| 京都議定書戦略を明確化せよ 11.07.2004 ![]() |
| いよいよ京都議定書の発効が確定したようだ。プーチン大統領がサインした書類が、国連に寄託されてから90日後に発効する。となると、今日が11月07日だから2月の初旬には発効することになるだろう。 これまで、日本の政治・業界の面白いところであるが、いつまでも環境税に反対することはできないことがお互いに分かっているのに、腹の底では色々と覚悟を固めながらも、表面では、「環境税なるものは問題にならない」、と全く考慮しないふりをしている。 今回のロシアの対応を見ても、また、アメリカの対応を見ても分かるように、このような対応はすべて国益最優先である。日本ももっと国益を表面に出した議論が行われるべきだろう。 C先生:いよいよだ。ロシアの場合、削減義務は0%と甘いものだった。しかも経済の破綻によって自動的に削減されてしまったから、国際排出権取引によって、かなりの現金が入るはずだった。ところが、アメリカが降りたもので、排出権の価格がどうも低いレベルに留まりそうで、それほどのメリットが無くなりそうな気配。長期的に見ると、ロシアは原油の輸出で商売をして急速に経済成長をしている国だから、削減義務を負い続けると、経済的発展い足かせになる可能性がある。 A君:ということで、第一約束期間については、参加することで批准。しかし、将来については、参加するかしないか、不透明。 B君:大体、排出権取引で儲かりそうな第一約束期間だけは参加して、その後、逆に排出権を支払う可能性が高いその後の枠組みには参加しないなどというのが有りなのか。 C先生:まず、それが大きな問題。少々データを作ってみよう。まずは、一人あたりのGDPと二酸化炭素排出量の関係から。 A君:こんな図になります。このデータは2000年のデータです。 B君:多くの国では、エネルギー使用量と二酸化炭素使用量はほぼ似たような傾向になるのだが、水力発電が大量にある国、例えば、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー、カナダなどについては、二酸化炭素排出量は低くなる傾向がある。 A君:もう一つの要素が原子力発電でしょう。世界の原発大国フランスは、相対的にかなり低くなります。 B君:逆に、オーストラリアのような石炭を多く使っている国は、二酸化炭素の排出量が大目になってくる。 C先生:後は余り変わらない。1トンの油から大体は3トンぐらいの二酸化炭素が出ると考えればよいから、この換算率に乗るような国、例えば、バーレーンなどは、油だけでエネルギーをまかなっているようだ。 A君:本日の主要な話題であるロシアですが、大体日本と同じレベルのエネルギー使用量と二酸化炭素発生量のようですね。 B君:寒い大国としては、比較的エネルギー使用量が少ないと言える。だから、これからの経済発展によっては、カナダ、アメリカ並みの二酸化炭素排出量にならざるを得ないのかもしれない。 C先生:それでは、ロシアの排出量の推移を調べてみよう。 A君:ちょっと調べようと思ったのですが、いつも使っている世界銀行のデータがなぜか取れないので、別のところからのデータでなんとか。このデータですが、国立環境研のもの。1996年までしかデータが無いですね。人口は、大体1.4億人ぐらい。現在、一人あたり10トンといったところですから、非常にラフに言えば、2000年でも排出量は余り変わっていない。 C先生:このあたりに、ロシアの今回の調印の答えがあるように思える。国際排出権取引によって多少の収入があるのはうれしいが、だからといって、世界的にエネルギー使用量の削減が起きて、石油が売れなくなるのは困る。さらに、もっと長期的に見たときには、例えば、第一約束期間が終わる2012年ごろには、経済の規模は現在の3倍にもなっている可能性がある。となると、どう考えても、一人あたりの二酸化炭素排出量も現在の2倍は硬い。となると、第二約束期間においては、国際排出権取引で、むしろ外国から買う立場になりかねない。 A君:だから、とりあえず、第一約束期間だけは、参加して現金収入を上げようという考え方になりそうですね。 B君:アメリカを批判するのは当然だし簡単だが、ロシアのこのような考え方が余り批判されないとしたら大問題。 A君:やはり、日本としても国際排出権取引で金を払うことになって、もしもそれをロシアが受け取ったら、第二約束期間への継続を義務化するといったルールの策定が絶対に必要ですね。 B君:米国は、向こう4年間はブッシュで決まったが、このところの保守化の傾向を見ると、どうも、その先も共和党のブッシュもどき政権が継続するのかもしれない。 C先生:ケリーも、京都議定書の枠組みに変わる別の枠組みが必要だと述べている。だから、京都議定書の枠組みは、第一約束期間で終わってしまう可能性も高い。 A君:それに、最近の原油の価格推移の状況から言っても、全く別の考え方が出てくる可能性がありますね。要するに、二酸化炭素による温暖化もさることながら、エネルギー供給自体に問題が出てくる。エネルギー危機といった状況で。 B君:キャンベルなどの2004年ピーク説は、いささか怪しいと思うが、2020年までには石油の生産量はピークになるだろう。場合によっては、2015年頃になるかもしれない。となると、2013年からの第二約束期間というもののもつ意味が、エネルギー供給危機によってかなり変化してしまう可能性もある。 C先生:そんな感じがするな。となると、日本産業界として達成すべきことは、単なる二酸化炭素排出量の削減ではない。世界的にみてエネルギー供給危機に対応する必要がある。すなわち、エネルギーへの依存を大幅に減らした産業構造を今のうちに作っておく必要があることになる。そんなに簡単に達成できることではないから。 A君:日本国内について言えば、例えば鉄鋼の蓄積量などから判断すると、鉄のスクラップが、2020年以後にはかなり大量に発生するようになる。これらの資源からエネルギー消費を最小にしたプロセスで鉄を生産することが、2030年ごろには主力にならないと。 B君:スクラップは全部中国へ輸出して、日本では、バージンの鉄鉱石から鉄を作る、といったシナリオが、決定的に崩れる可能性がある。 A君:となると、様々な可能性を考えた上で、技術開発を進めておくことが必須ということになりますね。当面のキーワードとして、二酸化炭素をできるだけ排出しない技術ということで方向性に間違いは無い。 C先生:このあたりの長期見通しを鉄鋼関係者がどのように考えているのか、是非聞きたいものだ。ただ、その最後のところだが、多少気になる。二酸化炭素の排出を減らすだけならば、それこそ、燃料代替とか、原子力依存とか言った方法で、なんとかならないとも言えない。さらに、いささかエネルギー消費が増える危険な技ではあるが、二酸化炭素を地中処分してしまうという裏技だって無いとは言えない。しかし、エネルギー危機というものへの対応は、エネルギーの消費量そのものを減らす必要があって、これは、二酸化炭素削減に比べると、手法が少ない。小手先ではなく、本格的に取り組む必要があるのだ。 A君:それは十分理解した上で、二酸化炭素削減技術の開発にすぐにでも取り組むべきでしょう。 B君:今後、国がどのような方向性を持っているのか、どんな順番で二酸化炭素排出量削減を実現してみせるのか、こんなことを早く決めないと、方向性が分からないことによるビジネスリスクが非常に大きくなってしまう。 C先生:今回の日本政府の対応は、その意味ではまずい。もっと目先のことに囚われず、長期的な政策を決める必要があった。今からでも遅いとも言えない部分があるから、すぐにでも決めるべきだ。 A君:EUなどのキャップ制度(排出量の上限を各企業・各産業に割り当てる方法)に比べると、どうも余りにも遅れが目立ちます。 B君:あの英国ですら、自主的なキャップ制を導入して、2002年から排出量の取引を行っていた。 C先生:EUの動きにしても、京都議定書なるものを遵守して見せて、アメリカ・日本・オーストラリアへの圧力にしたいという考え方がかなりあるから、その部分はきちんと考慮して対応すべきだが。 A君:もっとも苦しいのがカナダでしょうか。カナダは京都議定書を批准したものの、二酸化炭素排出量がすでに20%ぐらい増えてしまっています。 B君:苦しい順だと、当然批准した国だけで考えればよくて、1位がカナダ、2位が日本。 C先生:今週は、かなりデータを作るのに時間が掛かったので、そろそろ終了したい。この話題は、今後とも継続というか、HPの当面の主たる話題の一つになるだろう。とりあえず、議論することとしては、英国、EUの体制、そして、日本での戦略などということになるだろう。 |
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