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   バイオマスエネルギーの最近の動向 
     
やはり欧州がリード、米国も健闘    08.27.2017
               




 経産省のプロジェクトで、NEDOが実施主体である「未踏チャレンジ」の審査が終わりました。今年は、どちらかというと物理系・材料系の募集課題でした。来年は、どのような課題で募集するのが良いのか、それを考えるために、ということで、そろそろ世界の情勢をチェックしはじめています。
 今回は、その最初として、バイオマス関係について、世界的な状況と日本の状況との比較をしてみたいと思います。
 毎回、申し上げているように、「パリ協定」に対する態度が、研究・開発のターゲットの設定に影響しているように思われます。
 「パリ協定」があるから、自然エネルギーに向けて確実に歩を進めていかなければならない、と考える欧州勢。そして、トランプ大統領という極めて視野の狭いリーダーの意向とは無関係に、グローバル企業としての存続のために、「パリ協定」を無視できない米国系企業。最後に、現在の業態をできるだけ変えたくないので、世の中の流れを横目で見ながら、後から付いていくというマインドの日本企業
 以上の3つの分類がこの課題でも見られるように思います。
 少なくとも、「未踏チャレンジ」への応募者と関係者は、世界全体の流れが、どのような動機で、どのように起きているのか、それを十二分に把握すべきだと思っています。
 今回の検討対象は、「先進的である」ということが判定基準として選択されていて、産業界全体の大勢を反映しているものではありませんが、先進性という視点からだけでも、全体の動きが読み取れるものだと考えております。どのようなプロセスでこれらの対象が選択されたか、については、後日、全体的な結論を書くときに、まとめてご報告します。


C先生:ということで、本日は、バイオマス関係の「先進的」と思われる事例を6つほど取り上げて見たい。それでは、早速行くか。

A君:了解。順不同です。まずは、これから。
No.1
http://ir.gevo.com/phoenix.zhtml?c=238618&p=irol-newsArticle&ID=2151133

B君:アルコール系の燃料が、米国の工業標準であるASTMに適合していると認証されて、アラスカ航空が、これを商業フライトに採用すべく、最初のテストフライトを行う姿勢を示している、といういうニュース。

A君:このサイト自体は、Gevoという米国企業のサイトで、キーワードはイソブタノール(Isobutanol)。皆さんが好きなアルコールはエタノールで、これは、分子内の炭素の数が2つ。ブタノールは4つ。炭素が4つもあるので、分子構造も5種類あるのですが、その一つが、イソブタノール(別名:イソブチルアルコール)。正式名称は、2−メチル−1−プロパノール。

B君:面倒くさい話になるので、どう簡単に理解するかを説明しないと。

A君:分子構造によって、沸点が違ってきます。さらに、水に溶けるかどうか、逆に言えば、水が溶け込むかどうか、などの性質が違うのです。ジェット燃料は、灯油みたいなものなので、まあ、油ですし、水とは混じらない。そこで、できれば、石油起源のジェット燃料と似たような性質のイソブタノールが良いということになります。

B君:その前に、燃料として単位重量あたりの発熱量が重要で、エタノールは、発熱量が低いので、ジェット燃料にはならないと考えられている。なぜか、というと、分子構造の中に酸素を含むから。しかも、エタノールだと炭素2個に酸素1個という割合なので、すでに酸化が進んでいると理解できる。一方、灯油の分子に含まれる酸素はゼロなので、全く酸化されていない。すでに、酸化が進んでいるということは、燃料としてのパワー不足を意味する。

A君:ブタノールにも酸素は含まれているのですが、炭素4個に酸素1個なので、まあ、それほど発熱量が減るということもないのでしょう。

B君:自動車用のガソリンであれば、多少発熱量が低くても、フルパワーを常時使うようなことはないから、問題はないのだけれど、ジェット機が最大の出力を出さなければならないのは離陸時で、そのとき、長距離を飛ぶ場合には、当然、燃料タンクは満タンで、飛行機の総重量の1/3ぐらいは実は燃料の重さなのだ。燃料を持ち上げるために、燃料を使うのが、離陸というプロセスなのだ。だから、エタノールのような重量あたりのパワーが低い燃料は使えない。

A君:ということは、ブタノールは、酸素を含むけれど、分子の重さ=分子量が74で、酸素は1個16。エタノールだと、分子量が46で、酸素は1個16。同じ酸素1個でも、分子が小さいエタノールだと影響が大きいということも説明する必要があります。

B君:米国のガソリンは、E10と呼ばれるエタノールが10%含まれているものが普及している。このガソリンは、西部農業地帯でのトウモロコシの生産量を高めるという政治的な理由で導入されたもので、農業者からの票をもっと欲しい政治家がそう主張しても、エタノール量をさらに増やしたら、ガソリンとしての性能が落ちてしまうので限界がある。

A君:ブラジルでは純粋のエタノールで走る自動車がありますけど、やはりパワーが出ないようですね。ブラジル人は、急いているときには、ガソリン車を使うという話を聞いたことがあります。

B君:ブタノールであれば、ガソリンに混ぜても、それほど悪影響はないので、混ぜる量を増やせる。それを農作物から作れば、農家は裕福になる。

A君:そうですね。エタノールだとガソリンに大量に混ぜると分離してしまうのですが、イソブタノールなら、ある量までなら均一に混じるでしょうから。

B君:ガソリンの凍結防止剤やアンチノック剤としての添加物はイソブタノールのようだ。

A君:ジェット燃料としてのバイオ燃料の重要性は、当然、「パリ協定に適合した航空機サービスを実現するため」、ということが第一の目的ですし、大義でもあるのですが、それ以外にも、政治的に農業振興といった背景があることを含めて理解して置くことが重要だと思います。特に、米国では。

B君:このGevoという企業は、トウモロコシからイソブタノールを大量に作ることを目指している企業なのだ。

C先生:「パリ協定」遵守をすると、ある企業にとっては、負の影響がある。その最たるものが、鉄鋼業、セメントう製造業、そして、石炭だと思う。しかし、バイオ系の企業は、「パリ協定」を良いチャンスだ、と思っている。石油も、かなり逆風なのだけれど、Shellなどのエネルギー企業も、これまでの石油では先行きの見通しがないので、新しい低炭素エネルギーを供給することがShellの任務であると表明して、企業の体質転換を行っている。そう言わないと、欧米では、株主から責められる。西欧では株主の意識に、この会社は自分のものだから、成長して欲しいという思いが含まれているのだ。それに対して、日本の株主は、自分の儲けばかり考えていて、自分の企業であるという意識がない。したがって、その企業の成長を応援するという意識が少なすぎるということになる。

A君:次に行きます。やはりジェット燃料なのですが、木材起源の燃料ということです。
No.2
http://biomassmagazine.com/articles/13920/
icm-flight-powered-by-biofuel-made-from-residual-wood


B君:ICM Inc.という企業か。本社は米国のカンザス州にある企業。割合と小さいみたいだ。
http://www.icminc.com/

A君:やはりアラスカ航空のジェット燃料を提供するということのようです。このプロジェクトは、USDAがスポンサー。USDAは米国農務省。ということで、米国の農業にとって、パリ協定はチャンスだということですね。

B君:方法論としては、それほどのバラエティーがあるはずもないのだけれど、木をすり潰して、分解酵素でセルロースを分解して、糖類を作り、その発酵によって、イソブタノールを作るというもの。これ以外の方法はほぼ考えられないので、新鮮味は無いのだけれど、分解酵素が問題。木は、セルロースをヘミセルロースとリグニンが固めたものなので、セルロースだけならなんとかなるにしても、なかなか厄介なプロセスなのでは。

A君:実は、このプロジェクトに使われている酵素は、先程のGevoという企業が提供しているようです。

B君:それでは、次。ノルウェーのジェット燃料。
No.3
http://skynrg.com/wp-content/uploads/2016/01/
20160122_Press-Release_SkyNRG-Avinor-and-Air-
BP-make-first-volumes-of-sustainable-jet-fuel-a-reality-for-Lufthansa-KLM-and-SAS-
at-Oslo-Gardermoen-Airport.pdf


A君:SkyNRG、Avinor、Air BPが、ルフトハンザ、KLM、SAS向けにオスロ空港に準備したジェット燃料。燃料そのものは、Nesteという企業がITAKAというEUのプログラムでの研究成果に基いて製造。原料はカメリア油。日本だとカメリアを椿と訳すけれど、椿油は、ヤブツバキの種から採取する油で、カメリア油とは、ツバキ属(山茶花など)の種子から採取するもので、日本で入手できるものは、大部分が中国製。

B君:カメリア油は、普通の脂肪酸のグリセリンエステルなので、炭化水素燃料を作るのに特別の技術が必要ということではなさそう。日本でも、使用済の天ぷら油からディーゼル油を作るということが、小規模に行われてる。しかし、大量に低コストで生産するとなると、結構大変なことなのかもしれない。

A君:そのNesteという企業が、フィンランドで廃棄物起源100%のディーゼル燃料を作っているという話がこれ。廃棄物の実態が良く分からないのが問題。

B君:オリーブオイル、ナタネ油などの植物油を絞る過程で排出される廃棄物かな?? それとも、魚油の精製過程などでの廃棄物かな??

A君:このサイトがそれかも? 
https://www.neste.com/fi/en/companies/products/renewable-products/
renewable-raw-materials/wastes-and-residues-0


B君:日本と似ているような。使用後の料理用油、何かに使ったコーン油の廃棄物、動物の廃棄脂身や廃棄魚油などが原料みたいだ。日本での廃天ぷら油からのディーゼル燃料は、先進的だったのかもね。

A君:では次。これは、GEがウッドチップと農業廃棄物のみを燃焼する世界最大のバイオマス発電所を作るという話。
No.4
http://www.genewsroom.com/press-releases/
ge-chosen-build-world%E2%80%99s-largest-commercial-biomass-fired-power-plant-282682


B君:出力が215MW。日本流表現だと21.5万kW。日本の場合、11.5万kW以下が小型火力発電に分類されて、環境アセスがゆるい。確かに、21.5万だと小型火力とは言えないレベル。

A君:日本のバイオマス発電の規模は小さい。最近の報道によれば、
https://mainichi.jp/articles/20170318/k00/00e/020/152000c
関西電力が福岡県・苅田に建設を検討しているバイオマス発電所が、7.5万kWで、日本最大規模とのこと。燃料は、海外からの木質チップを想定。

B君:GEのバイオマス発電所を作るのは、ベルギーのBelgian Eco Energyという会社。

A君:この話が成立するのは、実は、ヨーロッパならではの事情があります。ヨーロッパでは、熱の集中供給がかなり普通に行われています。スチームの配管が地下にあるのです。そのため、100%再生可能エネルギーということを太陽光発電と風力発電、あるいは、海洋発電などで行っても、熱供給ができないとダメ、という考え方なのです。そこで、最終的にも、かなりの発電をバイオマスで行うことになるのでは。

B君:そう言えば、Siemensが、風力発電ではなくて、風力で熱発生という考え方を示している。再生可能エネルギーになると、国によって、エネルギー供給への考え方が違うことが、より明確になるということだろう。

A君:それでは次。
No.5
http://www.dupont.com/corporate-functions/media-center/press-releases/
dupont-celebrates-opening-of-worlds-largest-cellulosic-ethanol-plant.html

 デュポンが、世界最大のセルロース系エタノール製造プラントを建設したということ。

B君:場所は米国アイオワ州のネバダというところ。年産3000万ガロンのエタノール工場。原料は、トウモロコシからの廃棄物。

A君:サトウキビの搾りかすを使うものは、ブラジルでは一般的ですから、トウモロコシからの茎などが使えても不思議ではないのです。むしろ、デュポンの農薬などでの農家との深い関係を利用して、トウモロコシ廃棄物を効率的に収集する原料サプライチェーンを作ったことが成功の最大の要因とか。

B君:日本でサトウキビもトウモロコシも大量生産していないので、バイオマスというと木質になってしまう。稲わらはあるのだけれど、無機質(シリカ)が多いので、バイオマス用にそれほど適していない。

A君:次です。というか、これが最後です。
No.6
http://anellotech.com/press/suntory
Anellotechとサントリーが共同で、100%バイオベースの飲料用プラスチックボトルを開発するという。

B君:現在だとバイオPETと言っても、エチレングリコールという原料だけで、もう一つの原料である、テレフタル酸は、ベンゼン環があるので、どうしても、石油を精製して得たパラキシレンという物質を原料にすることが経済的に有利だった。

A君:炭素の数で数えると、2個がエチレングリコールから、8個がテレフタル酸からですから、廃棄物になって焼却されたときのCO発生量を考えると、バイオPETにしたメリットは、「2割がバイオ由来」でしかない。

B君:PET樹脂は世界全体で年間5400万トンほど生産されている。それをすべて燃焼したときに発生するCO量は計算上、1.2億トンを超す程度。まあ、それほど大量だとも言えないが、現在のバイオペットで削減されるCO発生が20%削減するといっても威張れない。100%削減と言えれば、これは自慢できる。

A君:容器用のプラスチックは、パリ協定でいささか逆風であることを認識している企業が、100%バイオPETを一つの候補として、取り組み始めているということです。サントリーやコカコーラなどがこの方向ですか。やはり、PETという樹脂の性能が、使いやすいということかと思います。

B君:しかし、世界的には、ダノン、ネスレなどがNaturAllという単語を発明して、100%自然原料(多分、バイオ原料と同じ)のボトルに切り替えようというアライアンスを作った。

C先生:最後の話題も、やはりパリ協定の影響だと言えるかもしれない。フランスという国は、一気に極端な政策ができる国として、すでにドイツを抜いたと思うけれど、フランスでは、プラスチックボトルなどの使い捨て容器を禁止するという法律を作り、2020年1月1日から施行されるとのこと。ただし、実は、それほど厳しくないとも言えて、微生物によって家庭用の生ゴミ処理機で堆肥にできるか(生分解性)、もしくは原材料の一部が生物由来であればOKらしい。しかし、さすがにパリ協定の国だとも言えて、2016年7月には、プラスチック製のレジ袋の使用が禁止された。
https://www.thelocal.fr/20160701/what-does-frances-ban-on-plastic-bags-actually-mean
 という訳で、なかなか、欧州は先進的で、特に、ジェット燃料については、日本の状況などと桁違い。日本では、ユーグレナが名乗りを上げたのだけれど、あの方法で、今回ご紹介のレベルに到達するのは、多分不可能だと思う。
 ここに、ユーグレナの微細藻類培養プールの写真があるけれど、
http://www.euglena.jp/news/20170731-2/
 面積は、1000平米。このようなプールをレースウェー型と呼ぶのだろうけれど、この水を回すための羽根を回すモーターの電力だけで結構大変。そのエネルギーは太陽電池で供給するのだろうけれど、プールぐらいの設置面積が必要だったりする。となると、そのためのコストも馬鹿にできない。ユーグレナが出現するまで、大量に培養できる微細藻は、クロレラとスピルリナぐらいなもので、まあ、3番目になっただけでも立派ではあるけれど、エネルギー用の油の価格は、ジェット燃料だとジェット機の燃料タンク容量(100トン?)が単位。一方、健康食品用の単位は、100錠でも25グラム程度その差は数100万倍と極めて大きい。コスト感覚が全く違うことをどう考えるかが問題なのだ。
 ということで、最後に結論。今後のバイオマス系のイノベーションを考えるとき、もっとも重要なことは、その国に適した方法や条件、さらに規模はどのぐらいのものなのか、ということかのかも知れない。ジェット燃料という国際的に共通なものを対象にすると、日本という国は、どうも全く別の価値観にとらわれてしまう傾向があると思う。要するに、もっとグローバル&ローカルという視点が必要だということなのかもしれないと思う。