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    IPCCの1.5℃報告書 その2   11.04.2018
        1.5℃実現の方法から持続可能性との関連性

               




 先週に引き続き、IPCCの1.5℃特別報告書のご紹介です。先週までの感想ですが、高々0.5℃の違いと言いながら、実は、その達成の難易度は相当「難」だということになります。バイオマスCCS、いわゆる、BECCSは、非現実的かと思っているのですが、後半をまとめてみて、これにかなり依存しないと、0.5℃の実現が難しいのだということを実感しました。
 
 今回も、引用する書類は、これです。
http://report.ipcc.ch/sr15/pdf/sr15_spm_final.pdf

 さらに、先週もFacebookでは簡単にご紹介しましたが、A1からD7の要約だけは、日本語訳が環境省のこのページで見ることができます。
https://www.env.go.jp/press/files/jp/110087.pdf



C先生:それでは、先週の続きを頼む。

B君:よしと。15ページ目からだ。ここからCに入るけど、こんなタイトルだ。

C. Emission Pathways and System Transitions Consistent with 1.5°C Global Warming
C.1.5℃に温暖化を下げるための排出パスとシステムの転

A君:C1です。この記述の中味はかなり厳しいですね。

C1. In model pathways with no or limited overshoot of 1.5°C, global net anthropogenic CO2 emissions decline by about 45% from 2010 levels by 2030 (40-60% interquartile range), reaching net zero around 2050 (2045-2055 interquartile range). For limiting global warming to below 2°CO2 emissions are projected to decline by about 20% by 2030 in most pathways (10-30% interquartile range) and reach net zero around 2075 (2065-2080 interquartile range). Non-CO2 emissions in pathways that limit global warming to 1.5°C show deep reductions that are similar to those in pathways limiting warming to 2°C. (high confidence) }

C1. 1.5℃を実現するには、人為起源によるCOの放出量を、2010年レベルから2030年には45%削減しなければならない。そして、ほぼ2050年には、Net Zero Emissionを実現しなければならない。これに対して、これまでの2℃のための排出シナリオは、2030年に20%削減、そして、Net Zero Emissionを2075年頃には実現しなければならない、というものだった。
 一方で、1.5℃を実現するCO以外の温暖化ガスの排出量の削減は、2℃の場合とそれほど大きく変わらない

B君:この項目が今回の特別報告書の中でも、もっとも厳しい指摘かもしれない。2030年に45%削減は、2030年に向けて2015年に各国が提出した削減量から程遠い削減量なので。

A君:その説明が、次の図ですね。これは厳しい。それこそ、Direct Air Capture=DACの出番かも。すなわち、大気中のCO濃度は、現在400ppm程度なのだけれど、ここからCOを吸収して、地下に埋めるぐらいのことまで考えないとだめなのかもしれない。


図1 オーバーシュートなしに、1.5℃を達成するシナリオ。CO2以外に、メタン、ブラックカーボン、NOxの排出を含めた検討。結論的に、2050年には、いわゆるNet Zero Emissionを実現しなければならない。これは、2℃シナリオよりも、30年ぐらい早いタイミングでの実現を意味して、ますます大変。

B君:日本ではまだ、誰もDAC(Direct Air Capture:大気中からCOを吸収)に対して本気ではないけれど、米国ではかなりベンチャーが試作などを行っているみたいだ。もしうまく動作し、コストもそこそこで行けるとしたら、例えば、セメント業のように、どうしてもCO排出量がゼロにはできない企業が、買い込む可能性もあるからだろうか。セメント業の場合には、炭素税をいくら高くしても、CO排出量がゼロにならない業種だ。まあ、CCSを活用するということができれば、話は別だけれど。しかし、CCSは、日本の場合だと、埋める場所が大問題。地震でも起きたら、この国だと補償金を払えと、裁判になりかねないので。となると、一旦は大気に放出して、CCSが可能な地域で、DACを活用して、CCSをやるということになれば、人の住んでいない地震が全くない場所に埋めることが可能になる。空中を輸送に活用するという意味になるけれど。

A君:そのアイディアを聴くのは初めてですね。個人的な発案ですか。

B君:今、思いついた。どうも、その瞬間には、アラスカの天然ガス採掘跡をCCSに使うのはどうか、という連想だったようだ。

A君:話を戻すと、C1に関しては、もう一枚図があります。それが、これです。



図2 CO2の排出以外に、BECCS=Bioenergy with Carbon Capture and Storageと、AFOLU=Agriculture, Forestry and Other Land Useも活用した場合のシナリオを示す

B君:この図はすごいね。今世紀後半には、BECCSとAFOLUが活用されていて排出量が大幅に負になっているケースP4まで考えている。

A君:BECCSすなわち、バイオマスを燃焼してエネルギーを得ると同時に、排ガス中のCOをCCS処理するという方法。これは、確実に、植物が吸収した大気中のCOを地下に埋めることになるので、大気中のCO濃度が現象します。AFOPLUは、これまたなかなか難しいのですが。

B君:AFOPLUは、IPCCのAR5の812ページにもあるが、https://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar5/wg3/ipcc_wg3_ar5_chapter11.pdf
日本人で、この章に記述に寄与した人はいないみたいだ。

A君:それでは、AFOPLUについて、簡単に説明しますか。土地の利用形態を変えることで、しかも、土地の劣化を抑制することで、植物の成長量を稼いて、結果的にCOの吸収量を増やすということなので、基本思想は、REDDあるいはREDD+と似たものでしょうか。

B君:厳密な定義は難しいが、ほぼ同じと考えても良いのではないか。REDDは通常、減少(Deforestration)と劣化(Degradation)の抑制の2項目、REDD+になると、あと3項目が追加されるようで、+は主として、森林の保全・管理・カーボンストック増進といったことがキーワードになる。

A君:そろそろ話を戻して、C2に行きましょう。

C2. 1.5℃をオーバーシュートなし、あるいは、わずかなオーバーシュートに抑えるには、エネルギーの早急な、そして、大幅な転換が不可欠。さらに、輸送とビルなどのインフラ、工業システムも同様。これらのシステム転換の規模は、過去最大となるが、スピードという点では必ずしも、最高ではない。むしろ、どこまでCO2排出を下げるかという削減の程度が全領域で重要。オプションをできるだけ多様に、かつ、増強することと、この分野に対する投資を最大限拡大することが不可欠。
C2. Pathways limiting global warming to 1.5°C with no or limited overshoot would require rapid and far-reaching transitions in energy, land, urban and infrastructure (including transport and buildings), and industrial systems (high confidence). These systems transitions are unprecedented in terms of scale, but not necessarily in terms of speed, and imply deep emissions reductions in all sectors, a wide portfolio of mitigation options and a significant upscaling of investments in those options (medium confidence).

B君:これに続いて、細かい記述があった後に、いきなり、C3が出てくる。

C3.1.5℃を実現しつつ、オーバーシュートがゼロか少ない削減シナリオでは、COを人工的に今世紀中に、100〜1000GtCO2程度の量を除去するためにCDR技術(carbon dioxide removal)を活用しなければならないだろう。このCDR技術は、残存するCO排出をゼロにするため、そして、多くのケースでは、1.5℃までの気温上昇に戻すためのNet Zero Emissionwoを実現するために使うことになるだろう。数100Gt以上のCDRを使うに際しては、その可能性の多方面からの検討と、持続可能性からの限界との抵触などが検討される必要がある。排出削減とエネルギーと土地開墾の削減対策ができるだけ早期に行われれば、CDRの使用量を数100Gt以下にすることを可能になると同時に、BECCS付きのバイオエネルギーへの依存度も下げることが可能だろう。

C3. All pathways that limit global warming to 1.5°C with limited or no overshoot project the use of carbon dioxide removal (CDR) on the order of 100-1000 GtCO2 over the 21st century. CDR would be used to compensate for residual emissions and, in most cases, achieve net negative emissions to return global warming to 1.5°C following a peak (high confidence). CDR deployment of several hundreds of GtCO2 is subject to multiple feasibility and sustainability constraints (high confidence). Significant near-term emissions reductions and measures to lower energy and land demand can limit CDR deployment to a few hundred GtCO2 without reliance on bioenergy with carbon capture and storage (BECCS) (high confidence).

A君:確かにそんな気もしますが、この将来見通しも厳しいですね。

B君:1.5℃は、ある意味でもはや手遅れ状態に近いので、当然そうなる。パリ協定は、目標が2℃だったから、合意できたので、もし、最初から1.5℃を目標としていれば、合意することが不能だったのかもしれない。

A君:そして、Dに入ります。
D. Strengthening the Global Response in the Context of Sustainable Development and Efforts to Eradicate Poverty
というものです。

B君:このDは、一言で言えば、SDGsに対してどのような影響がでるか、ということを述べている。これまでも本Webサイトの主張は、CO排出量増加の最悪の負の影響が、海面上昇。これによって、国土が失われること。これが起きれば、Sustainable Developmentのすべてが完全に失われ、貧困が増大する。

A君:実際、もしも、CO濃度が非常に高くなってしまえば、日本だって、かなりの地域が海面下に沈むことになる。大都会には、東京、大阪だけでなく、ゼロメートル地域が多いので。Wikipediaによる主なゼロメートル地帯(1990年)です。

地域 都道府県 面積(km2)
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青森平野 青森県   3
気仙沼 宮城県    1
九十九里浜 千葉県  14
関東平野 千葉県   15
関東平野 東京都   124
関東平野 神奈川県   6
越後平野 新潟県   183
豊橋平野 愛知県   27
岡崎平野 愛知県   57
濃尾平野 愛知県   286

濃尾平野 岐阜県   61
濃尾平野 三重県   55
大阪平野 大阪府   55
大阪平野 兵庫県   16
広島平野 広島県   9
高知平野 高知県   10
筑紫平野 福岡県   46
佐賀平野 佐賀県   207
熊本平野 熊本県   9

B君:愛知県がゼロメートル地域がもっとも多いことを知らなかった。次が佐賀県か。有明海かな。そして、3位が新潟県、そして、4位東京都。

A君:それでは、D1から。

D1.パリ協定の元で各国から提出された意図する削減量の合計は、2030年において52−58GtCO/yrである。この数値では、たとえ、2030年以降に極めて意欲的に削減が行われたとしても、1.5℃を実現する数値から程遠いものである。オーバーシュートを避けることと、将来の二酸化炭素を大規模なスケールで大気から除くことが実行されて、初めて、2030年よい前からCOの排出量が減り始めるだろう。

D1. Estimates of the global emissions outcome of current nationally stated mitigation ambitions as submitted under the Paris Agreement would lead to global greenhouse gas emissions18 in 2030 of 52-58 GtCO2eq yr-1 (medium confidence). Pathways reflecting these ambitions would not limit global warming to 1.5°C, even if supplemented by very challenging increases in the scale and ambition of emissions reductions after 2030 (high confidence). Avoiding overshoot and reliance on future large-scale deployment of carbon dioxide removal (CDR) can only be achieved if global CO2 emissions start to decline well before 2030 (high confidence).

B君:これは、パリ協定の際にも、UNEPなどによって指摘されていたことだ。特に、新しいという訳ではない。しかし、確かに、2030年までの削減に対する各国の意図する量では足らない。

A君:それでは、次に行きます。D2です。

D2.持続可能な開発、貧困の撲滅、不平等の減少を実現することなどに対する、気候変動によるインパクトを減らせる可能性は、もしも温度上昇を1.5℃まで下げることによって、より高まるだろう。もしも削減と適応のシナジーが最大化され、一方で、トレードオフが最小化されるのならば、という条件付きで。

D2. The avoided climate change impacts on sustainable development, eradication of poverty and reducing inequalities would be greater if global warming were limited to 1.5°C rather than 2°C, if mitigation and adaptation synergies are maximized while trade-offs are minimized (high confidence).

B君:続けて、D3に行こう。今、気づいたが、環境省のページにA1〜D7の訳文が乗ったらしい。無関係な情報だった。

D3.適応策は、それぞれの国に固有の状況があるのだが、その国の状況と可能となる条件を考慮した選択を行えば、1.5℃という条件の元での、持続可能な開発と貧困の減少に有効である。

D3. Adaptation options specific to national contexts, if carefully selected together with enabling conditions, will have benefits for sustainable development and poverty reduction with global warming of 1.5°C, although trade-offs are possible (high confidence).

A君:まあ、これも当然の指摘でしょうね。誰も反論できない。この次に細かい記述がD3.4までありますが、適応策にご関心のある方々は、ご覧いただくと良いでしょう。

C先生:今回は、このあたりで一旦切ろう。なぜなら、このD3でも持続可能な開発との関係が議論されているのだけれど、次のD4から、SDGsだけが話題になってくるので。

A君:いずれにしても、1.5℃を実現することが、少なくとも、島嶼諸国とか、低地での居住の多い地域に対しては、不可欠という認識ですね。これは、最初から変わっていない。しかし、本当に実現が可能なのか、ということになると、なかなか難しい。

B君:毎回、議論になっていることだけれど、化石燃料という地球が貯めておいてくれたエネルギー源は、COという重大な生体毒性がある訳でもない気体の発生によって、地球そのものの気候システムをブッ壊す強い力を持っていた。車を動かし、暖房を可能にし、さらに、発電によって新たな文明を開くことが可能になった、というような単純に人類にとって便利なものではなかった。まあ、あたり前のことなのだけれど、化石燃料は、地球が人類のためを思って貯めておいてくれたものではなかったということだ。むしろ人類が本当の叡智を持っているかどうかを試すために、地球が貯めたのかもしれないが。

A君:不可能な提案に直面すると、どうしても、そのような文明論になりますね。そこまで人類の発展が来てしまった。今後の文明がどのようなものになるのか、あるいは、なるべきなのか、そのような議論が必須の段階になったのは事実でしょうね。そのレベルに来てしまった。

B君:しかし、一般社会はそのような理解が乏しい。要するに、文明論ができるだけの知性を持つことが必須である、という教育されていないとも言える。

A君:多くの場合、現状の利便性と経済性を維持したい、と思うのですね。

B君:しかし、やや不思議なのは、このところ、NHKの放送などを見ていると、プラスチックについては、どうも文明論をやりたがっているような節がそこここに見えるのだけれど、気候変動については、文明論をやろうという感じではなくて、むしろ、意図的に避けているのでは。

A君:気候変動問題は、京都議定書によって、人々はすでに知っている。もっとも、忘れている人が大部分だけれど。しかし、プラスチックはこれまで多くの人にとっては、便利な良い子だったけど、それがそう言えなくなった。これは「大転換だ。新しいからニュースになる」というのがNHKのマインドなのでしょう。

B君:本当は、プラスチックも、地球温暖化と無関係ではない。しかし、量的にはしれているとも言える。石油のうち、プラスチックになるのは、3%弱だから。その他の石油化学基礎製品になるのが5%以上あるけれど。

A君:要するに、石油は、やはり燃料としての用途が大部分ということ。燃料としても、もはや全く使えないとはとても言える状況ではない。少なくとも、2040年ぐらいまでは、発電のためのエネルギーの備蓄技術が不完全なままだと思うので。エネルギーを備蓄するという役割は、やはり化学的なエネルギーである燃焼が使える方法以外にはなくて、石炭の燃料としての用途は止めるとすると、どうしても石油系での備蓄になるので。

B君:太陽電池+電池では、市民レベルでの投資必須金額が高すぎて、とても経済的に耐えられないのでは。

C先生:そんな背景を理解した上で、二酸化炭素排出量をできる限り削減するには、どのような技術的方法とどのような社会的システムが必要なのか、という議論をすることになるが、この全貌を語るためには、相当量の基礎知識が不可欠になってしまう。このバリアーを乗り越えないと、市民レベルでの理解が得られないことによって、社会が不安定化することになるのではないか。
 そのためには、「何が市民が知るべき正しい情報なのか」、を政府が一丸となって示していくことが不可欠だと思う。やっと、なんとなく各省庁の方向性が統合されてきたような雰囲気だけれど、どのような情報を市民社会に向かって発信するのか、といった細かい議論を続ける必要があるだろう。まあ、このWebサイトが本当の貢献ができるためには、そのあたりを意識しなければならないと思う。