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もうかなり前になってしまった。5月4日までバンコクで行われたIPCCの第3部会の報告書が発表された。 第3部会は、IPCCの中で気候変動をどのようにして防止するかを担当している部会である。 新聞報道によれば、中国がかなり予防線を張ったようだ。排出量削減を言われることを警戒してのことである。 C先生:大分時間も経ったもので、すでに、日本語訳(仮訳)も出ている。 A君:今回の議論では、温室効果ガス(GHG)の大気中の濃度をどのように変えることによって、どのぐらいの温度の上昇が起きるか。そして排出を削減するとしたら、どのぐらいの投資をどの分野にしなければならないか。そんな報告がなされている。 B君:まずは、大気中での温室ガスGHG(温暖化ガス)の平衡濃度と温度上昇との関係がもっとも基本的情報で、図で言えば、まずは、これがベースになる。 図 温室ガスの平衡濃度と温度上昇との関係。黒線が気候感度を3℃としたときのもの。 A君:ちなみに温度などの基準点がどこか、という話なのですが、気候感度の原点は、産業革命以前の濃度、すなわち、270ppm。ということで、最近の温度上昇も、産業革命時を基準点にとることが多くなってきた。それで2℃以内に抑えられれば、まあ合格か。3℃でも極めて危機的とは言い難い。しかし、4℃を超すと、何が起きるかかなり予測不能。6℃になったら絶対まずい。 B君:IPCCも2001年の第三次報告書までであれば、1990年の京都議定書の基準年を0℃としてグラフが書かれていた。 C先生:これが基本中の基本の図ではあるが、その平衡濃度に到達するのに、どのような経路を取るか、ということが次ぎの問題。その考え方としては、借金みたいなもの。 A君:なるほど。270ppmという濃度が産業革命時点だったとすると、現時点で380ppmぐらいになっているのだから、すでに110ppmの借金を負っている。例えば、最終平衡濃度が500ppmだとすると、これは、破産する時点での借金の額に相当するので、あと120ppm余裕があるとも言えるが、それしか余裕が無いとも言える。もしも破産する濃度が600ppmだとすると、あと220ppm余裕があることになる。 B君:地球には、温室ガスを処理してくれる能力がある。現在、その処理能力(=吸収量)の大体2倍ぐらいの量を人類は出している。だから、現在の温室ガスの排出量を半分、50%削減すれば、その時点で、排出量と吸収量とはバランスする。しかし、地球の吸収量は、森林によるもの、海面によるもの、土壌によるもの、様々なので、その能力を充分に維持しなければならない。 C先生:吸収量と対策については、後ほど議論するとして、ざっくりした話はそんな感じで良い。50%削減をいつ、どのようにやるか。これが平衡濃度に応じて、様々なケースがありうる。 A君:そのために、排出シナリオなるものが考えられている。 B君:今回の第4次報告書で使用されている排出シナリオは、第3次報告書と変わっていない。そのシナリオの具体的な形は、本HPの2月の記事ですでに引用した。 C先生:ここで、まず吸収量に関して、一般的な説明を。 A君:森林の吸収量は、一般的常識とは違うかもしれないが、「定常状態にある森林ではゼロ」。一方、成長状態にある森林は、その成長に見合うだけの吸収をしている。勿論、伐採して、それを燃やしてしまったら、二酸化炭素が発生してしまう。木材として使用すれば、それは、ある時間炭素が貯蔵されたことにはなる。炭を作っても貯蔵ができる。 B君:海洋による吸収速度は、海面での二酸化炭素の濃度によって異なる。しかも、一旦吸収された二酸化炭素が、なんらかの形で固定される必要がある。その候補は、珪藻類。ところが珪藻類の成長には、栄養素が必要。特に、鉄の量がその発生量に影響を与えるので、無限に藻類が発生することはない。いずれにしても、海は深いので、極めて長時間を経過しない限り、その全部が均一な状態などにはならない。 A君:土壌による吸収といっても、これは、土壌内になんらかの形の有機物として取り込まれれて蓄積されるか、あるいは、岩石の風化によって酸化カルシウムなどが炭酸カルシウムに変化することによって吸収される。植物を育成することは、大気中の二酸化炭素を吸収することではあるので、バイオエネルギーを活用することは、炭素の出入り勘定にとっては中立だと考えられている。しかし、水田などはメタンを発生させることが多いので、温暖化を促進する要素をも含んでいる。農業を行うことによる生態系へのダメージを含めて考慮する必要がある。 C先生:まずは、全体感の把握が必要か。 A君:今回の図2がなかなか意味深いです。 図 世界の全GDPは順調に伸びている。1970年を1とすれば、2004年には3倍にもなった。そのために必要なエネルギー使用量は2倍程度で抑えられ、二酸化炭素の排出量は、さらにすくなく、2倍弱である。一方、人口も1.7倍に増加した。しかし、一人あたりのGDP(GDP(PPP)perCapta)も1.8倍程度にはなった。 A君:一人あたりのGDPの増加に要する二酸化炭素排出量は、0.6倍ぐらいになっていて、まあ、ある意味で確実に進歩はしているのですね。 B君:しかし、やはり、人間活動の総量が大きすぎることに違いは無い。 C先生:となると、二酸化炭素の排出を削減することを、人間活動の中に組み込むべきだ、というのが解決法になる。 A君:それが、1トンのCO2を減らすために掛ける費用の話になって、2030年を想定して、余分な費用を掛けないとした場合には、5〜7ギガトン/年の削減しか行うことができないが、もしも、1トンの削減に100ドルを投資すれば、16〜31ギガトン/年の削減量になって、排出量の半減が可能。これが、次の表。 B君:1トンのCO2の削減に100ドルね。原油が1バレル60ドルだとしようか。原油は比重が0.86。1バレルは159L。重さにすれば137kgぐらいになる。重油の組成をCH2とすれば、炭素を、大体120kg含むことになる。これから440kgのCO2が出るので、CO2の1トン100ドルということは、1バレルあたり、44ドルの追加コストを考えることになる。要するに、現状で、バレル100ドルということか。これは高い。 A君:1トン20ドルであれば、その1/5ですから、1バレルあたりの追加コストが10ドル。これなら、まあまあ。 C先生:現在の常識では、100ドルの費用を掛けようというメンタリティーにはならない。だから、何がもっとも経済的に効果的か、という検討が必要になる。 A君:それが、この図ですね。処理費用を20ドル/トン、50ドル/トン、100ドル/トンとしたときに、それぞれのセクターでどのぐらいの削減が可能性があるか。 図 それぞれのセクターで、どのぐらいの削減費用を掛ければ、どのぐらいの量が削減できるか、という推定値。ただし、2030年時点。
A君:ぞれが、実は、テーブルになっている。そのテーブルをGISPRIの和訳から抜きだします。 表7−1、表7−2 それぞれのセクターにおける削減策の記述 A君:まず、エネルギー供給部門ですが、最初に言われているのが、ガソリンなどの政府補助を止めよ、という話。これは極めて妥当で、日本のようなあるいは欧州のようなガソリンの高い国にいると全く気付かないのですが、世界の大部分の国では、ガソリンには、むしろ政府が補助金を出している。 B君:GTZの調査というものがあるのだが、それによれば、アジアでもっともガソリン代の安い国がトルクメニスタンで、リットルあたり2セント。これでは、省エネをやろうなどという気にはならない。 A君:そして、化石燃料税、または、炭素料金を設定することを奨めている。 B君:同時に、再生可能エネルギーに対する、固定買取制度の導入を推薦。いわゆるドイツ方式。導入義務化よりもその方が効果的。 B君:具体的には、燃費規制、車の登録などの工夫、道路通行料、公共交通の充実など。これは、世界全体で重要。 A君:次が建築物。日本語訳だと電気器具という記述がありますが、これは、各種機器であって、必ずしも電気器具には限らないのでは。例えば、二重窓とか、断熱型の換気システムとか、勿論、エアコンとかも重要。そこでは、省エネの標準化のようなものが重要。 B君:建築基準を定めるのが重要とあるが、強制は難しいとの記述がある。 A君:需要側のマネジメントプログラム。日本だとBEMS(Bussiness Energy Management System)とかHEMS(Home Energy Management System)が相当品。 B君:さらには、ESCOの充実が上げられている。 C先生:この分野は、日本の技術が売り物になるところかもしれない。しかし、実際には、日本でも大容量のエアコンなどの効率向上は余りはかばかしくないのだ。 A君:次が産業分野。まずは、ベンチマーク情報。パフォーマンス基準の設定。そして、達成したときには、優遇。 B君:さらには、排出権取引。自主協定など。この自主協定は、日本産業界の主張でもあるが、どうやってそれを実現するかはなかなか。 A君:その次が農業分野。土地管理の方法論の改善や土壌中の有機物質の増量、さらには、肥料や灌漑の効率化が上げられている。 B君:その次が森林。森林面積の増大、森林喪失の防止、森林のメンテナンス。 A君:最後が廃棄物。適正な処理のためのインセンティブ。再生可能エネルギーとしての視点。もっとも、廃棄物によるそれほど大きくは無い。 C先生:量的な関係を眺めると、まず、炭素価格が余り高くないところで効果的なのは、建築物。ただし、単なる断熱などだけではなく、かなり多様な概念がこの建築物には含まれている。エネルギーマネジメントシステムとかESCOまで入っているのだから。エアコンなどの機器の改善は大きいということ。 A君:そして、次にエネルギー供給、工業、農業といった優先順位で、廃棄物はまあ、別の意味でやらざるを得ない。そして、なんとなんと森林に手を付ける優先順位は低いことになる。 B君:それは国の状況が違うから、実のところなんとも言えないものと思われる。 C先生:いずれにしても、大体の方針はそんなところで、かなり直感とも合っている。 A君:まずエネルギー。日本の場合に、再生可能エネルギーは、RPS法で導入量を強制するというやり方。しかし、これよりも、再生可能エネルギーを定額で購入するというやり方の方が効果が速くでる。 B君:ところが、日本の場合には、各電力会社が再生可能エネルギーの大幅導入には否定的。それは、やはり、誰が費用を負担するか、という問題がある。風力・太陽光のような不安定な電力を入れるには、その揺らぎを補正するような別の発電装置が必要。 A君:あるいは、電力網を格段に強化して、面積で平準化を狙う。しかし、日本の電力網は余り強固ではない。 C先生:なんといっても、国内に50Hz、60Hzなどという区分がある国だ。こんな国はまず無い。30年から50年かけて、幹線を全部直流送電に切り替えるぐらいの壮大なプランが必要なのではないか。 A君:それには、消費者が費用をやはり高めに負担することで実現していかないと。 B君:輸送は、やはりハイブリッド車の普及だ。それ以外には無い。水素燃料電池車は、まあ車は走るだろうが、水素供給スタンドが普及しないから、普及はしない。ハイブリッドの次は、都市内の電気自動車だ。 C先生:地方都市の場合に、地域の発展のために、どのように公共交通を入れるか、こんな検討を併せて行うべきだろう。 A君:建物も、断熱などは当然として、設備、電気機器などが対象でしょうから、ここにも日本の技術の活躍の余地あり。 B君:ヒートポンプ技術か。さらに、エネルギーマネジメントシステム。まあ、世界トップかもしれない。しかし、売れ筋以外には開発の力が入っていないのが無いのが問題。 A君:電気機器などは、トップランナー制度が導入されて、改善が進んだ。 B君:世界に誇る方法なのだが、余り有名ではない。是非、これをお読みいただきたい。 C先生:トップランナー制度のようなものを世界中に導入すべきだ、そんな提案をすることが良いかもしれない。 A君:工業。このセクターでは、鉄鋼が代表例。日本の鉄鋼生産のエネルギー原単位は、世界最高ということになっている。 B君:確かにそうなのだが、それも、エネルギー価格が非常に高いから投資が行われたのが実態。日本の産業用電力の価格は、やはり世界でもっとも高い部類だ。 A君:「エネルギー原単位の良さを生かすのならば、世界中の鉄鋼は、日本で作る。それが地球全体としての二酸化炭素排出量を減らすことだ」、と宣言してみたらどうだろう。 B君:まあ、それだけでは余り効果はない。日本の省エネ対策で自慢できるのは、トップランナー方式ぐらいなものだから、工業セクターには、トップランナー方式を導入し、最善のエネルギー原単位で作っている国の排出量は、そのままカウント。もしも、1.2倍の排出量で作っている国があったら、その0.2倍分については、係数3ぐらいを掛けて、0.6倍にし、合計1.6倍の排出量があるといった勘定をすることにしたらどうだ。 A君:やはり、2倍、半分が目標ですね。 B君:最近、Web2.0が流行ったと思ったら、今度はDocomo2.0だそうだ。それなら、われわれも、「エコテク(EcoTech)2.0」を主張しよう。2.0は、2倍、半分を意味する。 C先生:繰り返すが、日本の製造業にも、エコテク2.0を目指す心意気が不可欠だ。そのためのインセンティブも必要。 A君:それでは、農業。ここへの日本の貢献は難しい。 B君:確かに難しい。なんとか食糧自給率を上げるぐらいだと言いたいが。。。。。 A君:そこは、様々な議論があって。 B君:林業も同様だなあ。現時点で、日本産の材木価格は世界最低になったそうだ。だから、多少の買いが入いるようになった。しかし、今後はなかなか難しい。 A君:農業と林業は、自然保護、多様性保護のため、として、なんらかの特別扱い。 B君:あるいは、全く考え方を変えて、輸出用の高級リンゴ、桃、サクランボ、コシヒカリだけを作る。 A君:最後が廃棄物処理。日本の廃棄物処理は、行き過ぎている部分もあるが、まあ、エネルギー効率・資源有効活用効率というものの見方でもう一度再検討するのも良いかもしれない。 B君:以上。しかし、いずれにしても、非OECD諸国での排出削減が行われない限り、削減は実現しない、ということ。 A君:それには、やはり援助でしょうかね。 B君:ある一定以下のGDPperCapitaの場合には、そうだろう。しかし、中国のように一定のポテンシャルを持ったら、鉄鋼の場合のように、日本の「贅肉1mmを削る技術」を供与するよりも、「エコテク2.0」を中国で開発してもらった方が効果的だと思う。 C先生:まあ、こんなところで良いだろう。 A君:実際、もっとも重要なことは、ライフスタイルを変更することによって、様々な技術などを導入することに同意ができるようになる。すなわち、社会的なシステムの変更の速度が速くなること、これが大きいでしょう。 B君:まあ、日本の場合、最大の問題点は、このところの「重く我侭な社会」になったこと。すなわち、変わらないのだ。これが問題。 C先生:ということで、「フットワークを軽くして、思いを強くすれば」、温暖化問題は、実は、それほど解決不能な問題だとは思えないという結論にしておこう。 |
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