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    電力貯蔵の未来型イノベーション
     
  日本がもっとも遅れているか? 09.02.2017
               



 前回、バイオマス関係のイノベーションに関して、日本では、欧州、米国に比べてかなり動きが少ないという状況をご説明しました。
 今回、電力貯蔵を取り上げます。この記事を書く動機になったのは、7月17日の日経新聞の記事、「CAES=compressed air energy storage(圧縮空気による電力貯蔵)について」だったのですが、この記事の情報だけでは不十分なので、Webを色々と探って、新しい情報を掘り出して見ました。
 使ったキーワードは、power storage、new batteries、compressed air energy storage、flywheel、pumped storage、などなどです。
 電力関係のイノベーションについては、Energy Innovationsで検索して、そこから、いくつかのサイトを巡って見ました。
 いくつかの発見がありました。Springwise Innovation IntelligenceSIIといった組織は、最新のエネルギーイノベーションの情報を年間500ドル程度の価格で有料提供をしていること。日本にも同じようなサービスはあるのでしょうか。そもそもSIIといった商売は、英語だから成立しているのでしょうか。
 このような情報を眺めて感じることは、海外では、イノベーションに向かう積極性が非常に強いということです。新しいビジネスが生まれるチャンスだ、という意気込みが伝わってきます。
 もともと、日本という国は、ベンチャーが生まれにくい国なのです。まずは、情報ベンチャーに限った話ですが、情報を集めることが必須ですが、情報をいくら収集してもそれだけでは、商売になりません。日本国内で売れる情報は「日本語」のみで、しかも、現状だと環境イノベーションに対する需要がない。それを海外に向けてわざわざ英語に直しても、手間賃が掛かりすぎて、商売にならない。語学の壁も大きいのです。
 しかも、日本という国の状況を良く知っている欧州や米国には、未来型イノベーションの情報を日本から得ようという企業はほとんどないでしょう。なんといっても、日本は未来型イノベーションを意識しない国ですから。


C先生:電力貯蔵、あるいは、エネルギー貯蔵は、今後のエネルギーシステムの中でもっとも重要な要素だろう。何故か、と言えば、化石燃料が使えなくなると、必然的に電力がエネルギーの中心的存在になる。ところが、化石燃料の持ついくつもの優れた特性の中でも、もっとも評価すべきことが、「貯蔵が簡単」ということなんだ。逆に、電力というエネルギーのもっとも弱いところが、「電力そのままの貯蔵(=電池)は高い。何か別のエネルギーに変換しての貯蔵は面倒」ということなのだ。

A君:まずは、まとまった情報から。こんなページが見つかりました。「エネルギー貯蔵、12のヨーロッパ企業」ということです。 
https://www.greentechmedia.com/articles/read/12-european-energy-storage-startups-to-watch

B君:リスト的に表現するとこんな感じだ。


エネルギー貯蔵ベンチャー ヨーロッパベスト12 

1.企業名 Charge2Change ポルトガル
https://www.c2cnewcap.com/ 英語
 内容は、金属酸化物を使ったハイブリッド・スーパーキャパシタを電池の形にしたこと。なにやら、金属酸化物をデンドライト(樹枝)状にしたことで新しい性能を出すことに成功したということらしい。詳細は不明。

2.企業名 Eco-Tech Ceram フランス
https://www.ecotechceram.com/ フランス語
 セラミックス製の熱蓄積用の装置を開発した。アルセロール・ミタル(製鉄業)が、関心を寄せているとのこと。内容は記述されていない。

3.企業名 Ecovat オランダ
http://www.ecovat.eu/ 英語あり
 地下に大きな空間を作り、そこに熱貯蔵をして、必要時に使うということらしい。90℃の熱が、6ヶ月後にも82℃までしか温度が下がらないという。熱媒体が何かは記述されていないが、多分、水系なのでは。

4.企業名 Elestor オランダ
http://www.elestor.nl/ 英語
 フローバッテリーの一種らしい。HBrを使う電力貯蔵?

5.企業名 E-Sims フランス
http://e-sims.fr/en/# 英語あり
 島嶼諸国などに向けたエネルギー貯蔵のコントロールソフトを開発している。

6.企業名 Ferroamp スウェーデン
http://www.ferroamp.se/home 英語
 直流のナノグリッドを専門とする企業。中心となるコントローラーがEnergy Hub。パワーモデュールは、3.5kW、三相、両方向のコンバーター。

7.企業名 HySiLabs フランス
http://www.hysilabs.com/ 英語
 なにやら水素を発生する液体燃料を開発したらしい。これが本当なら、水素供給が高圧水素からこの液体に変わるかもしれないが、水素を発生後にその液体がどうなるのか、記述が無い。

8.企業名 Lancey フランス
http://lancey.fr/en/ 英語
 暖房用のヒーターだが、バッテリーと最新の熱技術(赤外線、制御、スマホ制御)などを応用。

9,企業名 MarCelLi ポーランド
http://www.innoenergy.com/venture/marcelli/ 英語
 リチウム電池の正極材料の提案。鉄リン系らしい。

10.企業名 Skeleton Technologies ドイツとエストニア
https://www.skeletontech.com/ 英語
 ウルトラキャパシタ(実体不明)を使ったエネルギー貯蔵システム。キャパシタの本体にはグラフェンを応用している。

11.企業名 Sylfen フランス
http://sylfen.com/en/home/ 英語
 エネルギー貯蔵を総合的に取り扱っている。貯蔵方法は、水素と電池。これをスマート・エネルギー・ハブで制御。

12.企業名 Wattsun オランダ
https://www.wattsun.net/contact オランダ語
 電池スタックを使用して、使いやすい貯蔵法を提供。
A君:やはり、EU圏は、このようなベンチャーが育ちつつあるということですね。最後のものは、どうも、工事現場での大容量電源としての応用を主として考えているようですが、他のものは、不安定な自然エネルギーによる電力供給を補うような設備としての提案です。



B君:まず、このようなサイトが商売になる状況がEUではすでに作られているということだ。それは、EUでの自然エネルギーの普及への強い意志がある。一方、日本では、電力網が不安定になるから、という電力企業が、一定量の不安定な自然エネルギーしか受け入れない。ベンチャーの立場から言えば、ベンチャーの活躍の余地をわざわざ狭めているようにしか見えないだろう。

A君:保守的が日本の現時点での最大の問題点。しかし、もともと保守的でもやっていける程度の国内市場があったことも大きいのですが、それが現時点では消滅気味。そのために、新しい需要と消費を喚起することが政府にとっても必須なのですが、それを十二分に認識していながら、どちらかというと政府も既得権益を壊せない、いや、壊さない方針のように見えます。

B君:もう少々広範囲に電力関係のイノベーションを取り上げたページが見つかった。題して、未来を明るくする9つのエネルギー・イノベーション
https://www.treehugger.com/renewable-energy/9-energy-innovations-make-future-brighter.html

A君:内容の評価は、まあ、「普通」といったところ。9つの項目を一応リストアップすると、
1.太陽電池パネルを自動的に設置するロボット
2.羽根の直径が154mにもなる風車
3.液体金属バッテリー(意味不明:恐らく、フローバッテリーなのでは)
4.波力発電装置
5.住宅用の太陽電池のための融資制度(米国)
6.風力発電ファームの発電量を最適化するソフト
7.太陽電池製造のエネルギーを半減する光学炉
8.簡単に屋上に設置できる太陽電池
9.Armory Lovins(ロッキーマウンテン研究所所長、自然エネルギーと省エネで有名)の著書で最良なものが、「火の再発明(Reinvnting Fire)」


君:このページは、イノベーションの現状を理解するためには、余り適切とは言えない。

A君:それでは、Energy Innovation、Policy & Technology Lifeというこのページは?
http://energyinnovation.org/about-us/

B君:ここは、電力会社向けのコンサルのようだ。しかし、次の図1のような図ははじめて見た。COの発生に対して、大気中のCO濃度の変化、地球の平均気温の変化、そして、海面上昇の進展を1000年後まで推測したものだ。CO排出量を100年後に3割削減、そして、200年後に8割削減しても、この程度の削減量では、温度上昇は継続し続けて、海面の上昇速度が少し下がるのが1000年後。


図1 Energy Innovationというページにあった図。 http://energyinnovation.org/about-us/

A君:パリ協定の通りに行けば、温度の上昇は、もう少々低くなりますが。
 イノベーションに戻りますと、全く新しい電池の提案などが見つかります。その一つが、Liquid Batteryというもの。
https://www.greentechmedia.com/articles/read
/ambri-returns-to-the-energy-storage-hunt-with-liquid-metal-battery-redesign

 これは、MITのDon Sadoway教授が考えた新しい電池。液体金属電池。彼の最大の主張は、将来、蓄電技術が必要不可欠で、電池にはレアな元素を使ってはいけない。もし価格を下げようと思ったら、泥から作れ。リチウム電池が使うリチウムもコバルトも希少元素だ。
https://www.technologyreview.com/s/602694/
what-were-doing-wrong-in-the-search-for-better-batteries/


B君:日本は、原理的な発明をするというよりも、やはり、改良が得意なのか。

A君:バッテリーについては、なんとも言えませんね。全固体リチウム電池をどちらに分類するのか。世界に比べても、もっとも進化した分野がここかもしれません。

C先生:全固体型リチウム電池の研究は、研究総括を勤めたCRESTの研究プロジェクトの中で、大阪府立大学の辰巳砂教授のテーマがこれだった。酸化物ではなくて、硫化物を使うもの。そして、この研究に強い関心をもってくれたのが、トヨタ。

A君:この硫化物固体電解質の改良が、東工大の菅野了次教授によって行われた。Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3といった複雑な組成の固体。
http://www.titech.ac.jp/news/2016/033800.html

B君:全固体電池は、確かに火災などの面から考えれば優れているのだけれど、万一、事故が起きて燃えると、硫黄とリンの化合物が発生する可能性がある。特に、水と反応して硫化水素がでてしまうような条件になると、これは安全とは言えない。

C先生:ということで、日本の研究もかなり進んでいるのだけれど、欧州、米国に比較すると、ベンチャーまで行く研究が少ないのが、最大の違いかとも思う。
 そろそろ、この記事を書くきっかけになったCAES(Compressed Air Energy Storage:カエスと読む)について、若干記述を行って、終わりにしよう。

A君:電力を使って圧縮空気を作る。この圧縮空気のエネルギーで、なんらかの方法で電気を作り、そして使うという比較的単純な方法論。

B君:米国でこの方法論が注目されたのは、比較的小型のコンテナに圧力容器を付けて高圧空気としてエネルギーを貯め、それを使ってヘリコプターに使われていた中古ガスタービンエンジンを駆動すると、かなり効率的に発電も可能というシナリオだった。

A君:しかし、最近では、ガスタービンだとCOが出てしまうので、高圧ガスそのものでタービンを回す方式になろうとしているようです。

B君:その例が、NEDOと早稲田大学が実施した実証試験。ただし、極めてコンベンショナルなCAESだ。
https://www.waseda.jp/top/en-news/50422
http://www.nedo.go.jp/english/news/AA5en_100227.html

A君:最近の動向ですが、大規模なものを作ろうとすると、高圧容器に空気を貯めるより、水圧で圧力を維持した大規模な地下空間に空気を貯めて、高圧空気をやりとりする装置と発電機を使うといった新しい考え方になっているようですね。気体を圧縮するときには熱がでるので、熱の貯蔵や熱のやり取りも行うのですが。このサイトには、アニメーションがあるので、分かりやすいです。ご覧いただきたいと思います。一般名称としては、Advanced CAESで、固有名詞は、Hydrostor Terraと呼ぶようです。
https://hydrostor.ca/

B君:ドイツFraunhofer研究所も、新しい水中のエネルギー貯蔵の新コンセプトを検討しているようだ。
https://www.greentechmedia.com/articles/read/fraunhofer-races-hydrostor-for-underwater-storage

A君:このような設備を作るには、海や湖があることが条件になるので、場合によっては、急に深くなっている海がある日本には有利な方法なのかもしれません。

B君:どうもそんな感じだ。そのFraunhoferは、600〜800mの深さが必要だとなっている。湖では無理かも。バルト海は浅いので、ドイツは不利かもしれない。いくつかの記事を読んでいくと、どうやら、水中のエネルギー貯蔵の技術が競争になったという表現もある。

A君:開発の全体的な動向は、以下の記事を読んでいただくと良いかもしれません。
http://www.renewableenergyworld.com/articles/2014/09
/underwater-compressed-air-storage-fantasy-or-reality.html


http://www.sciencealert.com/underwater-balloons-could-give-us-a-new-way-of-storing-renewable-energy

C先生:まあ、こんなところで良いだろう。世の中、やはりアイディア勝負だということが、よく分かる。できれば、既存の技術から、二段階ぐらいジャンプした空中で発想をしてほしい。もっとも、最後のCAESは、二段階ぐらい潜った水中の話だけれど。いずれにしても、日本のような海洋国にとっては、水中CAESは面白い開発ターゲットだと思う。
 未踏チャレンジの採択課題がまもなく決まり、発表される予定ではあるが、多くの課題が、39歳以下の研究者の発想にしては、現状にしばられすぎでは、という印象を拭うことができない、という感じなのだ。勿論、例外も無いとは言えないが、それは、かなり少ないと思う。もっと、普段行っている研究を進める以外に、自由な時間をもって、大学院生などと次のアイディアコンテストを行うような研究室を作って欲しいと思う。