-------

    ジャレド・ダイアモンド教授と「文明」  12.22.2019
        ブループラネット賞受賞者記念講演で

               



 12月12日金曜日13:00ちょっと前に、東京大学安田講堂へ。今年のブループラネット賞の講演を聴くためである。しかも、単に「聴いて楽しめばよい」状況とはちょっと違って、今回のブループラネット賞の受賞者がどのようなインパクトを聴衆に与えたか、これを考えることは、必要不可欠という状況にある。プループラネット賞は、現時点ではAGCという名称となった元旭硝子が作った公益財団法人旭硝子財団が、ブループラネット賞の運営者だが、そのWebサイトに、ちょっとした監修者のことばというものを毎年書いているからである。
 今年の受賞者の一人は、「銃・病原菌・鉄」、「文明崩壊」、「昨日までの世界」という日本でも非常によく読まれている三部作の作者であるジャレド・ダイアモンド教授
 そして、もう一人が、エリック・ランバン教授(ルーヴァン・カトリック大学(ベルギー)教授、スタンフォード大学教授・学部長)。地球レベルでの土地利用の変化が、生態系にどのように影響するか。また、悪影響を防止するために、社会経済システムとして何を考えて対処すべきか。例えば、森林認証やグリーン購入は、どのような理由でさらなる推進が必要なのだろうか、などを衛星を使ったリモートセンシングによって土地利用を明らかにし、そして、最終的には、人々の行動と土地利用の統治管理の促進をどのように進めるべきかを議論し、社会に大きな影響を与えたエリック・ランバン教授である。しかし、このところ日本語の本しか読まなくなっていることもあって、ランバン教授の功績については、ほとんど、初耳であった。

 今回の記事は、受賞者の一人、ジャレド・ダイアモンド氏とその講演について取り上げてみたい。


C先生:今年のブループラネット賞が、ジャレド・ダイアモンド教授に決まったことを聴いたとき、はっきりいって驚いた。現時点ては、特に不思議でもないのだけれど、実は、「銃・病原菌・鉄」しか読んだことがなかったもので、「ブループラネット賞とは、環境関係の賞だったのではないか」、と思ってしまったからだ。確かに、環境関係と言えなくもない記述はあるけれど、「銃・病原菌・鉄」は、個人的な分類では歴史本であって、環境本ではない。なぜなら、「環境」という言葉が出てくる回数は、極めて少ないと言えるから。この表現は、やや限定的に過ぎるとも思うけれど、環境問題の発生やその解決に関する著書ではない、と思っていたからだろう。

A君:とにかく、ダイヤモンド氏は、現代の超人の一人だと言えるのでは。安田講堂での講演の内容は、ほぼ、ニューギニアに限られていて、彼の著書や世界各国の歴史の話はほとんど出てこなかったですね。

B君:ダイアモンド氏は、ニューギニアという世界でもかなり開発が遅れた地域を対象に研究をしていたという感じの講演で、世界全体に視点があったという話はほとんど無かったですね。しかし、本当の状況は、多分、全く違うのでは。地球上の全地域を隈なく歩いているとしか思えない

A君:家庭の状況が自分を作ったと説明している人のようですね。父親は医師であって、科学者でもあった。母親はプロのピアニストで、ピアノ教師をしていたけれど、外国語を話すことができ、かつ言語学者でもあった。

B君:表現は不適当だけれど、なんでもできる多芸な両親に育てられた。やはり、ちょっと普通の家庭とは違うということが明らかだ。家庭環境が、このような人を作った最大の理由かな。

A君:ご本人は、UCLA(カルフォルニア大学ロスアンゼルス校)の医学部心理学教授を経て、現在は、同校で地理学教授。この変身にしても、普通の人ではとてもできない。

B君:学歴としては、ハーバード大学に進学し、生理学を学び、大学院はケンブリッジ大学でさらに専門を追求した。自分で本来の専門分野と称していることは、バイオケミストリ。しかし、3つの外国語、20世紀の歴史、オーラル・ポエトリー(口誦詩)などをマスターしたとのこと。作曲やオルガン演奏も学び、パイプオルガンに関しては、1日8時間も練習していた時期もあった。

A君:要するに、ケンブリッジという大学は、そんなことができる環境だったということ。でも普通の人間が幸運にしてケンブリッジに入ったら、毎日の宿題をやるだけでもとても24時間では終わらない、という話が一般的だと思うけれど。宿題というけれど、その実体は、「この本を読んでくるように。その内容について議論をするから」、という感じのもの。ジャレド氏は、恐らく、宿題などは、ほとんどやらなくても、授業で教授から議論を吹きかけられても、きちんと答えていたのでは。そうでないと、パイプオルガンを8時間も練習することなどはできない。

B君:卒業後、UCLAに戻って、心理学の研究をやることになったらしいけれど、実は、本来の専門分野は生理学。特に、「胆嚢の機能」だったとのこと。しかし、もともと、鳥類に非常に関心を持っていたこともあって、世界での希少鳥類の地といえば、それはニューギニア。そこで、メディカルスクールの学長に、1年のうち3ヶ月は、ニューギニアで鳥類の研究をしたい、と申し出たところ、なんと許可がおりた。自分を変えることができる人だけが、偉人になれる。

A君:いやいや驚きですね。米国・英国の大学の柔軟性がすごいの一言。日本の大学で、そんなことが許可される訳がない。したがって、日本国内では、こんな経歴の人間が出来上がることはあり得ない

B君:ジャレド氏は、こんなことを言っている。「今、世界が抱える問題は、一つの専門領域では解決できないことが多い。より多くの知識を組み合わせて歴史を見ることによって、はじめて、なにが「原則」であるかを知ることができる。ただし、それだけで物事を決められるとおもってはいけない。この原則がベースとなって、状況や条件の違いを考えることで、何か、解が出てくる。

A君:それは事実だと思う。

B君:しかし、日本の大学教育では、そんな人間ができ上る訳もないね。専門教育以外の知識を得ることなどは、無駄なことだという教育なので。現時点での日本の大学院教育の主たる手段は、いかに一流と言われる雑誌に掲載できる論文を何報書くか、という競争に参画させること。

A君:いくらぼやいても仕方ないけれど、現時点で日本と海外の大学との違いは余りにも大きい。大学で何かを専攻していたというと、その分野の知識は無いと恥ずかしいとは思うけれど、「自分はスペシャリストだから、他の分野のことは知りません」、という言い訳が通用してしまうのが、日本の大学なのだ。一般教養というものが全く無視されていると思う。一方、欧米の一流大学では、何でも知っている人が教養のある人。

B君:まあ、その通り。細かいことは分からないけれど、そもそも、ジャレド氏に研究費を出していたのは誰なのだろう。場合によると家族なのではないか。豊かな家族がジャレド氏を作ったという結論だったら、どうしよう。

A君:いやいや、生理学をしっかり教えながら、それ以外のことも、十分に成果を出すことができたから、研究費も十分に取れた、と考えるべきなのだろうと思いますね。

B君:やや昔の話になるけど、米国の研究費は、例えば、NSF(National Sciece Fundation)の場合でも、出資を決める担当者がいて、その担当者がある程度個人的な裁量権をもっていて、「これは面白い」とその担当者個人が思えば、ある程度の研究費を出すことができたはず。今がどうかは知らないが。

A君:日本のように、多人数が合意しないと研究費を出せないという仕組みでは、常識的な申請をしないとまず研究費は取れない。この差は、日本の大学の弱点として、影響が非常に大きいかもしれません。

B君:日本という社会は、やはり、専門家が尊重される。さらに言えば、専門家だけが尊重される。何か複雑な問題が出てきたら、複数の専門家を集めれば、なんらかの解決策が出てくると思っているのでは。しかし、多分だけれど、そんなものではないレベルの重大な問題というものがあるのが現実で、そうなると、ダイアモンド氏のように、表現のしようがないほどの知識の多様性をもった人だけが、問題の答えを見つけることができる、という理解ではどうだ。

A君:なんか、超人がいないと本当の答えが出ない、という結論を導きたいみたい。

B君:いやそんな積りはない。言いたいことは、「現実の問題の解決は、できるだけ多様な知識を持った個人がやはり多様な知識をもった個人と対話することによって、初めてその端緒が見えてくる」。「そんなものだ」、という気がしないか。

C先生:まあ、面白い議論が進んでいるが、今回のダイアモンド氏の講演の内容に戻ろう。講演は、確かに、ほぼ、ニューギニアだけの話だけで終わった。そこで、逆に、非常に大きな疑問が沸いたのだ。少なくとも、「銃・病原菌・鉄」を読むと、その記述の範囲が、地理的にもほぼ地球全体、時代としても、ほぼすべての時代をカバーしている。こんな「無限大の視点」をどうして持てたのか、その謎解きをやらなければならないのではないだろうか。

A君:いくつか、ヒントとなりそうな情報を集めてみたいと思います。まずは、You Tubeを探してみました。「ダイヤモンド博士の『ヒトの秘密』」というビデオがありますね。第1回から第12回まで。なんと製作者がNHKなので、音声は日本語になっているので、「是非とも」レベルのお奨め。

B君:これは、ダイアモンド博士が、ロスアンゼルスで若者向けに行った講演のビデオ。それぞれの回で、話題が大幅に変わる。タイトルを見ていただきたい。こんな感じ。
第1回 チンパンジーからヒトへ 1.6%のドラマ
第2回 動物のコトバ、ヒトの言語
第3回 芸術(アート)のジョーシキを疑え
第4回 性と出会いのメカニズム
第5回 夫婦の起源 性の不思議
第6回 不思議いっぱい ヒトの寿命
第7回 農業は人類に何をもたらしたのか
第8回 “進化”から見た文明格差
第9回 地球外生命体(エイリアン)も進化する?
第10回 集団虐殺はなくせるのか
第11回 文明崩壊 人類史から学ぶもの
第12回 “格差”をのりこえて

A君:驚くことには、相手の若者の数の少なさ。15人もいないのでは。すごくモッタイナイというか贅沢な授業だ。しかも、途中で、1人の生徒と対話をしたりしていて。

C先生:まさにその通り。ダイアモンド博士はどうも、人類の文明は、2055年に終わると考えているかもしれない気がするのだが。
 それはそれとして、せめて、最後の2回分ぐらいを議論してみるか。

B君:「環境」という観点に近いのは、確かに、第11回で、自然破壊を取り上げていること。
 種の絶滅の例として取り上げられているものが、一匹の猫。ニュージーランドのスチーブンス島の猫の話。この島には、ネズミは居なかったのだけれど、敵がいなかったので、鳥は飛べなかった。そのため、その1匹の猫が、スチーブンス島のイワサザイを全部捕獲。そして、イワサザイは絶滅した。
 もう一つに多様な話が、アメリカ大陸間大交差。南アメリカでは、他の大陸とは違った大型の動物が生息していた。なぜなら、南アメリカと北アメリカは、太古には離れていたから。ところが、南北のアメリカ大陸は地殻変動によって繋がった。そのため、北アメリカから生物が南アメリカに移動、そして、南アメリカの生物を殺し、生態系を破壊した。

A君:北アメリカでも絶滅があった。北アメリカにも大型生物がいたのだけれど、ヒトによって絶滅。

B君:もっとも一般的な人類が生態系を破壊し、文明も崩壊させた歴史。その例としては、太平洋のイースター島が有名。世界で一番背の高いヤシの木があった。モアイ像を作るために、島の木材をすべて使った。そして、島の鳥を食べつくしてしまった。そして、食料獲得のために、他の部族と戦うことになってしまった。

A君:もう一つの例がメサヴェルデ(米国コロラド州のの世界遺産)のアナサジ族。雨水を上手に集めて、水を制御したが、ポンプが無かったので、水を汲み上げることができなかった。そのため、自分達の文明を滅ぼしてしまった。

C先生:次が、地球温暖化の話題になるね。異常気象。温暖化がもたらす地球への影響。海水の酸性化。

A君:ダイアモンド博士の視点だけれど、その一番目が「魚の乱獲」。漁獲量の規制が国際的にできていない。世界の漁場は荒らされている。また、「森林伐採」は大問題。特に、アマゾンの森林が深刻。そして、「水資源」の問題。すでに、川の水は限界に来ている。海水から淡水を作るエネルギーは化石燃料ではもはや無理。一匹の猫は確かに300〜600羽の鳥を殺す。そして、ヒトと言えば、自分達の無知から環境を破壊している。必死に生きるために、環境を破壊してしまうのが実態なのだ。

B君:それなら、持続可能な社会を実現するには、どうしたら良いか。ジャレド博士の解答は、自然エネルギー政治的な決断(≒炭素税)、人口が多い地域では、リサイクルなど。崩壊に至る馬が勝ったら不幸。だから、政治を変える必要がある。非持続可能な地球になる可能性は51%だと思って生きて欲しい。

A君:ここまで検討してみると、旭硝子財団がダイアモンド博士に環境賞であるブループラネット賞の授賞を決定したのも、当然とも言える、これが結論ですね。なぜなら、財団は毎年、終末時計というこのを紹介している。これは、各地域の人々の終末感覚を12時までの残り時間で示すもので、世界全体では9時46分で、日本では9時39分。西欧は10時06分、アフリカは8時59分。オセアニアが10時31分でもっとも終末観が強い。ニューギニアでのデータは不明だけれど。

B君:1992年からデータがあるけれど、そのときの日本では、7時38分だった。

A君:この1992年に西欧はすでに8時54分、オセアニアは9時58分だった。
 ただ、この数値に国民の平均値だという解釈は間違いだと思われます。それは、極々限られた人達の投票結果で、とても、その国を代表できるとは思えないので。まあ、その国での先進的な人々の感覚だというのが、妥当な解釈だと思います。

B君:ということで、話を戻して、このビデオを見ると、ダイアモンド博士の直近の問題意識は、「格差という問題を乗り越えられるか」のようだ。

A君:格差の問題は実際のところ本当に深刻。これまで、ダイアモンド博士は、人類がここ500万年に渡る歴史を考えてきたようで、その一つの答えが、格差とそれが引き起こす問題をどう解決するか。実は、米国が世界でもっとも不平等な国。そして、その次は、ポルトガル、イギリスの順らしい。しかも、米国の格差は拡大している。貧しい両親から生まれると、その子供も貧困になる。

B君:ポルトガルが不平等な国の2位である理由は、どうも、少ない富裕層がほぼすべてのビジネスを支配していて、多くの貧困層は、その富裕層の企業のために働かざるを得ないかららしい。

C先生:実は、環境も格差を拡大している。例えば、水の問題。海の無い内陸国は40%が貧困になる。理由は、水の輸送が高価なため。次に、天然資源の輸出で豊かになる国は、貧しくなる。資源が永遠に続くと思いがちだからが最初の理由で、次が、資源で得た利益の配分が原因で内戦が起きるから。

A君:熱帯地域は農業の生産性が問題。これは植民地の問題とも言える。インドにしても植民地化してから、貧しくなった。労働力や資源を搾取する組織の存在が原因。しかも、その組織は長期間に渡って存続してしまう。

B君:ダイアモンド博士は、以前は、ある国が貧しいことは、その国の責任だと思っていたが、このところ、貧しい国の未来を思うようになったと言う。その理由は、テロリズム、移民の増加。さらに、新興感染症も問題。一方、米国では、かなり多くのノーベル賞受賞者が元移民。

A君:どうすれば不平等・経済格差を縮小できるか。まずは、上手に、資金援助を行う。例えば、医療援助をする。マラリアとエイズを根絶するのに、世界で260億ドルしかかからない。

B君:そして、まずは投票をすることが奨められている。これは、日本にも言える話。しかし、ABC3名の共通理解では、小選挙区制を止めない限り、政治は良くならないと思っている。

A君:博士の信念は、「世界の富はできるだけ平等であることが望ましい」。いずれにしても、米国人の生活スタイルは見直す必要がある。米国人のガソリン消費などは無駄。米国は、世界の5%の人口だが、化石燃料の25%を消費している。

B君:さらに本質的な問題は、格差の存在をあきらめていること。チンパンジーに不公平な餌の配分をすると、なんと、優遇されたチンパンジーはそれを拒否するらしい。公平さの感覚があるから。ところが、人間には、公平さが重要という理念が無い

A君:そして、ダイアモンド博士の最終結論は、やはり、悲観的ではない。その理由は、次の3点。
1.「人間が生み出した問題は、人間が解決できる」。
2.「国際協定がいくつも調印されている」。
3.「パリ協定も希望のタネである」。

C先生:そして、これがダイアモンド博士による最終的なまとめ。
 ヒトはチンパンジーから独立したときには、単なる動物であったが、その後、人類は莫大な進化をした。進化できたのは、動物から受け継いだ才能のお蔭。しかし、動物と人間のもっとも大きな違いは、人間は何が正しいかを考え、それをモラルによって判断し、そして実行できることだ。
 ここからは個人的感想だが、やはりダイアモンド博士は、超知識人&大偉人だ。米国、英国での教育によって、その極致へ到達できた。そこで、問題となることは、日本で育つと、このようなタイプの偉人にはなれないのではないか、ということ。なにか、学術・教育における根本的な発想が違うからだと言えるような気がする。敢えて言えば、やはり、日本という国では、業績の評価のやり方が間違っているのではないか。特に、すべて大学人が同じ評価基準で競争するということがその誤謬の本質であると思う。まずは、すべての人について、いかなる個人も、他の人と同じではない、ということを前提とした評価をしなければならないのではないか。そうしないと、日本の大学からの成果の質は、評価基準が文部省的なままだと、今後、悪化する一方になるのではないかと思う。