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   藻類バイオマスに進化の兆し  06.09.2018
       東大・倉橋先生の新プロジェクト

               



 JSTに所属していたとき、CRESTのCO削減領域の研究領域総括代表を務めるようになり、はじめて、藻類バイオマスのプロジェクトの評価をするようになりました。その頃の藻類へのメディアの関心は相当なものでした。筑波大学の教授であった渡邉信教授は、オーランチキトリウムなる名称の藻類で、エネルギー問題が解決できるといった提案をして、このCRESTのプロジェクトに採択されました。
 しかし、研究をするめる際に領域アドバイザーの諸先生からのアドバイス、すなわち、本当にエネルギーのゲインがあるのか育成に使っている化石燃料からのCO排出をキャンセルできる程のバイオマスエネルギーが得られるのか、という問に対して、真正面からの回答が得られなかったもので、途中で、このプロジェクトを当領域から外しました
 その後、藻類研究はかなり下火になりました。やはり、同じ問題、すなわち、どのようなことをしても、結局、いささかの化石燃料は使わざるを得ない。使ったエネルギーをゼロに戻すだけのエネルギーが藻類から得られるのか、という疑問に正しく答えを出せるプロジェクトは存在しなかったためだと思います。
 ところが、このような疑問にやっと答えを出すプロジェクトが始まりそうです。このアプローチが、唯一、成功する条件を満たしているような気がします。


C先生:昨日(6月8日)、東京大学農学部の弥生講堂一条ホールで、「バイオマス・コンビナート実現へ」という講演会があった。そこで、一番最初のイントロとして、例の話なのだけれど、「パリ協定が示す今後の社会とエネルギー」という題目で30分の短い講演を行った。もしも、バイオ燃料として藻類オイルが大量に産出できるような状況になれば、それがこのプロジェクトのように、ペルーで行われたとしても、輸入をすればよい。まともな液体燃料は、エネルギー備蓄の最善の形態なので、エネルギー自給率が50%ぐらいしか行かない日本という国にとっては、大変に助かることになるのかもしれない。

A君:プログラムをかなりはしょって紹介をします。
第一部 14:00〜15:30
開会挨拶 丹下 健、東京大学大学院農学生命科学研究科長
イントロ講演 安井 至 
バイオマス・ショア構想 倉橋みどり 特任准教授
休憩 30分 本当のTea Break
第二部 16:00〜17:30
海洋深層水の応用 高橋 正征 東京大学・高知大学名誉教授
ペルーについて フォルサイト・ハロルド 在日ペルー大使
プロジェクトのポテンシャル 稲政 顕次 三菱ガス化学 代表取締役
実現のポテンシャル 新階 央 経産省生物化学産業課
閉会挨拶 芋生 憲司 東京大学 農学系教授


B君:さて、それでは、倉橋先生のバイオマス・コンビナートとは何か、簡単に、その説明をしたい。
 まず、場所の選択が最重要。このところ、太陽光発電、いわゆるメガソーラーの発電コストが急激に下がっていて(ただし日本以外)砂漠のある地域であれば、土地代がゼロ、工事も簡単なので、最低価格が1.79セント/kWhとなったとのこと。日本円にすれば、2円/kWh以下。コストの安い石炭発電が途上国には重要なので、日本の高効率石炭発電を普及しますと言っている日本という国も、そろそろそんなことは言えなくなる。ただし、安価なエネルギーには、どうしても砂漠が必要ではあるけれど。要するに、経済性成立の第一の条件が、砂漠(荒れ地)であること。

A君:次の条件が、海水があること。すなわち、海岸と言い換えた方が良いと思います。しかし、海水にも条件があって、海洋の深層水と呼ばれる栄養成分の豊富な水が簡単に入手できるところでないと、藻類を安価に育てることができません。要するに、人工的な栄養源を与えているようでは、生産コストが合わない。海洋深層水は、本来、深層にあるから深層水なのですが、これが湧き上がっている場所があります。それが、大規模な海流が大陸にぶつかっているところ。そして、海水が湧昇している(湧昇流がある)ところ。

B君:どうも、エクマン輸送という現象があるようで、大陸の西岸で南風(北風)が吹くと、風の応力とコリオリ力(地球の自転にって発生する力)の合力で、海水は西に移動する。となると、少なくなった海水を補うように、深層から大陸の斜面を伝わって海水が湧昇してくる。これを沿岸湧昇と呼ぶ。カリフォルニアとペルー沿岸がこのケース。

A君:となると、この湧昇で海面に登ってくるのが、海洋深層水。光の届く水深200mまでの海では、海水がもともと持っている栄養素はあっと言う間に生物によって消費されてしまうけれど、それより深い海洋、特に、1000m以上の深いところの深層水は、リンや窒素などの無機化合物を大量に蓄積しています。

B君:アメリカ西海岸のモントレー湾には、海底渓谷があって、そこを深層水が湧昇してくるので、ここに群生するのが、有名なジャイアントケルプ。長さ60m、1日に30cm成長する。

A君:そして、もう一つが、ガラパゴス諸島が有名な湧昇地点。そのために、生物多様性が高い。ガラパゴスは赤道直下なので、コリオリ力が働くメカニズムはなさそうだけれど。赤道にあるのが、エクアドルという国。そして、そのすぐ南がペルー。

B君:ペルーという国だけれど、外務省のWebによれば、国土は、日本の3.4倍、人口3182万人

A君:フジモリ大統領で日本には馴染みの深い国。主要援助国としては、米国、ドイツ、日本、カナダの順。そして、一人あたりのGDPは世界116位で13300ドル。同程度の国としては、エジプト、南アフリカ。貿易は、日本へは輸出が多く、銅、亜鉛、天然ガス、魚粉など、日本からの輸入は自動車、タイア、鉄鋼製品などで金額的には、日本の輸入超過。

B君:もしも、ペルーで、藻類オイルが生産できれば、是非とも輸入したい。日本のエネルギー事情を考えると、2050年頃には、必須のエネルギー備蓄用の資材になる。

C先生:概要は分かった。ペルーならば、それほどまずいことは起きないと思う。もう一度、今回のプロジェクトが上手く行きそうな要素の整理をしてくれ。

A君:了解。藻類によるバイオマスコンビナートと言っても、どんな藻類でも良いというものではないのです。この選択が渡邉プロジェクトではそもそも間違っていたのです。なんといっても、最終的には、コスト勝負になるのが、エネルギー関係の技術の宿命。となると、次のような条件が必須となります。
1.光合成によって、脂質を生産する藻類
2.淡水ではなく、海水によって育つ藻類
3.その付近の海水(深層水)に含まれる栄養素で十分に育つ藻類
3.自然界からの他種藻類などのコンタミに強い藻類
4.二酸化炭素を吹き込むなどの作業が不要なこと
5.できるだけ浅いプールで育成可能なこと
6.プールを撹拌しないでも育つ藻類
7.面積が必要なので、荒れ地、砂漠などがある地域で育つ藻類
8.できれば、海水温度差発電などが可能な条件を満たす海

これらをすべて満たそうとすると、どうもペルーのような海水が湧昇するところが最適条件ということになりそうです。

B君:そろそろ具体的なプロジェクトの概要を説明してみるか。まず、どのような藻類を育成するのか。これがなかなかの問題。

A君:倉橋先生の選択した藻類は、Dunaliellaなる藻類で、色はピンク。オーストラリアの西部の荒れ地近くの浅い海は、ピンク色をしているらしいですが、そのピンク色は、Dunaliellaの色。結構自然に育つようですね。そして、このDunaliellaは、いささか濃い塩水を好むらしい。となると、海水を日本の得意の技術である逆浸透膜法によって淡水化して、淡水は別の産業に供給し、濃くなった塩水を使って、このDunaliellaを育成する。得られたオイルは、食用にもなるし、工業原料にもなる。

B君:2050年頃には、ほとんどが電気でエネルギー供給が行われていると思われる。ところが、エネルギーの備蓄というのは、エネルギー安全保障という立場から非常に重要で、それにもっとも適しているのが、実は石油。ところが、パリ協定のために、石油で備蓄したところで、2050年には石油で動くことが前提の発電所などはない。石油で走るクルマもない。しかし、藻類オイルがあるとなれば、若干の石油発電所やディーゼル発電機を残しておいて、そのための燃料を藻類オイルの形で備蓄するという方法論は十分にあり得る。なんといっても非常事態対応なので、コストが大きな問題ではないから。

A君:要するに、カーボンニュートラルな液体燃料は、2050年頃には、かなり重要な役割を果たす可能性が高い。

B君:倉橋先生の書いた英語の説明を読むと、Geothermal(地熱)という言葉が出てくるけれど、ペルーに地熱はあるんだっけ

A君:環太平洋火山帯に含まれている国なので、ポテンシャルはあるようですけれど、どうも発電実績のある20数ヶ国には含まれていないですね。日本の場合、地熱はパリ協定対応として非常に重要なエネルギー資源でありながら、発電量は全く増えないのです。それは、2つほどの要素があるのですが、自然公園法と温泉法に原因(?)があるのだ、と国立国会図書館の報告には書いてあります
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8842539_po_0837.pdf?contentNo=1

B君:今回は詳細は省略。いずれにしても、ペルーに地熱を導入するということもあり得るということか。

A君:海洋温度差発電よりは、地熱発電に可能性があるのなら、それを導入することをお勧めしますね。

C先生:そろそろまとめに入るか。今回のシンポジウムというかセミナーというか、その話題は、「バイオマス・コンビナート実現へ」だった。なかなか新鮮な情報提供があったと言える。しかも、長期的にみれば、パリ協定の実現にとって、かなり重要な役割を果たすと同時に、ペルーのような可能性がいろいろとある途上国にとって、経済発展のきっかけにもなりそうなプロジェクトかもしれない、と思った。

A君:藻類を実用的な目で見ると、これまでのような、例えば、オーランチキトリウムでは、なぜダメだったのか、これが明確に分かってきたということですかね。

B君:C先生のJSTのCO2削減技術プロジェクトの段階でもそれが分かってはいたと思うのだけれど、今回、明確にその条件を書き下すことができるようになったのは、明らかな進化を遂げたと言える。

C先生:オーランチキトリウムについては、我々のプロジェクトからは強制的に離脱させたのに、その後も、ある意味で騙された研究プロジェクトが続いて行われたのは大変に残念だった。もっと情報伝達が行われるべきだったと思う一方で、研究提案を完全に否定することがいかに難しいか、ということが分かったという意味で、良い経験ではあった。震災後のことでもあるのだが、要するに、良いプロジェクトが全く不足していたのが不幸ではあった。
 今回の倉橋プロジェクトは、すでに、Dunaliellaの大量培養が可能であることは、他の実験例から明らか。海水を使い、浅い水深のところで可能。海水からの栄養素で十分に生育可能。海水は深層水を使うことで、そこに含まれている栄養素だけで行ける。地熱による電力供給で動力を賄えば、完全にゼロCOでバイオマスコンビナートができる可能性がある。これまで聞いた多数の藻類バイオマスプロジェクトの中では、実現可能性があると言える唯一のものであるような気がする。これに、経産省などが、JCMの枠組みを使って資金提供をすれば、しばしばネタ切れと言われるJCMの発展にも資するかもしれない。
 また、ペルーという国が、どうも絶妙の立地先のようにも見える。これは、日本との関係などを考え、また、経済力などを含めて、不可能だと思える要素が少ないような気がするからなのだ。以前に倉橋先生がプロジェクトを作ると言っていた、アラビア半島の某国よりも遥かに良いと思う。
 何事でもそうだけれど、余りにもポジティブに考えすぎると裏切られる可能性もゼロではないので、このぐらいにしておくことにする。

付録:倉橋プロジェクトの引用
英文:https://www.u-tokyo.ac.jp/en/whyutokyo/science_19_1.html
和文:https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/news/topics/topics_z0508_00055.html
研究室:http://biomass.html.xdomain.jp/