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  韓国のエネルギー政策は原発増強    05.10.2009
     



 5月8日、ソウルのCOEXで行われたWorld Civic Forumで、講演を行った。会場には、ほぼ韓国人のみ。しかも、私を招待してくれた李教授の大学の学生が大部分だった。そこで、韓国人2名とともに、約1時間の講演を行ったが、そこで最後に講演した韓国エネルギー経済研究所の金氏の内容はなかなか面白かった。

 韓国は、どうも、原発によるエネルギー供給の増加を目指すようだ。日本と似た状況の国だが、アプローチは違うのか。それとも、国のポリシーは、同じだと言えるのか。個人的には、エネルギー効率の極限までの向上を目指すことが、日本のエネルギー安全保障と、科学技術立国を支えるポリシーだと思うのだ。

 一方、韓国では、一人あたりのエネルギー消費量を下げようという発想はなさそうである。先進国が一人あたりのエネルギー消費量で平等化をはかるとの議論を受け入れること、これが長期的にみて国際交渉がある合意にいたるかどうかを決めそうな気がする。

 書き忘れたが、韓国は、8月には、ポスト京都対応について、なんらかの意志の表明を行うらしい。日本はちなみに、6月中だとされている。



C先生:今回は、新型インフルエンザによる様々なリスクを慎重に見極めての訪韓になった。本当に、様々なリスクがあるのだ。

A君:検疫法の「停留」措置になると、10日間、ホテルに缶詰ですからね。

B君:その時点で、日本国内での発症はゼロ、そして、韓国は3名の発症者数だった。しかし、もう一人の日本人の発表予定者は行かなかったとか。

C先生:その人の所属する国立大学法人は、4月30日に指令を出していて、「3.メキシコ、北米等の新型インフルエンザ発生国への渡航は自粛願います」、となっている。これを厳密に考えれば、「等」に韓国が入ることになる。

A君:しかし、韓国の発症者3名は、病院に隔離中。それ以外にももちろん何人かの患者は隠れているだろうけど、それほどのリスクでもないと判断すべき。

B君:4月30日から連休に入ってしまったので、細かい対応ができなかったのではないか。

C先生:東工大の某先生に会ったら、たまたま米国にいっている間に今回のインフルエンザ騒ぎになって、東工大では、10日間登校無用という措置だったそうな。

A君:日本は、検疫を厳密にやるという実験中みたいなものなので、それに従う方向なのだろう。

B君:リスクをどう考えるかという問題は、いつでも日本の場合には、確率的な考え方をしない。

A君:リスクは確率であり、どこにいても何をしていてもリスクがあるという考え方をするのは日本人は一般に苦手。

C先生:まあそんなところで話を進めることにする。韓国のエネルギー経済研究所というのは、エネルギーの政策研究の中心的存在のようだ。いろいろなデータを出しているようだ。

A君:日本にもエネルギー経済研究所というものがあって、そこもエネルギー政策の研究をしていますね。例えば、2008年12月24日には、2009年の国際石油情勢と原油価格展望を発表している。年平均価格は、08年の半分程度の45〜50ドル前後としている。

C先生:金氏の講演題目は、「エネルギー政策の方向性と役割」といった感じだった。
 まず、韓国の現状解析から。まずは、図1だが、これが1980年以降の統計量の推移。一次エネルギーの総量も、一人あたりのエネルギー消費量も、ほぼ原点を通る直線で伸びる傾向を示している。ところが、最大の問題は、輸入金額で、これが、2008年には極めて急速に伸びてしまったことだ。



図1 韓国のエネルギー関係の動向


A君:日本でも同様なのですが、2008年度のエネルギー輸入総額が分からないので、比較が難しい。

B君:この輸入金額を支払うと、せっかくの輸出で得たドルが流出してしまうことは、日本と全く同じ状況だろう。

C先生:次に、エネルギー消費の構造を図2に示す。



図2 韓国のエネルギー消費の構造


A君:比較のために日本のエネルギー消費の構造を図3に示します。



図3 日本のエネルギー消費の構造


B君:韓国の工業セクターでのエネルギー使用がどんどんと増えている。日本の場合であれば、工業セクターでの消費量は、なんと1973年の第一次石油ショック以来、ほぼ頭打ちになっている。この日韓の差は非常に大きい。

A君:交通、民生については、一見似ているようにも見えるのですが、さらに詳しく見ると、民生の増加がそれほどでもないことに気づく。これは、やはり気候が寒冷だからでしょうね。

B君:オンドルか。

C先生:オンドルは、発想としてセントラルヒーティング的だから、改善が必要だと話をしたら、韓国人の女子学生が後で抗議をしてきた。韓国の伝統を止めろというのか、という感じだった。だから、きちんと気候変動への影響を定量的に評価して、もしも伝統的なオンドルが優れているという結論が出たら、知らせるように、と話した。

A君:オンドルといっても伝統的なオンドルは、石炭などの燃料を燃やして、その煙を家の床下に配置した煙突を流して一軒丸ごと暖房をする方式でした。しかし、今では、温水を回したり、電気で加熱する床暖房になっている。

B君:床暖房というと熱効率が高いという感触の人もいるようだが、決してそんなことは無い。断熱が極めて重要。ただし、空気を加熱するエアコンなどよりも、快適性は高い。

C先生:それで今後どうしようというのか、と言う図が、これだった。



図4 韓国の今後の方向性

A君:GDPあたりのエネルギー効率が現時点だと日本の1/3しかない。これを40%ぐらい減にしたい。石油への依存を44%から33%に下げたい。再生可能エネルギーを11%に上げたい。

B君:それには、いくつかの戦略を練る必要があるが。

A君:どうやら原子力を現在の13.5%から2030年までに27.8%までほぼ倍増することが原動力になる。もちろん、再生可能エネルギーは増やすしかないのだが。

C先生:2008年時点での発電の状況が図5だ。



図5 韓国の電力用一次エネルギー


A君:この図を日本で描くと、図6のようになります。



図6 日本の電力用一次エネルギー


B君:日本の方がいささか石炭が少ないぐらいで、決定的に違うという訳ではない。

C先生:自然エネルギーを考えても、日本と韓国の状況はよく似ている。そのため、戦略としても同じようなことになってしまうのだろう。

A君:しかし、この原子力依存型のシナリオが本当に受け入れられるのか。

C先生:そこはやはり大問題のようだった。原子力は二酸化炭素をほとんど出さない発電方法だということを金氏は強調したが、それに対して、質問があって、それなら原子力は、グリーンなエネルギーなのか。

A君:それはなかなか優れた質問。

B君:答えは、温暖化対策としてはまずまずなので、温暖になることを打ち消すので、まあグリーンではなくても、ブルーぐらいは言えると答えたのでは。

C先生:いやいや、金氏の答えは、「原子力はイエローエネルギーだ」、だった。

A君:なるほど。

B君:韓国は、原子力の最終処分地などはどう考えているのだろうか。

C先生:それについて、余り明確な発表は無かったが、どうやら、低レベル、中レベルの放射性廃棄物の最終処分地を現在探しているということのようだった。地名としては、Gyeongju=慶州の名前が出てきた。

A君:あの世界遺産の慶州でしょうかね。

B君:昔だとKyongjuと書いたけど、今だとGyeongjuだろうからそうだろう。

C先生:使用済みの核燃料をどうするのか、についても余り明確な発表は無かった。処理はまだ計画に入っていないような感触だった。

A君:それ以外の新世代の原発は?

B君:例えば、高速増殖炉FBRのようなもの。

C先生:それはやっていないとのこと。FBRは、韓国では第四世代と呼ばれているようで、まだまだ開発はしてないようだ。

A君:それだと、軽水炉。資源的には、ウランの奪い合いになる可能性が高い。

B君:それが原子力のもう一つの問題なのだが、それほど原子力発電所が新たに建設できるのか、それが分からないので、余り問題にならないのかもしれない。

C先生:世界全体としては、再度原子力の方向を模索し始めたと言えるようだ。

A君:そういえば、5月9日と10日の日本経済新聞の第一面の左側に、「原発再稼働−柏崎刈羽の教訓」、という記事が出ている。

B君:この記事が出たのも、新潟県中越沖地震で停止していた東京電力柏崎刈羽原発7号機が1年10ヶ月ぶりに運転を再開したからだ。

A君:その記事によれば、「地震国日本で起きた原発長期停止の教訓を検証する」、となっている。
 電炉による鋼材製造業の東京製鉄は、今年の夏はなんとか安定操業ができそうだ、と社長が胸をなでおろしているとのこと。

B君:「恩恵は家計にも。一時、地震前よりも14%上昇した電力代も、運転費の安い原発の比重が増せば料金の安定が期待できる」、としている。

A君:気候変動の主役が安倍晋三総理の時代には原子力発電だったのだ。原子力発電から出るCO2の量は、新鋭火力の1/20。天候に左右される太陽光や風力と違って、安定した供給が期待できる。

C先生:韓国の原子力に対する期待もそんなところにあるようだった。金氏は、原子力をどこまで増やすのか、ということだと、いわゆるベースロードとしての原子力だから、電力需要の41〜42%程度までは原子力で行きたい。ということだった。
 CO2排出の原単位については、g/kWhで、石炭=991、石油=782、LNG=549、原子力=10という値を使っていた。

A君:それだと新鋭火力を天然ガスで動かしたと仮定すれば、1/50ではないですか。
C先生:そのあたりも、何をどこまで計算しての話なのか、それが分からないので何とも言えない。

B君:コストは?

C先生:コストだが、Won/kWhを単位として、原子力=37、石炭=42、LNG=130、石油=178としていた。

A君:日経新聞の記事だと、太陽光の発電コストの1/8が原子力としていますね。かなり違うのでは。

B君:ちょっと戻るけど、ベースロードを原子力でカバーするというのは、日本と同じシナリオだと思うけど、フランスなどは原子力を出力調整をしながら運転しているのだが、韓国は日本と同じく、一定出力で運転することにしているのだろうか。

C先生:そのあたりは聞かなかった。日本の原子力発電も、出力調整は可能らしいのだが、自治体との合意で、一定出力で運転をすることになっているようだ。

A君:日本の原発の最大の問題点は、稼働率の低さ。02年の東電などで発覚した「トラブル隠し」で10基以上が止まり、国内原発の稼働率は80%台から59.7%に急低下した。

B君:諸外国で、こんなに稼働率が低い国は無い。米国では90%前後を維持していると記事にはある。

A君:日本の場合、1987年だったか稼働率が最高で、90%弱まで行っていたようですが、その後、下がりっぱなし。

B君:その記事でも指摘されているように、住民の安心につながる情報開示や透明性確保は原発停止の大きな教訓なのだが、薦田原子力保安委員長は「事業者に”安全文化”が十分浸透していない」とこぼす、とのこと。

A君:日経新聞は行政側の対応の遅れも指摘している。「耐震指針」は、中越沖地震直前まで四半世紀も改定されなかった。入倉孝次郎京大名誉教授は、「国が最新の工学的知見を取り入れ、規制を弾力的に運用する仕組みが必要」としているとのこと。

B君:国際エネルギー機関IEAは、「2030年に原発の発電量を1.9倍に増やす必要がある」と報告したそうだ。新聞の主張も、「日本も長期的に原発依存度を増やすことは避けられない」。

C先生:そこに至る道はなかなか平坦ではない。原理原則は、環境問題と同じで、リスクを最小化することなのだ。すなわち、エネルギー資源の供給が途絶えるリスク、原子力発電が引き起こす総合的なリスク、他の発電方法によるリスク、特に、風力、太陽光などによる不安定なエネルギー源が引き起こすリスク、特に、価格の高騰を含めてのリスク、などなどをまさに総合的に検討した上で、結論を出す必要がある。

A君:現時点の日本だと、中越沖地震で柏崎刈羽が止まったので、原子力のリスクは地震が最大の要因だという理解のように思えますね。

B君:それが、5月10日の日経新聞の主たる論旨だった。「大震災に耐えられたのは、設計に余裕があったからだ」。国際原子力機関(IAEA)は、計3回の現地視察を経て、東京電力の柏崎刈羽原発の耐震性をこう評価した。さらに、「柏崎刈羽原発から国際社会は多くを学べる」として、震災に強い原発設計に生かす方針を強調した。

A君:ところが、日本だと例の変電施設が黒い煙をモクモク出していて、消防車が全くやってこないテレビ画像が未だに網膜に染みついていますよね。

B君:日経も、「メディアに激しく批判されたのだが、海外の見方は少し違う」、としている。注目するのは、「原発がどこまで震災に強いのか」。地震国のチリでは、「日本の耐震技術がどう応えるか」を見極める。

A君:日経の続き。「中国は2020年に原発の設備容量を現在の8倍の7000万キロワットに引き上げる計画を表明。独自技術も開発し、現在の日本の1.5倍の規模の原子力大国を目指す。インドも、32年をめどに15倍に増やす方針を打ち出した」。

B君:「イタリアとフランスは原子力協定に調印。イタリアは22年に渡る脱原発政策を放棄した。フランスの技術を導入し、原発を四カ所に新設」。

A君:「スウェーデンも、1980年から続いた脱原発政策を撤回」。

C先生:日経も述べているように、原発回帰のもう一つの理由がエネルギー安全保障だ。ロシアは今年も欧州への天然ガス供給を一部停止。独仏や東欧では市民生活に影響がでた。

A君:サハリン1からの天然ガスも、ガスブロムが買い上げる方向でしょう。日本でもエネルギー安全保障という考え方が極めて重要。

B君:ところが、エネルギー安全保障という考え方は、日本では非常に弱い。

C先生:韓国の報告を聞いていても、エネルギー安全保障上重要という考え方が非常に強く伝わってきた。
 よく言うように、食料安全保障も重要だが、食料は、まだ40%もの自給率がある。しかも、コストを度外視すれば、日本国内での生産だって不可能ではない。まあ、準備期間が多少かかるから、その対応はしておく必要があるが。
 一方、エネルギーの自給率は4%に過ぎない。日本資本が海外で資源の開発をしているが、それだってサハリン1のように、あるいは、古くはサウジアラビアのカフジ油田のように、いつ利権が無くなるか分からない。

A君:中国がスーダンでやっているように、軍隊を引き連れていって、石油を掘れば、まあしばらくは大丈夫でしょうが。

B君:石油がでる国は、やはり先進国ではない。先進国が信用できるという訳ではないが、訳が分からない理屈が出てくる可能性は、先進国の方が低い。しかも、石油はまだしばらくはあるが、生産国の数が少ないので、生産調整が利くので、今後、年間の生産量は減るだろう。

A君:となるとやはり日本も長期的には原発でしょうか。

C先生:原発の難点はいくつかあるが、その最大のものが、途上国のように、治安が不安定な国では不可能ということだろう。そのため、やはり先進国のものなのかもしれない。現時点で、原子力はエネルギーの10%程度に過ぎないので、ウランはまだまだ100年以上もつとされているが、もしも、世界中が軽水炉の建設に走れば、あっという間に、ウランの奪い合いになる。

A君:ウランの資源は、使用済み燃料を処理してプルトニウムを使えば、かなり増やすことができるはず。

B君:それもやり方次第。現在始まっているMOXという燃料では、資源利用効率が1.5倍になる程度。

A君:となると、日本のようにウラン資源もない国は、高速増殖炉を開発しなければ。

B君:それ以前に、現在もっている使用済み核燃料を的確に処理しなければ。あのまま放置しておくリスクの方が、処理をするリスクよりも高い。もっとも処理過程でリスクがどのぐらい増えるか、これが今のところ不透明。

C先生:先ほど言いかけたことだが、原子力を選択するもしないも、それは、今後の市民社会が決めることだ。その基礎になる議論が、リスクの最小化だ。どのような組み合わせが総合的なリスクがもっとも低いのか、それが資源の枯渇を招いて、時代とともに変わることは無いのか。こんなことをすべて公開して、市民社会に選択をしてもらうことが重要なのだ。

A君:しかし、日本の場合には、リスク感覚がちょっと変わった国ですからね。

B君:確かに。その典型が臭素系難燃剤だろうか。ヨーロッパなどでは臭素系難燃剤を使わないので、テレビが火を噴く。しかし、そのような事故は、保険でカバーすれば良いという考え方のように思える。
 日本だと、臭素系難燃剤によるうっすらとしたリスクを社会全体で受け入れて、テレビが火を噴くといった大きなリスクを回避する。

A君:日本は、ある特定の個人が被害者になることを正義だとは思わない。

B君:BSEの時にも、そんなことを議論したが、あれほどリスクが低いものなのだから、対策などをしないで、もしも日本国内で牛肉を食べてvCJDに掛かったら30億円ぐらいの保険金を出すというのはどうだろうと提案したが、ふざけるな、という反応だった。

A君:日本社会はゼロリスクでないと駄目。うっすらとしたリスクがあるのだが、それはゼロに近いとして余り重視されないことはある。ある特定の場所に迷惑施設を作ると、その近所の不動産価格が下がるという理由で迷惑施設が排除される。こんな場合でも、うっすらみんなで負担する社会を作れが良いのだが、それには国土が狭すぎるのかもしれない。

C先生:先日、青森県六ヶ所村を見てきたが、そのPR施設はよくできているのだが、「原発にはリスクがある」、という情報はほとんど見つからなかった。例えば、現在、備蓄されている使用済み燃料の総重量とか、それが今後どのぐらいの速度で増えていくのか、などを知りたいと思った。
 すべてのエネルギーには、枯渇する、供給されないというリスクを含めると、大きなリスクがある。
 多分、こんな過程が必要なのだろう。風力発電、太陽光発電を極限まで増やす。すると、その不安定さによるリスクの大きさを実感できるようになる。あるいは、再生可能エネルギーが高価であるために、エネルギー価格が上昇するということを実感するようになる。こうでもない限り、日本の市民社会はリスクの比較をするようになる。そこで初めて、原子力を受け入れるかどうか、という冷静な議論ができるようになると思うのだ。

A君:それにしても、韓国は、省エネという考え方が余り強くはない。

B君:それは、まだまだ経済が発展するという思いが強いからだろう。省エネが経済活力になるという考え方になるには、もう少々時間が掛かる。

C先生:それが日本という国にとって、しばらくの間チャンスになるというのが、感想だった。やはり日本は、エネルギー使用量を半減することを目標に掲げて、極限までのエネルギー効率の向上を目指してみたい。それがもっともエネルギー安全保障に見合ったアプローチだと思うからだ。