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   巨大災害 日本に迫る脅威   04.16.2016
            日本列島のプレート構造の詳細       




 熊本地方が地震で大変なことになっています。災害によって被害を受けられた方々に、お悔やみとお見舞いを申し上げます。

 今回、ニュースを見ながら、一つの番組が気になりました。それは、NHKスペシャル 巨大災害 MEGA DISASTER U 日本に迫る脅威 地震列島 見えてきた新たなリスク という番組で初回放送が2016年4月3日(日)午後9時からだったようです。その再放送を録画し保存してありましたが、調べたところ、4月6日夜の再放送のようです。

 この番組の内容は、東日本大震災以来、日本列島全体が様々なところでこれまでに見られなかったような地震が起きるという異変が見られるということでした。京都大学防災研の西村卓也准教授の研究が紹介されています。実例として上げられている地域は山陰の倉吉市の近傍、さらに言えば、三朝温泉近くの山中の狭い範囲で、小規模な地震が多発した、という奇妙な例が紹介されていました。

 しかし、番組が示した結論は、日本列島は、これまで言われていたような主として4つのプレートからできている、という単純な構造よりも、はるかに複雑な複数のプレートからできているという結論でした。その図が非常にインパクトがあるのです。

 地震予知は大変難しいことですが、予知は無理としても、なんとかリスクにもう少々早目に対応することはできないのでしょうか。今回の熊本地震を若干解析しつつ、そんなことを考えました。

付録(4月16日夕):
 今、池上さんがニュース解説のテレビ番組で熊本地震を取り上げています。本記事で、もはや有効な概念ではないと否定した中央構造線を使った議論をしています。

付録その2(4月17日朝):
 日経の17日の朝刊総合面では、今回の地震が既存の活断層から離れたところでも起きているという図を出しています。京都大学の飯尾教授は、「今回の地震は良く分からない。見たことのない現象が続いている」と発言したそうです。まだ、地震学も進化が要求されているようですね。様々な説が、今後検討されるものと思いますが、もし、NHKスペシャル流の解釈を拡大して、「さらに地球の深部にあるマントルの特性に基づく影響を考えるべき」、という主張だと理解すれば、地下深くで何かが起きているということになるのかもしれません。



C先生:なかなか大変な災害だ。東日本大震災のような巨大災害とは言えないかもしれないが、最終的にどうなるか、楽観はできないように思える。加えて、NHKスペシャルの巨大災害は、一見に値する番組だった。若干紹介して欲しい。

A君:この番組の紹介があります。
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20160403

B君:イントロで出てくることが、巨大地震で沈下した海岸線が数10センチも隆起していること。

A君:東北大の日野亮太教授が解析している、以前から海底に沈めたGPSが示す巨大地震前後の海底プレートの動き。さらには、陸側のプレートの動きの観測結果などから、見える予想外の海底の動き。などが紹介されています。

B君:東日本大震災以後、ロシアや中国でも、地盤が動きはじめたとのこと。その理由として、マントルの粘弾性体としての特性があるのではないか、と日野教授は指摘している。

A君:粘弾性とは、シリコンゴムなどに見られる力学的な特性で、大きな形状の変化が与えられると、その後、時間を掛けて元の形に戻るという現象。

B君:しかし、この研究によって、次にどこに地震が起きるかが確実に分かるという訳ではない。

A君:次に紹介されるのが、京都大学防災研の西村卓也准教授。GPSを使った地盤の位置の変動を精密に測定するもの。

B君:ちなみに、GPSという言葉は、Global Positioning Systemの略語で、厳密には、米軍が開発したシステムの名称で、現時点でもっとも一般的に使われている衛星システムのこと。最近では、他の国の衛星システムを含めて、一般用語として、GNSS(Global Navigation Satellite Systems)と呼ばれる。

A君:国土地理院が定める準則でも、2011年4月からは「GNSS測量」という用語を使うようになった。

B君:最近のGNSS測量の精度はかなり高い。日本測地学会の「測地学のテキスト」によれば、
http://www.geod.jpn.org/web-text/part2/2-4/index.html
その測定精度はmmオーダーに達しているとのことだ。

A君:ただし、地殻変動の測定を目的とする機器は、そこまでの精度が不要なカーナビなどとは、異なった原理で二点間の位置の測定が行われています。

B君:以前は、日本列島は、北米プレート、太平洋プレート、フィリピンプレート、ユーラシアプレートという4つのプレートに分かれていて、それぞれのプレートの境目で巨大地震が起きると考えられてきた。しかし、最近のGNSSの進化によって、異なった概念が生まれつつある。

A君:日本のプレートは、こんな簡単な図で表現されていました。


図1 日本列島とプレート

B君:東日本大震災は、確かに、この北米プレートと太平洋プレートの境目で起きている。しかし、西村准教授の先端的な研究結果によれば、次の図2のように、はるかに多くのプレートからできていて、その境目に断層が存在していると考えられる。


図2 西日本のプレートの状況 西村准教授のデータ。NHKスペシャル巨大災害のテレビ画面をデジカメで撮影したもの。

A君:どうにも複雑な構造ですね。その境目で比較的大きな地震が多発するということですか。

B君:どこにも安全なところはない、に等しい。

A君:一つ大きな疑問なのですが、糸魚川静岡構造線とか、中央構造線とか、フォッサマグナとかいった概念はどうなったのでしょうか。

B君:ちょっと調べてみると、フォッサマグナは、ハインリッヒ・エドムント・ナウマン1885年に「日本群島の構造と起源について」という論文で発表したのだそうだ。糸魚川静岡構造線は、フォッサマグナの西端だということだった。

A君:中央構造線については、大鹿村中央構造線博物館というWebサイトがあって、中央構造線ってなに?という記事が詳しいようですね。
http://www.osk.janis.or.jp/~mtl-muse/subindex03.htm

B君:ナウマンの発想は、伊豆半島がフィリピンプレートに乗って本州に衝突したために、本州が影響を受けてできたのがフォッサマグナだということだったらしい。今となっては、無視することで良いのでは。

A君:大鹿村のWebサイトの図によれば、天竜川にそって中央構造線があって、豊川市あたりから渥美半島へ。伊勢湾を渡って伊勢へ、紀伊半島を横断して、紀ノ川、吉野川、そして佐多岬半島で九州へ。
 西村准教授の図2によれば、中央構造線は糸魚川から駿河湾に行き、そこから伊豆半島の左右に分かれて海のプレートになります。少なくとも、諏訪から渥美半島、そして、伊勢にいく中央構造線は無いのですね。

B君:これって結構重要な事実かもしれない。東海道新幹線が横切っている活断層としては、小田原駅の手前、丹那トンネル、富士川、そして、新大阪駅のすぐ手前の4本が危険性が高いと思っているのだけれど、もしも中央構造線が活断層だとしたら、豊橋−豊川付近がも危ないことになるのだけれど。

A君:日本中どこで地震があっても不思議ではないのですが、豊橋−豊川が危ないか、といった情報を得ようとすると、産総研の活断層データベースが重要ですね。調べてみましょうか。
https://gbank.gsj.jp/activefault/index_gmap.html
 答えが分かりました。西村准教授の結果を解析すると、天竜川ではなく、国道152号線に沿った経路のようで、この谷に活断層が北から大鹿、中郷、水窪と3本あるのですが、平均変位速度と最新の活動時期から、危険かどうかの判定が可能なのですが、平均変位速度が0.0〜0.1m/千年で、ここ100年程度で動く可能性は低そうです。要するに、地震、すなわち、活断層を考えるとき、中央構造線という概念は無視して良い。少なくとも、中部地方までは。

B君:そう言えば、この産総研のデータベースが、今回の熊本の活断層について、どいうデータを示していたかをチェックしなければ。こんなのんびりした話をしていて良い訳はない。

A君:確かに。今回の地震の原因となった活断層は布田川断層と呼ばれます。平均変位速度が0.9m/千年、どのぐらいずれると地震になるかが2.8mとされています。すなわち、平均的に3100年ごとに活動している。野外調査による最新活動時期がBC4772〜270年で、地震後の経過率が1.44です。1を遥かに超している。すなわち、いつ起きてもおかしくない。そのため、今後30年以内の活動確率が6%という極めて危ない活断層でした。この範囲内にある活動確率が5%と高い活断層が、府内活断層でして、別府湾の南側を走っています。経過率が0.96というもの。もう一つが八代活断層で、経過率が0.99です。いずれもかなり危ないものでした。

B君:大分県の由布でも地震が起きているけれど、対応する活断層が無さそうだ。見つかっていない断層が原因なのかもしれない。

A君:八代断層が連動して起きると、さらに大変なことになるかもしれない。

B君:無いことを祈ろう。

C先生:産総研のデータベースが有効なことは分かったが、それだけで決定的な予測ができるとも思えない。30年以内に地震が発生する確率が6%だと言われても、対応のしようがない。やはり、このような基礎データと、西村准教授が計っているGNSSによる地盤の移動速度を加味して、予測の精度を高めるといったことはできないのだろうか。

A君:可能性はありそうに思うのです。もう一枚、テレビの画面を示します。


図3 GNSSを利用して測定した測定点の移動速度の九州部分。NHKスペシャル巨大災害の画面をデジカメで撮影したもの。

B君:熊本から阿蘇をつなぐプレートの境界には、かなりのずれの応力がかかっていることがすぐ分かる。島原半島が乗っているプレートと延岡が乗っているプレートの阿蘇に近い境目付近で、移動方向が変わっている。

A君:方向だけでなく、北側の矢印の長さが短めで、南側の矢印の方が長い。ということは、この境目に応力が集積されているということにはならないでしょうか。

B君:鹿児島が乗っているプレートと延岡が乗っているプレートの境目は、同じぐらいの速度で移動しているので、ひずみが溜まっていないように思える。

A君:産総研のような、活断層そのものを調べるという地道な活動で断層の活動の歴史を把握すること。それに、GNSSを用いた地盤の移動速度を精密に測定すること。この2つを組み合わせることによって、正確に何月何日ということが分かるようになるとは思えないのだけれど、危険度が高まっている地域はどこかについての情報を提供し、少なくとも、若干の準備をすることを薦めることは必要なのかもしれない。

C先生:そうだな。地震の予測は実に難しい何が難しいかというと、例えば、ある予測が出たとして、そのためにその地域を通る新幹線を止めるのか、と言われれば、それほど確実な予測ができるというものではないので、できない。できることはと言えば、もっとも確実なことは、建物の補強を推奨することだ。コンクリートの建物でも、1981年6月1日に建築基準法が変わっているので、それ以前に建築確認を得た建物は補強をしないと危ない。例えば、今回、4階が破壊された宇土市役所の建物は、50年前のものらしい。補強が不可欠だったのだと思う。一般家屋でも、古くなった木造瓦葺きの家は危ない。せめて、瓦を軽量なスレートにでも置き換えるといった対応を行うことを薦めることはできる。

B君:もっと短期的な話になるけど、非常用食料品や水を多少多目に備蓄しておくとか、都市ガスは一旦止まったら1ヶ月来ないので、ポータブルIHヒータを新しくしておくとか、ガソリンはこまめに満タンにしておく習慣を身につけるとか、そんなことぐらいしかできない。

A君:予測して、もしも全く空振りに終わったら、何を言われるか分からない。

B君:最近、東大の某名誉教授による予測がやや有名になったのだが、今回の予測ができたかどうか、というブログがある。
http://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/a525982aff0851971b3774b45b7f2ce6

A君:なかなか難しいということですよね。この予測の方法も、実は、GNSSのデータに基づいているらしいのですが。

B君:ところで、西村准教授による日本の複雑プレート構造には、東日本のデータが足らないような気がするのだが。

A君:その通りですね。最新のデータは分からないのですが、西日本中心に研究をしているようです。NHKスペシャルでは、ほぼ同様の研究をしているハーバード大学のブレンダン・ミード教授(Brendan Meade Prof.of Earth and Planetary Sciences)を紹介しています。彼は、東日本のデータも明らかにしています。東京西部にもプレートの境目があるという結果らしいです。その場所ですが、狭山湖と相模湖を結ぶ線の上ぐらいらしいですけれど。

B君:最新の論文をチェックしてみると、ミード教授は、日本へのプレートの沈み込みの研究をしている人のようだ。

C先生:今回の熊本県の地震は、全く想定外で驚いた。しかし、今回の記事を書くための調査を若干やって、大分色々なことが分かった。結論的には、産総研の活断層データベースは、やはり参考にすべき重要なものの一つだということが証明されたと思う。さらに、GNSS網だが、日本中にもっと細かく測定網を張り巡らせば、もっと何かが分かるかもしれない。国土地理院の最新のデータでは、今回の熊本地震による地殻変動の結果が、流石に今朝の地震のものではなく、4月14日のものだが、すでに出ている。
http://www.gsi.go.jp/chibankansi/chikakukansi_kumamoto20160414.html
 しかし、地震の予測できるかどうかは別問題だし、正式に予測をするというと、社会的な問題が大きくて、そう簡単ではない。
 それに、GNSSの進化はなかなかすごいものがある。mmの変化が測定可能になっている。個人的には、一時期、ポータブルGPSを収集していた時期もあるし、現在でも、ヨーロッパを運転するときには、日本からGarmin製のGPSを持参する(Google Mapも併用するのだけれど、電波が取れなくなると無力なので)といったことで、古くからのGPSマニアの一人だったと言えると自認している。そのため、GNSSなどのデータを見ると、その進化が実感できるのだ。