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キンメダイの環境コミュニケーション 06.22.2003 ![]() |
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メカジキ・キンメダイなどに含まれるメチル水銀を巡って、日本社会における環境コミュニケーションのやり方をどのようにすべきか、極めて示唆に富んだ事例ができた。
今回、メディアはかなり冷静に対処し、恫喝的な表現は行なわれていない。それでも、キンメダイなどの相場は下がり、販売量は半減した。やはり、日本社会のレベルは、悲しいことだが、その程度のものなのだろう。 そのような日本社会に適合した環境コミュニケーションの有り方を探る。 C先生:事実関係の整理から行くか。 A君:6月4日付けの新聞各紙に、「妊婦はメカジキ・キンメダイは週に2回まで」、といった見出しの記事が掲載されました。 B君:朝日新聞の例を出すと、記述は以下の通り。比較的冷静にしかもきっちりと解説している。 朝日の記述 日米英の水銀の検査結果と、国内での平均的な摂取量をもとに健康影響を評価した。メカジキから検出されたのはメチル水銀で平均0.71ppm。キンメダイは0.58ppmで、平均的な摂食量の60g〜80gにあてはめると、週3回以上で国際機関の定める許容量を超えるおそれがある。 サメの肉やクジラ類のツチクジラ、コビレゴンドウ、マッコウクジラは週1回以下、バンドウイルカは2ヶ月に1回以下とした。平均0.74〜1.08ppmと濃度が高かったマグロ3種も検討されたが、1回あたりの摂食量が20グラム程度と少ないため呼びかけ対象にはならかかった。 厚労省は、都道府県や水産庁に対し妊婦への指導などの注意事項の周知を求める通知を同日出した。一方で、今回呼びかけた以外の魚種や妊婦でない人については、「健康への悪影響を懸念するデータはない」とし、「一般に魚介類は健康に有益」と冷静は対応を呼びかけている。 A君:という訳で、最後には、きっちりとした記述で締めくくられていて、妊婦以外であれば、子供だろうが、大人だろうが、これでメカジキ・キンメを避ける理由は無い、と判断できるのが普通でしょう。 B君:しかし実施には、風評被害が出た。売上げが半減か。 C先生:恐らく、この記事をしっかり読んだ人は、正しく判断できたと思う。テレビのインタビューなどでも、「曖昧で良くわからない」といった感想を述べてる人がいるが、そのような人は、まずきちんと読んでいない。その人自身の情報に対する曖昧さが問題なのだと思う。どんなに丁寧に情報を出しても、駄目な人は駄目なのだ。それとは別に、しかし、ある種の疑念が沸いた人も多かったと思う。 A君:8日日曜日のテレビで、毎日新聞論説委員の岸井成格氏は、「魚に水銀が溜まるようなったのは問題だ」、といったような発言をしている。要するに、今回のこの件も、環境汚染が進んだからだという思い込み発言で、このような発言を聞くことによって、「今後、魚は食べられなくなるなあ」、と感じた人も多かったでしょうか。 B君:メチル水銀の起源を説明していない報道が欠陥だった、とも言える。 A君:同じ朝日新聞の6月13日には、フォローする記事が掲載されています。まず、内部情報。3日の厚労省の審議は予定を1時間も超えて、4時間にも及んだそうだ。厚労省の食品保健部「公開の席で結論を出さねば、かえって情報がひとり歩きする」、消費者委員、「バランスよい食事を、と呼びかけただけでは混乱する」、といった議論があった。 B君:しかし、その6月13日の記事では水銀の起源などは説明されていない。 C先生:厚労省としては、そんな説明は不要だ。そんな説明が無くても、我々が発表することは、国民に信頼をもって受け止められる、という思い込みがあるのかもしれない。 B君:しかし、「メディアはきちんとした報道をした」(厚労省見解)、という認識にもかかわらず、厚労省には、発表の翌日から問い合わせが殺到したらしい。 A君:厚労省の担当者も、メディアの対応には不満は無いようで、「報道はおおむね配慮されていた。魚の名前がでるだけで風評被害がでるというのなら、どうすればいいのか」、と頭を抱えたそうです。 C先生:厚労省の思い込みとはいささか違って、日本人の一般的なマインド中には、厚労省などの役所が言うことは信用できないという先入観も、まだまだあるのだろう。 B君:環境のプロは、最近の役所が、ヒトへの影響などを真剣に考えているということを知っている。日本生活共同組合連合会の安全政策推進室は、「食べ過ぎる人への注意なのに、消費者が過剰反応すると、厚労省も何も言えなくなってしまう」、と述べている。どちらかといえば、厚労省を信頼しているようだ。 C先生:最近の省庁の環境への対応は、場合によっては、過剰反応だと言えるケースや、考えすぎの場合もあることを良く知っている。 A君:「厚労省は、6日に「正しい理解のため」に、という記事をホームページに掲載し、さらに一段と丁寧な「QアンドA」を公表する準備中」と、13日の朝日の記事にあるのですが、その厚労省による「正しい理解のために」(http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/06/tp0605-1.html)という文書は、「魚は健康に良い」、といった主張ばかり。BSEのときに、農水大臣が牛肉を食べて見せたというパフォーマンスと似た発想。 B君:消費者がどのような情報を求めているのか、この段階では、まだ厚労省は理解していなかった。 A君:さて、その後の厚労省のホームページですが、6月16日に、QアンドAが出ていますが、6月21日現在で、トップページから探すのは難しいようです。TOP−>Q&Aコーナー −>食品 とたどるか、あるいは、TOP−>トピックス−>医薬局とたどる必要があって。 B君:Q&Aが出ているということを知っていれば、容易に到達できるが、それ以外だと、検索を使うのが速いだろう。ということは若干不親切なのか、それとも、ホームページを見に来る人にとっては、十分と言えるのか。 A君:いずれにしても、厚労省のホームページで、Qとして出ているのは、以下の通りです。 C先生:このQ&Aだが、一般の人が疑問に思うことがすべて含まれているだろうか。 A君:それにつきましては、6月19日にNHKが「生活ほっとモーニング」でこの問題を取り上げ、ほぼ完璧とも言える放送をしています。 B君:この番組が優れているのは、やはり、実際にアンケートを取ったことだろう。たった200名へのアンケートで十分な結論が出ている。 NHKの生活ほっとモーニングが整理した、市民の疑問をまとめると、 妊婦について: 魚について: その他: A君:東北大の佐藤洋先生が登場し、今回の発表は、極めて予防的な発表である、と述べています。日和佐信子氏は、今回の開示のやり方は良かったが、多少説明不足だった。特に、胎児にどのような影響があるかを述べていないところが問題だとしている。 B君:これから一つずつ検討するか。NHKの質問を基本に、厚生労働省のQ&Aなど検討しよう。 (1)なぜ妊婦なのか? どんな影響があるのか? 厚生労働省による説明:一部の魚介類等では食物連鎖等によりメチル水銀が蓄積することにより、胎児に影響を及ぼすおそれがあるレベルの水銀を含有していることから、妊娠している方等については、魚介類等の摂食について、次のことに注意することが望ましいと考えています。 B君:厚労省の回答では、何が本当に危険なのか、良くわからない。やはり、NHKの放送のように、どんな研究に基づくものであるかまで、きちんと述べる必要がある。 C先生:もともと研究も不確実性が高いものだ。そんな不確実性のあることを根拠にしているのがバレルのがいやなのだろうか。むしろ、積極的にそれを出すべきだと思うのだが。 A君:そこまで出さなくても良いという、単純な発想ではないでしょうか。 (2)どのぐらいの量が問題になるのか? NHKの説明:水俣病の最低発症値(感受性の高い人が比較的軽い症状がでたときの摂取量)は250μg/日(体重50kgを仮定)。それに対して、現在の規制値は24μg/日。現在、8.4μg/日が日本人の平均的な摂取量。 厚労省:水銀、特にメチル水銀は非常に高いレベルでは水俣病などが報告されていますが、今回の注意事項をまとめた際に試算されたようなレベルで懸念される健康影響は、一般成人等に対するものでなく、感受性が高い胎児に対するものです。このため、今回の注意事項は、妊娠している方等のみを対象に作成されたものです。 A君:この厚労省の説明は、水俣病の最低発症量の数値が無いので、どのぐらいの値であるか、判断が付きにくい。しかも、今回の注意を守らなかったら、胎児性水俣病になってしまうのではないか、というようにも読めますね。 (3)なぜ今発表なのか。 厚労省:近年、水俣病等の非常に高いレベルおける水銀の健康影響ではなく、胎児期における低いレベルの水銀による健康影響について、国際的な調査結果が報告され、また、米国等で妊婦等への魚介類等を通じた水銀の摂取について指導が行われております。 B君:データが揃ったからということを強調しているが、実際、ここまで詳しい説明は必要ではないだろう。良くやっているという自己宣伝は少ない方が良い。 (4)妊娠中に食べてしまったがどうなの? 厚労省:一回又は一週間の食事で、注意事項にある魚介類等を食べ過ぎた場合、次回又は次週の食事でその量を調整するようにしてください。例えば、ある週に注意事項にある魚介類等を食べ過ぎた場合、次の週や、その次の週に注意事項にある魚介類等の量を減らしてください。 A君:この質問については、いつ食べてしまったのか、という想定の範囲が狭い。今後、間違って食べてしまったらということだが、こんな質問をする人が、そのような間違いを起こすとは考えられない。過去の問題を問われているのだと思うが。 B君:キンメダイもメカジキも高級魚だから、そんなに大量に摂取しているケースは無いだろう。 (5)水銀は体に蓄積するのか? 厚労省:なし A君:この情報は重要。70日間、食べなければ、一応リセットが利く。といっても体内濃度が半分になるだけだけど。 (6)授乳中は? 厚労省:母乳に移行する水銀の量は母親の血液中の水銀の量に比べて少ないこと等から、水銀による健康リスクが特に高いのは妊娠中であり、授乳中のリスクは低いと考えられています。 B君:この回答はこれで良さそう。 (7)どうして魚に水銀があるのか? 厚労省:水銀は、天然に存在する成分であって、環境中の水銀の主要な発生源は地殻からのガス噴出によるものですが、その他の人工的な汚染源としては、化石燃料の燃焼、硫化鉱の精錬、セメント製造、ごみ焼却などがあると報告されています。 A君:化石燃料などの話は、とりあえず不要なのでは。もしも、割合まで示すことができれば、有用になりうるのですが。 (9)食物連鎖? 厚労省:川や海の水銀は環境中の微生物によりメチル水銀に変化し、魚介類に取り込まれます。このため、多くの魚介類等にメチル水銀が含まれていますが、食物連鎖の上位にあるサメやカジキなどの大型魚のほか、キンメダイのような深海魚、一部のハクジラ等は、比較的多くのメチル水銀を含んでいます。 C先生:食物連鎖のような地球の仕組みの理解をすることは重要だ。 (10)魚の水銀量は増えているのか? 厚労省:間接的な答え。 A君:もっと歴史的な記述が必要なのでは。 (11)国はどんな調査をしたの? 厚労省:厚生労働科学研究による調査結果、各地方自治体及び水産庁による検査結果(約300種、約2,600検体)、米国及び英国における検査結果をあわせて解析した結果、メチル水銀の平均が0.3ppmを超える魚種、及びメチル水銀の検査を実施していない場合には総水銀の平均が0.4ppmを超える魚種とその平均水銀濃度は次のとおりです。ただし、わが国と米、英国のデータに大きな差があるもの、メチル水銀量が総水銀量を大きく上回っているもの及び検体数が少ないものについては除外しています。 A君:この最後の除外しています、というのがどうも信頼性を損ねる。 (12)産地で水銀の量は違うの? 厚労省:なし C先生:一言欲しい。 (13)海草や貝はどうなの? 厚労省:なし C先生;一言欲しい。 (14)水銀を取り除く調理法はあるの? 厚労省:なし C先生:一言欲しいところ。 (15)漁業への影響は? 厚労省:なし NHK生活ほっとモーニング出演者の最終感想。 日和佐さん:検査した魚の数が少ない。どのように慎重に発表しても、風評被害が全く起きないという訳には行かない。そのために、基金が必要かもしれない。 佐藤先生:魚の不飽和脂肪酸は健康によいとされている。水銀についてより正しい判断をするために、さらなる調査研究が必要。 三井ゆりさん:水銀などという有害物質を、微量と入っても、すべての生物が含んでいることを知ってビックリ。今後は、知ってビックリというのではなく、勉強したい。
A君:厚労省の発表も、それなりに工夫はあり、Q&Aも努力は見られるのですが、やや具体的なイメージ作りという点では、まだまだ不十分。特に、メチル水銀の胎児への影響のところと、水俣病との関連のところが、具体的に述べるべきなのに、いささか物足らない。 C先生:要するに、もしも食べ過ぎたらどうなるのだ、ということを徹底的に知らせることが必要なのだ。 B君:何もかも、全部を発表してしまうことによって、結果的に不安感の解消が可能だという理解になっているのだが、厚労省の発表では、その点がもう一つ。 C先生:メチル水銀の胎児などの脳神経への影響は、「水俣病の科学」、西村肇、岡本達明著、日本評論社2001年によれば、以下のような記述がある。こんなことも、できるだけ情報として付け加えたいものだ。 要約: 「Q:メチル水銀が脳神経のどこを損傷するのですか」 A君:今回の厚労省の発表では、水俣病と今回のメチル水銀とのイメージが重なることを心配して、むしろ水俣病を連想させないように、という配慮があったように思うのですが、それがむしろ逆効果だったということが一つの結論ではないでしょうか。 B君:そこまで書きたくない、という気持ちもあったろうが、記述が大量になり過ぎるので書けないという問題もあったろう。 A君:その通りだと思います。コミュニケーションのために必要な、こんなにも大量の情報を、厚労省が発表して、それを新聞が掲載し、テレビが放映するということに期待する、というこの情報伝達の方法論そのものがもはや破綻しているのではないでしょうか。 B君:重要な点だ。もう紙切れ一枚では済まないのだ。厚労省のQ&Aも、発表されているのが、6月13日だ。どうして6月3日に報道資料と同時発表ができなかったのだろうか。 C先生:風評被害がでないと思っていたわけではないだろう。少々想像力が落ちていて、工夫ができない状態になってたのかもしれない。次回何かあるときに、同じことにならないように、良い方法を考えて、提案してみよう。 A君:まず最低限の要求から。報道資料と同時に、今回のQ&Aよりもさらに出来のよいものを作って、ホームページに掲載すること。 B君:その際、やはりお役所用語と自己都合的主張が気になるので、最終原稿は、外注して作ってもらうこと。 C先生:どうせ外注するのなら、Q&AのQにどんなものがあるか、外注先に調査させて、Aも外注先が作れば良いのではないか。 A君:そこまで外注するのなら、新聞の全面広告を自前で出すのが良いのでは。Q&Aも全部付けて、ビッチリ細かい字で良いから説明を存分にして。 C先生:それは良い。報道からの独立も可能だ。風評被害がでそうだと思ったら、そんな対応が良いかもしれない。 B君:しかし、風評被害が出るかどうか、その読みが難しいのかもしれない。 A君:いやそんなのは分かる。我々でも十分に経験を積んだから。 C先生:テレビの番組を役所が自作するのは難しいだろうが、実際のところ、今回のNHKの生活ほっとモーニングは、ほぼ完璧に近かった。あんな番組の制作を依頼できれば、まず大丈夫なのではないだろうか。 A君:NHKに頼む。公共放送なのだから、ある程度は協力すべきでしょう。 B君:テレビで広報と言えば、AC(公共広告機構)の活用も良さそうだ。 A君:そういえば、ACが政府機関だと思っている人も多いのでは。社団法人です。会員、1366社。そして、新聞社123社、放送会社224社、雑誌社31社、鉄道会社が会員で、各社の広告スペース、CMタイムなどが無料で提供されていて、その総額は300億円相当になるそうで。 C先生:いずれにしても、今回のメカジキ・キンメダイに関する話題は、日本における環境コミュニケーションの問題を浮き彫りにした。これを例題として良く考える必要がある。現在の日本の市民レベルに合わせるとなると、市民から質問をとって、それを元に45分間のテレビ番組を作るぐらいの手間を掛けないと、コミュニケーションが取れないということだろう。 A君:あの「マイナスイオン」にしても、45分から1時間ぐらいの放送が民放で何回もあって、とうとうウソが染み付いてしまった。 B君:となると、最初から、そのぐらいのことをやることを想定しておけ、ということだろう。 C先生:良い例を作ること、それを積み上げて、信頼を得ることを目指すべきだろう。 |
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