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    IPCCの1.5℃報告書 その1   10.28.2018
        2℃目標ではもはや不十分!!

               



 IPCC(=Intergovermmental Panel for Climate Change)とは、名称の中に、Intergovermmentalなる言葉がありますが、実質的には科学者で構成されているもので、気候変動の現状、リスク、対策などを総合的に検討している組織と言えるでしょう。もともと、国連機関であるUNEP(United Nations Environmental Programme)とWMO(World Meteorological Organization)が設立した組織ですが、実際には、組織という言葉では、実体の表現として強すぎるかもしれません。確かに、国連総会によって認められている組織ではあり、195ヶ国が参加し、国連流のプロセスは踏むのですが、このレポートの科学的な内容を決めているのは、基本的に数千人の気候に関する専門家(科学者)集団ですので、科学的良心によって形成されている集団とでも言った方が正しい表現かもと思います。すなわち、政治的なスタンスはかなり薄いと考えるべきだと思っています。気候変動という学問を推進したいというスタンスはしっかりありますが

 その48thIPCCが10月1日から8日まで、韓国のインチョン(仁川:ソウル近郊の国際空港のあるところ)で開催され、GLOBAL WARMING OF 1.5℃ 〜 Summary for Policymakersという文書が作られました。現時点では、次のWebサイトからダウンロードが可能です。
http://report.ipcc.ch/sr15/pdf/sr15_spm_final.pdf

 ただし、今までのIPCCの大部の報告書に比べれば、たった33ページしかないとは言っても、Policymakersが普通に持っている知識で読み込めるとも思えない専門性を持った文書ではあります。英語そのものは分かりやすく書かれていますので、多少の単語を辞書で引くぐらいで読み込めることでしょうが、様々な背景とか科学的な中身を理解するのは、ちょっとむずかしいかもしれません。勿論、Policymakerの定義によるかもしれませんね。



C先生:IPCCは、科学者の集合体であって、日本からも何人かが参加している。今回の1.5℃特別報告書に関しては、Drafting Authorとして、62名(数え間違っていなければ)の氏名と国籍が、サマリーで紹介されている。日本人は、国立環境研フェローの甲斐沼美紀子さんが一人だけ執筆されたようだ。国籍別の人数を見ると、なかなか面白い。

A君:正確に数え直さないと。2つの国の名称が記されている人が結構多いのですが、以下は両方を数えた結果です。
英国=13名
ドイツ=7名
フランス=5名
オーストリア=5名
インド=5名
米国=5名
オランダ=3名
オーストラリア=3名
ノルウェー=2名
イタリア=2名
南アフリカ=2名
中国=2名
日本=1名
スーダン=1名
ボツワナ=1名
ニカラグア=1名
グアテマラ=1名
メキシコ=1名
コンゴ=1名
スエーデン=1名
チリ=1名
ナイジェリア=1名
ベルギー=1名
スイス=1名
ジャマイカ=1名
カナダ=1名

B君:英国ダントツの13名。続いてドイツの7名。このあたりは、「まあ、当然か」。オーストリア、インドの5名は、「なかなかのもの」。そして、米国の5名は、「トランプ大統領が何と言うだろうか」。フランスの5名は、「まあそんなものだろう」。そして、日本から1名というのは「え。。なんということだ」。

A君:報告書は、Aから始まってDまでに分かれています。目次的に示すと、
A. Understanding Global Warming of 1.5°C
 1.5℃という地球温暖化をどう理解するか
B. Projected Climate Change, Potential Impacts and Associated Risks
 気候変動の未来、可能性の高いインパクト、そして、それに伴うリスク
C. Emission Pathways and System Transitions Consistent with 1.5°C Global Warming
 1.5℃上昇までに留めるための排出量とシステムの変化
D. Strengthening the Global Response in the Context of Sustainable Development and Efforts
to Eradicate Poverty
 持続可能性と貧困撲滅の努力のために地球的な対応を増やすべきこと


B君:AからDは、さらに細かく別れていて、Aだと、A3.3.まであって、BもB6.3.まで、Cは3.5.まで。そして、Dは7.4.まである。

A君:やはり、A1からA3などの大項目はすべて書くべきではないだろうか。当たり前のことが書かれているという評価もあるとは思いますが。

B君:まあ、そうしよう。日本語訳は、例によって、適当だけれど。

A君:それでは、A1に行きます。『これまでに、工業化以前から、ほぼ1.0℃の温暖化が進行した。巾で言えば、0.8〜1.2℃と言える。そして、1.5℃の温度上昇になる年は、2030年〜2052年のどこかだろう』

A1. Human activities are estimated to have caused approximately 1.0°C of global warming above pre-industrial levels, with a likely range of 0.8°C to 1.2°C. Global warming is likely to reach 1.5°C between 2030 and 2052 if it continues to increase at the current rate. (high confidence)

B君:そして、それらについて、やや細かい議論が追加されているという形式になっている。例えば、A1に関する詳細情報が、A1.1からA1.3までに書かれているという具合。

A君:それでは、説明しますか、それともスキップ。

B君:説明していると、全部を書くことになって、数回分以上の分量になるので、スキップして、A2に行こう。

A君:A2です。『人為的な排出が原因である温暖化は、今後、何世紀か、あるいは、何千年に渡って継続するだろう。そして、気候システムに、例えば、海面上昇などに長期的な影響を与える。しかし、現時点までの排出量で排出を止めれば、1.5℃といった温暖化にはならないだろう

A.2. Warming from anthropogenic emissions from the pre-industrial period to the present will persist for centuries to millennia and will continue to cause further long-term changes in the climate system, such as sea level rise, with associated impacts (high confidence), but these emissions alone are unlikely to cause global warming of 1.5°C (medium confidence).

B君:まあ、すぐに止めろがベストだけれど、社会の仕組み、いや、人類の文明の根幹が変わるのには時間が掛かるので、そうも行かない。

A君:そして、ここまでのところで、図が出てきます。こんな図ですが、A1とA2の文章の図示とでも言えそうです。



図1 1.5℃の達成の可否を決める排出量のプロファイル  b)のように急激なCO2排出の削減を行わないと、1.5℃達成は難しい。


B君:それでは、A3に行こう。この文章は当たり前のように思うけど。

A君:A3:『1.5℃上昇の場合の気候関係の自然と人類に対するリスクは、現時点よりは大きいものの、当然、2℃の場合よりも少ない。リスクは、温暖化の程度、地理的条件、開発と脆弱性のレベルなどで決まる。勿論、適応(adaptation)と排出削減努力にどう取り組むかに大きく依存する』

B君:これに続く、A3.1〜A3.3も当たり前のように読める。それでは、B.に行こう。

B. Projected Climate Change, Potential Impacts and Associated Risks
 「想定される気候変動、起こりうるインパクトとそれに伴うリスク」
ぐらいか。

A君:B1です。『これまでの研究で、気候モデルは、現時点と1.5℃の温暖化が起きた場合、1.5℃の場合と2℃の場合、について、極めて正確な相違を示すことに成功している』。相当な意訳ですが。
 B1には続きがあって、『何が違ってくるか、と言えば、次のようなものである。平均温度(大部分の大地と海洋)、居住地における極端な気象現象、いくつかの地点での豪雨、ある地点での乾燥と降雨不足』


B1. Climate models project robust differences in regional climate characteristics between present-day and global warming of 1.5°C and between 1.5°C and 2°C. These differences include increases in: mean temperature in most land and ocean regions (high confidence), hot extremes in most inhabited regions (high confidence), heavy precipitation in several regions (medium confidence), and the probability of drought and precipitation deficits in some regions (medium confidence).

B君:まあ、実際、日本では、台風と線状降雨帯関係で、すでに起きていることの指摘でもある。

A君:そうですね。B2に行きます。『2100年において、平均海面高さは、1.5℃の温暖化を達成すれば、2℃の場合に比較して、10cm低くなる。2100年以降にも海面の高さは上がり続ける。そして、その高さは、その後の排出量に依存する。もし、海面の上昇速度を十分に抑えることができれば、島嶼国、海岸の低地やデルタなどでの人間生活の適応が容易になる』。

B2. By 2100, global mean sea level rise is projected to be around 0.1 metre lower with global warming of 1.5°C compared to 2°C (medium confidence). Sea level will continue to rise well beyond 2100 (high confidence), and the magnitude and rate of this rise depends on future emission pathways. A slower rate of sea level rise enables greater opportunities for adaptation in the human and ecological systems of small islands, low-lying coastal areas and deltas (medium confidence).

B君:これも当たり前の記述だと言える。実際に起きることの予測の詳細が、B2.1,B2,2,B2.3に書かれているけど、これもまあ常識的な記述になっている。

A君:それでは、B3に。『陸上においては、生物多様性とエコシステムが、種の絶滅を含めて、2℃よりも1.5℃の場合の影響度は低い。すなわち、1.5℃を維持することによって、陸上、淡水、海岸における生態系に対するインパクトを低く保つことができると同時に、人類に対する豊かな生態系サービスを保つことができる』

B3. On land, impacts on biodiversity and ecosystems, including species loss and extinction, are projected to be lower at 1.5°C of global warming compared to 2°C. Limiting global warming to 1.5°C compared to 2°C is projected to lower the impacts on terrestrial, freshwater, and coastal ecosystems and to retain more of their services to humans (high confidence).

B君:これも当然と言えば当然。

A君:それでは、B4『気温の上昇を1.5℃と低く保つことは、2°Cの場合よりも、海洋の温度を低く保つことができることを意味する。同時に、海洋の酸性化の防止や海洋における酸素レベルの維持にも有効である。その結果として、1.5°C以下に保つことによって、海洋生態系の多様性、漁業、生態系そのもの、そして、その機能が、対ヒトを含めて保全できる。すでに、温暖化の悪影響は、北極海の海氷の変化やサンゴ礁の白化などに見られているが』。

B4. Limiting global warming to 1.5°C compared to 2°C is projected to reduce increases in ocean temperature as well as associated increases in ocean acidity and decreases in ocean oxygen levels (high confidence). Consequently, limiting global warming to 1.5°C is projected
to reduce risks to marine biodiversity, fisheries, and ecosystems, and their functions and services to humans, as illustrated by recent changes to Arctic sea ice and warm water coral reef ecosystems (high confidence).

B君:これも当然としか言いようが無いので、コメントを止めようか。どんどんと進めてくれ。

A君:それでは、遠慮なくB5『1.5℃以下にすることによって、ヒト健康、生活、食物関連の保障、水の供給、ヒトの安全保障、経済成長が容易に維持できる』。(図 SPM.2)

B5. Climate-related risks to health, livelihoods, food security, water supply, human security,
and economic growth are projected to increase with global warming of 1.5°C and increase
further with 2°C. (Figure SPM.2)

B君:ということで、ここでも図によるこれまでの結論の再表示がある。説明不要と思う。



図2 温度上昇による、様々な対象への影響(インパクトとリスク)。最悪は、海洋生態系の代表であるサンゴ礁。次が近海漁業と海岸地帯の冠水。


A君:図の後にB6が来るのですね。『1.5℃以下に保つことができれば、適応の程度も減少させることができる。しかも、より多種類の適応策を活用することができる。しかし、1.5℃でも適応策やヒトや生態系の適応能力には限界があり、随伴するロスを伴う場合がある』

B6. Most adaptation needs will be lower for global warming of 1.5°C compared to 2°C (high confidence). There are a wide range of adaptation options that can reduce the risks of climate change (high confidence). There are limits to adaptation and adaptive capacity for some human and natural systems at global warming of 1.5°C, with associated losses (medium confidence). The number and availability of adaptation options vary by sector (medium confidence).

B君:これで、大体、半分まで来たかな。内容的には、すべて、ある意味で当たり前のことが書かれていて、2℃よりは1.5℃までの温度上昇に抑えることが、当然ながら、人類や生態系の生存のためには望ましい。

A君:まさに当たり前ですね。CO排出量の削減ができない理由は、経済活動が低下するから、という理由であって、人類や生態系の生存とは、トレードオフ関係にあると考えている人がやはり多いということ。

B君:トランプ大統領のように、神が作った地球と人類なのだから、人類が何をやっても、地球と人類は健全に保たれるように作られている、と主張している人もいるけど。多分、日本国内にも残る温暖化懐疑論者と呼ばれる人々も似たようなもの。

A君:もしもこのようなトランプ大統領が、中間選挙で勝ったら、トランプ大統領を支持しているアメリカ人の科学的常識のレベルの低さを示しているとしか、言いようが無いですね。11月6日の結果が楽しみとも言えるし、怖いとも言えますね。

C先生:今回は、ここまで。大体半分は来た。残りは15ページ分ぐらいだな。ここまでの印象だと、すでに分かっていることを再度確認したということに過ぎないとも言えるが、2℃の気温上昇では、かなりキビシイ状況になる部分も出てくるし、COの大気中の寿命も長いので、次世代のためには、できるだけ1.5℃上昇にとどめておくことが望ましい。しかし、望ましいからできるというものでもない
 2℃上昇のもっとも怖いことは、やはり、生態系が突然壊れてしまうこと。これが起きるかどうか、かなり予測は難しいとは思うけれど、このところの台風の強烈さなどを見ると、その影響で、かなり大規模な生態系の破壊が起きるということはあり得る状況だと思う。生態系への影響というと、農業への影響は無さそう表現だけれど、当然、台風が強烈になるなどが原因で農作物が大被害を受けることは、十分にあり得るということ。
 結論などは次回に述べることになるが、やはり、欧州は、そろそろ新しい枠組みでの経済成長を目指さないと、人類の平和な生活は継続できないと考えている。一方、それはそうかもしれないけれど、現在の経済を潰すのなら反対、というのが日本と米国。米国でも、最近の気候変動の影響と思われる現象は頻発しているのだけれど、トランプ大統領を支持している米国人は、宗教的な理由からか、科学的常識のレベルが余りにも低いのが現実一般的日本人は、もともと最優先するキーワードが「利便性」というものなので、やはり、CO2大幅削減は、「不便になるから嫌だ」と思っているのだろう。日本人の平均値としては、「未来世代とは自分の子供まで」で、その先を考えるという習慣の無い国民性でもあるので。
 次回に続きを検討したい。