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     まずは『エネルギー』の理解から  10.14.2018
        パリ協定の元での経済成長を実現する条件




 8月3日にスタートした内閣府における「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」において、どのような提案をすべきなのか。これが、最近での、もっとも重大な個人的課題となっています。そのために、様々な方々と議論をする機会を増やそうとしています。というのも、この問題を解決しようとすると、All Japanで取り組まないことには、解決策が出てくる訳もないのです。そこで、日本という国の特性から、日本の産業界の状況、さらには、人材供給源である大学の状況をはじめとして、日本人特有のリスク感覚、エネルギーというものの理解不足などなど、あらゆる状況について、様々な方々とざっくばらんな議論のチャンスを増やしている状況です。
 まだまだ、これだというような決定的な案は出ないのですが、少なくとも、議論の中核を形成するであろうコンセプトは浮かんで来ます。
 とにかく、この日本という社会に共通する弱点をほぼすべてゼロレベルから解析し、その全面的な改善を行うことが不可欠だと思います。
 本日は、個別論ではなく、総論的なことを述べてみたいと思います。それは、『エネルギーというものと、そのリスクを正しく理解する』


C先生:現時点における個人的には最大の問題なので、どのような提案を日本社会の活力アップに向けて行うべきなのか、それをかなり真剣に考えているのが現状。そして、今現在ではまだまだこれが解だというものに出会うことができないので、悩ましいのだ。ただ、これまで、様々な国を見て歩いてきたことも、蓄積の一つになっているし、さらに、材料屋というジャンルからはじめた研究者としても知見も多少はあって、これも視野を広げる上では、非常に有用だと思っている。さらには、ICEF(Innovation for Cool Earth Forum)のステアリング・コミッティーという役割も、かなり貴重な体験であると思う。
 しかし、個人だけで何かを考えていても、閉鎖空間でもがいているようなものなので、最近は、様々な方々と話をすることによって、できるだけ、広い世界観を構築しようとしている。この目的をすべて果たせたという状況になることは無いことは確実なのだけど。

A君:ということで、今日は、パリ協定を経済成長につなげるには、どのような対応が必要不可欠なのか、恐らく、社会の構成要素ごとに議論をすることになるのでしょうか。

B君:まあ、最終的に必須なのは、政府、国会、などの決断企業の「過去」思考からの離脱。大学などの研究機関の全く新しい発想に基づく取り組み。さらには、あらゆる組織間での情報交換。そして、最終的に必要不可欠なのが、市民社会に提供する「パリ協定を実現した際の新しい社会像」だけれど、これが、現時点の社会とどう違うのかという未来予測とその説明。この最後の項目については、日本人という集団のもつ、世界とは全く違った特性の解析と、それに基づいて要請される自己変革などまで含むのではないか。

A君:日本人が世界の平均的な民族ではないこと、特に、リスク対応では全く違った民族であることなども、しっかり認識して貰わないと。

B君:リスクの受容ができない民族である話は、日本人の未来にとって、ある意味で最大の問題ではある。

A君:リスクの話の基本は確率論なので日本人の弱点とは、数学ができないことなのかもしれないですね。

B君:多分違う。ゼロリスクというものがあると考えていて、非常に小さいリスクでも、受容しないというマインドのためだと思う。

A君:リスクがゼロになること無いということは、ちょっと考えれば分かるはず。階段を降りているときにだって、ある確率で階段を踏み外す。したがって、階段を上下する方が、平坦なところを歩くよりはリスクは高い。しかし、平な道を歩いていても、思いよらないところから、何かが落ちて来る確率がゼロではない。勿論、怪我をするには、それに当たる確率を考えなければならない。当たらない場合でも、避けようとして他のものに与えれば、怪我をすることもないとは言えない。

B君:その手の話をいくらしても、日本人の行動変容には繋がらない。むしろ、西日本豪雨のときに、愛媛県の肱川が氾濫したが、それも、野村ダムと鹿野川ダムが緊急放流したことで、西予市野村地区で650戸が浸水し、5名の死者がでて、大洲市では2800戸が浸水し3名が死亡した。これを、エネルギーという概念をベースにおいて理解しなおすようなことが必要なのではないか。

A君:野村ダムと鹿野川ダムですが。野村ダムが肱川の上流にあり、鹿野川ダムが下流にあるダムです。エネルギーと言えば、確かに、鹿野川ダムには肱川発電所があります。

B君:肱川のもっとも上流には関地池という溜池がある。そして、上宇和付近は盆地になっていて、住宅もあるけれど、かなりの農地になっている。宇和海の海はすぐそこなのだけれど、上宇和付近に降った雨は、すぐ隣にある宇和島湾、法花津湾などに流れることはないようだ。

A君:宇和島海側との間の分水嶺にも道があるようでないですね。予讃線の伊予石城という駅の付近の水は、すぐ隣に宇和島海があるのに、そちらに流れないで、肱川に流れて大洲を通って、瀬戸内海に流れ込むのですね。

B君:四国は、ときに渇水状態になるので、農業をやるためには水源が必要ということで作られたダムだ。ところが、肱川上流の集水域が非常に面積が広いもので、豪雨が降れば、流量が急に増えて危ない。

A君:農業のためというベネフィットを追求しすぎて、水を貯めすぎると、これは、ある意味、大量のエネルギーを貯め込むことと同義なので、エネルギーが洪水という形に変身するリスクが増大する。まさに、トレードオフのあるダムの典型かもしれません。

C先生:この地域も、一応自分でレンタカーをドライブしているけれど、こんな複雑な地形だということを、今回初めて知った。このときの旅の最大の目的は、佐田岬半島の先端に行くこと。さらに、四国電力の伊方原発の周辺の状況を見ること。さらに、八幡浜で柑橘類買うことだった。そして、ついでに、木造天守である宇和島城を見物し、有名な遊子の段々畑を見物することだった。これは個人的お薦めコースの一つ。国道25号線で行ったので、伊予石城を通過している。そのときは、こんな地形だとは全く分からなかった。まさか、ここに降った雨が大洲市を通って、瀬戸内海に流れているとは思わなかった。

B君:肱川発電所があるので、できるならば、雨水をできるだけ多く貯めておきたい。農業用水が主たる目的だとしたら、水が無くなったら、地元がもっと困る。しかし、集中豪雨のために、もし放流することになったら、それはそれで、人命に関わる。日本の状況を象徴するような川だ。肱川は。

C先生:実際、日本の国土は、リスクだらけ。台風や集中豪雨だけではない。北海道の地震の次のリスクは、南海トラフなのか、それ以外にもいくらでも候補がある。このような国土で、完全なリスクゼロを目指しても、実現は不可能。むしろ、リスクゼロは無理だということを覚悟を決めた上で、すなわち、ある程度のリスクは受容した上で、リスクミニマムを目指す。そのために必要な対応は、できるだけ前向きで、かつ、科学的な対応を考えておくこと。こんな方針でないと、経済成長も実現できない。

A君:まず、水を溜め込めば、結果的にエネルギーを貯め込むことになり、「エネルギーを貯めればリスクがある」という一般則を覚悟しなければならないのです。この理解をしてもらうことが最初ではないですか。先日の北海道の地震で厚真の石炭発電所が止まって大停電が置きました。これも、リスクを余り考えていない発電所構成になっていたから。

B君:新たしい話題に切り替わったな。そのあたりの情報は、2017年実績ではあるけれど、
http://www.hepco.co.jp/corporate/company/ele_power.html
ここにデータがある。図1に示す。


図1:北海道電力の発電設備の構成比

A君:これを見ると、比較的バランスが取れているように見えるのですけれど、実際には、27%を受け持つはずの泊原発が動いていない。さらに、石炭が29%ともっとも多いのは良いとして、その詳細を見ると、次の表のようになっていて、今回、地震で一時停止してしまった苫東厚真の発電所が圧倒的に大きい

表1:北海道電力の発電所の能力 引用元は図1と同じ

表2:北海道電力の火力発電の内訳

B君:もしも泊原発が動いていたら、どうなったのか。その詳細は分からないけれど、多分、状況は今回ほど悪くはなかったはず。泊原発の付近だと、震度は3ぐらいだったと思うので。

A君:水力も若干はあるのですが、厚真から比較的近いところが多いのですね。この付近震度4ぐらいの揺れだったと推定されますが。

B君:今回の地震の断層の動きの詳細は、すでに産総研によって報告されている


図2 今回の地震の原因となった断層 ほとんど垂直の断層

A君:これまで活断層だったと認識されていなかったもののようです。かなり急な断層(77度とほぼ垂直)が1.2mほど滑ったようだけれど、上端の深さが15kmという深いものだったために、余りよく分かっていないものだったのではないですか。

B君:こんなことも分かるのだ、というデータも筑波大の研究があって、破壊は北から南に伝播。破壊継続時間は13秒だった

A君:歴史的な記録も気象庁が出していますが、2017年7月1日にM5.1の地震が少し西側では起きていた。しかし、今回動いた活断層からちょっと離れたところだった。

B君:海底地震になると、1982年の浦河沖地震などを含めて、かなり地震多発地域のようだ。

A君:やはり産総研のデータですが、日本列島はユーラシアプレート、北米プレート、太平洋プレート、フィリッピンプレートからなる複雑な地形。そのために、陸地を形成している鉱物も様々ですが、次の図によると、空知−エゾ帯という構造岩類、神居古潭帯ものが複雑に入り組んでいるようで、大型の石炭火力を作るべき場所だったのかどうか。

図3 産総研による地質データ
https://www.gsj.jp/geology/geology-japan/geology-japan/index.html

B君:やはり、ちょっと発電能力をこの一点に集中させすぎたのかもしれない

C先生:日本という国土は、本当にリスクだらけ。しかも、かなり使いにくい地形が多いところだ。これを有利に活用するという方向性はかなり難しい地形だとも言える。最近の再生可能エネルギーを主力とする将来のエネルギー供給を考えようとしても、本当に難しい地形だと思う。昨日、そして、本日も、九州では、太陽電池のエネルギーの購入を止めるということを行うようだけれど、結局のところ、電力をなんらかの方法、例えば、他のエネルギー形態に変換することなどを含めて、蓄積する以外に、最終的な解決方法は無い国のように思えるのだ。となると、そのコストが莫大になるので、最大限の省エネが勿論不可欠。もっとも、このところ、省エネのための技術的なネタが、LED以来出てきていないのも問題だし、エアコンなどの効率を高めてきた技術も頭打ち。しかも、現行の冷媒であるR32は、モントリオール議定書の基づくキガリ改正によって、2029年のハードルを越すことができない可能性もある。勿論、100%回収すれば良いのだけれど。

A君:そんなことを理解して貰いたいと切に希望するのですが、社会の一般的な理解はかなりレベルが低くて、電力に関する最大の束縛条件である「同時同量」を理解している人が何%いるのか。これが、ほぼ常時、実現できているのですが、それがかなり不思議なことなのだ、という理解が欲しいところですね。

B君:もう一つの重要なポイントが、すでに述べた今回の肱川で起きたことだけれど、大きなエネルギーはとにかく危険だということ。ダムに溜まっていた水を大量に放出するということは、水として溜まっていたエネルギーを一気に放出するということであり、それが悪さをすることなのだという理解が不可欠。

A君:エネルギーの実態は何か。その形態は実のところ様々で、運動エネルギー、ポテンシャル(位置)エネルギー、弾性エネルギー、電気エネルギー、熱エネルギー、電磁波エネルギー、化学エネルギー、原子核エネルギーなどの種類があって、それがお互いに変換できる場合も多いという奇妙なものなのですね。

B君:この奇妙さ故に、活用できるように工夫をすれば、非常に便利に使える。例えば、エネルギーを保存しようとすれば、電気を貯めておくのは、電池や揚水発電などが必要になるけれど、水素という物質に変換して貯めておくことも可能。

A君:こんな奇妙なエネルギーの性質を、何も知らないで使っているのが、現代社会の実像。これを理解して貰いたい。

B君:どうやって理解して貰うのか。一番簡単な方法は、ときどき停電させること(!?!)なのだけれど、日本社会は、利便性を提供・維持することが最大の経済原理なので、電力会社にとって、停電はタブー。

A君:電気事業法なるものの精神が、まず、停電させないことを前提としているように思いますね。

B君:それが再生可能(自然)エネルギーが主体になってくると、そんなことは言っていられない。なんといっても相手は自然なので、人間の都合で動いてくれるものではない。

A君:それをなんとか人間の都合に合わせて使えるようにしたのが、電力系統というもので、電力会社は大変な苦労をしているとも言えます。

B君:まあ、電力だけではないのだ。そもそも食料というものは、自然界の他の生命体を食べているのだから、人類など、勝手なものだ。

A君:最近問題になっているプラスチックだって、結局のところ、海という人にとっては見えにくいところが、廃プラスチックの行き先になっているということで、まあ、人類は勝手であるという話の一つですね。

C先生:そろそろ結論に到達したようだ。まずは、日本に「同時同量」ということを広めることを、今後、あらゆるチャンスを使ってやってみたいと思う。多分高知工科大学での講義、大正大学での一般向けの講演、町田市での市民向けの講演などで、エネルギーの話を多少はするだろうから、「同時同量」を広める努力をしてみよう。なぜ、同時同量なのか、と言えば、電気は貯めるのが難しく、もし貯めれば、コストが高くなってしまうので、貯めないで使っている。もしも、十分な量の電池が有れば簡単に貯めることはできるが、電池のコストや、そのための制御装置などが、現状だとかなり高いのだ。しかも、それほど安価なものが出現するとも思えないのが現状。大規模にやれば良さそうなものだが、電池は、大規模化しても余り安価にはならない。新しい方法論を開発すれば良さそうなものだが、コストを考えると、候補も極めて限られているのが現状。
 しかも、日本では、揚水発電が最良とされていて、次の方法論はいきなり電池になる感触だけれど、ドイツでは、ジーメンスなる企業が、余剰電力を熱にして、人工の丘の中に貯め、必要に応じて、その熱で普通の蒸気タービンを回して電気に戻すということを提案している。最大でも25%ぐらいしか電気に戻らないのだけど、効率が悪くても、価格が安ければ良いという判断で、恐らく、本当に実用にするのではないだろうか。このジーメンスの例は、過去の価値観に囚われていては、イノベーションはできないということを提示する好例のように思えるのだ。まずは、エネルギーなどを正しく知ることから初めて、できるだけ囚われない発想法を身につけることが、今世紀を生き延びるための人類の知恵のような気がする。