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  環境・エネルギー日米共同研究   03.29.2009
     



 読売新聞の3月29日(日)一面トップで紹介されているが、環境・エネルギーの最先端8分野で日米共同研究を進める包括的提携関係が締結されることが分かった。

 具体的には日本の産総研と米国エネルギー省関係のロスアラモス研究所など5つの国立研究所が実施主体となる。

 この日米共同研究をどうみるか、について若干の議論をしてみたい。


C先生:これまでも一部では噂になっていたが、いよいよ日米共同研究の具体的な姿が見えてきた。

A君:オバマ大統領のグリーン・ニューディールの核は、太陽光発電と次世代自動車ですが、その技術は、どうも日本の方が若干進んでいる。日本からの技術協力を取り付けて、そして米国の産業、特に、つぶれそうなビッグ3の復活につなげるという仕組みを考えているのではないか、ということだった。

B君:日本の方が格段にとは言えないまでも、二歩ぐらい進んでいるのがこれらの領域ではないか、と考えられてきた。

C先生:主として省エネ分野がその通りで、日本が二歩ぐらいリードしているが、それも米国の電気料金の低さ、というよりも、日本の電力料金の高さのためだとも言えた。
 加えて1970年代の第一次石油ショック以来、真剣に考えてきた石油が買えなくなったらどうしよう、というメンタリティーがリードした日本の太陽電池などの技術は、普及戦略がかなり進展したこともあって、高いレベルに保たれていた。




図1 家庭用の電力価格国際比較

A君:それが、ドイツやスペインに見られるようなFIT(Feed-in Tariff=固定価格での買い上げ制度)で、普及量では一気に抜かれた。

B君:通常のシリコン系の太陽電池には余り先端的な技術が無い。だから、中国のSuntechが世界第三位の太陽電池の企業になっている。一位はドイツのQ−Cells。長くトップを維持してきたシャープは二位に陥落した。

C先生:省エネで自慢ができるところが何か、と言えば、まずはハイブリッド車。やっと欧米メーカーの市販車が普及を始める。フォードはすでに売り出していたが、どうもトヨタの技術らしい。

A君:続いて、ヒートポンプ技術。エアコンの効率を示す指標であるCOPという値は、日本の家庭用エアコンの中型機だと、なんと6を超している。その意味は、例えば暖房で言えば、電気ヒーターでの消費電力の1/6の消費電力で同じ暖かさを実現できる。

B君:日本でかなり売れたと思われるデロンギのオイルヒーターは、消費電力が1200W。東京でならエアコン暖房にすれば200Wで同じ効果が得られる。外気温度が0℃を切るような地域は除くが、オイルヒーターは、すぐにでもエアコンに置き換えてほしい。

C先生:デロンギでもエアコンでも同じだが、電気による暖房では湿度が下がることが問題だ。消費電力を極限まで下げた良い加湿器の開発をしてほしい。アレルギーやウイルス対策としても、除菌イオン(プラズマクラスターイオン)よりも、加湿器の方が遥かに効果的だと思う。

A君:なかなか本題に行けませんね。日米共同研究が行われる予定の最先端8分野とは、次のリストの通りです。

1.燃料電池・水素関連
2.バイオ燃料(セルロース)
3.材料分野に関する計算科学
4.炭素回収・貯留(CCS)
5.太陽光発電
6.ナノエレクトロニクス・ナノマテリアル
7.熱電変換技術
8.水素燃焼技術


 以上の8分野に加えて、
9.スマートグリッド
も現在検討中ということになっているようです。

C先生:これらの分野の現状について、若干の見解を述べてみるか。

A君:まず、1.燃料電池・水素関連ですが、燃料電池として自動車用を考え、しかも、水素を燃料とする高分子電解質型は、やや優先度が低いと思います。理由は、水素をどうやって作るか、水素をどうやって車に積むか、水素をどうやって水素スタンドまで運ぶか、などの基本的なところに効率面でも優位性が見出せないからです。技術的にいくら可能でも、省エネ・低炭素化に有効でなければ、なんの意味も無いもので。

B君:燃料電池も、水素を燃料とするものだけでなくて、炭化水素やアルコールなどの他の燃料を燃やせるものであれば、可能性は高い。これらの研究については、特に、酸化物固体電解質型の燃料電池では、日本がかなりアドバンテージがあると見ている。

C先生:やはり移動体は液体燃料で動く。それ以外は、電気自動車で良い、というのが合意できることだと言える。

A君:電気自動車も長距離を行く場合には液体燃料を使った発電ユニットを繋いで対応する、といういつもの提案が良さそうですよね。

B君:となると、ハイブリッド技術だということになる。ハイブリッド技術といっても、実は、多種多様。トヨタのパラレル・シリーズ方式、ホンダのパラレル方式、それにさまざまなメーカーが実用化を目指して消えたシリーズ方式がある。電気自動車が現実のものになれば、その長距離走行を支援するシリーズ方式が有力になる。

A君:水素関連というのが何か、それが気になりますね。まあ、優先度はかなり下がったと思うのですが。ただし、8番目にある水素燃焼は重要かもしれませんが。

B君:それは8番目で。

A君:となると、次が2.バイオ燃料(セルロース)ですか。穀物からのデンプンやサトウキビなどからの糖分をアルコールにするのは簡単。しかし、それは食料問題と関連を持ちかねない。事実、昨年、トウモロコシの価格が急上昇した苦い経験をした。そこで、主として農産廃棄物の有効活用ということで、セルロース系からのバイオエタノールをいかに得るか、という研究課題が出てくる。

B君:その技術は、どうも米国がリードをしているようだ。日本ではRITEがやっているが。

C先生:このバイオ燃料の話だが、直感的に、ガソリン・ディーゼル燃料の10%をバイオ燃料にするあたりが妥当な目標か、と思っているのだが、その詳細の検討をしなければ、と思いつつ時間が無い。

A君:ディーゼル燃料だと、普通ならパームオイルとなるのですが、これは、森林破壊に直結する。アフリカなどではジャトロファと呼ばれる荒地にも生息する植物から油を取ることを考えていますが。

B君:いずれにしても、生態系の破壊を招かない範囲内で、ということは、地球全体の土地利用の最適策をどうするか、といった検討が無い限り、バイオ燃料の話を進めることは不可能になっている。

C先生:当面、農産廃棄物ということでは良いが、セルロースからエタノールということになると、木質のセルロースが狙われる。古紙からのエタノールといったことも可能になるが、それが進んでも、森林へのプレッシャーが高まることになる。俯瞰的な検討が不可欠だ。

A君:次が3.計算材料科学。これは、もとC先生の専門の一つだった。

B君:タンパク質の分子構造の研究に使うと読売には書いてある。

C先生:個人的には、原子・分子レベルのシミュレーションよりも、メソスケールと呼ばれているのだけれど、ミクロンからミリオーダーの現象のシミュレーションが重要になると予測している。というのは、今後の資源の利用可能量を考えると、様々な分野で有機物を使うことが重要になる。環境エネルギー技術ということだとどうしても大面積のデバイスが必要になる。その典型例が有機太陽電池だ。実用可能になると、数10平方メートルの設備になる。このような大面積かつ長寿命の有機太陽電池を作る出すには、原子・分子オーダーで起きていることをいくら理解しても駄目で、ミクロンからミリメートルオーダーで起きていることまで連続的に理解しない限り、実用化も難しいと思っている。

A君:5.太陽電池も有機高分子系が有力ということですか。

B君:いやいやそれは分からない。可能性が無いとは思わないが、かなり難しいのが現状だろう。

C先生:6.ナノエレクトロニクス・ナノテクノロジーが重要だとは言われ続けているが、それだけでなく、それ以前から指摘されているメソテクノロジーが本当に重要になるのが、環境エネルギー技術なのだと思う。この部分の鍵が、計算材料科学なのではないだろうか。

A君:4.炭素回収・貯留ですが、排気ガスのなかから二酸化炭素を分離して、それを天然ガス田などに注入して隔離するという方法。

B君:日本の技術としては、分離技術は優れていると思う。特に、膜技術の分野だろう。海水の淡水化に使われるような膜技術でも日本の技術は優れている。

C先生:日本における問題点は、貯留する場所が無いこと。天然ガスや石油が取れる地形だと二酸化炭素を注入して安定に保存できるのだが、そのような地形が日本にはほとんど無い。

A君:日本の地底には、常時、太平洋の海底がめり込んでいる訳で、ぐちゃぐちゃに壊れている。まあ、地震が多いのも宿命なら、石油が取れないもの日本の宿命で、仕方ないですね。

B君:逆に言えば、日本は地熱には恵まれている。しかし、地熱発電では、温泉宿ほどの経済効果は出ない。しかも、国立公園の中にあることも多く、発電所を作るのも難しい。しかし、もう少々真剣に考えるべきことであるのは事実だ。

A君:5.太陽光発電ですが、これは、現在のシリコン系の太陽電池ではないですね。シリコン系が最終的にも主要な技術になる可能性も高いですが、効率はもうそろそろ限界。日本製だと、サンヨーのHITの19.7%というのは極めて高度だ。シャープなどの多結晶タイプだと14.4%といったところ。

B君:ホンダが参入した薄膜型は、銅-インジウム-ガリウム-セレン(CIGS)という複雑な組成。効率的には、現状だとシリコン系よりもやや低いぐらいだが、製造に要するエネルギーが低いので、エネルギーペイバックタイム、すなわち、製造エネルギーの元を取るまでの時間は短いとされている。

C先生:このあたりまでが製品になっているものなので、この共同研究だと課題にはならない。課題にするのは、恐らくだが、量子ドット型、有機高分子型、色素増感型、集光型、などの次世代型だろう。それぞれ進展状況は様々だが。

A君:量子ドットは理論上40%といった効率が狙えるとのことですが、まだまだ先が長い。有機高分子は、有機基板で曲がるといったところに集中すれば面白い。色素増感型は、いろいろと研究がなされているが、難しいかも。集光型は米国向けで、気象状況が違う日本には適さないだろう。

B君:6.ナノエレクトロニクス・ナノマテリアルは、すでにかなり研究が行われているが、32nmプロセスが実用化されると、その先の微細化もそろそろ限界なので、どこにタネを見出すかが勝負か。バイオなのか、それともそれ以外か。

C先生:個人的には、先ほども言ったように、メソスケールの研究の再興が必要だという立場だが。

A君:7.熱電変換技術。これも昔から知られていて、実用化されているものもある。ペルチェ素子と呼ばれているものがそれで、電気で冷却加熱をする素子。これをエネルギー用途に使用して、廃熱から電力を回収しようというもの。

B君:最近の問題点は、効率の高い日本のような場合だと、廃熱そのものが少なくなっているということ。

A君:だから、米国のようにエネルギー効率の低い社会では、重要な課題になりうるのかもしれない。

C先生:この技術も、日本はリードしていると思われるが、指摘の通り、日本ではニッチ技術なところが問題。

A君:8.水素燃焼技術。これは、水素をどうやって作るのか、それが問題なのですが、それはそれとして、万一水素が大量にできたとしたら、それを使ってガスタービンをどうやって回すか、ガスエンジンをどうするか、といったことなのでは。

B君:水素を原子力で作ろうという動きもあった。余り効率的だとは思えないのだ。電気を作ればよいと思うのだが。ところで、水素エンジンは、マツダがかなり研究をしていて、それなりに動くようだ。

C先生:水素燃焼だが、不安定な自然エネルギーからの電力で、膜電解をして水から水素を作って、それが溜まったらガスタービンを回して高効率発電をするといった技術になるのではないか。それがスマートグリッドと関連すれば、重要な技術的要素になるように思う。

A君:そこで、9.スマートグリッドがでてくる。ここで重要なのは、やはり電力貯蔵でしょうね。これは古いテーマなのですが、再度真剣に考える必要がある。
 これで大体カバーしました。

B君:日本がリードしている技術で、すでに出てきたハイブリッド車技術、ヒートポンプ技術、は入っていない。さらに、次世代型二次電池も入っていない。

C先生:それらの技術は、すでに激烈な企業間競争の状況にあるから、共同研究といったレベルではないのではないか。

A君:となると、日米共同研究で実用的な技術が生まれるのは、かなり先ということですね。

B君:当然その通り。研究段階での協力は可能でも、実用化となると、協力というレベルではなくなるのだ。

C先生:この共同研究から日本は何を得るべきだと思う?

A君:まあ、個々の技術だとまだ日本は二歩ぐらいリードしている。例えば電力平準化に関連する技術では、

Na-S電池といった大型二次電池
Li二次電池の技術は世界トップ
高温固体電解質型燃料電池
超伝導送電線製造技術
大型サイリスタ技術、非Si系サイリスタ
インバータ技術

といった技術では、リードしているので、この分野では、出超になる可能性が高い。しかし、これらがすべて含まれている訳ではないので、やや安心しました。

B君:個々の技術だと日本優位かもしれない。しかし、コンセプト作りとか、総合的な俯瞰力では、米国優位なのではないか。

C先生:その通りだと思う。それは、日本の研究者は、タコツボの中で上位に行くことが目的としているが、それも研究費を獲得する最大の戦術だからだ。そのため技術の俯瞰力に欠ける。

A君:なるほど。科学研究費補助金という仕組みも、タコツボ型ですからね。

B君:科学研究費補助金は、日本の学界への最大の研究費。平成20年度で総額1932億円。その配分の仕組みを簡単に説明すると、まず、細目と呼ばれる研究分野がある。その詳細は、Webで調べて下さい。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/07030710/002.pdf
例えば、材料工学という分野だと、金属物性、無機材料・物性、複合材料・物性、構造・機能材料、材料加工・処理、金属生産工学と6つの細目に分かれている。
 研究者は、この細目の一つを選択して、1件の申請書を出すことができる。その申請金額の総額に比例して、研究費が割り当てられる。この細目に属する研究者から審査員が選ばれて、その配分を決めるというやり方。自分たちで自分達の配分を決める仕組みなので、民主的とも言えるが、一度、一つの細目で予算申請を行うと、その細目がタコツボのように機能して、外に出にくくなる。外に出ると餓死する危険性が高いからだ。

C先生:同じ細目には、10年間で6年以上申請できない、といった原則を決めると、どこかに移らなければならなくなる。そのときに、融合分野への申請をするようになれば、日本の研究者の視野が広がることになる。
 この共同研究の相手先のトップは、と言えば、DOEの長官であるスチーブン・チュー氏であるが、物理学でノベール賞を取って、その後、バイオ分野でも活躍している。

A君:俯瞰力を身につけていない日本の研究者は、今回の共同研究に参画すれば、その弱さが実感できるということですか。

B君:しかし、積極的に俯瞰しなければならないという仕組みが、共同研究によって生まれる訳ではない。

C先生:日本にももっと技術の俯瞰を専門とする人材を育成する必要がある。それが売り物にならないと誰もやらない。まずは、学問分野として何か作る必要がある。例えば、プロスペクト・エンジニアリング、技術予測工学といった言葉になるだろうか。こんなものが成立しないと、日本の環境エネルギー技術の未来は暗いことになりかねない。