| 第4次IPCCレポート 02.04.2007 ![]() |
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2月2日に、第4次IPCCレポート:グループT"The Physical Science
Basis"が公表された。現時点でインターネットから手に入るのは、政策決定者向けのサマリー。 前回の報告書が2001年。この6年間で何が変わったのか。最大の変化は、論調。科学的に90%確実だと言える、と言い切ったことだろう。最初にIPCCの見解がでたとき(1990年)の慎重な言い回しから完全に変わった。 C先生:今回発表されたのは、グループTの"The Physical Science Basis"のみで、合計21ページほどの短いもの。 A君:ざっと見ると、これまでの説明の拡張といったところが多いのですが、2001年以降の新たな進展についてのみ記述。ただ、それだけだと分からない部分については、補充というやり方が効率的のようです。 B君:その方針で行こう。 温暖化ガスなどの推移 *2005年における大気中の二酸化炭素濃度は、379ppmになった。 A君:ここまでは、二酸化炭素などの温暖化ガス放出量、その原因などの考察。データが新しくなったので一応更新しておくというところでしょうか。 人為的な温暖化ガス放出の気候への影響 *影響の確実性が、"very high confidence"と評価すべき状態になった。 B君:実は、これが第4次報告書の最大の結論なのだろう。 A君:この"very high confidence"をなんと訳すのか、読売は「可能性がかなり高い」と訳し、朝日は、「人間活動による温室効果ガス排出が要因の可能性がかなり高い」と表現。一方、毎日は、「地球温暖化は疑う余地がなく、人間活動が原因と確信する」と訳した。どれか、といわれれば、毎日の表現でしょうか。 B君:信濃毎日は、「90%を超える確率で」と訳している。これが最善の訳ではないか(拍手!)。 A君:そう思います。脚注に表現と数値の関係が述べられていて、 Virtually certain > 99% が上げられていますが、実際には、全体的な影響については、次の、 *"very high confidence"
at least a 9 out of 10 chance of being correct;
という表現を採用したということが明記されています。したがって、信濃毎日の訳がもっとも正しいと言えるでしょう。 C先生:その通りなのだ。ただ、新聞記事として、最近の読者のレベルを考えると「確率が90%」という表現が適切なのかどうか、といった議論が新聞社内部で行われるであろうことも、十分に理解できる。 A君:話を戻して、「90%確実」の根拠となる項目がいくつかあります。 温暖化が人為的な影響であることの確証 *温暖化ガスの放射強制力が+2.30W/m2になり、これは、過去1万年でなかったことだ。二酸化炭素に限れば、1995〜2005年に20%増加した。 B君:これらのデータは、いささかプロ向きか。 A君:次が、 *過去12年間のうち11年は、1850年に温度計測がスタートして以来もっとも暖かい年の12年の中に入る。 B君:ここから、 *山岳氷河と雪冠は急速にかつ広範に減少中。 A君:ここで、海面上昇への分析表があって、なかなか興味深いところです。 海面上昇速度への要素別影響 mm/年 B君:四つの要素、熱膨張、山岳氷河雪冠、グリーンランド、南極、の合計が、以上の総合と一致しない理由は、後日調査が必要。 A君:可能性としては、氷の溶解でできた冷水によって、海水の温度上昇が抑えられるから??? B君:以下、 *北極の温度上昇速度は、過去100年の2倍。 A君:そして、次が、人為的な原因かどうか、という検討ですが詳細は省略。 B君:そして、 *2〜4.5℃の上昇。もっとも有り得るのは3℃。1.5℃以下にはなりそうもない。 2090−2099年の温度上昇予測と海面上昇予測 対応するエミッションシナリオは、次の図の通り。その意味については、今回の報告書にも再掲されている。
B君:前回の報告と比較して、特別に大きく変わったというものでもない。精度が向上したということはあるだろうが。参考のために、第三次レポートのプロットも示す。まあ、余り変わらない。
B君:それ以外の要素もいくつか記述されている。 A君:その図が、報告書中のfigure SPM-4なのですが、よくよく見ると、結構怖いことが分かるのです。もしも、人為的な影響を含めない自然起源の温度変化だけを算出してみると、1950年ごろから、地球の温度は下がりつつある。すなわち、多分、太陽活動は落ちつつある。しかし、現実には、人為的な影響が非常に大きいもので、気温が上昇している。 B君:毎度言うように、1800年ごろから、地球の温度は上昇し続けている。もっとも、IPCCが使っている地球温度の変化(Mannによるもの)だと、1850年からしかデータが無いので、余り明確ではないのだが。しかし、気温の上昇に遅れておきる海面上昇のデータを見ても、そんな状況だと思われる。 A君:今回の報告書のfigure SPM-3の図は、1870年から1970年の100年間で、海面が11〜12センチ上がったのではという図です。 C先生:1800年以前の温度となると、世界中に温度計が有ったわけでもないので、様々な花粉の化石などの解析によるもの。不確実性が高いとことで、IPCCは使わないのだろう。しかし、歴史的記述によっても、1600年頃も低温期で、1800年頃も低温期だったようだ。 A君:要するに、このところの温度上昇は、もしも地球が温度上昇側に振れたとたんに、もっとすごい上昇速度になるということを意味する。 B君:そのあたりに対して、かなり自信をもってシミュレーション結果の議論ができる程度に、精度が上がったということでしょう。 A君:日本でも、これまで温暖化の科学性に懐疑的な態度をとってきた一部の科学者と経済界などはどんな反応をするのでしょうか。 B君:懐疑論も色々あって、ロンボルグの懐疑論は有名なのだが、彼の主張は、温暖化そのものに対する懐疑論というよりも、単に削減するという対応法に対する懐疑論だったと思う。 C先生:米国の対応を見れば分かるように、意図的に中身を読み飛ばすのか、すなわち、本気で理解する気が有るか無いかが分かれ目。ということは、結論的には、余り変わらない。ただ、経済界の一部では、先日のダボス会議の様子などから、ポスト京都の枠組みが、これまでのような自主行動計画だけでは終わらないかもしれない、すなわち、「Cap and Trade」になる可能性を感じ始めているのではないだろうか。これは、感性の問題なので、そう思いたくないと自分で考えても、感じるものは感じるから。 |
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