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 若い人たちと考える電源のベストミックス 03.22.2015

 その1  2050年までのイノベーションを考える



 さる雑誌から、この題名で依頼された原稿を書くために、まずは、長さを考えないで頭の中にあることすべてを書き下ろしてみました。全部で一万二千字程度になりましたので、これを半分程度にしたものが、雑誌用の原稿になるものと思われます。

 全体の目次は以下のようになっていますが、今回は分量が丁度良い上にまとまっているので、その第3章の2050年までのイノベーションを部分的に公開したいと思います。

1.はじめに
2.必要不可欠な知識
 1)エネルギーとは何か、なぜエネルギーが必要か
 2)エネルギーミックスを考える基本的な枠組み 3E+S
 3)リスクという上位概念によって、複数の要素を一つの評価軸にまとめる
 4)長期的な視点が必要であること
3.2050年までのイノベーション
 1)化石燃料
 2)原子力
 3)自然エネルギー
 4)省エネ・ライフスタイル・エネルギーサービス
4.3種の一次エネルギーのリスク
 1)化石燃料の長期リスク
 2)原子力の長期リスク
 3)自然エネルギーの長期リスク
5.リスクの点数化
6.まとめ
 



 2030年のエネルギーミックスを考える上で、さらに難しいことは、2050年までに起きるであろうイノベーションを考えた上で、2030年の方針を決めなければ、その時点での将来展望を欠く決定になってしまうことです。そこで、まず、長期的視野から2050年までのイノベーションの可能性を見てみましょう。

3.2050年までのイノベーション

 どのような状況になったとしても、イノベーションを起こさないことには、国際的産業競争に勝つことは不可能です。エネルギー分野でも、これだけは真実です。
 2050年までに、エネルギー分野で起こさなければならないイノベーションは、比較的明確になっています。それは、技術が急激に立ち上がるという分野ではないからです。その理由は、取り扱うエネルギーの量が多いからです。大量のエネルギーを取り扱うために、どうしても、適用できる技術の範囲が限られてしまうからです。
 分野別にどのようなイノベーションが期待できるかを列挙してみます。各項目で、※以下は解説です。

1)化石燃料

 ◆発電効率が高い発電方法が実用化される。しかし、石炭火力は、天然ガス火力に比べて、どうしても効率が落ちる。 ※石炭は、まず、固体のため燃やすことが面倒であること。高効率化のためには、ガスタービンと蒸気タービンの複合システムにする必要があるけれど、燃焼ガスに固形物(灰分)が含まれることで、ガスタービンなどとの相性が悪い、といった理由です。
 ◆排気ガスからCOを分離して、海底などに貯留する技術が実用化される(Carbon Capture and Storage)。しかし、発生するCOは、その量が余りにも大量なので、消費国による処理は効率的でない。 ※日本におけるCCS処理量のポテンシャルは1400億トンあるとされていますが、現実には非常に難しいことです。日本におけるCO発生量の10%を処理するだけでも、年間1.4億トンのCOを取り出し、海底に注入する必要があります。原油の輸入量はあれほどの数の大型のタンカーを運行していても年に2億トン程度です。
 ◆分離したCOを油田に注入して生産を加速するEOR(Enhanced Oil Recovery)が開発され、水素エネルギーが実用化される。 ※温室効果ガスによる気候変動の影響が思ったよりも大きいようです。そうなると、排出できるCOの限界によって、石油は地中にあっても、使えないという事態が起きる可能性があります。そのときに、生産した地点で、石油から水素のみを取り出し、炭素分は二酸化炭素にして、CCSで処理するという方法が考えられます。これが水素社会の一つの形態です。油田の隣でCCSを行えば、COは、油田に注入して、石油の生産量を拡大する媒体として使うことができるので、合理的です。

2)原子力

 ■現時点で最新の原子炉は3.5世代と呼ばれ、建屋に冷却水タンクを備え、自動的に冷却が可能な設計になっているが、次世代原子炉として、非常時には自動的に停止し、さらに空冷によって冷温完全停止する比較的小型の第4世代原子炉が開発される
 第4世代炉には、ウランから発生するプルトニウムもそのまま燃料になって、途中の燃料交換も不要になり、燃料の再処理は行われないものもある。 ※第4世代原子炉には、いくつもの新しい形式の提案があります。
http://www.world-nuclear.org/info/Nuclear-Fuel-Cycle/Power-Reactors/Generation-IV-Nuclear-Reactors/
 ■使用済み核燃料の6000m級大深度海底埋設処理法が開発されて、地球のメカニズムが最終処分を行う提案がなされる。 ※ハーマン・デイリーの言う定常状態を満足させるには、地球の処理能力を最大限活用することが正しい方法であるという発想に基づくものです。しかし、現状の国際法は、このような処理方法を認めていません。しかし、使用済み核燃料の重量は非常に少ないので、このような処理を行っても、環境影響はほとんどゼロだろうと考えられます。ちなみに、日本での通常の廃棄物の最終処分量は、1991年には、年間1億1千万トンもありました。現時点での最終処分量は年間2千万トン程度に減少しています。一方、日本に存在している使用済み核燃料はウラン換算で1万7千トン程度です。これは、13×13×13mのプール一杯分の鉄と同じ程度の重さに過ぎません。
 ■現行炉の使用済み核燃料を処理して、短寿命核種に変える実証炉が建設される。 ※高速中性子を用いた核変換を行うものです。技術的には可能ですが、それを行うかどうか、それはコストと国民の総意によります。
 ■トリウム炉のプロトタイプがインドで開発される。 ※第四世代原子炉の一種ですが、トリウム資源が豊富なインドでは、溶融フッ素化合物を用いたトリウム炉が検討されているようです。

3)自然エネルギー

 ●日本国内の地熱開発が小型の発電設備によって進む。しかし、長期的には、やはり斜め堀りの技術開発が必要であろう。 ※地熱は重要な資源ですが、日本の資源の大部分は国立公園にあります。国立公園の重要地域である特別保護地区、第一種特別地域、第二種特別地域、第三種特別地域から1.5km以上離れた内側は、開発禁止という条件でしたが、平成24年3月27日に新しい通達がでました。
https://www.env.go.jp/press/files/jp/19556.pdf
地熱開発の行為が小規模で風致景観等への影響が小さなものや既存の温泉水を用いるバイナリー発電などで、主として当該地域のエネルギーの地産地消のために計画されるもの、当該地域の国立・国定公園の利用の促進や公園事業の執行に資するものなどについては、第2種特別地域及び第3種特別地域並びに普通地域において自然環境の保全や公園利用に支障がないものは認めることとし、その促進のために地域への情報提供を行うなどの取組を積極的に進めることとする。」となりました。
 ●中小水力が地域のエネルギー源の一部になっている。 ※中小水力は、安定した電力を供給できる可能性はあるものの、それを事業として運営するのは難しいもののようです。むしろ、地域の電力自給のためのツールとして活用されるように思えます。ちなみに、大規模水力は、すでにすべて開発されています。
 ●自然エネルギーのためのエネルギー貯蔵技術が各種開発される。例えば、過疎化によって使用済みになったトンネルや鉱山の坑道を利用した、高圧空気によるエネルギー貯蔵など。 ※エネルギー貯蔵技術のタネは、実は、1970年代からほとんど進化していません。その中で、どうやら比較的ローテクなものが、海外では実用化され始めているようです。空気圧によるエネルギー貯蔵はその一つかもしれないと考えられます。
 ●電圧が不安定な電力をそのまま電気自動車用に用いる技術が開発され、EVも電力網の一部になっている。 ※これはすぐにでも実用可能な技術だと思います。むしろ社会制度を確立することの方が重要なのでしょう。
 ●太陽電池パネルから直接交流100Vが出力されるマイクロインバータ搭載機種が導入されている。 ※米国ではすでに実用レベルです。これを各家庭に2〜3枚設置し、小さな蓄電池を準備するだけで、非常時用の電源にはなるでしょう。日本では未認可? しかし、Webサイトでは販売が行われているようです。
http://www.cosmos-rom.net/mic.html
 ●ポストリチウム電池が家庭やオフィス・工場などで実用化され、電力網の一部になっている。 ※危険性の低い次世代二次電池が開発され、実用化されているものと思われます。この電池はすべての点で優れているというものではなく、特徴の異なるいくつかの電池を組み合わせた複合型の電池として実用化される可能性が高いと考えています。
 ●人工浮島による洋上風力とエネルギーキャリアによるエネルギー供給システムが導入される。 ※これは、直流による海底送電システムのインバータ用素子の進化や電送ケーブルのコスト、エネルギーキャリアの優位性、などを総合的に考えて、もっとも有利なものが実現されるということです。決して、ある特定のシステム、例えば、人工浮島で洋上風力で発電し、海水からマグネシウム金属を作って、船舶で輸送する方法が実現するという意味では全くありません。これから厳しい競争によって篩に掛かるものとお考え下さい。
 ●バイオマスエネルギーの利用が進み、日本の森林が再生されている。 ※日本の森林は、様々な社会的な要因によってロックインされていて、ほとんどの地域で改善の可能性が無いようです。しかし放置し続けるのは、もはや愚策です。現制度をすべてチャラにして、ある方向に向かう以外に方法は無いと考えています。それが、林地の所有権を環境維持の義務を課すことによって制限し、国有林にします。そして、皆伐を許容し、林道を整備すると同時に、植林を進めるというものやり方ですが、まあ難しいでしょうね。

4)省エネ・ライフスタイル・エネルギーサービス

 ★電力供給のピークカットと省エネ行動を効率的かつ自動的に統合する電力網が完成している。 ※米国のカリフォルニア州では、すでにスマートメータが全戸に整備されていて、過去のデータからもしも明日の電力消費の増加が予測さると、消費者にメールが入って、明日XXだけ省エネをしてくれたらYYドルのご褒美を上げますといったシステムが実用化されていて有効に機能しているとのことです。
 ★消費側にある比較的小型の蓄電池(EV用を含む)を効率的に制御するシステムが完成している。 ※比較的小さな蓄電池を使うことで、ゼロエネルギーハウスは比較的簡単に実現できるとされています。
 ★住宅の断熱が格段に改善していて、健康・快適な家屋になっている。 ※住居の断熱性を高めることの経済的な効果は限定的ですが、快適性への効果はかなり確実です。
 ★オフィスの断熱が格段に改善され、また、OAシステムの消費電力の大幅削減が実現している。 ※米国では、エネルギー消費量の少ないビルには、エネルギースターマークを付けることができて、優良企業は、このマークのあるビルしか借りないとのことです。コンピュータの消費電力は今後も進むことでしょう。
 ★太陽熱利用を含めて、自然エネルギーのみで生活するライフスタイルが確立している。 ※自宅に電池を導入することで、自然エネルギーのみでも生活は可能なようです。ただし、薪ストーブか、暖房用ソーラシステムが必要ですが。
 ★地震などの大災害時の停電対策と蓄電システム・自然エネルギー利用が連動しており、強靭なエネルギーシステムになっている。 ※日本のような天災国家では、エネルギーの確保が安全上極めて重要です。
 ★交流と直流を変換する半導体素子が格段に進化していて、日本の電力幹線は直流になっている。 ※直流と交流の変換素子は現状ではシリコン製ですが、まずは炭化ケイ素に、そして、最終的にはダイアモンドまで進化するでしょう。
 ★水素ガスあるいは都市ガスとの混合ガスが供給され、燃料電池によって電力の安定化を担う複合システムになっている。 ※都市ガスに水素が混合されて、二酸化炭素排出量が下がれば、分散型エネルギーの本命になる可能性があります。
 ★純粋のガソリン自動車は、趣味のための乗り物になっていて、ガソリンには、かなり高い炭素税が課税されている。 ※どうしてもガソリン車に乗りたい。これは趣味の一つとして考える以外にないでしょう。
 ★光合成をする生物から作られた液体燃料が航空機燃料に使われている。 ※ひょっとすると藻類が本命かもしれません。