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  IPCCのWG2報告書  04.08.2007
     



 Working GroupUは、気候変動がどのようなインパクトを与えるかをまとめるグループである。すなわち、自然への影響、人間社会への影響などを評価する。
 4月6日付けで、政策決定者のためのSummaryが出た(SPM=Summary for Policy Makers)。各新聞も、4月7日の朝刊で、かなり大々的に報道をしている。 http://www.ipcc.ch/SPM6avr07.pdf


C先生:2月にでたWGTのSPMでは、人工的な原因による温暖化ガスの放出によって気候変動が起きていることの確実性は、90%以上という結論になった。そして、今回の報告書は、今後、どのような影響が、自然環境に、そして、人間社会に起きるかを推定している。

A君:しかし、その表現を巡って、欧州、米国、中国、インドなどが激しい議論を交わし、どう表現をするかでもめた。

B君:今回のWGUの主張だと、データセットと表現しているが、まあ推定値とでも言うべきか、それがかなり精度が向上している。しかし、地球全域で均等な精度とは言えない。特に、途上国におけるデータの精度は充分とは言えない、としている。

A君:今回のこのWGUの報告は、世界の各地域での気候変動予測を元に、様々な影響予測をしている。したがって、何を予測するかによって、信頼性も変わる。

B君:報告書には目次もないが、構成は以下の通り。

A. Introduction 簡単な短い導入部

B. Current knowledge about obeserved impacts of climate change on the natural and human environment
 1970−2004年までに観測された気候変動の影響をまとめている部分。5ページ分。

C. Current knowledge about future impacts
 影響の分野別、例えば、淡水、生態系、などなどに対する影響の予測。3ページ分。
 地域別(アフリカ、ラテンアメリカなどなどの)の影響の概要。4ページ。
 上昇温度別の影響(1980〜1999年の平均気温が原点)。2ページ。
 極端な気候現象による影響。1ページ。
 海面上昇のような広範な現象の影響。1ページ。3ページ。

D. Current knowledge about responding to climate change
 いわゆる気候変動への対応についての記述。すでに始まっているもの、今後の予測など。3ページ。

E. Systematic observing and research needs 項目のみ。

A君:日本の新聞が取り上げているのは、C.の部分。やはりここが要かもしれません。

B君:それぞれを一言でまとめるか?

A君:どうやら、Table SPM-1.とTable SPM-2の2つの表で大部分が表現できている。これを説明すれば終わりのような。

B君:それらの日本語版を作るか。

A君:Table SPM-1はなかなか微妙な表現なので、まず、そのまま英語版を掲載するのが良さそう。多少見難いので、是非、本物をダウンロードしていただきたい。


図1 Table SPM-1の英語版。
この図は、以下のように解釈する。まず、それぞれの説明の最初の文字の位置が重要。例えば、Ecosystemsのところでは、Up to 30% of species at increasing risk of extinctionは、1.5度上昇ぐらいのところにあるので、その温度上昇になると、効果が見え始める。そして、点線は、効果が続くことを示す。実線は、「インパクトをリンクする」と書いてあるが、その意味の詳細は理解できていない。特に、上で引用したUp to 30%.....の左側の実線は1℃上昇のところから始まっているが解釈が難しい。本文にも、1℃上昇に関しては記述が無いので。

B君:日本語版を作るのは、いささか時間が掛かりそうなので、誰かが作るのを待とう。国立環境研あたりが作りるだろう。

C先生:英語版での議論になるが、まず、共通の理解として、どの地域がもっとも被害を受けやすいか、ということが重要。それをこの表からどこまで読めるか。

A君:食糧への影響のところが、それにもっとも近いのですが、零細な自給自足農業、自給自足漁業への影響は、わずかな温度上昇でも始まるということを主張していますね。

B君:海岸線のところでも、洪水と嵐による被害が、わずかな温暖化でも増大すると読める。

A君:健康のところは、多少右に寄っているが、熱波、洪水、干ばつの影響がまず始まる。

B君:病原菌の分布が変わるということも比較的早く起きるとしているが、その被害も、先進国ではそれほど大きなものとは思えない。

A君:0.5℃の上昇でも、栄養失調、下痢、心臓呼吸器系疾病、感染症は増えるとしているけれど、先進国のような医療がしっかりしているところでは、まず問題にならない

C先生:要するに、この報告書の最初の結論は、気候変動の被害は、工業化された先進国ではなくて、特にアフリカとアジアの途上国から始まるというということなのだ。

A君:1℃の上昇でも恐らく始まる生態系の変化を除けば、日本への被害は、それほど大きなものではない。勿論、台風は強くなる。梅雨は長く極端になる。だからといって、すべての日本人の命に関わるとも言えない。

B君:現代の日本人の一番苦手なことは、そのあたりの情報に正しく反応すること。最近の日本人は、自分だけが良ければそれで良いというメンタリティーに傾きつつある。

A君:そのために、地獄絵を描かないと駄目だという主張があるが、どうも好きになれない。

B君:大体、日本は地獄にならない一方、アフリカの地獄絵は悲惨でなんとも。

C先生:日本の最大の問題は、環境立国といったキーワードで、環境を商売の種にしようという発想はあるのだが、本当に脆弱な社会に対する援助であるODAがどんどんと減っていること。

A君:財務省に言わせれば、お金が無いのだから仕方が無い。

B君:与党だって、増税などと言おうものなら、選挙に勝てないという勢力が強い。自分だけ良ければというメンタリティーがもっとも強いのが政治家。

A君:一般市民感覚に、「公務員を雇うことは無駄遣いだ」を植え付けたのはメディアだが、市場原理だけではできないことをやるための人材は必要。

B君:そんな議論よりも、確かに「身分が安定している働かない公務員」というのは相当居るだろう。しかし、民間企業だって同じような割合ではないか、と思うのだ。社会全体として、本当意味で働いている人口などは、少ない、という理解が必要なのではないか。

A君:公務員なのに滅茶苦茶働いている人々も多いが、公務員ゆえに、その人々は給与が高くなる訳でもない。そんな人々がまだ多少いるから、この日本はまだ存続している、という事実は知られていない。

B君:公務員を減らさないと増税は駄目だというのは、政治家にとっては都合の良いロジックなのだが、一般市民とっては、例えば、空き交番が増えたり、先生の質が落ちたりして、必ずしも良いことばかりではない

A君:政治家の質というものは、日本人全体の質と相似形。それに比較すると、公務員の質は、日本人全体の質よりは、多少上質のように思いますがね。

B君:「それをいっちゃーおしまいよ」。

C先生:議論がずれてる。いずれにしても、温暖化ガスの排出による気候変動は、先進工業国の責任が大きい。現在、中国、インドも先進工業国を目指すために、排出量が増えている。しかし、その被害は、先進工業国に入ることは未来永劫できないかもしれない途上国において激しい。これをどう考えるか。先進国の住民に責任は無いのか。無い訳はないので、どのようにその責任を果たすのか。ODAの増額は、その一つの形として極めて重要なのだ。

A君:日本は、永らくODA第二位の国だったのが、英国に抜かれて、第三位に転落

B君:それどころか、まもなく、第五位に転落予定

C先生:いずれにしても、この表をしっかりと眺めて、そこに書かれていることを見極めて欲しい。何度ぐらいから本当に危険なのか。

A君:今の状況だと、2100年2℃上昇以下はありえないというしかない状況。せめて、3℃上昇までには抑えたい。

B君:いやいやそれだと、3℃以上になる可能性も高いので、できるだけ、2℃上昇に近いところに抑えることが安全圏。

C先生:地上の植物は、二酸化炭素を吸収していると考えられているが、実際には、新たに成長するときにのみ二酸化炭素を吸収する。すなわち、定常状態になったら吸収量と放出量がバランスしてしまう。そして、もしも、2℃を超して上昇すると、地上の生物圏は、二酸化炭素を吸収しなくなって、放出源になるという警告がある。これは、その温度をもしも超すと、上昇速度が上がるということを意味するだろう。

A君:やはり、2℃ということですか。

B君:朝日新聞の社説も同様に2℃までの主張

A君:一方、日本経済新聞の社説は、「ただ、作業部会はハードルを下げ、3度までの気温上昇を容認したようにも見える」、と記述しているが、それは、どこに根拠があるのだろうか。

B君:日経が1面で記述しているのは、以下の通り。
1℃上昇なら、「最大で30%の動植物の種が絶滅する」
2℃上昇なら、「数億人が水不足に直面」、「洪水と暴風雨による被害の拡大」
3℃以上だと、「サンゴが広範囲で死滅」
4℃以上だと、「沿岸部で年数百万人に洪水の被害」、「約30%の沿岸湿地が消失」

A君:ということは、数億人が水不足に直面しても、また、サンゴが多少死に始めても余り被害が大きいとは言えないが、4℃になると被害が大きくなる、と日経の記者は報告書を読んだということだろう。

B君:この報告書のカバーしている範囲は、21世紀まで。温度上昇は、確かにその範囲で平衡状態になるかもしれないが、海面上昇は、21世紀中に起きるものは比較的少なくて、その後、300年ぐらいに渡って上昇し続ける。それを知って書いたのかどうか。

C先生:まあ、日経は、産業界寄りのスタンスを取りたかったと理解すべきなのではないか。まあ、300年後のことなど、産業界にとっては想像力を遥かに超えていることだから。

A君:その割には、日経の社説は、「人類の想像力が問われる地球温暖化」という題名ですよ。

B君:いささか矛盾しているということか。

C先生:いずれにしても、メディアがそれぞれどのような解釈をしたか、それは面白い検討課題ではある。

A君:日経でおもしろいのは、3面に「日本も被害拡大 気温2〜3℃上昇なら」という記事があって、「西日本の降水量20%増加、花粉症が増加」が見出しになっている。

B君:西日本の降水量が増えるということは、博多地方や四国の瀬戸内地方にとっては、朗報だろう。

A君:ところが記事の中身を読むと、「温暖化で海面が1メートル上昇すると、東京や大阪など沿岸域を中心に、2400平方キロ、約410万人が浸水の被害を受ける可能性がある。とか、西日本地域でのコメの収穫量が最高4割減少する。といった深刻な事態が書かれている

B君:スキー場は雪不足という指摘もある。本音は、中身を読まれたくないのでは。

A君::日経がおもしろいのは、3面の記事で、IPCCの部会が徹夜になって、もめたことを記述していること。
 討論は初日スローペースで進み、最終段階で議論が紛糾した。欧州各国は具体的な予測数値を報告書に盛り込むように主張。日本も欧州の立場を支持した。これに対し、温暖化ガスの排出や大幅削減を嫌がる米国や中国、ロシア、ブラジルが強硬に反発。報告書の採決見送りという情報も流れた。結果的に、かなり米国・中国よりの表現になった。例えば、「水不足が10〜32億人」が最終的には、「数億人が水不足に直面」となった。

C先生:記者は面白い取材をしているが、日経のデスクが過激な記述だとして、柔らかな表現に変えたというのが実態ではないだろうか。

A君:さて、もう一つの表に行きますか。

B君:これは日本語訳が可能。

A君:確かに、これならエクセルで作ることが可能。こんな表になった。




表2 様々なセクターへの影響のサマリー

B君:これをじっくり読むと、それぞれのセクターへの影響が読めるが、温度別にはなっていないので、それほどのインパクトがあるという訳でもない。

A君:これまでのところで大体カバーできている感じ。

B君:ざっと読んでいただければ、OK。

C先生:まあ、このIPCCの報告書が世界的な注目を集めることは事実だろう。しかし、日本国内でも、この日本語版を作るときには、産業界寄りの勢力と、環境側の勢力の争いが見られることだろう

A君:それぞれの産業がどのような見解を持っているのか。

B君:それが日本国内の次の興味。

C先生:いずれにしても、日本という国は、対応が遅い国として著名。なんとか対応を加速することだけはしなければ。米国は、現時点では最大の反対勢力ではあるが、最近の米国最高裁判決に見られるように、明らかに態度が変わってきている。ブッシュの任期内には、それほど大きく変わらないかもしれないが、その次の政権で、ガラっと変わることは覚悟をしておいた方が良いだろう。となると、日本という国は、今のままだと、ほぼすべての先進国に置いていかれる可能性が大だ、と言えるだろう。