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    IPCCの1.5℃報告書 その3   11.11.2018
       SDGsとの関係が本格的に検討されている

               



 IPCCの報告書は、その成り立ちから言って、やはり、国連が主体となって作成される文書としての特性を強く備えている。国連の最大の謳い文句は、「持続可能な開発」なので、2015年以降、「持続可能な開発」の旗印的な役割を果たしているSDGsとの関連性が、正面切って議論されているのが、今回取り上げるD4以降であって、その内容は、SDGsとの整合性の検証が主たるもの。当たり前であるけれど、気候変動防止のすべてがSDGsと同じ方向性を持っている訳ではない。特に、1.5℃の実現は、もともとかなり無理筋に近いので、当然のことながら、様々な副作用がある、というか、1.5℃の実現のために、やるべきことが非常に増えてしまう。しかも、そこまで本当にやるの、という疑問が当然出てくる。それらを明らかにした上で、1.5℃を達成するメリットと比較することが、必要不可欠なのである。



C先生:先週の記事の最後に取り上げたD3は、持続可能な開発との関連について、最初に触れるところであって、総論的に、1.5℃は持続可能な開発と貧困の減少に良い効果があるというところを主張し、そこで止まった。すなわち、SDGsという言葉が、正面に出てくる訳ではなかった。
 そして、D4からは、SDGsとの整合性が正面切って議論されるようになっているのだ。

A君:それでは、D4へ

D4.1.5℃を実現する削減策の選択肢は、SDGsと整合的でもあり、かつ、相反的でもある。整合性の高い項目の方が、相反的な項目よりも多いものの、その正味の効果がどうか、となると、実行する速度と変化量の規模、削減策のどれを選択するかとその過渡的な対応をどうするか、に掛かってくる。

D4. Mitigation options consistent with 1.5°C pathways are associated with multiple synergies and trade-offs across the Sustainable Development Goals (SDGs). While the total number of possible synergies exceeds the number of trade-offs, their net effect will depend on the pace and magnitude of changes, the composition of the mitigation portfolio and the management of the transition. (high confidence).

A君:これは当然の指摘で、要するに、どのぐらいその国と地域の状況を把握し、より効果的な削減策を選択しなければならないということを意味するものですね。ただし、1.5℃の実現のために、是非ともやらなければならないという強い主張が裏にはあるので、緩やかな選択肢を考えて選択せよ、という意味ではないことは、注意を要します。

B君:D4にも、D4.1〜D4.5までの追加的な説明がある。そして、その次に、SDG1からSDG17の17のゴールそれぞれについて、エネルギー供給、エネルギー需要、そして、土地利用について、どのような関係があるか、という図が掲載されている。長さが、関連性の強さを示し、さらに、色分けによって、推定の確実性が表現されている。



A君:トレードオフがどのようなところで起きるか、という考察をやってみると、面白そうですね。今回は、時間が無いので、一つだけ取り上げて、あとは省略しますが。

B君:エネルギー供給でもっともトレードオフが厳しいのが、SDG6の「安全な水と衛生」。エネルギーを供給しようとすると、水を発電用に使うとなって、途上国の場合だとダムを建設する場合よりも、水を別の経路で流す水路式を建設することが多いと考えられる。となると、確かに、やり方によっては水質が劣化するという可能性はある。特に、途上国では、水路式の場合に、発電用にほとんどの水が回されてしまうといった場合もないとは言えないので。しかし水関係は、シナジーも大きくて、当然、ダム式になれば、それによる貯水は、水の供給量を季節変動、年変動なしに一定に確保することができるようになる。

A君:まあ、そんな考えなのでしょうね。もっとどこかに深い意味があるかどうか、それは、今後、検討を要するかもしれないですが。

B君:それではD5へ

D5.持続可能な開発と貧困の撲滅に十分に配慮しつつ1.5℃を実現するリスクを減らすためには、適応策と削減策への投資を増加すること、適正な政策手法の採用、そして、技術的なイノベーションの加速と市民生活の変換が必要不可欠である。

D5. Limiting the risks from global warming of 1.5°C in the context of sustainable development and poverty eradication implies system transitions that can be enabled by an increase of adaptation and mitigation investments, policy instruments, the acceleration of technological innovation and behaviour changes (high confidence).

A君:これは当然のことですね。政策手法がある意味でもっとも分かりにくい。というか、あまりにも多様性が大きいですね。どのような方向性で政策を打つのか、これが最大の問題。パリ協定は、それぞれの国の政府に、「変わること」を求めていると思うのですが、日本のように保守的な国では、この「変わること」は、既得権益を守る側と政策側の大戦争勃発ということになるので、果たしてどうなるやら。

B君:このD5にも、D5.1からD5.6の細項目がある。あと三項目だ。次に行こう。

D6.持続可能な開発は、社会とシステムの根本的な変換・変更を支持するものだが、これは、1.5℃の実現を助けるし、しばしば可能にもする。このような変化は、気候保全と並立する開発の経路の追求を加速するが、同時に、貧困の撲滅と不平等の解消への努力と両立する削減策と適応策とも整合するものでもある

D6. Sustainable development supports, and often enables, the fundamental societal and systems transitions and transformations that help limit global warming to 1.5°C. Such changes facilitate the pursuit of climate-resilient development pathways that achieve ambitious mitigation and adaptation in conjunction with poverty eradication and efforts to reduce inequalities (high confidence).

A君:この文章ですが、国連の環境に関する最大、かつ、歴史的な旗印である「持続可能な開発」と、1.5℃の達成が、両立どころか、お互いに協調しあって、より進化するものだと、ここでも強く主張したい、ということですね。

B君:それをIPCCに書かせた。IPCC=UNFCCC(UNITED NATIONS FRAMEWORK CONVENTION ON CLIMATE CHANGE)という訳ではないけれど、今や、全世界が反対できない枠組みであるという意味では、UNFCCCは極めて重要なのだと思う。

A君:まあ、トランプ大統領は離脱だと言っていますし、ブラジルの新しい大統領もひょっとすると怪しい。

B君:事実かどうか、確認が必要ではあるが、こんな情報がグノシー(10月30日)に掲載されていた。
https://gunosy.com/articles/RvLAb
 28日にブラジル大統領選挙の決選投票で当選したボウソナロ氏は、「資源開発のためにブラジルの熱帯雨林を切り開く」という政策も掲げていました。同氏は世界自然保護基金のような環境NGOの活動を禁止し、ブラジルの環境省を農業省の下部組織とした上で、アマゾンの熱帯雨林保護に関する法律を緩和すると表明している」。

A君:確かにこの大統領はトランプ流だ。持続不可能な開発をしてしまいそうな大統領だ。パリ協定からの離脱も十分に有り得そう。

B君:このところ、トランプ大統領のような主張をすることが当選の条件みたいになっている国が多い。ちゃんと読んだわけではないけれど、ピケティ教授の言うように、「経済格差」が大きくなると、このようなことは普通になるのだろう。

A君:ピケティ教授の主張する対策を簡単にまとめれば、恐らく一言になって、「格差是正のための富裕層への累進課税」。なぜなら、現時点、不動産や株などへの投資による利益の成長率が給与所得者の所得の上昇率を上回っている。要するに、金が金を生むことでしか金持ちになれないこと、これは事実であり、逆に、労働で金を得るのが大変すぎて、結果として、格差が広がるばかり。

B君:格差については、1910〜1950年が例外的に格差が小さな時代だったに過ぎないという理解もピケティ教授の指摘。相続税が無い国が結構多いのも問題かもしれない。逆に、日本は相続税が高い国として有名。3代で地主は潰れる。だから、経済成長が難しいとも言えるけど、それなりに、まともな国なのかもしれない。

A君:各国の相続税の簡単な説明でもしますか。
アメリカ:税率18〜45%、ただし、基礎控除6億円ぐらいもあるので、金持ち優遇。
イギリス:一律40%、基礎控除4500万円。相続税は、割合と高いのかも。
フランス:配偶者控除があるので、基礎控除は1300万円。
■ドイツ:7〜30%。基礎控除5200万円。イギリスより安いか。
■韓国:10〜50%。基礎控除2000万円。基礎控除の金額を見ると、金持ち冷遇社会。
台湾:一律10%。やたらと低い。

B君:しかし、相続税の無い国がある。
 イタリア、カナダ、シンガポール、オーストラリア、北欧諸国、インド、中国、タイ、などなど。
 日本の相続税は、世界でもっとも高い国の一つだろう。

A君:教育のコストも問題。最近、日本でも大学の授業料が高い。米国、英国も一流校はべらぼうに高い。親が裕福でないと、良い大学に行けない。となると、良い給料をもらえない。

B君:本日の本題ではないが、「持続可能な開発」が無視されててしまいそうな政治が広がることは、選挙民を幸福にしないと思うのだが、選挙民としては、日常的な不満、特に、貧困による不満などから、既存の政治家ではない破壊的政治家を選択してしまう。

A君:これが全地球的な不幸に繋がらなければ良いのだけれど。

C先生:SDGsも、実は、その根底にあるものは、ほぼ一つだけとも言えるのだ。それが貧困の克服。そのために、我々の世界をどうTransformすれば良いのか、が「根本的な問」であって、その答えを出す方法論がSDGsなのだという立場なのだ。なかなか、そのような理解はないかもしれないが。少なくとも、「5Pの話」ぐらいまでは、序文を読んで貰いたい。
 それはそれとして、いくらなんでも最後まで行こう。文字数が限界を超したようだし。

A君:D6には、枝番として、D6.1からD6.3があります。ということで、D7です。

D7.国や地方の当局(≒政府と自治体)のもつ気候変動対策を実施する能力を強化するために、市民社会、民間企業、原住民、地域社会などの人々は、気候変動を1.5℃までに抑えるために必要かつ意欲的な活動が実施されるように、支援をすることができるだろう。世界各国での国際的な協力によって、持続可能な開発という枠組みを、すべての市民のために実現できる環境を提供することが可能になる。国際協調は、途上国と脆弱な地域において、持続可能性を実現する鍵なのである。

D7. Strengthening the capacities for climate action of national and sub-national authorities, civil society, the private sector, indigenous peoples and local communities can support the implementation of ambitious actions implied by limiting global warming to 1.5°C (high confidence). International cooperation can provide an enabling environment for this to be achieved in all countries and for all people, in the context of sustainable development. International cooperation is a critical enabler for developing countries and vulnerable regions (high confidence).

A君:このD7で最後です。まあ、色々なことが1.5℃実現と絡めて提案され、議論されているという感じですが、確かに、あらゆる人々がそれを支持しないことには、実現はできないでしょう。特に、最近のように、自国第一主義が世界的に広がっているような状況では、地球環境は、意図的に無視する政治家が当たり前になることが多いのですが、それに対する警告文書としての役割も、意識されて書かれているように思います。

B君:しかし、やはり国連文書であって、持続可能性がやはり最重要項目として出てくるのだけれど、実は、持続可能性という言葉を本当に理解している人は、かなり少ないと思う。しかも、歴史的にその定義というか、むしろ、持続可能性を議論する背景と言うべきかもしれないが、問題意識の中心にある事象が変わっている。ブルントラント委員会が1987年にOur Common Futureを発表したときの問題意識は、化石燃料を先進国の経済発展だけのためにすべて使ってしまって良いのか、有限な化石燃料を、途上国の未来世代のために残すべきではないか、ということが基本のトーンだった。しかし、その後の気候変動の科学が進化した結果、化石燃料は大幅に余ることになった。そして、全く別の問題が出てきた。それが、海面上昇や極端気象などで、まさに、二酸化炭素なる当たり前の物質が、地球の気候の鍵を握っていたということが、実際の気象現象によって証明されつつあるのが現時点。

C先生:実際、その通りというか、気候・気象が人類の敵に回る時期が来るのが、こんなにも早いとは思っていなかった。しかも、一旦放出したCO2の大気中の寿命が余りにも長い。最大1万年ぐらいと考えなければならないようだ。これまでの人類が作ってきた文明だが、少なくとも、21世紀に入るまでは、化石燃料によるエネルギー供給に限界が来ることが恐れられていたが、供給不足というひどいことが起きる前に、パリ協定の時代になってしまった。余りにも急にとも言えると思うが、状況が変わったからだ。気候が荒れはじめた。そこで、2℃までの気温上昇に抑えても、大きな被害が防止できないような感触を、多くの人々が持ち始めた。そこで、1.5℃の議論が盛んにされている訳だ。
 「え〜〜、1.5℃だと。そんなことは実現不可能」、と言うのは簡単である。その前に、「そもそも人類にとって地球とは何か」、さらに、人類にとって、「もっとも重要なものは何か。やはり富なのか、それともそれ以外にもあるのか」、という議論をやり直すということが、1.5℃を正しく理解するために本当に必要な知的作業のような気がする。、