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  ロシア京都議定書批准確定 10.03.2004



 実のところ、この件は予想通りというよりも予定通りである。いつこうなってもおかしくは無かった一方で、大体、この時期であることも分かっていた。とはいえ、本HPにも記録しておかないと、歴史を無視したことになりそうなので、一応本記事として取り上げておくことにする。

C先生:やっとのことでプーチン大統領が決断をし、閣議決定が行われた。現在の議会は政権与党が大多数の状況なので、まずは問題なく批准されるだろう。

A君:むしろこれまでモタモタしていたのが不思議。まあ色々と説はありますが、例えば、米国が離脱してしまった。そのために、排出量取引の価格が低下して、余り儲からないことになった。それに対して、ロシアは、いまや石油資本が経済が支えているような状況。すなわち、ブッシュのもつ背景と同様の状況。となると、国内事情としては、温暖化ガスへの規制をすることが、長期的には成長阻害になり問題となりうる。要するにトータルでみると、余り批准への意思が働かない状況。

B君:結局のところ、ロシアも経済状況のみで政治判断が行われる国。まあ、ほとんどの国がそうだから文句も言えないが。

C先生:政治的な背景もあったのも事実。国際的には、WTOへの早期加盟が重要な政治課題だった。そこで、批准を取引材料にして、EUにWTO加盟への支援を求めていた。

A君:それ以外にも、プーチン体制がいささか中央集権的すぎて、それへの批判をかわす必要もあったということでは。

B君:いずれにしても、どうもロシアにとっては、京都議定書は取引材料に過ぎなかったということか。地球温暖化は、それが逆に寒冷化をもたらすというシナリオが嘘だとしたら、すなわち、本当に温暖化すれば、ロシアのような寒冷地では、経済的にもプラスだから。

A君:ロシアの平均気温は、温暖化が起きれば、かなり上昇しますね。これまでの多くのシミュレーションによれば、北極に近いところの温暖化が大幅であるとの結論になっていますから。

B君:実際にそうなるかどうか、それも若干疑問はあるが、いずれにしても、海洋から遠い陸地の方が影響が大きいことなどを考えれば、当然かもしれない。

C先生:ロシアの状況はともかくとして、日本国内でいよいよ議論が白熱しそうな気配だ。

A君:論点は、いくつかにまとめることが可能ですね。
(1)温暖化対策税(環境税)なるものが必要か。
(2)排出量取引によって解決を目指せばよいのか。
(3)CDM(Clean Development Mechanism)を推進すべきなのか。
(4)最終的には、企業の排出量上限まで決めるべきなのか。

B君:それ以前に、(0)”京都議定書に対する疑問・不満を表明する”という反論の仕方もあって、例えば、日本商工会議所の山口信夫会頭は、「米国が離脱し、中国などの成長国家も参加しない取り決めは、実効が上がるか極めて疑問」、と言っている。

A君:世界全体が同時に参画するような仕組みを待つのではなく、やれる国からやるのが、公平性という立場から言って正しい、などという議論は、全く通らないのでしょうね。

B君:そもそも京都議定書の裏には、有限な化石燃料のぶんどり合戦というもっと怖い話があって、そのためには、化石燃料の価格は高いほうが良いという不公正な理論もある。

C先生:産業界の枠を超えて国家の長期的利害を議論するとそんなことになる。

A君:その理論とは、地球全体にとってもっとも破滅的なシナリオは、実は京都議定書が成立することだ、というもの。中身は、京都議定書の成立によって化石燃料の価格が下がって、その恩恵を受けて途上国が一斉に経済発展し、当然エネルギー消費は経済成長によってますます増大し、化石燃料が一気に枯渇、先進国も破滅するというもの。

B君:勿論、現在の経済学の理論によって、価格は最終的には高くなるので、そこで、抑制は効くのだが、徐々に化石燃料の価格が上昇するシナリオよりも、破滅的な結果になりそうのは確かだ。

C先生:しかし、それも無いかもしれない。なぜならば、まずは、石油価格の上昇圧力が下がりそうも無いから。とうとう、原油価格が$50を超した。それに加えて、ヨーロッパ各国の二酸化炭素排出量の削減を見ていても、石炭から天然ガスへの変換で削減することはあっても、エネルギー消費絶対量を削減する方向での二酸化炭素排出削減の話は、マイナーな話だ。エネルギー消費は変わらないが、二酸化炭素発生量は下がるというのが実態。となると、エネルギー価格そのものは、余り下がらないのではないか。

A君:いずれにしても、いまさら日本商工会議所のように、いまさら京都議定書そのものの有効性を議論しても遅いので、どのように対応することが、もっとも日本の利益になるか、という議論に切り替えないと。

C先生:しかし、日本政府の大部分の本音もそんなところ。環境省、農水省が違うぐらいか。

B君:一方、正義派のNPOが持ちそうな「地球のため」、などという悠長な議論も同時にしばらく封印することが重要だろう。

C先生:それでは、論点の議論を少々。(1)温暖化対策税は必要か

A君:これは必要。なぜならば、温暖化対策税の最大の効用は、その議論開始から成立までの過程で、メディアに大きく取り上げられること。

B君:税制そのものが二酸化炭素排出を抑制するほどの税率になるとも思えず。

C先生:二酸化炭素1トンあたり818円という税額だと、鉄鋼業界全体で1500億円の負担増になる、という計算がでている。これが国際競争力を削ぐという主張だが。

A君:そこで、日本鉄鋼連盟の三村昭夫会長は、「鉄鋼メーカーは海外に生産を移さざるを得なくなる」と脅迫的発言

B君:国内だと、そろそろ高炉の寿命も尽きるころだから、20年間ぐらいのスコープで計画を作り、半分ぐらいは海外移転した方が良いのではないか。

C先生:失業者がでるぞ、という脅迫だが、そもそも鉄鋼生産の50%を海外移転したときの国内への影響をきっちり評価しているのだろうか。

A君:それに、鉄鋼のような製品の場合には、海外への輸出で国境を超したら、税金は免除ということにすればよいだけ。

B君:細かいところまで国境を考慮することは非現実的。対象となるのは、まあ、鉄鋼だけだろうか。

A君:電気・電子製品の場合のように、使っている原材料費はきわめて低いというケースは除外すれば良い。すなわち、素材とみなすことができるケースのみ、国境を考慮する。

B君:スクラップのようなケースをどうする。

A君:一旦製品になったら、そこでその環境的責任は完結させるのがベスト。ということで、スクラップのような一旦廃棄という形態をとったものは、素材でも対象外。

C先生:経済界でも、経済同友会の北城恪太郎代表幹事は、「日本発の国際条約が発効することは意義深い。議長国として目標を達成することは重要」なる発言をしている。

A君:経済同友会なるものの性格でしょうか。もともと、中堅企業の経営者が発足させたもので、日本的重厚長大型の産業の経営者は居ない。

B君:新日鐵の三村明夫社長の名前がある。さる委員会の委員長だが。

A君:しかし、主流ではないのでしょうね。北城代表幹事にしても、慶応出身、日本IBMですからね。

B君:経済同友会というとどうも小林陽太郎さんや桜井正光さんのイメージが強い。富士ゼロックスやリコー。

C先生:経済同友会の主力企業は、温暖化対策税を導入することによって、産業活力は向上すると見ているのだろう。

A君:新日鐵だって、50年後の戦略を考えれば、温暖化対策税への対応を早めに取り入れた方が良い。ただ、現状からの減衰を認める訳にはいかないのが、企業なるものの宿命。

B君:特に、最近の企業経営者のマインドが短期的な利益確保にしかない。

C先生:WEDGE(ウェッジ)なる雑誌が新幹線のグリーン車に乗るとあるが、JRとどんな関係にある雑誌なのだろうか。この雑誌は、結構経営者のマインドに対して辛口で面白いのだが。

A君:ウェブを調べると、JR東海が1989年に作った子会社のようですね。JR東海の範囲内だけでのグリーン車の無料サービスのようで。

B君:JR東日本が運行している東北・長野新幹線などには無いということか。

C先生:東京駅などのキオスクでは買うことが可能だが。その9月号のInferior「事故多発、利益優先が招く経営者の劣化」といった記事で、経営者のマインドの劣化が見事に記述されている。関電の死亡事故を引き起こした現経営陣と、関電の大プロジェクトであった、「クロヨン」開発の指揮をとった太田垣士郎社長とのマインドの差が議論されている。このように、日本の超大企業の経営者のマインドも、どうもかなり怪しい。

A君:どうしようもない三菱自動車・三菱ふそう、客船火災の三菱重工、工場火災のブリヂストン、原油タンク火災の出光興産、爆発事故の新日鐵。こんな事故も、経営陣のマインドが反映している可能性が非常に高い。

B君:食品業界なら賞味期限無視の雪印、産地偽装の日本ハム。小さなことだと、白骨温泉の入浴剤。

C先生:コスト削減とリストラは言うが、企業の経営者に、10年後の事業の種は何ですかという質問に、きちんと答えられる人が何%いるか。

A君:10年後の株価をどの水準に保つことができると思いますか、といった質問も重要なのでは。

B君:IR(インベスター・リレーション)なる言葉で象徴される投資家と関わる市場主義が最悪。「株主とは単なる浮気もの」という取り扱いをしないと。

C先生:だいぶ話がずれたが、このあたりの社会的な要因に変化が見られないと、京都議定書に対する対応や、環境税に対して適切に対応を取ろうとする経営者が出ないのだろう。勿論、電気事業や石油関係のように、どう対応をとっても、温暖化対策税が作られると、不利になることが決まっている企業もあるのは事実。

A君:しかし、超長期的に見れば、化石燃料の寿命が早く来ると、もっとも破滅的に被害な蒙るのは、このような企業ですから、減速を容認することが超長期的な戦略であるのは事実。

B君:しかし、そこまでの視点を持てないのも事実。

C先生:今のままの日本の状況で第一約束期間である2008−2012年に突入すると、やはり排出量取引で解決をするのが現実的なのだろう。

A君:ロシアは、年間30億ドル(3300億円)の外貨収入があるとの計算がありますね。

B君:これのうち、日本の分がどれだけになるか。それは努力次第ではあるが。

C先生:もう一度数値を整理しておくか。

A君:了解。
(1)まず公約が「1990年比で6%削減」
(2)02年度の排出量が13億3100万トン
(3)1990年比で7.6%上回る排出。

B君:色々と仕掛けをつかっても、1.3億トンは最低でも削減しないと。

A君:それを排出量取引なる金で解決するとして、1トン1000円とすると、1300億円。まあ、大した額とは言えない。しかし、なんらかの税収が必要でしょう。

B君:しかし、無駄金であることに間違いは無い。できるなら国内で使いたい。

C先生:第一約束期間で達成できなかった削減義務量を借金の形で第二約束期間に持ち越すのがベストの戦略だと思うが。1.3倍というペナルティーが付いてしまうことを承知の上でだが。第二約束期間の終了までに、圧倒的な技術開発を行って、実際に削減をしてみせる。

A君:それにしても、時間が不足ですね。せめて、そんな合意だけは早くやらないと、ますますロシアに無駄金を払うことになる。

B君:ぐずぐず反論しているタイミングではない。

C先生:産業界というものは、一般にあきらめるまでに時間が掛かるものだ。しかし、今回の状況は、あきらめるということともちょっと違う。現在の経営者の考え方の主流である、短期的利益重視、IRなどは、ビジネスリスクを下げるものではないことが明らかになりつつある。これらに決別し、長期的な視野をもった企業経営を早く取り戻すこと。このような視点のなかで、京都議定書対応を考えるべきだ。
 論点の(3)以降は議論しなかったが、まあ、まずは(1)の環境税、(2)排出量取引の議論だけで十分。(4)のいわゆるCAPの制度は、まだまだ議論もされないだろうから。