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    ICEF2017とエネルギーリスク
     加えて、未来材料開発とIT技術 10.06.2017

               




 毎年、10月前半に行われる国際会議、ICEFが無事に終了しました。本日は、そのご報告です。

 ICEFは、Innovation for Cool Earth Forumという名称で、公用言語が英語だけの会合でして、Coolといういうと、米語では、「温暖化を解決して涼しい地球を作る」というより「カッコイイ」という感じが強い単語なのですが、まあ、カッコイイ地球のためのイノベーションを語るフォーラムだとも言えます。これで、4回目になってなんとなく、やっと違和感も減ったのでしょう、出席者なども定着してきました。今年の登録者は、1000名を超したようです。

 まずは、ICEFですが、Steering Committee の日本人4名のうちの一人であるため、ノルマとして担当したコンカレント・セッションのご報告が、第一部。計算機を利用した材料イノベーションも、もういくつかの工夫をすることで実用になるのではないか、という感触でした。

 そして、ICEFが木曜日の夜に終わって、金曜日の午後には、環境省の長期ビジョン委員会がありました。そこでは、ICEFのSteering Committeeの座長で、元IEA(国際エネルギー機関)の事務局長であった、田中伸男氏から講演をしていただきました。田中氏の講演は非常にインパクトの強いものでした。

 本日の記事の第二部ですが、田中氏のご指摘のように、日本人は、もっとエネルギーのリスクをしっかりと認識すべきだということは、大変に重要なことで、これは、私も、いつもいつも主張していることですが、どう見ても、日本人は甘いのです。現実を見ようとしていません。

 IEAは、地球レベルで、オイル危機のような状況が再び起きないように、ということで、第一次石油危機の後、1974年に設立された機関で、OECDの枠内の組織です。田中氏の講演で引用された図を参考にして、日本のエネルギーリスクを再度考えることを、第2の目的にして、書いてみます。


C先生:まずは、第1部。ICEFのイノベーションと材料のセッション
 ICEFは、結構ノルマが多くて大変なのだ。毎回、一つのコンカレントセッションを受け持って、4名のゲストスピーカーの発表を司会した後、その4名と議論をする時間が30分ほどあって、なんらかのまとめをするのが座長の役割。これまで、省エネ、エネルギー貯蔵など、化学に近い分野を担当してきたものの、やはり、本当の意味での専門ではないので、専門用語や英語ボキャブラリーがいささか怪しい。今回は、2050年のイノベーションのための材料開発、特に、インフォマティクスが、いかに貢献できるか、という話題で、まあ、自分にとってピッタリのテーマだったもので、かなり楽だった。

A君:最近、インフォマティクスというと、アルファ碁で勇名を馳せたAIだけではなく、量子コンピュータなど新しい話題がどんどんと出てきますから。

B君:とは言っても、やはり、基本がそれほど変わっている訳ではない。単なるパソコン用のCPUでも、能力が大幅に向上したもので、昔は、ワークステーションと言うとUNIXがOSだったものだけれど、このところ、Windowsになっている。それで充分なのだ。

A君:昔だとスパコン!ということになる課題が、Windowsマシン+アルファで充分に計算できる時代。

C先生:最初のスピーカーは、NIMS(物質材料研究機構)の魚崎先生

A君:魚崎先生のパワポのファイルは現状のニーズを非常に詳細にカバーしているので、大変に有用だと思いました。しかし、この表にあるものだけでは、本当の意味でのイノベーションができないのではないか、と思いました。何を考えたのか、というと、様々な物性を外からのシグナルで変えることができるようなアクティブな材料が必要なのではないか、ということです。

B君:それは、その通りで、現在実用になっているアクティブな材料あるいはデバイスが、ボーイング787の窓に使われている透過率を制御できる窓の材料。どうやら、ゲル状物質に電気を流して、透過率を変えているようだ。

A君:例えば、建物の屋根に使う材料として、気温が高くなると、反射率が高くなり、気温が下がってくると反射率を下げるような材料が使われれば、夏の冷房、冬の暖房が有効になりますよね。

B君:確かにその通り。しかし、まだ誰も実現するアイディアがない。同じではないが、モルフォ蝶の色と反射については、かなり注目されていて、幾つもの論文が出ているとのこと。
http://www.yoshioka-lab.com/kaisetsu/morpho.html
このような発想が、次世代の材料を発見を誘導するのかもしれない。

C先生:二番目のスピーカーは、米国のベンチャー企業QuesTekInternationalのCEOであるDr. Aziz Asphahaniによる発表だった。かなり少人数のベンチャー企業ではあるのだけれど、Integrated Computational Materials Engineeringというコンセプトで、主として、航空機用などの高強度材料の開発に成功している。プロセッシングとそれによって得られる材料の構造、そして、その物性を巧みに関連付けて、かなり短い開発期間内で、モデルに基づいた計算を行い、それを参考に小規模な材料の試作に取り掛かり、新しい組成と処理法についてのアドバイスを行うことが業務のようだった。迅速な対応で成功していると思った。計算モデルは、DFT(Density Functional Theory) calculationのようだった。そして、実際に、超高強度の鉄の開発やタービンブレードなどの改良を実現していた。

A君:もっと何か新しい計算を導入することで、より効果的な開発ができるのでしょうか。

B君:Dr.Asphahani COEは、Materials GENOMという言葉を盛んに使っていた。この概念は、2002年に、ご本人が命名者ではなく、この名前の組織を立ち上げた人が最初のようだ。
http://www.materialsgenome.com/
ここに説明があるのだけれど、特に、その定義はない。手法としては、CALPHADという平衡状態図を手法を使うようで、その点では、QuesTekも類似している。
 その後、米国政府は、Materials Genome Initiativeなるものを立ち上げた。
https://www.mgi.gov/

A君:しかし、なぜGenomeなのか、という説明がほぼどこにもない。本物のGenomeであれば、4文字の羅列で、生物の機能のすべてを表現しているけれど、材料の場合には、そうは行きません。ある物性については、Genome的な発想を持つことは可能ですが、ある物性については、かなり怪しい。例えば、組成が決まれば、構造が決まる単結晶のようなものであれば、まあまあですが、実際には、実用材料は多結晶体ですし、粒界などの役割が非常に大きい。

B君:まあ最大限譲って、ある物性について、一つのGenomeがあるというぐらいに考えないと、生物のGenomeと類似の考え方は導けない。

C先生:いずれにしても、このQuesTekという企業は、未来的な方法論で仕事をしている、という感触だった。 そして、次が、日立化成のDr.Takahiro ONAI(尾内享裕氏)の発表。題名がふるっていて、”Magic Powder Will Save the Earth"。実例として示されたのが、Black Powder(Li電池の負極材料)とWhite Powder(CO2吸収剤)。Black Powderは、人工黒鉛の特性を変えて、高性能化するという方法。そこに計算機的方法論が活用されたらしい。White Powderは、酸化セリウムを活用したもので、そのデザインに第一原理計算とか、人工知能的な手法を用いたとのこと。

A君:計算機のスピードは早くなり、そして、使用コストが下がっていることが、やはり実用になる理由なのでしょうね。

C先生:そして、最後がDr Fabrice STASSINによるEUのEMIRIと呼ばれる活動の話。Energy Materials Industrial Research Initiativeというのば本名で、2012年に創立された。相当の数の企業が参加しているようだ。日本からも、旭硝子、JSR Micro、が参加しているようだ。

A君:目的は、クリーンなエネルギーとクリーンな車の製造が、EUで内部でできて、雇用なども確保できること、ということなので、かなり現実的な対応だと思います。

B君:色々とゴールが定められていて、例えば、電池であれば、重量(kg)あたりの容量(Wh)が、現在セル単体で90〜235であるものを、2030年には、250以上を目指すとか、電池の寿命にしても現在、1000〜3000サイクルであるものを、2030年には、1万サイクルにする、といったものが定められている。

A君:もう一つ特徴的と言えるのが、low carbon technologyに関するイノベーションに取り組むことは、ビジネスリスクが低いと言い切っていること。成果がでれば、必ず使われるから、がその理由。やはりさすがにEUという感じですね。

C先生:このようなところで、ICEFの材料セッションのまとめは良いだろう。この分野でも、進化が早くなりそうな気がした。



C先生:ここから第2部で、もう一つ。ICEFの原子力セッションについて、若干感想を述べてみたい。
 その前に、2050年までの発電用のエネルギー源がどのようになるか、説明してほしい。

A君:まずは、IEAによる図です。


図1:2050年までのエネルギーの予想    出典:IEA Energy Technology Perspective 2016

B君:この図には、重要なメッセージがいくつも含まれている。まず、世界全体でも、2050年で電力の約95%が、ゼロ炭素あるいは低炭素電源になっているということ。そして、その量としては、新鮮味のある新人はいなくて、水力、風力、原子力、太陽電池という順番。95%削減の状況を作ることの必然性だけれど、電力以外の部分で、例えば、鉄鋼生産、セメント生産、さらには、途上国における大型自動車の輸送用の燃料などで、かなり大量のCOが排出されてしまう。電力はゼロ炭素化するのが、もっとも簡単なエネルギー源なので、これを実現しないことには、来世紀には、海面上昇が原因となって、自国に住めなくなる人々が大量発生してしまう。

A君:2℃目標の実現が、もっとも必要不可欠なのは、島嶼諸国とバングラデシュのような国土の低い国々。それは海面上昇が温暖化の最大の問題だからです。勿論、日本でも今年の朝倉市の災害のように、あのような見たこともないような豪雨がますます増えるし、東京も超大型台風が直撃したら、ゼロメートル地帯がどうなるか分からない。ニューヨークが大惨事になったハリケーン・サンディの例もあるし。

B君:2012年のハリケーン・サンディはすごかった。死者132名だったが、死因は溺死がもっとも多かった。次が倒木による死亡。ニューヨーク市内だけで、死者が43名も出たし、一般家庭の地下室での溺死者が10名以上。

A君:米国の常識として、トルネードなどが来たら、地下室がもっとも安全だということになっている。だから、地下室に避難していたのだと思います。そして、溺死した。地下鉄も浸水。ほぼ全線が運休し、20日後でもまだ全線開通しなかった

B君:800万戸が停電した。ビジネスが完全にストップ。被害総額は8兆円

C先生:それでは、日本に話題を戻そう

A君:希望の党は、原発の2030年完全停止を目指すことを公約にしたようですが、投票権を持たない18歳以下の将来世代が経験するであろう気候変動の大々的な影響を無視して良いのか、という大問題がありますね。

B君:まあ、小池党はポピュリズム重視の第一番手だからね。豊洲の例もあるけど、結局、豊洲問題とは何だったのだろう。東京都の歴代の知事をやっつけるのが目的だったのだろうと考えてはいるが。

C先生:ということではあるが、話を戻して、今回のICEFの原子力セッションは、米国に学ぶことが目的だったようだけれど、安全性以外に、実は、原子力の最大の問題点があり、そのもっとも重大なことが、炉の建設費が高くなりすぎ。フランスのアレバと中国のベンチャーですら同様であること。英国のヒンクリーCでの建設費用も、追加の安全策を加えることもあり(多分)、当初の計画を遥かに上回ることになった。英国政府は、日本同様に島国であって他国から電力網が切り離される可能性がある、という弱点を補うために、確固たる意志があって、CfDというある種のFITのような制度をこの発電所のために作ったのだけれど、どうも、それでも商売にならない可能性がある。

A君:原発新設は、コスト面を考えると、なかなか難しい状況になったように思えるのですね。一方、再稼働は、現在存在している原発に必要かつ充分な安全対策を施して行うので、安全性向上に対する投資効率が高い。

B君:原子炉も何かあったときに制御棒を入れるところまでは、瞬時にできるので、その後の冷却が正常に行うことができれば、完璧に停止状態になる。福島第一は、冷却に必要な水も電気も全く無い状態になってしまった。これは、東京電力が想定外と言うように、そのような意識が全く無かったから。もっと言えば、なんと言ってももっとも古い原発なので、寿命まで残り何年も無い設備にそのような投資をしても無駄だと思っていたのではないか、と推察している。

A君:定年間近の人材を、持っている能力の範囲内で上手く使えば、人件費も値切りつつやれる。しかし、そのような人材に対して、いまさら投資をして教育をするのは、無駄。大体、教育も不可能かもしれないし。これに類似する考え方だった、と思いますね。

B君:話を戻せば、今後、原発を新たに建設しようとすれば、先進国の企業では、米国、日本を含めて、コスト面でなかなか難しい。儲からない。東芝・WHは、まさにそのような状態だった。今後、原発に依存するとしたら、恐らく韓国製もコストが高くなるので、取り敢えず中国製、その後は、ロシア製にせざるを得ないのでは。

C先生:確かにそのような情勢なのだ。米国の原発は、実は、もっと状況が厳しいと思われる。だから、ICEFに集まって威勢を上げる必要があったのではないか。
 それは、シェールガスの価格が非常に安いので、パイプラインを需要地からノースダコタ州まで伸ばせば、それで、かなりのことができる。しかし、シェールガスとは言えども、先進国では、COを処理して、地中に埋設するCCSを行わなければならなくなるだろう。それが、IEAの図1からも読み取れる。この図だと2030年前にCCSが若干始まるようなことになっているが、恐らく本格的な導入は2040年頃で、急に進展するのではないか。その頃になると、気象状況が現在よりも遥かに厳しくなって、天災による被害がかなり増大しているだろうから。そのためには、2030年頃には準備をしておかなければならない。もしも原子力を2030年に廃止すると希望の党が言うのなら、2040年以降の日本の電力需給の状態を、排出CO量と共に正確に予測し、そのためにどのぐらいの投資が必要なのか、そして、どのぐらいの電力料金になるのか、料金の産業優遇を韓国のようにさらに進めるのか、などの細かい情報提供が必要不可欠。
 個人的にも、原発廃止そのものには全く反対はしないのだが、いつ廃止するのか、そして、日本の石炭はどうするのか。これが最大の問題。元環境大臣なのだから、まさか、石炭で行くとは言えないと思うけれど。
 いずれにしても、原発なし、石炭なしというエネルギー転換ために、どのぐらいの投資が、それぞれのエネルギー源に対して必要不可欠なのか、消費税を増税しないということが、そのような投資を可能にするのかどうか、といった現実的な政策が明確な形で提出されないかぎり、やはり、ポピュリズム政党だとしか言えない。だからといって、安倍政権を支持することも考えにくい。やはり、不人気になると思われる現実的な問題から、逃げているように見えるので。
 すなわち、現実から逃避せず、遠い未来をしっかり語る政党が皆無なのが日本という国の最大の欠陥。すなわち、パリ協定に代表されるように、今や、地球全体が大転換時代になったのだ。したがって、これを充分に認識し、それに対応する未来の仕組みを実現するために、あらゆる政策を語ることが不可欠なのだ。そうしなければ、日本という国は、このまま太平洋に沈没してしまう。
 しかし、現実には、そのような政党が全く存在していないのだ。残念ながら、ポピュリズム政治の国になってしまった。まあ、世界中、似た状況の国は多いのだけど。