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   第5のイノベーションに向けて  2011.12.04



 11月6日に東大の小柴ホールで、東大の政策研究大学院のシンポジウムで講演をして以来、このところ、もっと原理原則に基づいた考察を行うべきだろう、と考え始めた。

 その一例として、このHPでは、11月20日に、「地球環境問題とリサイクル再考」という題で、
http://www.yasuienv.net/GERecycle.htm
を掲載した。そろそろ究極のリサイクルとは何かを考える、ということが直接的な目的ではあったが、やはり、物理学的な論理がしっかりした「定常状態」を実現するには、という原理原則に基づいた考察をしようということが隠れた動機になっていた。

 東日本大震災以来、2050年における地球環境の状況などを見ない風潮になっているのが気になるので、それをもう一度思い出して貰うためにも、現在の文脈の中で、エネルギー供給体制を考えなおそうというものが、11月27日に掲載した「自然エネルギーでどこまで行けるのか」
http://www.yasuienv.net/HowUseRenewables.htm
とうものであった。それも、自然エネルギーの大量導入が、実は、定常状態を目指す場合に鍵となることである。

 そして、今週は、さらに壮大な色付けを意図的に行おうというもので、ちょっと色気過多とも思えるものである。

 題して「第5のイノベーションに向けて」。

 まず、人類史的イノベーションの実例。リストは、毎日変わってしまうのが実情ではあるが、現状、以下の通りである。

●火を使いこなす、調理をして食べる、農業の発明、酒の発明
●材料=石器、土器、鉄器、織物、紙、ガラス
●文字の発明、哲学・宗教・数学の発明
●法律などの社会的システム(ローマ法?)
●天体望遠鏡→天文学(観察)→哲学から科学へ
●印刷による知識・記録の普及
●化石燃料、エネルギー、熱力学、触媒(空中窒素固定)
●移動:船の実用化、自動車の大量生産、飛行機の実用化
●電力供給の実現、テレビ・冷蔵庫・洗濯機の普及
●プラスチックと石油化学
●医薬品、外科手術、抗生物質
化石燃料以外のエネルギー=原発、風力、太陽光など
●微細化技術、特に、半導体、部品など
●インターネットの普及、 Googleの検索エンジン
●携帯電話の実用化、ウォークマン、電池の発明・進化

 今回のHPのために加えたものがある。それが、「化石燃料以外のエネルギー=原発、風力、太陽光など」というものである。

 東日本大震災というものは、ひょっとすると、人類史を変えてしまうかもしれない、という思いを込めて加えたとも言える。

 そして、イノベーションを選択するのであるから、選択基準は次の3段階になる。
Stage1:なんらかの価値の創造
Stage2:社会への実装
Stage3:人々の考え方が変わる:変革

 この3つの段階が現実に起き、その変革が極めて大きなものであったこと。これをイノベーションの定義として採用する。まあ、最近の定義はこんなものだと思う。

 この人類史イノベーションリストを見ると、当然のことながら、いくつか抜けていることがある。気づいていないことも多いことは当然として、気づいていながらも加えていないものもある。

 例えば、宇宙開発を入れていない。気象衛星やGPSなどは実用にはなっているのし、またロシアの宇宙ステーションや「はやぶさ」のようなことはあるのだが、それらがあっても、「人々の考え方が変わった」というレベルには到達していないように思うからである。本来であれば、「宇宙開発」はもっと文明的なインパクトがあって良いはずなのだが、現状では、「コロンブス」よりも影響が小規模に留まっていて、「アムンゼン」とか「ヒラリー卿」がサイズ的に拡大しただけのように思える。

 さて、それでは、元の問題に戻りたい。何がそもそも第5のイノベーションなのか。それには、第1から第4を選択しなければならない。当然ながら「人類史的にみたとき」が条件となる。加えて、定常状態を議論するのであるから、エネルギー的な記述、もしくは、物理学的にはエネルギーと等価である「物質」的な記述になるものと推測される。

 まず、第1から第4の4項目を選択することにした。
■第1のイノベーションが「火を使い始めたこと」、
■第2のイノベーションが、「化石燃料を使い始めたこと」、
■第3のイノベーションが「電気を使い始めたこと」、
■第4のイノベーションが、「化石燃料以外のエネルギー=原発、太陽光、風力などを使い始めたこと」。


 第1の火を使い始めたことは、すでに本HPにも登場しているように、人類というもにとって決定的なことだったのではないだろうか。

 「火を使いこなすこと」はいくつもの意味がある。焚き火をして、他の野物からの攻撃を予防することも非常に重要だった。洞窟に居住し、洞窟で24時間焚き火を絶やさない。これが安全に生活をする第1の条件だったかもしれない。

 ダイオキシン騒ぎの際に、落ち葉焚きを禁止する条例を作った地域が多かった。しかし、これは人類というものの歴史を全く無視したもので、もしもダイオキシンが落ち葉焚きで発生して何か影響があるとしたら、人類はとっくに滅びていた。

 落ち葉焚きのリスクは、もしあるとしたら、むしろホルムアルデヒドではないか、と思わえるのだが、検討をしたことがないので、単なる妄想に過ぎないかもしれない。

 さて、火を使うことの最大の効用は「調理をして食べること」で、これがもっとも重要なイノベーションだった。なぜならば、火が人類を人類にした、言い換えれば、猿よりも圧倒的な進化を進めた根本的な原因が、この火と調理ではないか、と考えられるからである。

 サルから分かれて600万年から700万年。先祖であるサルは、この間にそれほど進化しなかった。人類が火を使い始めたのは、恐らく50万年前ぐらい。現在の人類ができあがったのが20万年前だとすれば、それより遙かに昔のことですが、この50万年の進化はすごいものがある。

 どうして進化が速かったのか。その一つの要素が、食事に要する時間が短くなったこと。もちろん調理をすることによって、ということである。調理の直接的な目的は、貯蔵された食品の有効利用のため。具体的には、微生物を殺し、食中毒を避けるためであった。しかし、結果的に、でんぷんなどは消化しやすくなって、人類はその気になれば、10分×3=30分ぐらいの時間で、1日分の食事をとることができるようになった。

 一方、サルは食事に少なくとも4時間程度がかかる。餌を探し、そして、長時間食べ続ける必要がある。それは、ナマの食物の消化速度が遅いからだと考えられる。

 第2、第3のイノベーションについても、それほど異議はないのでは、と思う。

 第2のイノベーション「化石燃料を使い始めたこと」では、化石燃料を使うという行為そのものというよりも、それを動力として使うことができるようになったことがより本質的であり、ジェームズ・ワットの蒸気機関の実用化に帰するものかもしれない。

 時間という尺度を用いると、「化石燃料を使い始めたこと」の意味がいかに大きかったが分かる。そもそも、化石燃料は地球が数1000万年から数億年を掛けて、貯めこんできたもので、それを100万分の1の時間ですべて使ってしまおうというのだから、化石燃料というもののもつエネルギー量が莫大であることは十分に理解できることである。

 第3のイノベーション「電気を使い始めたこと」は、やはりエジソンだろうか。彼は、単なる発明家ではなく、電力供給というものを事業にすることを考えていた。

 今後とも、電力はもっとも便利なエネルギーとして使われ続けることだろう。電力には、二つの致命的欠点がある。一つは、貯めるのにコストが掛かること。もう一つは短時間で大量の電気エネルギーを移動することが大変であることである。そのため、これまでは、この二つの欠点にできるだけ触らないようにして、電力を使ってきた

 ところが、電力の持つ致命的欠点にチャレンジし、それを克服しようとするのが電気自動車なのであるから、そう簡単ではないことをもっと認識すべきである。それでも普及して貰わないと困るのだが。

 そして、第4の「化石燃料以外のエネルギー=原発、太陽光、風力などを使い始めたこと」であるが、上述のように、今回、はじめて加えたものである。これまで原発をリストから外していたのは、福島原発事故を考えてのことだったのだが、それはある意味で正しいと思うものの、やはり公平性の観点から良くないのではないか、と考え始めたことである。

 すなわち、原発を化石燃料以外のエネルギーの使用ということに読み替えることで、人類史上極めて重要なイノベーションになるのではないだろうか。こんな考え方にして、第4として追加することにした。

 今後、定常状態を作るために、自然エネルギーの使用というものは、人類史的に意味があることのように思える。

 これで第4までが揃った。それなら、第5とは何か。それは冒頭からの文脈からも明らかであろう。キーワードは「定常状態」である。

■第5のイノベーションとは、「定常状態を目指すこと」。しかも、これは人類にとって、究極のイノベーションである。

 今回のHPの目的は、この第5のイノベーションである。これは、20世紀の末近くになってやっとその必要性が理解され始めた。理由は、石油の供給限界が認識されたこと、もう一つは、二酸化炭素が地球に温暖化をもたらす可能性が認識されたことである。今後、100〜300年を掛けて実現を目指すイノベーションであり、まさに、究極のイノベーションである。



C先生:このあたりから、第5のイノベーションとは、ということで雑談をするか。何はともあれ、「定常状態とは何か」、ということを理解してもらいたいからだ。

A君:まず、誤解としてありうるのは、こんなことでしょうか。定常状態になったら、人類は、エネルギーを使えないのではないですか。

B君:勿論、定常状態の地球が達成できたとしても、エネルギーが使えないという訳ではない。
 太古から、太陽からエネルギーを受け取ることは継続して起きている。定常状態を条件とすれば、当然、化石燃料は使わないし、原発も使わない。となると、使えるエネルギーは、多少の地熱、多少の潮汐エネルギーを除けば、太陽起源のものがすべて。

A君:ちなみに地熱は、厳密には定常状態を満足するエネルギーではない。数100年というオーダーでは定常的であるに過ぎない。

B君:そのあたり、多少補足するか。
 137億年前にビッグバンが起きたときにできた原子は、素粒子が無秩序に結合したものだったので、ほとんどの原子は不安定核種であった。まるで、使用済みの核燃料のようなものだった。ほとんどすべての核種は寿命が短いので、すでに消えている。福島原発で生じたヨウ素131がすでにほとんどが消えていることと同じことである。
 しかし、長寿命核種は残っていて、そして、未だに崩壊を起こし続けている。例えば、ウラン238、トリウム232、ラジウム226、カリウム40などなどの核種であって、これらが地熱の半分以上を作り出している。

A君:カリウム40ですか。半減期が12億5千万円。ヒトは、体内にかなりの量の放射線を出すカリウム40を持っていて、その放射線量は、6000ベクレル程度、体重1kgあたりにすれば100ベクレルはある。

B君:話を地熱に戻せば、これらの放射性元素が自然崩壊していることによって、地熱の半分のエネルギーになっている。地球ができたときの熱だけしかエネルギー源がないとしたら、計算によれば、地球の深部の熱も、相当前に冷え切っている。放射線の壊変でエネルギーを供給しているので、地熱はまだまだ使える。

A君:ところで、太陽が地球に供給しているエネルギーの総量は莫大ですよね。現在人類が使用しているエネルギー量の1万5千倍ぐらいはある。しかし、雲や氷などによって反射し、いきなり宇宙に戻ってしまう光エネルギーが1/3ぐらいあるので、実質上使えるエネルギーは、1万倍ぐらいという勘定で良いのではないだろうかと思いますね。

B君:これほどの量がある太陽エネルギーなので、その0.01%でも活用できれば、自然エネルギーだけで現時点での人類の全需要を賄うことができる。

A君:もっとも大量に太陽エネルギーを使っているのは、植物でしょう。植物の光合成効率は、あまり高くなくて、0.1%から1%ぐらいなものではあるのですが、それでも、全地球を植物で埋め尽くせば、莫大なエネルギー蓄積が実現できることになりますね。

B君:しかし残念ながら、海がある。水面に植物を大量に繁殖させると、例えば、赤潮とか、アオコとかはそのようなものではあるのだが、むしろ水質汚濁としてしか認識されていない。

A君:それも当然で、そもそもキレイな海水とは、有機物が余り含まれていないからキレイな海水なので、海水をそのまま使って大量の植物を培養することは不可能ですよね。

B君:最近藻類が注目されているが、これもまさしく同じことであって、光合成を行う藻類であっても、植物と同様であり、カリウム、リン、窒素といった肥料が必須であり、また、微量の鉄などの金属元素も必要である。決して、二酸化炭素と水と太陽の光があれば、それで十分というものではない。富栄養化したような水でないと、藻類は育たないということになる。

A君:光合成をする藻類でも、まさにその通り。もしも光合成をしない藻類、これを従属栄養藻類と呼ぶ。何か栄養を取り入れる必要があって、糖類などの栄養素が必要不可欠ですね。ところが、栄養素というものは、水の汚濁物質でもある。

C先生:そろそろ、太陽の光を電力などとして活用する話に行かねば。

A君:太陽のエネルギーを電力に転換するのには、当然のことながら、なんらかのデバイスや装置が必要になりますね。もっとも直接的なものは太陽光発電であり、これだと太陽のエネルギーの10%以上、通常のものだと20%ぐらいが電力になります。

B君:植物などに比べれば、極めて高効率型であることが分かる。結構エネルギーが取れるのだ。しかし、太陽電池を作るにはエネルギーが必要である。製造などに使ってしまったエネルギーと、ある一定期間の運用によって回収できるエネルギー量が等しくなる時間を、エネルギー・ペイバック・タイム(EPT)と呼ぶ。

A君:そうですね。太陽電池単体であれば、3年程度だと言われているようです。しかし、メガソーラーの場合のように、アルミで架台を作るようなことをすれば、EPTは、何10年といったオーダーになることもありえます。

C先生:このように考えると、太陽電池は、できるだけ単純な構造のものとして、製造エネルギーが少ないもので、かつ、長期間運用が可能になるよう寿命が長いものがもっとも望ましいことになる。当然、かなり大量に使うものなので、地球の組成と整合性の良いものが優れている。現状使われているのはシリコン系なので、その点では心配はいらない。

A君:最近、太陽電池の高効率化が技術開発のターゲットになっていますね。そうなると、どうも特殊な元素を使うことになってしまうのでは。

B君:地球に大量に存在する元素を使って、しかも寿命が長いものが製造できること。これが定常状態を目指す自然エネルギーを得る装置の条件であるはずなのだが、地球という重要な境界条件を議論することがほとんどないのはなぜなのだろうか。

A君:理由は、簡単で、それを言ってしまえば、最初から成立しないプロジェクトが多いからではないですか。

B君:そうかもしれない。「とにかくプロジェクトとして成立することが重要である」といったムダな開発研究が多すぎるように思うが、なぜなのだろう。

A君:一つは、やはり見る目がない。

B君:「従属栄養藻類を用いて油を生産し、それが二酸化炭素発生抑制に資する再生可能エネルギーの代表だ」という主張があったら、皆さんはどう判断します。

C先生:さて話を戻して、定常状態とは何か。太陽からのエネルギー量を莫大に受け取っているのだから、定常状態ではないのではないか、という疑問が浮かぶかもしれない。

A君:定常状態とは、一般には、ある系というものを考えて、そこに入ってくるエネルギーの量と出ていくエネルギーの量が等しいことが第1の条件です。全く、出入りが無い状態とは違うのです。

B君:エネルギー以外にも、条件はあって、物質の出と入りについても、同じことが言えなければならない。同じ物質が入って、同じ物質が出ていく。

A君:確かに物質についても、定常状態は何かという条件を考えなければならないのですが、地球の場合には、水素やヘリウムという軽い気体がわずかずつ地球を離れて宇宙に移動しはいます。
 また、逆に、隕石によって、宇宙から地球への物質の追加もあります。しかし、ほぼ無視出来る程度。すなわち物質的な出入りは無いとみなすことができる。そこで、エネルギーだけを考えればよいことになるのです。

A君:要するに、定常状態とは、完全閉鎖系(エネルギーも物質も出入りの無いこと)とは全く意味が違う。

B君:地球の場合は、太陽から貰うエネルギーと、それと同量のエネルギーを宇宙に放出するということで、定常状態になっているのが本来の姿である。

A君:それが現実にはちょっとズレている。地球温暖化現象というものは、地球から出ていくエネルギーを、温室効果ガスが温室のガラスやプラスティックフィルムのような働きをして邪魔をしてしまうために、地球がもつエネルギー量が徐々に増えてしまう、すなわち、温度が上昇してしまうということを意味します。

C先生:ところで、こんな疑問は沸かないだろうか。地球に入ってくるエネルギー量と、出ていくエネルギー量が同じだというのは間違いではないか。太陽が供給してくれるエネルギーの一部を人類が消費してしまったら、地球から出ていくエネルギーの量が減ってしまうのではないか。

A君:もっと理屈をこねるような場合には、「物理学の基本法則にエネルギー保存の法則というものがあって、エネルギーの量は保存されるはずなので、人類がエネルギーを使っているのだから、出ていくエネルギーの量は、減って当然なのではないか」。

B君:いや。この問題に対して、そのようなことは無いと答えるのは、ある意味で簡単だ。
 人類は、いくら頑張っても、本当の意味で、太陽からのエネルギーを消費することはできない。エネルギーの質を変え、そして、エネルギーの質を劣化させているだけである。

A君:まあ、そういうことですね。
 太陽エネルギーを太陽電池で電気に変え、それで電気自動車用の電池を充電する。そのとき、効率が100%ではないので、若干が熱に変わる。電気自動車を走らせれば、電気はほとんどすべてが、最終的にはブレーキの熱、タイヤの熱、空気抵抗があるので空気の熱に変わっている。ブレーキの熱は、空気を温めることに使われ、タイアの熱は主として地面を温めることに使われる。

B君:さらにうるさい人だと、こう言うかもしれない。
 「電気自動車を富士山五合目まで走らせれば、位置エネルギーとして太陽エネルギーを消費したことにはならないのか」。
 これは、その自動車だって、そのうち平地に戻るので、位置エネルギーはなくなってしまう。

A君:電気自動車が最終的に地球を温める量は、もしも太陽電池を使わなかったら、その太陽電池と同じ面積の地表にぶつかった太陽光が最後に行うことと同じ。

B君:人類ではなくて、植物だと、太陽のエネルギーを物質を変換することができるので、太陽エネルギーを消費しているとも言えるかもしれない。それでも、何千年のスケールで考えれば、地球を温めることになるだけである。となると、なんとも言い難い。

A君:いやいや。そこまで考えるのなら、人間だって、太陽のエネルギーを物質に変えることはできるではないか。だから、太陽エネルギーを消費することは可能なのではないかということになるでしょう。
 例えば、酸化鉄を鉄に還元することはできるではないか。確かにイエス。しかし、そのうち、鉄が錆びるときに発熱して、最後の最後には、地球を温めるのに使われる。もっとも、そんなことが起きるのに、何千年も掛かることは無さそうですが。

B君:鉄なら錆びる。もしも、プラチナを作ったらどうなる。錆びないから、太陽のエネルギーを消費したことにはならないか。まあ、このぐらいになると、確かに消費したと言うべきかもしれない。ただし、何千トンの白金を作ったら、地球を流れている太陽のエネルギーの量に影響を与えたと言えるのだろうか。

A君:白金って、地球上に何トンあるのでしょうか。

B君:いずれにしても、定常状態というものを考える際には、相当大量なエネルギーの使用を考慮するだけで充分である。これが結論になるな。具体的には、化石燃料を使わないと決めれば、ほとんどすべての人間活動が地球を定常状態に保つことが可能な形式のものになる。

A君:そうですね。これまでの議論で分かるように、物質が変わるではないか、と言われるかもしれないが、二酸化炭素が関係する物質の流れを除けば、地球の定常性にそれほど大きな影響は与えない。

B君:大量のゴミを出して、それを燃やしているのはどうなんだ。こんな質問が来るかもしれない。
 実は、これも同様で、化石燃料を使わないで生産を行うことにすれば、ゴミそのものを燃やしても、その大部分は植物起源のものになっているだろうから、定常性への影響はほとんどなくなってしまう。

C先生:長々と議論をしてきたが、このような考察は、現時点だから何か新しい考察ができるようになったというものではない。かなり昔から、状況は余り変わっていない。
 11月20日に書いた「地球環境問題とリサイクル再考」
http://www.yasuienv.net/GERecycle.htm
で引用したハーマン・デイリーの三原則が、そんな議論の結果なのだ。

A君:再出です。

表1 ハーマン・デイリーの三原則
 Toward a Steady-state Economy(Paperback: 332 pages、Publisher: W.H.Freeman & Co Ltd; illustrated edition edition (May 1973) Language: English)

(1)."再生可能な資源"の持続可能な利用の速度は, その供給源の再生速度を超えてはならない.
(2)."再生不可能な資源"の持続可能な利用の速度は, 持続可能なペースで利用する再生可能な資源へ転換する速度を越えてはならない.
(3)."汚染物質"の持続可能な排出速度は, 環境がそうした汚染物質を循環し, 吸収し, 無害化できる速度を越えてはならない.

B君:ハーマン・デイリーの三原則は、1972年にオリジナルがあるようだが、このような考察を延々と続けてたどり着いた原則であるように思える。

C先生:そろそろ結論にしたい。
 第5のイノベーション「定常状態を目指すこと」は、究極のイノベーションを目指すことでもある。
 この方向性をどのように実現するのか。例えば、日常生活にこの手のイノベーションを組み込んだらどうなるのか。これを考え、そのために必要な技術革新とは何か、そして、その技術革新がもたらす、マインドの変化とは何か。このようなことを考えることが日常的なことになれば、持続可能な社会が実現すると言えるだろう。