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   各国の温暖化対策     01.17.2016
          INDCにみる国情  インド編       




 昨年12月にパリ協定が決まり、これから2030年を目指して、各国は、自ら提出したINDC(約束草案)の実施段階に入ります。

 日本の約束草案は、エネルギーベストミックスで決めた電力に占める原子力と再生可能エネルギーの割合が実現できるかに掛かっています。一次エネルギー供給基準で言えば、再エネ13−14%、原子力11−10%が数値目標で、約束草案の目標値達成の可否は、極めて単純な構造になっていると言ってよいでしょう。

 各国の情勢をみて、やはり混沌とするのが、経済新興国の場合です。経済発展が今後どこまで行くのかが分からないので、エネルギー消費量、あるいは、二酸化炭素排出量も、経済発展、具体的には、GDP基準になって場合が多いからです。

 そこで、今回、インド、ブラジル、中国、韓国の4ヶ国に絞って、どのようなINDCが出されているか、その達成を左右するポイントはどこか、などについて考察をしてみたいと思います。


C先生:という訳で、久しぶりに、数字を検討してみたい。まずは、この4ヶ国のGDPなどについて、比較検討して、それぞれの国の発展状況を把握してから、本論に行こう。

A君:最近、データベースとしては、Indexmundyが楽ですね。まずはインドから始めますが、INDCに出ている数値と整合性を取らないとなりませんので、果たして、Indexmundyで足りるのか。ダメだと、WorldBankのWDIでしょうか。

B君:チェックしたけれど、インドのデータは、Indexmundyでは足りないなあ。やはりWorld Development Indicatorsが必要のようだ。それでも、インドのINDCと同じ数値は出てこない。
 インドの発表している数値はINDCの6ページ目にある。次の表1だ。


表1 インド政府の示すインドの現状

A君:上から人口、都市人口、GDP、GDPper Capita,電気需要予測ですか。人口が1.25倍増はまあ普通に理解できるのですが、都市人口が1.9倍、GDPが3.7倍、電気需要が3.2倍。これらがどうなるか、その予測の真偽のほどは、よく分からない。

C先生:インドという国の今後のビジョンがこんなものであることを初めて読んだ。その意味でも、INDCは良いデータになるな。

B君:GDPが3倍になると、エネルギー需要も約3倍になるのが、途上国の特性。エネルギーではなくて、電気になっているが、この傾向を維持したまま2030年までは進めるという意図が見られる。

A君:まあ、インドの状況から言えば、当たり前かもしれません。次の図1に、世界の何か国かの一人当たりエネルギーの消費量を示しますが、インドが言うには、世界でHDI=Human Development Indexが0.9を超す国は、一人当たりのエネルギー消費量が必ず4toe(ton of oil equivalent、石油換算トン)を越している


図1 世界の一人当たりエネルギー消費量

B君:そうか。しばらく回り道をして、エネルギー消費量と豊かさとの関係を考えるしかないかな。そのHDIは、国連機関UNDPが作っていた指数。最近は、HDR=Human Development Reportの最初の評価指標がHDIという位置づけになっているのではないか。HDRのダウンロードは、次のサイトからどうぞ。エクセルのでかいファイルで、表が18枚からなるものだが、中を見るとなかなか面白いので是非どうぞ。
http://hdr.undp.org/en/data

A君:そんな感じです。HDIは、平均寿命、教育を受ける平均年、一人当たりの国民所得の3つで決めることになっていた指標です。日本は、2014年には20位でして、0.891と0.9を超していないです。以前は、もう少々上位に居たのですが、シンガポール、香港、韓国、イスラエル、ルクセンブルグに抜かれて、現在の位置にいます。

B君:平均寿命は無敵。GDPもかなりなもの、といった時代には上位に居たということ。

A君:実は、HDIに使われている経済指標はGDPではなくて、GNI(Gross National Income)のPPP。GNIですが、元はGNPとも言われました。GNI(”国民”総生産)は、海外で日本企業によって生産されたモノやサービスなどの付加価値を含む。

B君:GDPは”国内”総生産なので、国内に限った話。しかし、国内の景気に関しては、GDPの方がより良く反映すると言われている。

A君:GNIのPPPは、物価換算をして、一人当たりの購買力にしたもの。

B君:買い物能力と買い物の満足度みたいなものか。

A君:HDIの順位とGNI(PPP)の比較をしてみると面白くて、それも、ご紹介したエクセルファイルの最後の表としてあるのですが、
  差=GNI(PPP)−HDI順位
の比較があります。日本は、HDI順位が20位で、GNI(PPP)順位が27位なので、+7。これは、経済力よりも、人間重視の政策が優位にあるということです。

B君:その指標だと、上位国に関しては、ニュージーランドが+23で、もっとも人間性重視の国であることになる。

A君:一般に、産油国や金融立国の国はこの差がマイナスになりがちと傾向です。

B君:シンガポール、香港、ルクセンブルグといった国が経済力重視という傾向の国だ。これらの国の主観的幸福度がどうなっているのか、知りたいものだ。

A君:それなら、日本の歴史を振り返れば良いのでは。日本のHDIの歴史ですが、1990年に8位だったものが、2000年に13位、そして、2010年19位でそれ以後余り変わらない。HDIは、評価基準がときどき変わるのですが、この順位は、新しい基準で再計算されているものです。評価基準が変わるのは、例えば、教育の指数の一つとして識字率が使われていたのですが、ほとんどの先進国で99%になってしまったので、就学年数に変えるといったことが行われます。

B君:なるほど。いずれにしても、1990年のバブル期には、やはりHDIは高かったのだ。今にして思えば、バブルが無かったら、日本経済も、もう少し順調な進展をしたかもしれない。

A君:多分そうですね。だから、シンガポール、香港、ルクセンブルグなどの国は、今は、経済が絶好調ですが、今後を考えるとどうなるか分からない。

B君:シンガポールという国は、過去のしがらみが無い国のようで、身軽に動いている。例えば、大学教育なども、世界標準の評価法を採用して、トップ大学を目指している。しかし、余りにも評価優先社会になると、それが社会の不安定性の要因の一つになりうる。

A君:日本がHDIのもっと高位にあたっとき、足を引っ張っていたのが、実は教育でした。日本は教育国だと思っていたので、それを見つけたとき、かなり意外でした。就学年数が日本人は短かったのです。大学までの進学率はまあまあなのだけれど、北欧などの人々は、大学院への進学率と、大学に入り直して、別の分野を学ぶという人が多かったのがその理由。要するに、その当時、大学が遊園地化していたということが日本の問題だったのかもしれないですね。

B君:HDRには、本当に様々な指標が出てきて、面白いのだ。教育のあるべき姿が、HDIだけから分かるという訳ではないけれど。ということで、日本が最良の指標は無いかと探したところ、有った。Primary School Dropout Rateが、0.2と世界最小であることが分かった。上位50ヶ国の中では、リヒテンシュタインの20.6が最悪。5人に1人が小学校をドロップアウトする。すごい値だ。

A君:若者の失業率も6.9%でトップ30ヶ国の中では、最良ですね。続くのがシンガポールの7.0%、ドイツの7.9%、スイスの8.5%といったとことで、一方、最悪は、ギリシャの58.3%、スペインの55.5%。トップ30ヶ国ではないですが、クロアチアも50%。

C先生:クロアチアが50%だって。余りそんな感じはしなかった。スロベニアは?

A君:21.6%ですから、まあまあ。イタリアでも40.0%、ポルトガルも38.1%なので。ギリシャという国の特殊性は、全人口に対する働いている人の割合で、やはり最低の38.7%、次がスペイン。

B君:やはり、HDIと幸福度は違う指数のような気がする。失業率をもっと重視しないといけないのではないだろうか。

C先生:その通りだと思う。最近、日本のHDIランクが下がった決定的な理由があるはずなのだ。そうでないと、20位は低いと思う人が多いのではないか。

A君:GDPが下がっていますからね。特に、民主党時代の経済の停滞がありました。このところ安倍政権になってからの円安政策で、国内の雇用はまあまあなのですが、どこか外国に行くと、海外の物価は高いと思いますよね。中国からの爆買いツアーが多い理由は、中国の物価、特に輸入品が高いからです。これらは、日本のGDPが下がったことを実感していることになるのです。

B君:それに、HDRで分かるように、日本は女性の活躍がまだ足らない。特に最悪なのが、政治家が少ないこと。何か、主婦からみて、なにか特殊な人だけが政治家になっている。もっと普通の感覚でも政治家ができるような状況にならないと。

C先生:HDRあるいはHDIというものが大体分かって貰えたと思う。長い回り道だったけど、インドの話に戻ろう。

A君:インドのHDIは0.586で、世界135位です。ちなみに、今回取り上げる他の国ですが、韓国は0.898で17位で日本より上。韓国の解析をするときに、詳細を検討しないといけませんね。ブラジルは75位、中国は90位です。

B君:繰り返しになるが、インドは、HDIの低い国ゆえに、今後ともエネルギーが必要だという主張をしている。

A君:表1に戻ることになりますが、インドは、2014年比で、2030年までに、GDPを3.73倍にするということですね。その間に、人口は12億人が15億人になる。多分、2025年頃には、中国の人口を超えて、世界1位になる。

B君:すごいのが電力需要の伸びの予測で、3.22倍になる。しかし、2005年を原点として、単位GDPを得るための二酸化炭素排出量を33〜35%減らす。これがINDCの中身。そのためには、40%の電力を、非化石燃料のエネルギーにする。

A君:その手段については、炭素吸収源を2.5〜3.0(ビリオントン)とするとはありますが、非化石燃料の中身については、INDCには書かれていません。インドのINDCは、8つの文章からなるもので、短いものですから。

B君:billion tonは10億トンなので、25から30億トンの吸収源を、植林によって増やすということのようだ。

A君:残りの記述は、資金面と人材育成ですね。

B君:そして、付属文書の31〜38ページにどうやって、排出量削減を実現するか、という説明がある。まずは、資金が必要という記述から始まる。これは、途上国の典型。そして、技術移転が重要だという話になって、そこに、クリーンな石炭発電の話がある。これを支援しようという国が日本で、インドのような石炭産出国としては、仕方がない部分がある。日本のように、石炭を輸入している国とは状況が全く違うことは、十二分に理解しておく必要がある。加えて、エネルギーマネジメントと電力貯蔵が重要という認識は、世界と共有できるものだ。

A君:付録書のAに、使用する技術の記述があります。トップに確かにクリーンな石炭発電技術が上がっているのですが、超々臨界、IGCC=Integrated Gasifier Combined Cycle, SOFC(固体電解質燃料電池)などの先端技術が書かれていて日本国内での一部の提案にあるような、余り効率の高くない石炭発電を増設したいという提案にはなっていないです。

B君:日本国内の提案は、金儲けにambitiousだけど、技術的にはambitiousではないものが多い。何か、間違っているように思う。

A君:二番目の技術が、原子力です。インドは原子力大国になる可能性が強い国です。通常のPWR(加圧式原子炉)だけでなく、FBR(高速増殖炉)とかいった言葉も見えます。

B君:日本でFBRというと、もんじゅになって、イメージ最悪だけど、過去に貯めてしまった使用済み核燃料の処理などを考えると、高速中性子線を使った新しい仕組みの高速減容炉が必要不可欠になる。なんといっても、最終処分が最大の問題で、核のごみ処理が不可欠だから。

A君:残りはすべて再生可能エネルギーでして、バイオマス、風力、太陽光、水素、燃料電池、エネルギー貯蔵、といったキーワードがあって、まあ、全カバーといった感じですか。

C先生:インドだけで、1回分になってしまったが、確かに、他国のINDCに比べると、かなり厚い。エネルギー政策のあり方に至るまで、ほぼフルカバーだから、当然と言えば当然なのだけれど。
 いずれにしても、インドは、真剣に取り組むということが滲み出してくるようなINDCだった。しかも、現在の状況から未来ビジョンまでが読めるので、ambitious感が非常に強いと思った。
 ということで、他の3ヶ国分(中国、韓国、ブラジル)については、次回回しにしよう。