-------

   キガリ改正も自動車の未来に大きな影響
     
  家庭用の冬のエアコンも大問題  11.25.2017
               



 このところ、話題が自動車に偏っていました。その理由は、すでに何回か述べていますが、(1)日本の輸出が、自動車の一本足打法になっていること、(2)エンジン、オートマといった日本が得意な「すり合わせ技術」が活かせるパーツがEVだと無くなること、(3)EVだと中国製でも競争力を持つ可能性がある、などなど、日本産業の未来について危機感があるからです。

 話は変わりますが、先日、あるところで、キガリ改正とフロン戦略をテーマとするクローズドの検討会を行いました。実は、このキガリ改正、このサイトでは1回説明しただけですが、個人的にやっとその重大性が理解できるようになりました。やはり、フロン(=冷媒)についての知識が不十分だったということです。

 本日は、そのキガリ改正が、実は、自動車のEV化をさらに推進することになるのではないか、という推測も述べたいと思います。未来は、色々な要素が色々な形でつながっているのだなあ、ということを、今回の記事を書きながら再確認しました。

 勿論、キガリ改正の対応によって、エアコンが暖房用に使えるかどうかが決まります。対応は、国によって違うでしょう。

 現時点の日本なら、現在のR32をほぼ100%回収して使うことも可能ですが、2050年の日本は、相変わらず新幹線がほぼ時刻表通りに走る国だとも思えないので、回収もどうなるやら。中国は、火災の危険がある自然冷媒を使っているのでは。米国は、全く分かりませんが、トランプ大統領とは違って、パリ協定を遵守する方針でしょうから、北部・中間・南部で違ったシステムになっているのでは。
 いずれにしても、未来を読むのは難しいです。


C先生:キガリ改正とは何か、その説明は、ほぼ1年前に記事にしている。
http://www.yasuienv.net/MontKigali.htm
しかし、詳しい未来予想はしていなかった。

A君:実際には、キガリ改正は2016年10月15日なので、すでに1年以上前のことになります。改正というからには、何か元になるものがあるのですが、それがモントリオール議定書。これは、オゾン層を破壊する物質HCFC(Hydro Chloro Fluoro Carbon)を規制する目的で作られたものですが、今回、そこに、似たような物質なのですが、塩素を含まないために、オゾン層を破壊しない物質であるHFC(Hydro Fluoro Carbon)が、温室効果ガスだからという、これまでのモントリオール議定書とは全く違った理由で追加されたのです。

B君:パリ協定が採択されたのは、2015年12月12日。今後の影響が非常に大きいと考えられる気候変動に影響を与える物質の大幅な削減が合意された。ちょっと考えてみると、オゾン層を破壊していたのは、塩素を分子構造の中に含むフロン類で、その塩素がオゾンと反応をするからというのが理由だった。塩素を含まない物質として、フッ素に置き換えたHFCと呼ばれる代替フロン類が出来たのだけれど、実は、この物質は、大気中の寿命が非常に長いこともあって、温室効果が非常に大きいものだった。勿論、UNFCCCでは削減の対象物質にはなっていたものの、モントリオール議定書では、削減のプロセスや時期などの目標を決める対象にはなっていなかった。

A君:その削減目標を決めたのが、ルワンダの首都キガリ(Kigali)で開催されたモントリオール議定書に関する会議(MOP28)だった。

B君:その数値は、環境省のサイトにある経産省との合同検討会の資料から引用すると、次の表のようになっている。

表1:キガリ改正の内容
http://www.env.go.jp/press/files/jp/107205.pdf

A君:途上国第1グループ、途上国第2グループ、先進国の3分類ですが、途上国第2グループというのは、インド、パキスタン、イラン、イラク、湾岸諸国のこと。

B君:途上国第1グループは、開発途上国であって、途上国第2グループに属さない国ということだが、先進国に属する国でも、ベラルーシ、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタンは若干の差異を認めている。

A君:日本の場合ですと、基準年が2011〜2013年。基準値が各年のHFC生産・消費量の平均+HCFCの基準値の15%となっていますね。この数値が将来どうなるの図を示します。


図1:同上の図示 先進国の場合 引用は同じ

A君:この図で、赤いが見通しなので、2025年度ぐらいまではOKですが、2029年を越せるかどうか。

B君:各年の基準値なのだけれと、生産・消費量+HCFCの基準値×65%と表現されてるけれど、冷媒を回収して分解処分をすれば良いのだよね。

A君:そうなのです。次のように規定されています。
「生産量」とは、規制物質の生産された量から締約国により承認された技術によって破壊された量及び他の化学物質の製造のための原料として完全に使用された量を減じた量をいう。」
 ただ、現状、家庭用のエアコンなどだと回収はかなり手間が掛かるので、実際、行われているとしても極めて限定的です。

B君:なるほど、手間とは、エアコンの室外機と室内機の接続パイプを丁寧に外して、ポンプで冷媒を吸い取らなければならない。

A君:かつては、パイプには外しても冷媒が漏れないようなジョイントが付いていたのですが、最近はどうも無いような気がします。となると、いきなり切って放出するのが普通ということになるのでしょうね。

B君:製造コスト・販売価格・設置コストが勝負を決めるという社会になったから、とも言えるが、チェックしてみたら、現状で、回収されているのは20%ぐらいらしい。

A君:これまで使われてきた冷媒としては、家庭用エアコンにはR410Aなどだったのですが、この冷媒の温暖化能力、GWP=Global Warming Potentialは、COの2090倍でした。自動車用のエアコンには、R134aが使われて、GWP=1430。温暖化への影響が非常に大きい。

B君:それが現時点だと家庭用エアコンにはR32が使われ、GWP=675。かなり小さくはなったのだけれど、2029年の目標が70%削減なので、この数値をクリアーすることは難しい。なんとかして、新しい冷媒に変えないと。

A君:自動車用エアコンですが、EUの規制値がGWP150以下になって、これはなんとか対応できています。冷媒は、R1234yfが使われていて、そのGWPは、ほぼ1。すなわち、COと同じということなのです。

B君:それなら、自動車以外にも、R1234yfを使えば良いではないか、と思うのが普通だ。

A君:それができると良いのですが、冷媒には得意・不得意があるのです。冷媒と言いながら、家庭用エアコンは暖房にも使っています。そして、どうもR1234yfは暖房用には適さないようなのです。効率が悪くなるからです。

B君:米国だとHoneywellが、R1234yfを推進しているのだけれど、その製品カタログを見ると、Portableエアコンなのだ。さらに良く良く読むと冷房専用。だから、R1234yfで良いということになる。

A君:という訳で、日本のような気候の国では、エアコン暖房が可能になる新しい冷媒の開発が必須ではないか、という状況のようです。

B君:繰り返すが、現時点で使われている冷媒がR32で、そのGWPが675。できれば、150以下ぐらいのものが欲しいけれど、実は、存在していない。

A君:今後、開発できるかどうか、それが大きな問題。

B君:一方で、日本のような国は、回収をしっかりやれば良い。世界で唯一できる国だから。これも事実

A君:いや、20世紀までの日本なら、それでできたと思うけれど、もう無理なのではないですか。

B君:まあね。日本社会は変わった。日本の電気温水器には、COを冷媒(冷ではないけれど)に使っているものがあるけれど、COは、高圧にしないと使えない。NH(アンモニア)は使えるけれど、臭いがひどいし、有毒物質。

A君:現時点では、200Lとか言った大型の電気温水器が製品化されているので、高圧を要するCOでも良いのですけど、将来、2050年を過ぎる頃になると、個人用の給湯に使えるガス湯沸かし器は、消えてしまう。なぜなら、現在のような都市ガスは恐らく供給されていないから。理由は、都市ガスがメタンだから。CO排出量はまあ少ないけれどもゼロではないので。今世紀後半には、ゼロ以外のものは存在が難しい。

B君:プロパンガスも無くなる運命だ。水素は作ることができるので、それからアンモニアに転換して使うといった方法はあるかもしれないが。

A君:2050年の給湯の方法を考えることも重要。再生可能エネルギーによる電力の供給が充分で、価格が安ければ、電熱でということも有りえます。しかし、日本のような気象状況の国では、再生可能可能エネルギーの供給の主力となる風力が頼りにならない。一方、ドイツなどでは、地域で熱供給をすることが伝統的に行われてきた。オランダなどでもそうだった。形態としては、スチーム。昔なら石炭ボイラーで蒸気を作って、地下にある配管で配っていた。それを風力で作った電力で熱を供給するという考え方があります。

B君:北海道など風況の良い地域では、そんなことも考えなければならないのかもしれない。静岡県など積雪の無い地域なら、太陽熱利用でお湯を沸かすのが理想的

A君:東京以南ぐらいなら、家の断熱を完璧にして、太陽熱だけで蓄熱機能付きの暖房を行うということもあり得るかも。

C先生:まあ、キガリ改正が行われたために、新たに暖房と冷房をどうするかとか、お湯の供給をどうするか、そんな問題が起きているということだ。パリ協定の延長線上にある課題だ。キガリ改正も、これまた「気候正義」の一環なので、日本人にとっては、理解しにくいことなのかもしれないが。
 ところで、今回のタイトルだけど、キガリ改正が自動車にも影響を与えるというものだったのだが。

A君:はい。自動車は、EVが主流になると考えられていますが、冷房用のエアコンはR1234yfを冷媒に使うものが、EUでは全てになっていますから、冷房は問題ないのです。現時点だと、ほぼすべての自動車はエンジンを積んでいて、エンジンの効率は、トヨタ流のハイブリッドだと、40%を超したのだけれど、普通は、その20%程度と低く、ということは、80%は熱になっていて、ラジエーターと排気管から捨てられている。冬には、これを活用して室内を暖房するという方法でやっている訳です。

B君:プリウスの暖房は、実は40%でもエンジン効率が高すぎるために、効き出すのに時間が掛かる。それでも、エンジンがあるために、なんとかなっている。

A君:EVになってしまうと、冷房用のエアコンは、R1234yfを冷媒にすれば良いだけですが、暖房用には使えません

B君:待てよ。テスラなどは米国の非常に寒いミネソタ州とかでも売るのだから、暖房はしっかりしているはず。どうやっているのだ。

A君:それを調べるのに苦労しました。テスラのモデルSを持っている方が書いているブログを発見して、そのすべてを調べて初めて分かりました。暖房は、PTC素子を使った電気ヒーターです。要するに、電気ストーブ。しかも、テスラの電池の温度管理は大変なことになっていて、冬だとむしろ温める。特に、急速充電をやろうとすると、電池の温度が低いと不可能とのこと。勿論、電池を夏だと冷やす。過熱すると危険なので。

B君:なるほど。冷房専用のエアコンと、PTC素子を使ったヒーターだけでやっているのだ。普通に考えるとヒーターは大変な「電気の大食」いなので、やらないのだけど。

A君:次に、出典はテスラのモデルSに関するブログですが、その原文をお示しします。面白いので、是非、ブログ本体を読んでみて下さい。充電をいつ、どこで、どうやるのか、色々と苦労をされています。特に長距離の場合には、毎回、充電計画書を作ってから出発するようです。

その1
http://blog.evsmart.net/tesla-model-s/out-of-electricity/  『暖房にも電気が使われる』。車種により冬季の暖房を使用した場合の電費は異なりますが、私の車では満充電で夏380km走行できるのに対し、冬は316km程度になります。(途中略)。また、モデルSの場合は暖房以外にもバッテリーヒーターも電気を消費しますので、考慮に入れる必要があります。

その2
http://blog.evsmart.net/tesla-model-s/roadtrip-tokyo-osaka-winter/ 『テスラはヒーターのみで暖房』。 電気自動車のモーターやバッテリーも走行すると多少の熱を発生しますが、暖房できるほどの無駄ではなく、PTCヒーターやエアコンに頼らざるを得ません。

その3
http://blog.evsmart.net/electric-vehicles/bev-range-in-winter/ 『冬には走行距離が半分になる?』



B君:ということは、将来、自動車がEVだけになると、暖房用の冷媒は不要になり、PTCヒーターが使われる。

A君:PTCとは、Positive Temperature Coefficientの頭文字でして、チタン酸バリウムというセラミックス製のヒーターで、ある温度以上で抵抗が大きく増加するので、温度を自分で制御するヒーターです。

B君:ということは、EVが主流になると、自動車用としては、暖房はヒーター。暖房のためのエアコン技術の開発は不要ということになる。自動車用のフロンとしては、冷房専用のR1234yfが究極ということになりそうだ。

C先生:そろそろ結論か。繰り返しになるけれど、キガリ改正が行われたために、家庭用のエアコン用としては、R32ではGWPが大きすぎる。恐らく、次の冷媒を開発することが必要不可欠。ただ、R32が生き残れる可能性はあるのか、という問については、少なくとも、日本国内であれば、罰則を厳しくして必ずポンプダウンをして冷媒を処理するという方法も、成立しないとは言えない。とは言うものの、2040年頃になると、日本という国も変わっていて、今ほど、統制の効いた国ではなくなる可能性も高いかもしれない。要するに、なんとも言えない。
 ヨーロッパは熱の供給網をさらに整備する可能性もあるので、見方を変えれば、R32に変わる冷媒の開発が緊急に必要なのは、ヨーロッパでも日本でもなくて、米国そして中国なのかもしれない。中国は、ひょっとすると、製品の危険性を無視して、可燃性の炭化水素を使うという決断をするかもしれない。しかし、米国ではそれは無理だ。R1234yfは、デュポンの製品だが、もし本当にそうなったら、どうするのだろうか。
 いずれにしても、米国・中国が本気になる前に、日本がかつての高いフッ素技術を復活させて、新しい冷媒ができれば、それは極めて面白い状況を作り出すことができるということだろう。期待できる状況のようにも思える。
 もう一つの日本の役割は、冷媒のリスク評価をしっかりと実施して、可燃性の炭化水素がどれぐらい危険なのか、どのような製品設計をすれば、その克服が可能なのか、あるいは、全く不可能なのか。これに関して、世界的な合意ができるほどの、高い信頼度を持った結果を示して明らかにすることではないか。
 そして、最後に、いささか付録的ではあるが、キガリ改正がなぜEV化を加速する可能性があるか、説明したい。冷媒の開発だけれど、今後、本当に良い冷媒が新たに出てくることは、実は、かなり可能性が低いように見える。現存のものの混合系ぐらいになるのではないだろうか。もしも、R1234yfが自動車用の冷房専用・暖房不可の冷媒として完璧な製品であるとすれば、暖房はエンジンからの熱で行うことが前提になる。ところが、パリ協定によって、化石燃料を使うエンジンが搭載できなくなる。そのとき、暖房をどうするのか。その解決策は、充分な量のバッテリーを搭載して、PTCヒーターを使って暖房用にするという解になる可能性が高い。EVなら充分な量のバッテリーを最初から積んでいるから好都合だ。すなわち、キガリ改正が暗示するEVへ向かう方向性は、パリ協定が明示する未来の方向性と見事に一致しているのだ。
 ということは、家庭にも大型のバッテリーが入るであろう2050年頃には、EVに搭載されたバッテリーも活用するV2H(自動車to家屋)を含めて家庭の暖房もPTCヒーターになっているという可能性も無いとは言えないのだが、冬にそれほどの再生可能電力が出せるだろうか。太陽電池は太陽の高度が低い冬はダメなので、多分、北国では無理だろう。暖房用の新冷媒が本当に必要なのは、寒冷地の家庭のエアコンというのが本当のところだろう。ただし、電力の価格、あるいは、太陽電池と蓄電池の価格がかなり影響して、寒冷地だけではなく、日本のすべての地域でも問題になるのかもしれない。未来はなかなか読みにくい