、ウーバー(Uber)なら料金はこれ、という情報が入っている。ニューヨークなら当然と言えるだろうけれど、実に、ポルトガルでもそうだった。

B君:日本だとタクシー会社が導入に大反対するでしょうね。しかし、このところ東京ではタクシーが不足気味。乗客側の利便性を考えると、必要なサービスのように思えるけど。

C先生:さてそろそろ結論。今回の検討課題だったEnergy Storageは、近い将来必要となるイノベーションの応用分野の一つ。どのような性能をもつEnergy Storageが使えるようになるか。これが、電力供給全体の未来像を決めてしまうと思われるので、重要な開発要素が満載である領域だと思う。しかし、途中で述べたように、もっとも一般的な電池に限っても、可能性は実に多種多様なものがあり得る。現時点では突出した存在であるリチウムイオン電池ではあるけれど、最終的には、一種類の電池では満たすことができない多種多様な用途があるように思える。
 電池のような電気化学的な方法ではなく、物理的に大量の電力を貯めるという方法が、新たに考案される可能性もある。例えば、揚水発電に変わる装置を海底に作るとか。まだまだいくらでも考える余地はありそうだ。この分野で、アイディアコンペをやるといった方向はあり得ないだろうか。そのぐらい、イノベーションのネタが豊富に転がっているエリアだと思う。