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  清潔になりすぎた日本?  01.23.2005



 今回、モーリシャスなる国に来て、この国なら日本人でもお腹を壊すことは無いだろう、と思えるほど清潔であることが分かったが、一般には、日本人は、他の国に行くと、お腹の具合が悪くなる人が多いと言われている。

 その理由は、腸内細菌が脆弱だから、としばしば言われるが、本当のところはどうなんだろう。

 モーリシャスにもっていった何冊かの本の一冊をご紹介。
  「免疫と腸内細菌」 上野川修一著、平凡新書 105、ISBN4-582-85195-9 \700+税。2003年9月刊


C先生:モーリシャスへの飛行機は、ホンコン経由だと週に2便。他の経由地の場合でも似たようなもの。とにかく、モーリシャスに行くには、モーリシャス航空に乗るしかないので仕方が無いのだ。会議日程と少々合わないのだが、多少早く到着して現地での年休(国連機関では、こんなことがOK。東京大学は駄目だったが)を取ることにした。そこで、久しぶりにのんびりと本でも読もうと4冊ほどの本を持参したが、その一冊のご紹介。

A君:腸内細菌の話、腸管免疫の話、などは、しばしば本HPにも登場します。腸内細菌については、共生の見本みたいなもので、菌との共生を否定する「除菌イオンエアコン」などは特に子供には害しかなさないと、本HPでは主張しています。

B君:先日、腸管免疫の話が出てきたのは、BSEの話。英国などでは、手術に使うメスを使い捨てにしている。それぐらい異常プリオンに気を使っている、という極端な主張に対する反論として、口から食べるといことと、メスにくっ付いて血液に直接入ることは、全く違うということを主張したとき。

A君:これはかなり昔の話になりますが、母乳とダイオキシンの話が議論になったとき、ダイオキシン猛毒派は、母乳を飲ませるとその中のダイオキシンのために、乳児がアトピーになりやすいと主張。しかし、まともな医学者は、そんなことは無い、むしろ、母乳というもののもつ機能のすばらしさを無視することの危険性を主張して対立しました。

C先生:アレルギーの話としては、雑菌・寄生虫を含めて、日本人が清潔になりすぎたためという話があるが、個人的には、それに加えて、乳児死亡率の低下によって、100年前だったら生存できなかった強度のアレルギー体質の赤ちゃんが生存できるようになったことも、最近のアレルギー増加の理由だと推測しているのだが、この最後の部分については、何か書かれている本を未だに探しているのが現状。
 2名で、少々勉強してくれ。私は参加しないので。

A君:この上野川先生の本によって、こんないくつかのトピックについて、ヒントや解答が得らるかどうかが課題。

B君:本書の最大の狙いというものは、腸内細菌との共生の様子を記述することによって、機能性食品、さらには、個人の特性に有ったスーパー機能性食品のようなものが将来開発されるか、といったこと。上野川先生は、もともと東大農学部の先生だから、医者とは違う発想の本。

A君:それはそれとして、腸内細菌について最初に解かなければならない疑問とは、細菌の種類によっては、腸内に入れば免疫システムはそれを異物として排除しようとするが、一方で、腸内に100兆個(1kg)もの細菌が共生状態を作って住んでいるそのような細菌だって、基本的には異物であるはず。さて、ヒトの体は、どうやって、腸内細菌を区別しているのだろうか。

B君:免疫システムは、ヒトにとって自己と非自己を見分ける能力があるというが、ある種の腸内細菌は、自己と判定されているのだろうか、ということか。確かに、非常に不思議。腸内細菌だって、本来、非自己であるべきで、排除されても良いはずなのだ。

A君:結論的には、有害でない細菌を見分ける能力がどうやらあるのではないか、ということで、まだ、確実には分かっていないらしいですね。絶対確実なことが一つあって、腸内細菌が無いと、腸管免疫システムというものが出来上がらないということ。

B君:現代人の常識としては、こんなところだろう、ということから記述が始まっている。「腸内細菌? 体に良い有益菌と悪い有害菌があって、有害菌が多いと便秘になるし、ガンの原因になった入りする。だから有益菌を増やすような食事をしないと。ヨーグルトを食べるか」。ということで、ヨーグルト市場は、なんと4000億円の規模になったそうだ。

A君:実体は、腸の中には、100種類以上の細菌が100兆個も住んでいる。その数は、なんとヒトの細胞の総数60兆個よりも多い。本来、非自己、すなわち、異物であるべき腸内細菌が排除されないのは、それが危険ではないからだ、という理論がこのところ言われているらしい。「デンジャーセオリー」という名称らしいが、もしこれが正しいとすると、免疫システムには、有益か有害かという価値判断ができていることになりますが。。。

B君:それが実際どのようなメカニズムで行われているのか、と言われると、余りはっきりしない。まだ未知の分野だということだろうか。

A君:有害かどうか、それは、自らの細胞が破壊されるかどうかで判断すればよさそうですが、どの細菌が有害だったから自らの細胞が破壊されたのかを特定せよ、となると、これはなかなか困難ですね。

B君:そんな細菌が進入してきたかについては、Toll−likeレセプターというものが免疫細胞膜上にはあって、そこで、どんな成分をもった細菌かどうかを認識しているとのこと。

A君:細菌には、様々な種類があるものの、良く分類に使用される「グラム陽性」か「グラム陰性」というのは、紫色の染色剤で染まるかどうか。デンマークの科学者、グラムが考え出したものなので、グラムという言葉がついている。染まるかどうかは、細菌の表面構造が決めていて、グラム陰性菌には病原性のものが多い、とのこと。

B君:免疫細胞がグラム陽性菌が来たと判定すると、インターロイキン−12なる物質を出す。この物質によって、T細胞という免疫細胞の型が変わってTh1型細胞になる。Th1型細胞とTh2型細胞は通常はバランスが良く取れているが、もしも、Th2型が優勢だと、アレルギーになる。Th1型が優勢だと自己免疫疾患を起こす可能性がある。

A君:すなわち、腸内細菌のうち、ラクトバチルス菌とかビフィズス菌はグラム陽性菌なので、Th1型に傾く。そして、アレルギーを抑制することになる。スウェーデンのピヨルグステン教授によると、非アレルギー児とアレルギー児では、腸内細菌に差があって、非アレルギー児には、ラクトバチルス菌が多いとしています。

B君:ラクトバチルス菌とかビフィズス菌は乳酸菌の一種。乳酸菌とは、酸素の無いところで、糖分を分解して乳酸を作る菌。

A君:というと、一般の人々は、ラクトバチルス菌とかビフィズス菌は有益菌だから体内にあってもよくて、それ以外の有害菌は、できるだけ無い方が良いと言うでしょうね。

B君:この本の記述によれば、日和見菌と呼ばれる時には有害な作用をする菌も、あるいは、有害菌も、体内ではそれなりの役割を果たしており、腸内細菌の群として存在するためには、多種類の菌が共生しているのが理想としている

A君:例外的に、腸内細菌が非常に単純な人種もいる。パプア族の腸内細菌は、すごく単純らしいですね。理由は、食生活が単純だから。ほとんど動物性のタンパク質を取らない。

B君:いずれにしても、乳酸菌だけが良い菌で、それ以外は体内に入れないという考え方では駄目のようだ。やはり、全体として調子が良い状況を目指すべき。

A君:アレルギー抑制作用の話に戻りますが、結核菌も典型的なグラム陽性菌。そのため、結核に感染するとTh1型が優勢になる。そこで、アレルギーは抑制される。これは、大阪大学の白川太郎教授の説

B君:回虫がアレルギーを抑えるといのが、東京医科歯科大学の藤田紘一郎先生の説。このメカニズムは、寄生虫がいるとヒトは、I型アレルギーの原因になるIgEを大量に出す。ところがこのIgEは不思議なことに、アレルギーを起こさない。そして、大量のIgEがマスト細胞の表面のレセプターを被ってしまうものだから、アレルゲンが入ってそれでIgEが多少出ても、もはや効果は無い。

A君:寄生虫は、恐らく人類史上ずーっとヒトと共生していた。現在のように寄生虫がいないという状況は、やはり異常なんでしょうね。

B君:藤田先生はかつてサナダムシを体内に飼っていた。

A君:さて、アレルギーそのものが何が原因で起きるか、ということを少々説明する必要がありますね。

B君:アレルギーはタンパク質で起きる。小麦アレルギーと言えば、小麦のタンパク質。牛乳アレルギーと言えば、牛乳のタンパク質が原因。

A君:アレルギーは体質ですから、特殊な人だけがアレルギーになる。しかし、小麦や牛乳のタンパクが無害だけど、特殊な体質の人には有害というものではなくて、小麦や牛乳のタンパク質を精製して血管に注射してしまえば、急激な免疫反応がおきて、どんな人でも、それこそ誰でも死んでしまう。要するに免疫システムにとって、このようなタンパク質は非自己。

B君:ところが、口からタンパク質を取れば、腸に入る。腸では、急激な免疫反応が起きないような仕組みが出来ている。

A君:腸なるものは、ヒトの最大の免疫器官で、長さは7メートルですが、広げるとテニスコート1面分の面積。消化吸収だけが能力ではなくて、神経細胞もあって、その数は1億個。脳以外に存在する神経細胞の半分は腸にある。全身のリンパ球の60%が腸管にあって、抗体全体の60%は腸管で作られている。

B君:ここに腸内細菌がいて、それが免疫寛容という、まあ、余り急激な反応をしないように抑えている機能が出す。腸内細菌がいないと、この免疫寛容という機能はないことになる。その理由は未だに良く分かっていない、とのこと。T細胞がIgG、IgEといったアレルギー反応を起こすような物質の機能に関与できなくなっているから、であることは事実。しかし、なぜT細胞の機能が失われるのか、不明。色々と説はあるみたいで、ある種のタンパクに対して働くT細胞の活性が除去されてしまうからだというものもある。

A君:そうだとすると、例えば、牛乳タンパクが入ってきたときに、それに反応してIgEなどを制御するT細胞が麻痺しているのが普通人で、そんなT細胞の活性が残っているとアレルギー。

B君:多分そんなに簡単ではなくて、牛乳タンパクも、胃腸で分解されてアミノ酸になってしまえば、これはもう問題が無い。しかし、中途半端に分解されてアレルゲンとしての特性が残ってしまうような人だとアレルギーになる、といった要素もあるので、全体的には複合的だと言うしかないのでは。

A君:腸管免疫の不思議なところは、病原菌やウイルスが進入したきたときには、しっかりとIgAを出して、防衛をすること。しかし、食品などに対しては寛容であること。

B君:必要な機能だけはしっかりと残されている。

A君:進化の過程で、必要な機能を残せなかった個体は、死滅したのでしょう。

B君:そういえば、免疫機能というものは、脊椎動物には共通の機能だと思ったら、実は、そうではなくて、例外が居る。ヤツメウナギ・メクラウナギなどの顎の無い脊椎動物(円口類というらしい)は免疫機能が無い。その理由は、どうやら顎があると、食べるものの種類が格段に増えるかららしい

A君:そういえば、ヒトなる生物は最大の悪食生物でしょうね。顎と歯で砕いて、なんでも食べますから。

B君:そのために、免疫システムができたというよりも、ヒトは本能的に何でも食べたい生物だが、それに対応する免疫システムを備えられなかった種は滅びた。

A君:タンパク質を食べるということは、実は、人類にとって余りなじみのある行為ではなかった。しかし、適度のタンパク質は、免疫システムを強化することが知られているので、栄養を取ることによって、寿命が延びると考えられているようです。

B君:寿命がなぜ延びるか、これは簡単ではない。大部分は、しかし、栄養と安全な水の供給。副次的に衛生管理。医療の進歩は、実は、それほど有効ではなくて、大体、これら3条件が揃うと、大体寿命は70歳に到達できる。日本は、現在80歳を超したが、この残りの10年は、医療の進歩に負うところが大きい。

A君:しかし、本当に必要なのは、健康寿命でして、医療で延ばせるのは、必ずしも健康寿命ではなくて、物理的な寿命でしかない。

B君:タンパクの話にもどれば、タンパク質を大量に摂取できりょうになって寿命が延びて、現時点では、タンパク質を取りすぎて、アレルギーになっている。もう少々、穀物などの炭水化物を中心とした食事に戻した方が、バランスが良いのかもしれない。

A君:一説では、獣脂は大腸がんの元ですし、まあ、余り良いことは無い。ただ、植物性のタンパクでアレルギーになる場合が多いのはどういうことなんでしょうね。穀物を大量に取っているときには大丈夫だったのに、動物性タンパクを取るようになってから、植物性のタンパクが余分な不必要なものとして認識されているのでしょうか。

B君:この本にもそのあたりの説明が無いので分からない。無理やり推測をすればだが、動物性のタンパクは、すべてのアミノ酸を含む。植物性のタンパクは、必ずしもすべてのアミノ酸を含んでいる訳ではない。タンパク質として、自己、非自己の認識に、こんな違いが利いている可能性も無いとは言えない。

A君:例の「米+大豆」「小麦+レンズ豆」「トウモロコシ+エンドウ豆」の話ですか。このような伝統食の組み合わせは、実は、必須アミノ酸を全部取ることができる組み合わせであるという。

B君:それが何か関係していないか、という想像をたくましくしただけ。

A君:動物性タンパクを食べ過ぎると、アレルギーになる。しかし、それなら、牛肉アレルギーとか、豚肉アレルギーとか、マグロアレルギーがあってもおかしくないはず。

B君:そう言えばその通り。ただ、どうやら、エビアレルギーというのを発症する大人が増えているらしいが。

A君:たしかに、世界最大のエビ消費国ですからね。魚介類だと、貝アレルギーの人は居ますね。

B君:タコの消費もかなりのものだから、そのうち、タコアレルギーも発症するかも。

A君:欧米では、ピーナッツアレルギーが増えているらしいですね。米国のピーナッツバターの消費量は、相当なものですから。

B君:そういえば、「ダビンチコード」という最近かなり売れた本では、ピーナッツが殺人用に使用されている。ピーナッツアレルギーの人だけが対象になるのは当然だが。

A君:これで大体終わりでしょうか。いずれにしても、この世の中、無菌状態という訳にはいかないのですから、どちらかと言えば、穀物を食べバランスの良い腸内細菌をしっかりと育成したいものですね。

B君:無菌で育てた動物というのは、変だそうだ。医学の実験に使う無菌マウスというものがあるようだが、盲腸が異常に大きく、小腸は小さい。腸管の細胞も少ない。腸管免疫を司るパイエル板も小さい。食べる量が少なく、摂取カロリーも低い。こんなに変なのだけど、無菌動物は寿命だけは長く、無菌でない動物に比べて1.5倍だそうだ

A君:シャープの除菌エアコンの究極の目的は、盲腸が大きい変な日本人を作ること。変な生物ではあるが、寿命だけは普通の人の1.5倍であるといった。

B君:その通りかもしれない。

C先生:そんな話をしているところを見ると、大体終わったようだな。色々と考えてみると、寿命だけが長い変な日本人がすでに着々と作られているような気がして、かなり不気味な気分。やはり、時には、下痢をするような食事をして、正常な生物としてのヒトの生活をしなければならないのだろうか。