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 約束草案の原案合意 
  05.02.2015
   国際情勢を配慮した案!




 4月28日に、資源エネルギー庁のエネルギー長期需給見通しの委員会によって、電力のベストミックスの原案が決まった。配布資料は、次のサイトでどうぞ。ダウンロードすべきものは、資料3が必須ではあるが、その背景などを理解するためには、資料4もお勧め。
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/008/

 4月30日に、経済産業省産業構造審議会と環境省中央環境審議会の合同専門家会議において、2030年における温室効果ガスの排出削減目標を含む約束草案(INDC)の原案(要綱という言葉になっている)にほぼ合意した。資料などは、次のサイトで入手可能である。ダウンロードすべきものは、資料4のみで十分。
https://www.env.go.jp/council/06earth/y0617-07.html 

 最終的な文言の追加と微修正が行われるものと思われるが、これで2030年までのエネルギー供給の枠組みが決まったと言える。



C先生:まず、最終的な約束草案の中身としてどのような項目を記述しなければならないか、を確認しておきたい。実例を読んでいただくのがもっとも手っ取り早いので、約束草案を受け付けるサイトにアクセスしていただくのがもっとも簡単。
http://www4.unfccc.int/submissions/indc/Submission%20Pages/submissions.aspx
 現時点で9ヶ国のINDCが掲載されていますが、最初に出されたスイスのものが比較的簡単ですから、それを見ていただきたい。
A君:決めるべきことは、
1.Base Year すなわち何年基準で削減量を決めたか
2.Time Frame すなわち、ゴールを何年に設定しているか
3.Scope and coverage  どの温室効果ガスを対象にしているか
4.Planning processes 文字通り
5.Assumptions and methodological approaches  例えば、排出権取引などを導入するかどうか
6.Consideration on fairness & ambition  削減計画の公平性と意欲的である記述
7.How the INDC contributes to achieving the ultimate objective of the Convention (Article 2):  気候変動枠組み条約の究極の目的にどう貢献できるか


B君:それに対して、今回の要綱を見て分かることは、
1.Base Year 2005年と2013年の両方
2.Time Frame 2030年度末 すなわち、2031年3月
3.Scope and Coverage すべての温室効果ガス
4.Planning Processes 後述
5.Assumptions and methodological approaches 二国間クレジットという枠組みを用いて、国家予算を使用することによって得るであろうクレジットは算入するが、民間ベースのものは算入しない。
6.Consideration on fairness & ambition まだ、記述されていない
7.How the INDC contributes to achieving the ultimate objective of the Convention (Article 2): まだ記述されていない。

A君:審議会の経過を追いたいので、まずはPlanning Processesから行きますが、要綱にもある程度の記述はあるのですが、本Webサイトで私的な記述を含めて作文をすればこうなるでしょう。
 まずは、エネルギーミックスを決めないと、二酸化炭素排出量の推計ができない。ということで、ベストミックスの議論を行う「長期エネルギー需給見通し小委員会」が始まったのが1月30日だった。
 かなり難しい議論ではあったのだけれど、実質的な議論は、4月10日に開催された第6回の小委員会でほぼ尽きた。4月22日に、省エネの追加の積み増しの議論があり、そして、4月28日の委員会は、個人的にはプサン大学での講義のスケジュールが前から入っていたので、出席できなかったが、多少の異論はあったとのことであるが、坂根座長がまあまあまとめ切ったような印象だ。


B君:ベストミックスを決定するプロセスに付いての我々の基本的なスタンスは、電力の場合であれ、他の日本全体の一次エネルギーの使用量の問題であれ、3E+Sという4条件を満足させる議論は、なんらかの統合的な概念を用いて議論をすることが必要で、その統合的な概念はリスクである、ということだった。

A君:残念ながら、これだけの専門家を集めたケースであっても、リスクを統合のための基本概念にするというやり方は、採用できないのが現状なんですよね。

B君:リスクという概念によって数値化するという方法論は、いかにも理系的考え方で、受け入れるまでに相当の準備が必要ということなのかもしれない。

A君:そして、ベストミックスの議論とほぼ並行した形で、約束草案を検討する中央環境審議会と産業構造審議会との合同による専門家会議が開催されました。

B君:この会議では、産業界は厳しい数値を出して貰ったら困るという主張だった。一方、環境省側は、それでは国際的な存在感を失った国になってしまう、という主張だった。ところが、最後の最後になって、パタパタと方向性が決まって、まあ妥当なレベルに落ち着いた。

A君:本Webサイトでは、4月5日の記事で、米国のINDCを取り上げて、その記述が自信満々だったもので、これは、日本としてもかなり努力をしないと、国際的な立場が苦しくなるという推測を行なっています。
http://www.yasuienv.net/USAINDC0331.htm

B君:本日の日経の記事によれば、どうやら、最後の最後になって、パタパタと方向性が決まったのは、首相官邸の意向だったという推測がでている。

C先生:我々がいくら議論しても、例えば、国際的なポジションを含めてリスクを最小化することが良い選択だ、といっても、最後は政治的な決断をしてくれなければ、どうしようもないのだ、と考えていたが、それが安部首相の訪米という良いきっかけが有ったお陰で、官邸主導の数値に落ち着いたのだろう。あたり前のプロセスがあたり前に行われたということになる。

A君:日経の記事では、首相の指示は、3つあったとのこと。時点は当然のことながら、2030年。
1.発電コスト:現状の98%以下にすること。
2.再生可能エネルギーが原発を上回るように:原発20〜22%、再生エネ22〜24%。
3.欧米と遜色のない水準に:2013年比で26%=欧米と同等


B君:3つの指示のうち、1.と2.がベストミックスの委員会の合意事項であり、3.が合同専門家会議の合意事項だということになる。

A君:ということで、分けて議論をしますか。

ベストミックスについて

A君:ということで決まったベストミックスの数値が、次の表の通りです。


表1 CO2削減目標積上げに用いた電力のベストミックス

B君:2030年度ということではあるが、省エネ対策量が5000万kL相当というのはかなり思い切った値ではある。ベストミックスの委員会の最大の功績と言える数値かもしれない。

A君:これには、産業界から、過大な省エネ対策量ではないか、という不満が表明されていますね。

B君:省エネにはお金が掛かるのは事実。しかし、この数値ですら、14年程度の期間、その機器が動作するのであれば、エネルギー購入に必要な費用の削減分によって、補填が可能という数値ではある。

A君:ということは、現時点のように、利率が非常に低いときに、余剰資金があれば、それを将来のコスト削減のために、省エネのために投資するということはありうるのですが、短期間での企業収益の増大を求める株主あたりにすれば、そんなのは無駄な投資だということになってしまう。

B君:それに対して、欧米などでは、ESG投資と呼ばれることが行われるのだ。日本は、製造業が中心という思い込みが未だに強いので、競争相手としての中国を考えると、そんな悠長なことはしていられない、という考え方が出てしまう。

A君:しかし、企業の社会的責任の一つの形態であるESGで判断する投資、これは日経新聞でもこのような投資を推奨しているのですよ。
http://www.nikkei.com/money/features/37.aspx?g=DGXZZO6852028019032014000000

B君:確かに正論だ。
 「ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字。その3要素で企業を分析、優れた経営をしている企業に投資をするのがESG投資だ」。
 「欧米の年金など長期資金を運用する機関投資家を中心に世界的潮流となっている。きっかけが2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」というルール」。
 「その後のリーマン・ショックを経て短期的な高利回りを追求する投資家の動きが金融危機を増幅させたという反省も普及を後押ししている」。


A君:日本の投資家の意識が世界からかなり遅れているという現象の一つがESG投資の遅れ

B君:こんな記述もある。
 「PRIづくりに参画したハーバード大学大学院のジェームズ・ギフォード上席研究員は言う。『投資家の目的である収益と社会の要請は関連が薄いように見えて、実は両立している』」。

A君:こんな例も出ています。
 「ニッセイアセットマネジメントでは約20人のアナリストが、通常の財務分析に加えESGの観点から4段階で対象企業(約500社)の持続的成長力を評価する。評価を始めた08年11月〜昨年3月まで、最上位「1」の企業のパフォーマンスは全体平均を15%強上回ったという。井口譲二株式運用部担当部長はESGを『将来の株価のパフォーマンスを読む上で優れた分析手法』と言う」。

A君:省エネ対策量が多いということですが、家庭レベルでも、同じことが言えますね。15年間ということは、家電製品のほとんどすべてが新しくなる。車もほぼ新しいものになる。しっかりと省エネ家電、高燃費の車を選択してほしい。

B君:もっとも進化しないと思われるのが、日本の場合だと既存ビルの断熱性能かもしれない。ビルの場合であれば、窓ガラスを二重化もしくは三重化したいところなのだ。しかし、これは、省エネによるエネルギー価格による見返りは比較的少ない。木造住宅の場合であれば、床下と屋根裏に断熱材を投入するだけでも結構、効果的なのだけれど。

A君:ということなので、各企業は、省エネにしっかり投資をして、ESGを重視している企業だという評価を得ることによって、株価を高めて欲しいですね。

B君:さて、次の数値。総発電量は、10、650億kWh。これで本当に足りるのか、という議論もあった。まだ15年あるので、電気自動車やプラグイン車が普及すると、足らないということもあるかもしれない。それによって、ガソリンの消費が下がる分、二酸化炭素排出量下がる方向ではあるが。

A君:15年先を考えると、車のエンジンのダウンサイジング化の手法は、10%ぐらいの燃費向上だけですから、もはや先進国では無効でしょう。クリーンディーゼルでも20%程度の燃費向上が限界では。となると、やはり、なんらかの電池を搭載した車になるのではないでしょうか。

B君:再生可能エネが22〜24%となっているが、その内訳は、太陽光が7%とまあまあ控えめの値になった。電気自動車などのバッテリーは、蓄電デバイスとして有効活用できれば、不安定な再生可能エネルギー、まあ、太陽光になるだろうけれど、その導入量を増加することも可能になるかもしれない。

A君:不安定な太陽光発電で、電力網の受け入れ可能量を超した分を、ネットからの指令によって、そこで捨てさせるという考え方が電力業界では普通のようなのだけれど、これは、反発を買うだけのような気もしますね。

B君:モッタイナイ思想。行き過ぎたモッタイナイ思想は確かに有害なのだけれど、電力が余ったら、それをタダで、誰かに提供するというのが最善の策。

A君:そうですよね。不安定でしかも間欠性の電力が有れば、若干の安定化を行なった上で、例えばですが、水の電解によって、水素を作る簡易な設備がそのときだけ動く、といったアイディアを作り出す人がいるはず。

B君:水素だとそのときだけ動くということでは、設備投資の回収が難しいだろう。何か、もっと良いことを考えないと。

A君:なんらかの廃棄物をリサイクルするために使うといった使い方の方が良いかもしれませんね。

B君:意外と思われるかもしれないが、鉛蓄電池がエネルギー貯蔵用として2030年頃にも生きているかも知れない。鉛蓄電池は、短い時間での放電量を稼ぐのに適したシステムなので、一時的に高温が必要なプロセスあたりを動かすのに適しているかもしれないのだ。

A君:原子力が再エネよりちょっと低めの22〜20%

B君:この数値は、微妙な数値で、原発の新設は考えないということだと、原発の40年寿命を仮定した運用を海外なみに60年寿命に伸ばすといったことが行われないと、実現できない。

A君:稼働率が現時点だと70%で計算されているようですが、米国の場合、安全性を極めて高くした原発に限ってですが、90%といった稼働率が認められています。再稼働する原発が米国の安全性のレベルに追いつけば、高い稼働率が可能になり、当然、稼働率が高ければ、電力コストは下がりますから、安倍首相のコスト削減とも一致した方向ではあるのですが。

B君:確かに20%が目標なら、より高い安全性を実現した原発の稼働率を上げることでも、まあまあ近い線まで行ける。

A君:しかし、原発の最大のリスクは、なんらかの不祥事が起きた時に、社会からの反発によって、長期離脱が起きてしまう可能性があることですね。

B君:まあ、危険性という意味でのリスクが大きな事件が発生した場合であれば、安全性確保のために、時間が掛かるのは仕方がないことなんだが、不祥事とリスクが明確に区別されない社会が日本なので、その問題はあるな。

C先生:そろそろ終わりにしたいので、残っている項目について、若干ずつ述べてみよう。

A君:それでは、INDCの必須事項の1.Base Year すなわち何年基準で削減量を決めたかと、2.Time Frame すなわち、ゴールを何年に設定しているか。

B君:その答えは、すでに記述した通りで、Base Yearが2005年と2013年の二種類ある。

A君:2005年は、米国が使用している基準年。一方、EUは相変わらず1990年を使っています。EUが1990年固執する理由は、そのころ、例えば東西ドイツの併合などがあって、エネルギー効率が非常に悪く、また、石炭を大量に使っていて、CO2排出量が多いから。日本は、1973年の第一次石油ショック以来、エネルギー効率をかなり高める努力をしていたのですが、1985年以降のバブルによって、車は肥大化したりして、1990年はかなりエネルギー多消費国だったので、1990年を基準年にするのは避けたい。

B君:そして、2013年を基準年にしたいのは、この年の原発による発電量はゼロではないけれど、ほとんどゼロ。ということで、史上最高の温室効果ガスを出した年だったから。この年を基準年にすると、削減率が大きく見えるということが理由なので、余り上品ではない

A君:韓国のように、今世紀になってから経済成長をした国では、当然のことながら、直近の年を基準年にするのが有利なので、この手法を日本が使ってしまうと、途上国にとって有利な状況を作ってしまうという意味でも、余り褒められたことではないのですが。

C先生:2011年の東日本大震災があったことを理由にするのは、すでに時効になってしまったかもしれないけれど、他国、特に、韓国・マレーシア・産油国などを牽制するために、大震災以前とそれ以後の2つの基準年を作ることが日本にとってのみは妥当だと考えるという表現にすべきだと思うのだ。

B君:2.のゴールの年は、米国が2025年という変わった年を選択しているけれど、他の国は、すべて2030年。ただし、日本は、温室効果ガスの排出量のデータが年度で出てくるので、2030年3月31日がゴール。これは、2008年から2012年までの第一約束期間でも同じ状況だった。

A君:後は、5.Assumptions and methodological approaches これは、排出権取引などをどうするか、を書く項目です。
 「日本独特の枠組みである二国間クレジット=JCMという枠組みを用いて、国家予算を使用することによって得るであろうクレジットは算入するが、民間ベースのものは算入しない」。
 という記述になっていますが、これには、なかなか省庁間での政治的な取引があったようです。環境省はJCMで日本としてのクレジットの獲得を書きたかったようですが、それが書けることになったのかもしれないですね。財務省の意向が入っていると思うのですが、こんな記述になっています。
 「毎年度の予算の範囲内で行う日本政府の事業により2030年℃までの累積で5000万トンから1億トン−CO2の国際的な排出削減・吸収量が見込まれる。また、国際貢献として、JCMに加えて、政府関係機関及び産業界の取組みによる排出削減ポテンシャルが見込まれる」。

C先生:そろそろ終わりにしよう。いずれにしても、現時点の日本の状況を考えると、意欲的な削減案だと言えるだろう。それもこれも、安倍首相による政治的な決断によるものなので、もっと重要なことは、今後、この目標達成に向けて、十分なイノベーションを起こすことができるような規制緩和を行うこと。しかし、2030年が最終着地点ではない。2050年に80%削減を実現するのは、実は、容易なことではない。それこそ、あらゆる可能性を追求しなければならないだろう。その過程で、あらゆる既得権を破壊しなければならないかもしれない。さらに、2070年には、さらなる脱CO2化が必要になっていることだろう。非常に大きなチャレンジが、今後、50年間も続くことになることが確実である。

 最後に、参考のために、いくつかのテーブルと図をまとめて掲載してまとめとしたい。