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  京都議定書いよいよ発効か 05.22.2004



 本日の新聞発表によれば、ロシアがいよいよ京都議定書を批准しそうな様子だという。当初の予想よりはかなり遅れているが、いよいよ京都議定書が発効しそうである。

 これは、地球環境面から言えば歓迎すべきことなのだが、残念ながら、日本全体にとって痛い事態が起きるだろう。それは、これまで真剣に温暖化対策に取り組んだとは言えないからである。

 さて、今後どうするのか。結論は、とにかく一刻も早く、環境税の議論をすべきだ。


C先生:いよいよ来たか、という感じ。プーチン大統領は、どうももともと京都議定書を批准するつもりだろう、と思っていたが、やはり国内の経済発展の阻害要素になるという反対があって、ここまで引き伸ばしてきた。

A君:しかし、政治的な状況が、プーチン大統領にとって順風であり、EUとの関係などを改善するためにも、批准を決意したのでしょうか。

B君:本当のところは、批准が行われるまで分からない。

C先生:ここでは、批准されて、京都議定書が発効すると仮定して、今後どうすべきかを議論することだ。

A君:これまでの日本における二酸化炭素排出量の動きを追ってみますか。

図1 日本のCO2排出量長期トレンド

A君:この図のように、1970年代前半までは、ほとんど一直線で排出量が伸び、その後、1973年、79年の2度のオイルショックによって、エネルギー効率を高めることによって二酸化炭素排出量がほぼ水平状態になり、1988年から再度急激に上昇しています。これは、いわゆるバブル景気で、その後、1992年以後の景気の後退でちょっと下がる場合もありますが、全般的には、漸増状態ですね。

C先生:図1の電力の使用量がほとんど一直線で伸びていることからも、エネルギー効率の向上を図った時代があったことが分かる。それに、2000年になって、ちょっと下がったこと、このあたりが電力の特徴か。

B君:先日の環境省の発表によれば、
02年度の二酸化炭素排出量は、
(1)90年比で7.6%増になり、13億3100万トン(CO2換算)であったことが5月18日の発表で分かった。原子力発電所のトラブル隠しにともなう運転停止を火力発電で補ったことが響いたと見られ、前年度比でも2.2%増しとなった。

(2)議定書では、08〜12年の平均排出量で11億6300万トンまで落とさなければならず、目標達成には程遠い状況だ。

(3) 二酸化炭素排出量を部門別に見ると、産業部門が前年度よりも3.6%増え、運輸部門は1.9%減。業務部門が4.4%増、家庭部門が7.9%増加。

C先生:こうなると、環境税あるいは炭素税なるものの導入が必須なのだが。

A君:産業界は大反対。

B君:経済産業省も大反対。

C先生:色々な意味で反対している。環境税は名前が悪いという議論は、環境税というと、どの省庁がその税収を使うのか、という議論だと思えば良い。これまでの税金との整合性はどうなんだ、という議論は、これまで使ってきた財源が無くなるのは駄目だという意見の表明だ。

B君:権益というか、縄張り争いというか。

A君:実は、われわれ産業界も似たようなものですね。鉄、石油、セメント、電力、その他の素材などの産業は、どうしてもダメージが大きい。それに比べると、組み立て産業は、それほどのダメージではない。

B君:痛い業種の企業は、だから効果はなどは無いという議論をすることになる。

C先生:誰かが決断してやらなければならないだろう。理由は簡単で、やはり市民が受け取る印象が最大の効果を生むのだ。そのためには、名称は「環境税」「炭素税」でなければならない。しかし、中身は、本当は、エネルギー使用量を対象にした税が望ましい。

A君:天然ガスにエネルギー源を変えることによって、もちろん、二酸化炭素の放出量は削減されますが、それだと天然ガスとか石油とか、枯渇可能性の高い資源がますます枯渇傾向になる。

B君:長期的には、エネルギーはバランスよく使わないと。極端な話、風力、太陽光発電、原発だけが残ったとして、車を電気で走らせるのはともかく、飛行機を電気で飛ばすのはかなり難しい。

C先生:産業界も、環境税に反対していてもどうしようもない。どうせ、そのうち必須なのだから。だから、どのような形態の環境税ならば受け入れが可能なのか、その中身の議論を用意しておかないと、前線を破られたら、その後一気に行ってしまう。

A君:その議論がやりにくい。

B君:だから、外圧が必要なんだな。日本という社会は。

A君:その外圧として、京都議定書発効がどのぐらい利くか、ですね。

C先生:産業界のシナリオとして、どんなものを書くのが良いか、その勉強でもするか。

A君:効率向上に決まっていますが。

B君:だから、どの技術が効率向上に役に立つか。

C先生:まず、基本的な問題から整理しておいて、議論を進めよう。まず、石炭を石油にそして天然ガスに変える技術は、エネルギー枯渇上は駄目だが、二酸化炭素排出削減にはどのぐらい利くか。

A君:こんなデータになっています。要するに発熱量あたりの二酸化炭素の排出量を調べればよい訳で。

石炭    1
重油(C) 0.83
軽油    0.79
LPG    0.69
天然ガス  0.569

B君:それだけでは駄目で、LNGなどにしている天然ガスの場合、液化のためのエネルギーを入れないと。

A君:それに対する東京ガスの答えは、以下の通り。
http://www.nature-n.com/g_ecnm/vst01/htm/1302-j.htm

NN:天然ガスを輸出国で液化する際に、エネルギーは使わないのですか?

TG:たしかに輸出国現地で、マイナス162℃にまで冷却する際にエネルギーを消費します。しかし、天然ガスの採掘から、液化、海上輸送、国内の都市ガス製造、お客さま先での燃焼、つまりガスのCO2排出に関する[LCA]、LCCO2(二酸化炭素に関するライフサイクル・アセスメント)をほかの化石燃料と比較すると、同じ熱量を発生させる際に排出するCO2は、石炭を100とすると、石油が77、都市ガスは65で、都市ガスの二酸化炭素の排出量は、はるかに少ないことがわかります。

A君:まとめなおすと

石炭   1
石油   0.77
都市ガス 0.65

B君:明らかに、液化にエネルギーを食っている。しかし、ガソリンのデータは無いのか。あとで必要になるのに。

A君:まあ、このLCCO2流にすれば、0.73ぐらいでは。

C先生:このあたり、最近、CREST研究の中にデータを付け加えつつあるので、参照して欲しい。
http://www.ycrest.org/lca-thinking/useful/lca_index01.htm
もっとも、本日の例でも分かるように、なんでもすぐ分かるという形にするのは難しい。液体だったり、固体だったり、気体だったりするものだから。

A君:いずれにしても、石炭を燃やすよりは、石油を、それよりは天然ガスの方が、液化してあっても、二酸化炭素排出量は少ない。

B君:革新的な技術は何だ。水素燃料電池と答える人が多いだろう。しかし、本HPはそう言わない。

C先生:革新的な技術が必要な技術ではある。

A君:微妙な表現ですね。

B君:白金系の触媒を使わないで、水素燃料電池が作れるか。また、この熱効率がどこまで上がるか。

C先生:その通り。さらに、水素は、一次エネルギーではないから、どこからその水素を作るかという問題がある。天然ガスから造るというのが、現状では妥当な選択なのだが、そうなると存在意義が難しい。

A君:天然ガスとの比較ではありませんが、トヨタのプリウスのHPには、ガソリンと水素との比較がありますね。
http://www.toyota.co.jp/company/prius/eco/index.html

その総合効率というものを見てください。これは、車両効率×燃料効率でして、
プリウス 32%=0.37 × 0.88
水素燃料電池車 29%=0.50 × 0.58


B君:すでにエネルギー効率面では、水素燃料電池車を抜いている。しかし、二酸化炭素発生を基準とすると、水素燃料電池車の方がちょっと良いか、あるいは、まあとんとん状態なのでは。

C先生:水素燃料電池車に対する研究が盛んに行われているが、これは、この技術が有望だからという訳ではなくて、もしも、どこかの企業が革新的な開発を行ってしまったら、ビジネスリスクが非常に高い。だから、止める訳にはいかないというのが本当の理由だ。

A君:世評とはそんなものですね。

B君:本当に有望な技術は、それでは何だ。

C先生:燃料電池というキーワードであれば、それは、高温型燃料電池ではないか。SOFCと呼ばれるものだ。

A君:セラミックスを電解質としたタイプですか。難しいですね。技術的には。

B君:工芸品みたいなものだから。

C先生:ただ、この自動車ができたとすると、使い方はこんな感じになる。燃料は、LPGかGTL(天然ガスから作った液体燃料)か何かになるだろう。燃料タンクはかなり大きい。帰宅すると、自動車から電線を引っ張り出して、家に接続する。

A君:電気自動車みたいですね。まったく違うのに。

C先生:そう。この自動車は、自宅では発電装置として使われるのだ。いわゆる分散型電源だ。熱を使おうとすると、水/お湯のホースも接続することになるが。

B君:効率が高いから、かなり安く電気の供給が可能になる。

A君:なぜそうしないといけないかというと、この燃料電池は、運転温度が700〜1000℃近い。だから、運転をしようといって、エンジンを掛けてすぐお出かけという訳には行かない。だから、駐車中でも低出力運転をしておかなければならない。だから、発電機として、家庭に電気を供給する。

B君:これまで、水素燃料電池は自動車用は無理でも、家庭用の分散型電源にはなるという話もあったが、ほとんど消えた。

C先生:理由は、どうもガスエンジンらしい。しかも、ディーゼルタイプの。以前、本HPでは、ガスエンジンタイプの装置も、発電効率が悪いから、使い物にならないと書いたが、
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/EnergyEfcy.htm
どうも、そうでは無くなってきたようだ。開発が2002年ぐらから急速に進んでいるようだ。

三菱重工「従来ガスエンジンに比べ出力を40%以上向上させ,発電効率を42.5%以上,総合熱効率も80%レベルとした3〜6MWのガスエンジンを開発」
http://www.jsme.or.jp/publish/kaisi/020101t.pdf


A君:ディーゼルは、やはり効率が高いのは事実で、

日本自動車工業会の発表では、ディーゼル・エンジン46%、ガソリン・エンジン32%(条件によって変化するが、いずれも最高値)

となっていますから。

B君:ただ、出力が3〜6MWでは、家庭用としては使えない。

C先生:まあ、たかだか3kWもあれば良いから、1000倍も大きい。

A君:先ほどの、SOFC自動車ですと、電気出力がどうなんでしょう、50kWぐらいはあるのでしょうか。加速が必要なときには、二次電池に電気を貯めておいてそれを使うという方式でしょうが。

B君:50kW(=68ps、1ps=0.7355kw)あれば、十分130km/hrぐらいは出るから、それでよいのでは。

C先生:それを3kW程度で動かして、家庭用の電源として使いつつ、自らを保温する。

A君:こんな技術ができるかどうか、それは開発費が見合うだけのエネルギー価格になる必要がある。あるいは、補助金ですかね。

B君:現在のところ、省エネルギーを進めるだけのインセンティブが無い社会だから。

A君:家庭用としても、絶対に推薦できる省エネ技術がいくつかあるのに、普及しませんからね。ちょっと値段が高いからということで。

B君:実際には、長い目で見れば、安くつくのだが、そういう発想にならない。

A君:その例が、高効率型の蛍光灯。通常のものに比べると、価格が倍ぐらいする。しかし、蛍光灯1本は、その寿命までに、ほぼ1万円ぐらいの電力を使う。もしも効率が10%違えば、1000円の節約になる。

B君:激安価格をネットで調べたら、40W型の通常品が25本まとめると、5355円。一本なんと214円ぐらい。40W型のエコタイプが、25本で、11340円。一本にすると、454円ぐらい。倍以上するが、その差額はたったの240円。

A君:エコタイプは、37Wの消費電力で、3700ルーメンの光を出す。一方、通常品は40Wで2700ルーメンだ。効率の比較だと、100:67.5と全く違う。明るさが相当違うから、事務所などならば、本数を減らすことが可能。実際には、電気代を25%減らすことが可能になるはず。

B君:となると、電気代が蛍光灯1本のライフサイクルで2500円の節約になる。商品の価格差はたったの240円。ところが、この違いを知らないから、事務所などでも、エコタイプが選択されないのだ。

C先生:やや細かい話になったが、いずれにしても、当面は、ちょっとずつ節約。それには、市民の意識変革が必須。名称として「環境税」が必要な理由だ。そして、これに加えて、長期的見通しとして、今後50年間ぐらいで、二酸化炭素排出量を半分にする、ぐらいのことは言っても良いと思うのだ。

A君:誰が言うのでしょうか。小泉さん?

B君:資源エネルギー庁?

C先生:全員。そして、そのための技術開発のために、資金が必要。だから、環境税でそれを調達。環境という名前が付いたからといって、別に環境省のものになるという訳ではない。

A君:しかし、そんな長期的な視野を誰が持っているのでしょうか。

B君:総合科学技術会議?

C先生:いや。Noだな。残念ながら。まあここ3〜4年程度の視野しかない。もともと総合科学技術会議議員には、大学関係者が多いのだから、もっと長期的な視野を持つことが必須なんだが、どうも、すべての大学が産総研化するのがよいことだという理解のようだから。

A君:国連大学は。

C先生:エネルギー問題を本格的に取り扱うだけの人材が居ない。これからリクルートすれば別だが。

A君:メディアは余り乗って来ないですね。

B君:メディアで本当に科学と技術のことが分かっているか、というと、どうもそうでもない。やはり自分でモノをいじり、そして、数字をいじることをやっていないと、本当のことは分からない。それに、専門家というものが本当のことを言うとは限らないので、他人に話を聞いても本当の答えに到達するのは困難だ。

C先生:今回、細かい議論ができないかったが、環境税を導入することを前提として、どのような額を誰がどのように負担し、それをどのように使用するのか、といった議論が必要だ。現在のように、全面反対という態度と全面的に賛成という態度のグループがあるだけでは、何も進まず、将来、変な方向に漂流するだけだろう。産業界、霞ヶ関、大学、研究所、市民、NPO、メディア、すべてにとって非常に重大な課題だと思うが。